第二章 Ⅱ
――昼休み――
誰にも怪しまれないように(主に彩花)、すでに待っているであろう相手に申し訳ないと思いつつ先に昼食を済ませ、急いで体育館裏へと向かった。
そこで待ち受けていたのは……
「おーい、桐生くーん。こっちこっちー!」
……手紙に書かれた綺麗で丁寧な文字からは考えられないようなテンションの持ち主、五十嵐だった。
腕をブンブンと振り回している。
五十嵐真奈はクラスメイトである。
彼女のことをわかりやすく言うと、低身長・巨乳・バカ・ツインテール。
明るく、元気だけが取り柄のような性格。
男子からの人気が高く、可愛い子ぶっている割には女子の間で悪口を言われるようなことはなく、むしろ友達が多い。
運動が少し苦手だが、持久力系は得意らしい。
おバカな言動が多い割に、定期テストの成績は彩花の次くらいに良い。
その言動でいつもクラスを明るくするムードメーカー的存在である。
……ただし、テンションが若干(僕から見たらかなり)高めなので、僕は彼女が苦手である。
そんな彼女が待ち受けていたわけだが、まあ相手の出方を見ることにする。
「えっとね、単刀直入に言うけど、マナ、ずっと前から桐生君のことが気になっていたんだっ!」
バカみたいに明るい告白だった。
いや、そこじゃないだろ。
………いきなりすぎないか?
まあいい。
この小説の作者がバカなだけだ。
ということにした。
「それで?」
努めて冷静に対応する僕。
「それでね、昨日桐生君とお話して、この気持ちが恋だって解ったんだよ!」
それで昨日話しかけてきたのか。
「だから僕と付き合いたいってこと?」
意地悪っぽく質問をぶつけてみた。
すると、
「そうっ!だから桐生君を呼んだのっ!」
……なんか、逆効果だったようだ。
さっきよりも五十嵐が明るくなったように見える。
だが、僕はとうとうアレを打ち明けることにした。
「……悪いけど、僕には彼女がいるから。」
そう僕が言うと、五十嵐は首をかしげ、
「それって、彩花ちゃんのこと?」
と、彩花を名指しした。
まあ、いつも一緒にいるからなあ……
などと納得し、僕は
「うん、そうだよ。だから、五十嵐さんとは付き合えない。」
と言った。
この時僕は、これで五十嵐真奈はあきらめてくれると思っていた。
が、直後、
「プッ、アハハハハハハハハハ!」
何故か一人で勝手に大爆笑していた。
予想外な五十嵐の反応に対し、僕はただ呆然としていた。
「プクク、ゴメンゴメン。だって、そんなことマナはとっくに気づいていたし、桐生君が彩花ちゃんを言い訳にするなら、マナが桐生君のことをメロメロにしちゃえばいいだけでしょっ?」
………明るく何とんでもないこと言ってんだコイツ。
「いや、だから」
キーンコーンカーンコーン♪
昼休み終了のチャイム。
……タイミングが悪すぎるっ!
「あ、もう昼休み終わりだね。というわけでこれから少しずつ桐生君のことをメロメロにしてあげるから。楽しみにしててねっ!ばいばーい!」
と、言い残し、呼び止める間もなく五十嵐真奈はなぜか走り去っていった。
…………なんというか、僕の話を全く聞かないところは彩花そっくりだな、とか思ってしまったのだった。
………………………………ていうかこの状況、彩花にバレたら絶対殺される。
そう考えただけで僕は身震いした。