第二章 Ⅴ
朝野姫香。
僕と同学年、隣のクラスの二年A組の生徒。
愛称はヒメ。
「ヒメ」、「ヒメちゃん」、「お姫様」などと呼ばれている。
そして、最近人気急上昇中のアイドル・HIMEKAでもある。
学業優先でその合間にアイドルをやっているらしい。
髪型や色は学校でこそ普通だが、ライブやテレビ番組などによって使い分けている。
例えば、今は金髪のツインテールである。
……………今彼女が出演しているドラマの役が、たしかツンデレお嬢様だったような。
それよりも大事なことを忘れていた。
「朝野さん、ここに僕が連れてこられたのって、朝野さんのせい?」
僕が質問すると、
「そう。私がこの人たちに桐生君を連れてくるようにお願いしたのよ。」
と、オッサン達を指さした。
「えーと、この人たちは誰?」
だいたい予想がついているのだが、一応聞いてみた。
「私のマネージャーと、ファンクラブの人たち。」
案の定、予想通りの答えが返ってきた。
というか、自分のマネージャーとファンに、何てことをやらせているんだ。
「それで、誘拐まがいなことまでして、一体僕に何の用?」
「誘拐まがいって、私はただ、どんな手段を使ってでも収録が終わるまでに桐生君をここに連れてきてって、そう頼んだだけよ?」
「………………………………………………………」
呆れたとしか言いようがない。
オッサン達も冷や汗をかきながら目が泳いでいる。
つまり、朝野の命令には絶対服従、か。
「大体わかった。それで、結局僕に何の用なの?」
「私と付き合いなさい。」
「…………………………………………はい?」
耳を疑った。
「聞こえなかったのかしら。それとも頭が悪いの?」
「聞こえているし僕はそこまで馬鹿じゃない。」
ちなみに一年のときの学年末試験の結果は、彩花が学年三位、僕は二位だった(四位が五十嵐、一位が黒樹)。
そんなことはどうでもいい。
「それって、恋人として?」
「もちろん。」
「朝野さんって、アイドルでしょ。恋愛とかタブーなんじゃ……」
「あら。女子高校生なんだから、恋愛なんて当たり前でしょ?」
「……………………………………………………………」
今すぐ自分のファンと全国のアイドルに土下座で謝れ。
危うくそう言ってしまうところだった。
そのかわり、五十嵐や黒樹に言ったことと同じことを言おうとした。
「悪いけど、僕には今彼女が」
「じゃ、今すぐ別れて。」
「………………………え?いやいやちょっと待」
「別れなさい。」
「…………………………………………………………………」
これが、朝野が「お姫様」と呼ばれる理由である。
「朝野が実はビッチだ。」
一時期、学校でそんな噂が流れていた。
「真面目な彼女に限ってそんなことある訳ない」などと、みんなが噂だと思っていた。
正直僕もである。
しかし被害者は増えていき、いつしか学校内で「お姫様」と呼ぶものまで出てきたのである。
そして今まさに、実際にそれを体験しているわけなのだが………
……………噂以上じゃねーか。
と、思ってしまったのだった。