第五話 魔獣と大蛇の追いかけっこ
さぁ、追いかけっこだぁ‼
∇∇∇∇∇∇∇
sideクロ
俺、走ってます。
超ビックな蛇様へ野球ボールの如く、全力投球され見事に直撃し
スタートを知らせるピストルが鳴り走り出してから約三時間。
「俺、何て食べてもおいしくないですぅぅぅぅ」
「シャァァァァ」
休むことなく走っております。
だって、止まったら絶対喰われる。後ろにチラリと視線を向けると
三時間前と全く変わらない、おっそろしい形相で木をなぎ倒しつつ迫ってくる蛇。
更に、俺がなかなか喰われない事にかなりお怒りのようで
「食いもんの分際で逃げてんじゃねぇ!!」と言わんばかりの殺気。
「いい加減諦めてくれ〜!!」
三時間だぞ、三時間!!!
そんなに長い時間獲物が捕まらなかったら普通諦めるもんじゃないの?
そんなに俺って美味しそうなわけ!!??
……いや。
待てよ。師匠は、『幻獣種だから他の魔獣に喰われる』みたなニュアンスで言ってたような。
つまり、あの大蛇様は眠りを妨げられた怒りから俺を食いたいんじゃなくて
俺自身が意地でも食いたいってことか?
なるほど~と、チーターも真っ青な勢いで走りながら
俺へ異常な執着を見せる大蛇について考察がまとまり
頷こうとした俺だった。
よく考えよう………………………うん。うん?
なお、悪くないかぁぁぁ‼??
此だけしつこいってことは
十中八九、諦める気ないだろうし。
何となく気づいてはいたけど此だけ長時間走ってるのに
疲労が一切見えない。
「あれ、そういやぁ。
俺も全然疲れてない………」
前世は運動?何それ、新しいゴミの種類?
とゴミ箱に捨てたいくらいには嫌いだったのに
今の瞬発力と俊敏性さらに持久力は異常過ぎる。
身体能力の強化だけじゃないな…何だ?
「やっと気づいたようだな。
クロの考えた通り、あやつはお前を絶対にあきらめん。
魔力変換のおかげで疲労もないしな‼」
「すいません師匠。
俺、自分の考察の答え合わせより
この命に関わる状況をどうにかして欲しいんですけどねぇぇぇ‼」
この、おいかけっこ(?)始めた張本人さまが
一生懸命走ってる俺の横を悠々と飛んでらっしゃる。
三時間も放置してたくせにいきなり登場したことについてとか、俺の思考がもろばれとか
そんなことは、今更だからどうでもいい……よくないけども。
いや、だって、師匠だし。
この言葉で納得できる自分に泣けてきた。
「大丈夫だ。
お前なら何とかできる。お前の魔力変換力の高さにはワタシも驚いていたところだ‼‼」
「この状況でそれを言えるあんたにビックリだよ!!!!」
魔力変換!!??
何だよそれ‼
「説明してやろう。」
………うん。俺このひと(?)のことで悩むのやめよう。
口に出さなくても会話できるなんて楽で良いじゃないか!!!
そうだ‼俺のプライバシーが侵害されまくりだとしても‼
お願いします師匠。
「『ぷらいばしー』というのはよくわからんが。
よかろう。
まず、魔力変換についてだな。
前回も言ったがワタシたちは魔力を体に取り込むことで生きている。
通常は無意識にやっているが、此を意識的にやることによって
持久力など自分の力を底上げすることが可能になる。
魔力を魔法として使えないところは此れによりカバーする」
え……でも俺全く意識してないですけど。
「ワタシもそれに驚いている。
さっきも言っただろう?
お前はワタシでも意識しなければならない魔力変換を無意識に持続的にしている」
そ、それって凄いんですか?
「凄いに決まっているだろう。
ワタシは此でもこの森の一部だがまとめている長だ。
だが、お前のようにはいかん。」
ほぇぇぇ。
師匠てっ本当は凄い方だったんですねぇ。
信じられない?いや、信じたくない。
「………………つぎに
こんなにも熱烈にあやつがクロを求める理由だが。」
生意気言ってスイマセン。
謝ります。全力で反省します。
だから、鳥肌たって足がもつれそうになるんで変な言い方だけは勘弁していただけないでしょうか、
今転けると命に関わるので。
切実に。
「わがままだな。
まぁ、よかろう。あやつがお前を執拗に追いかけるのは
簡単に言えば『強くなるため』この一言につきる」
つまり、おれを食べると強くなれるってことですか?
「ああ、しかも其処らの奴らなど目じゃないくらいに強くなれる。」
因みに、いかほど?
「そうだな……其処らの雑魚がワタシと良い死合いができるくらにはなるな。
その力に見合うだけの体にもなるだろう。」
雑魚が一気にダンジョンで言う、ラスボスレベルまで。
強化&進化素材にもなる超ミラクルスーパーレアな獲物ーーーーーーーーーが、俺。
「もう一つ付け加えると
此は人間にも当てはまる、お前を無理矢理にでも自分のモノしたい
と考える輩だ。
人間にとって魔獣は己の力を他に見せつけるための最高の道具であると考え
強い魔力をもつ魔獣を『隷従』と言う最悪な手段で従える。
人間の中でも最低な人種だ。」
そんなことできるんですか?
契約者でもないのに?
「ああ、手段はある。それで命を散らしたもの達も少なくない。
おい。大丈夫か?
足が遅くなっているぞ?死ぬぞ?」
師匠の声は聞こえていたが、俺は外の世界をだんだん遮断し
思考の渦に身をまかせる。
さっきまで飄々としてたのに焦りが混じっている師匠の声音に
少し笑えてくる。
AHAHA…
死因バナナで、狼の魔獣に転生させられて早速知識の無さに絶望して
でも変だけど師匠ができて安心してたら。
俺は、この世界じゃぁ
仲間なはずの魔獣にも力をつけるための獲物で
実際に俺は喰われて死にそう。
そうじゃなくても、
人間の中にもクズ野郎がいて俺はそいつら百%狙われ
へたしたら死ぬ。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼
ふざけんじゃねぇ。
俺は、強くなるための素材でもない
力を見せつけるための道具でもない
生きてんだよ
そうだ。
前世は、何の目的もなく毎日何となくで『イキテタ』
でも、今はよくわかんなかったけど
俺には『契約者』ていう会えるかもわからない一生のパートナーがいる。
俺はソイツに会いたい。
ああ。
魔獣の本能なんて欠片もないと思ってたのに
今なら分かる。
自分について分かったからなのか魔獣としての俺が
目を覚ましていくのが感じられる。
会わないきゃいけない。
守らなきゃいけない。
ソイツに。
俺の契約者ーーーーーソイツのために「生きること」が俺の存在理由なんだ。
だから
「だから、こんなとこで死ぬわけにはいかないんだ。
蛇ごときに逃げ回ってたんじゃ、笑われる」
今度こそ、足を止め振り替える。
大蛇は木をなぎ倒しながら確実に俺に近づいていた。
師匠はさっきから何も言ってこない。
何となく師匠の方をみると
「う、わぁ」
気持ち悪いくらいの良いニヤケ顔。
「やっと、分かったみたみたいだな。」
「まぁ、はい。」
「それじゃ、倒さないといかんな。」
「そうですね」
さぁ、追いかけっこはおしまい。
ここからが本番だ。
「絶対、負けねぇ」
もう、恐くない。
初めて、俺は自分から大蛇に向けて踏み出した。
魔獣覚醒!!??
次回は、蛇さんボッコボコ?