表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

中編

「ヘルプ呼ぶかー。一応コレも同盟からの依頼だしな」


イルマは所属組織である「同盟アライアンス」に報告を行っていた。

その結果が金を出すから自分でなんとかしろ、というものだった。

しかしイルマのスキルは破壊に偏っている。目の前の深淵には破壊よりも封印の方がふさわしく思えたのだ。


「『深淵団の件で発生した黒い球について知ってる人いますか』……と」


「同盟」の狩人用アプリ「ベルズ」を起動して文面を書き込む。

返信はすぐにあった。


「おっ、対抗呪文がもう出てるじゃねえか。早いな!誰だ。

またハルマンのジジイかよ!いい加減にしろよあのジイさん!」


目の前の黒い球のこれ以上の巨大化を防ぐ呪文がアプリにはすでにアップロードされていた。

制作者の名前は「HAL」。最初の狩人「魔術師」ハルマンだ。

曰く正義狂い、曰く人を辞めている、曰く最優の魔術師。

さまざまな噂があるが、総合して偏屈だが筋は通す老人というものだった。


「何かあったら「こんな事もあろうかと!」をマジでやるからなあのジイさん……これで何回目だ。

開発スキルチートか!少しはボケろクソ爺が!」


噂の原因は明快だ。

このような突発的な事件がある度にあらかじめ対抗手段を開発している超人的な発明の早さだ。

新しい魔術を開発するという点において彼は人類の到達点である。

そしてそれを後先考えず、あるいは考えてもかまわずに惜しげも無く現場に投入する凶行が噂を証明していた。


「えーっと?使用方法は……白い線で取り囲むように書くだけ、か……面倒くせえ」


ぼやきがながらもイルマは懐からチョークのセットを取り出す。七色セットで箱に入っている。

かくいうイルマもこんな時のためにチョークを用意しているのだから人のことはいえない。


「アドナイ・ツァバオト・ヘメンエタン……今回はカバラ系の術式か」


すらすらと塀を越え生け垣をハンマーで薙ぎはらい、屋根に上り呪文を一心に書いていく。

小一時間でその作業は終わった。


「さてと、次は根津のおっさんを助けないとな。

『無関係の知り合いが巻き込まれたので球体からの救助手段を知ってる人』

『報酬は6・4で山分け』と……」


しばらく待ち、交代要員で来た黒騎士を叩き潰し、また傷薬を飲んで待つことしばし。


「クソが!律儀に交代の時間になったら来やがってよ……頼むから死んでくれポンコツ騎士。

ああもう殺したんだった……えーっと、返信来てるな。

なになに、直で来る?どれどれ……ああ、アマナか。了解、と……」


数分後、壁と壁の隙間からぬるりと魔女が現れた。

年の頃は20くらい。魔女帽子を被ってケープコートを纏っている。

手にはモップほどもある何かの大腿骨。鳥の羽などで飾り付けられた骨は禍々しく、まさに魔女の杖といえた。


「ひさしぶりね、イルマ。今回の件では協力するわ。だからあなたも協力して」

「じゃあ傷薬別けてくれ。即効性創肉剤。2本でいい」

「わかったわ、それで手打ちよ」


魔女は懐から栄養ドリンクのようなビンを取り出すとイルマに渡した。

内臓がこぼれても無傷に回復するようなそういう薬だ。


「ヘドウィック&ゴッドフリー製薬のやつか……まあ魔女宗ウィッカンならそうだよなあ。美味しいんだけど効きがな……」

「効きがゆるやかな方が体にはいいわよ。それより状況は?」


魔女は穏やかだがクールな口調でイルマに話す。


「へっ、健康なんか知るかよ。まあいいさ。知り合いがアレに巻き込まれた。

ハルマンの爺の呪文で押さえ込んでる。ついでに黒騎士が沸いてるから2体潰した。そんだけ」

「つまりあの中からあなたの知り合いを助け出せばいいのね?」

「方法あるか?」


魔女はしばらく黒球を見つめ、考えるとぽつぽつと語り出した。


「あれは深淵団の咎に引かれて現れたといっていたわね。なら罪穢れ、呪いの類いが餌なはずよ。

逆に許しや免罪があれは苦手なはず。となると……対抗できる神格は特定しやすいわ。

えーっと、たしかアステカあたりにいたはずよ」


魔女はスマホを操作するとやがて見つけ出した。


「トラソルテオトル……これね。呪符の文様は……」


魔女は手の平の上に紙片を載せてペンで呪文を描いていく。


「そこはスマホいるの?こう魔女の知恵袋的なもんでなんとかならない?」

「スマホも使えないから密教は滅びたのよ。魔女も魔術師もネットで復権したわ」

「潰すよ?言っとくけど密教もネット使うからね?」

「……ごめんなさいね、言い過ぎたわ。作業中に喋られるとついね」

「見てわかんなかった、ごめん」


喋っている間にも作業は進む。あっという間にアステカ式の呪符が完成した。


「さあこれに力をこめるわ。儀式中は静かにね」

「はいよ。わかってるって」


魔女アマナは魔法陣が描かれた小皿を出し、その上に呪符を置いて呪文を唱える。


「月の女神よ

今いまし、昔いまし、やがてきたるべき御方

闇夜を照らし、あらゆる野の獣を造りたまいし、すべての男と女の母

有角神の恋人、あらゆる魔術の保護者、夜の女王よ。

我が声を、我が訴えを聞き給え」


ごう、とぬるい風が吹き荒れ周囲の雰囲気が暗くなる。

それは人の血肉のように暖かく生ぬるい優しい闇だ。


「我が名において、魔女の女王ディアナの名において海の彼方の不浄の女神トラソルテオトルとの縁をつなぎ給え。

かの女神の力を分け与えたまえ。私は魔女、自然と不浄と闇の信奉者なれば」


しばらくして、闇が色を変える。

より血なまぐさく、不浄なものへ。だがそれは罪の許しのように優しい。


「寛大なるイシスよ。汝に深き感謝を。

そして、我が召喚に応じていただき深い感謝を、ワシュテカの女神トラソルテオトルよ。

汝が清めの力を我は欲す。生け贄として……これを」


しずしずとアマナは黒騎士の轢殺死体をつかむとずるずる引きずって小皿の前に置く。

すると、死体二つはまるで排水溝に流れる紙くずのように小皿に引きずり込まれた。


「昼も夜もこれがこの護符が、これを持つものが、あなたの力、あなたの名において護られんことを。

手を触れてはならないもの、これに触れる手を燃えるように熱くし、ひきつらせよう

我は今三つの丘に祈る。これが我が意思、そうあれかし!」


アマナは骨の杖で呪符を指し示すと、風と共にアマナの魔力が吸い取られる。

その代償は膨大で鼻や口から血が出ていた。


「さようなら 神々よ、精霊たちよ。ここに現れてくださったことに感謝します。力とともに立ち去ってください」


それだけ言い終わると闇の気配は消える。

アマナは相当に疲れたのか膝をついてしまう。


「終わった?大丈夫?ちょっと神が来てなかった今」

「さすがに2柱連続召喚はクるわね……無茶だったわ。でも、これがあればあの深淵にも対抗できるはずよ。

5分くらいなら問題なく行動できるはず。あと、不動明王の力を借りるのはやめておきなさい。力が合わないはずだから」

「まあ罪を許す力と罪を焼き尽くす力は違うからな……OK要するにこれを持ってあれにつっこめと」

「そういうこと。あとはあなた次第よ」

「はいよ。じゃあちょっくら突っ込んでいくわ」


イルマは自然に護符をつかむと懐に入れて黒級へと飛び込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ