4.縁
「やっほー、新入りに会ったから、連れてきたよ。」
ふたりの少女は、壁と柱にかこまれた部屋のような空間に足を踏み入れた。そこにはテーブルや椅子などの家具が調えられている。屋内のように見えるのに、相変わらず朱色の空が見えるのはなんだか変な感じだ。アリスはキミコに続いて部屋を見回し、そこにいた三人の男女に軽く頭を下げた。
「あっ、キミコねえちゃん!」
ソファに寝そべっていた少年が、真っ先にキミコの声に応えて駆け寄ってきた。テーブルを整えていた小柄な女性と、それに仲睦まじく寄り添う男性も、顔を上げてこちらを見る。
「ねえちゃん、どこ行ってたの? 僕もう待ちくたびれる所だったよ。」
「あはは、ごめんごめん。」
キミコは笑いながら少年の頭を撫でる。そしてアリスに三人を紹介してくれた。少年の名はラルフ。男女は恋人同士だと言い、男性はジン、女性はエルナと名乗った。
「この二人は一緒に夕凪に来たんだって。エルナはジンがいないと何処にも行けないんだよ。」
少し茶化すようにキミコが言い、エルナはそれを肯定する代わりにうふっと微笑んでジンの腕を抱き締めた。無垢な少女のようにあどけない満面の笑み。おそらくキミコやアリスたちより年上なのだろうが、細く華奢な体格と愛らしい表情とが相俟って、とてもそうは思えない。ジンは少し照れくさそうに、恋人の肩を抱き寄せる。
「アリスさんも、わたくしたちと一緒にお茶をいかがですか?」
エルナの丁寧でのんびりとした言葉遣いに驚きながら礼を言うアリス。カップをもうひとつ取りに行く、と部屋を出るエルナに、当然のようにジンもついて行く。目を丸くしてそれを見送っていると、キミコと少年の会話が聞こえて、アリスはそちらに意識を戻した。
「僕もう待ちきれない。ねえちゃん、先にお茶淹れちゃ駄目?」
「もうちょっとくらい待ちなさいって。ジンとエルナもすぐ戻ってくるし、トモヤも来るから。」
「ちぇ。早くおやつ食べたいのになあ。」
ふてくされた様子でキミコにまとわりつく少年。うっとおしいと叱りながらも、キミコも嫌がってはいないようだ。とても仲の良い二人の様子は、見ていてほのぼのする。
「ラルフはキミコのことお姉ちゃんって呼んでるけど、ふたりは兄弟なの?」
アリスが尋ねると、二人は同時に首を横に振った。
「ううん、ここに来てから仲良くなっただけ。生まれた国も違うし、年も離れてるし、関わりないよ。」
「今ここにいる中で夕凪に来る前からの関わりがあったのは、一緒に来たジンとエルナくらいじゃないかな。あとはバラバラよ。まあ、アリスに関わりある人がいるかはまだ分からないけど。」
そんな話をしていると、背後から軽い足音が近づいてきた。
「みんなお待たせ。今お茶淹れるわね。あら、新しい方?」
「メイファさん、はやくー。」
ラルフが口にした名前に、アリスはばっと振り向いた。ちょうど部屋に入ってきた女性が立ち竦む。メイファと呼ばれた彼女は、驚きに目を見開いてアリスを見つめていた。
「あなた、まさか……アリス?」
その名を呼ぶ声も、顔も、アリスの記憶の奥底にある面影と同じものだった。
「……ママ。」