第一章 Ⅰ
この世界に、いったい何人のヤンデレな女子がいるのか、そんなこと僕にわかるはずがない。が、少なくとも僕の彼女はヤンデレである。
……まあ、実際は少しだけ嫉妬深くて、ほんのちょっぴり頭がおかしいだけの、どこにでもいる普通の女子高生かもしれないけれど。
でも、僕――桐生秀一は断言する。
彼女はヤンデレであると。
なぜなら今この瞬間、
「昼休みに真奈ちゃんとくっついて、いったい何をしていたの?」
ニッコリと微笑みながら僕の彼女、九条彩花はそう言った。
――目が全然笑っていない。
放課後、学校の屋上にて、僕は彩花に問い詰められていた。
「い、いや別にただ話しかけられただけだよ。」
冷や汗をかきながら僕は答えた。
「嘘つかないで。」
「嘘なんてついてないよ。」
「教室で仲良くイチャイチャしてたくせに。」
「い、イチャイチャなんてしてねぇよ!」
勘違いにも程があったので、かなり強めに反論した。
すると、
「ふーん。そういう態度とるんだぁ。」
「!」
次の瞬間――
プスッ
「!?」
僕は自分の左腕を見た。
――コンパスの針が、刺されていた。
「イギャァァァァァッッッ!?」
僕は激痛のあまり、思わず放課後の屋上のど真ん中で絶叫してしまった。
「次は、ハサミで刺すから。」
右手で僕の左腕からコンパスを抜き、左手にハサミを掲げながら、彩花は言った。
「ちょ、ちょっと待って!」
「待たない。」
「いや、そもそもどうして彩花はそんなに怒ってるの?」
「どうしてって、それはもちろんシュウ君が私以外の女の子と、仲良くしているからだよ。」
「いやいやいや。そりゃ、普通にクラスメイトと会話するくらいは良いんじゃ……」
「あと強いて言うなら、シュウ君が最近クラスの女子にモテモテだからかな?」
「……。」
確かに最近、女子から話しかけられる回数が、やけに増えたような気もするが……
「……別にそこまでモテてるって訳じゃ…………」
「シュウ君が気づいていないだけ。みんな少しずつだけど、シュウ君に近づいてきているよ。」
「……。」
――反論できない。
「やっぱり、シュウ君を殺したほうがいいのかな?」
「……うん、今なんて言ったこの幼馴染兼彼女。」
サラッととんでもないことを言っていた。
うっかり流してしまうところだった。
「シュウ君は私だけのものだから、誰にも盗られたくないの。だからシュウ君を殺すんだ。」
無邪気な笑顔(目以外)で彩花は言った。
「お願いしますからそれだけはやめていただけませんかねぇ!?」
瞬間、土下座だった。というか、敬語だった。
しかし彩花は、
「……へ?なんで?」
キョトンとした様子で僕に聞き返してきた。
「まだ死にたくないからだよっ!」
当たり前すぎることを、しかし僕は必死に訴えた。
「……そこまで言うなら仕方がないなぁ。」
「え?」
嘘のようだった。あの彩花が、こんなにあっさりと引き下がるなんて。
僕の目の前に今、一筋の希望の光が――
「じゃあ、シュウ君に近づいてくる女の子をみんな殺そうかな。」
――射すわけがなく、またしてもとんでもないことを言っていた。が、
「……いや、彩花には、できないよ。」
僕は否定していた。
「僕は殺せるかもしれないけど、ほかの誰かを殺すなんて、彩花には出来ない。」
「……どうしてそんなことシュウ君にわかるの?」
その質問に対して、僕は少し照れくさく答えた。
「つ、付き合いが長いからな。」
すると彩花は、
「…………」
何故か俯いてしまった。
うっかり地雷を踏んでしまったのだろうか。
あまりの恐怖にガクガク震えていると突然、
「そうっかあぁぁ~」
「!?」
急に彩花の態度が変わった。
満面の笑みだった。
目も怒ってはいない。
むしろデレデレだった。
「やっぱり、シュウ君にとって一番かわいい女の子は私なんだね!だから、ほかの女の子に興味なんて、これっぽっちも無いんだよね!」
「………………」
そんなことは一言も言っていない。
……でも実際、彩花以外の女子を恋愛の対象として見たことなんてないし、なにより彩花の機嫌が直りつつある(直ってる?)ので、
「ああ、そうだよ。僕にとっては彩花が一番だ。」
僕はこの流れに乗っておくことにした。
すると、
「えへへぇ~♪」
いきなり彩花が抱きついてきた。
「そ、そんなにくっつかないでよ。それにもし誰か来たら……」
不意を突かれ、かなり動揺している僕に対し、彩花は、
「大丈夫だよ。こんな時間に屋上に来る人なんかいないし、こっそり鍵も閉めといたから。」
と言った。
僕は彩花の用意周到さに呆れつつ、
「彩花らしいな。」と、思ったことを口にしていた。
それからしばらくして、二人で一緒に下校したのだった。
それにしても、僕がクラスの女子からモテているという話が気になった。
彩花の思い過ごしならいいが、もし彩花以外の女子が僕に告白してきたら……
――考えただけでも恐ろしい。
とにかく、今日は疲れたから、早めに寝よう。
………あ、刺し傷のことを完全に忘れていた。
思い出したら痛くなってきたので、寝る前に応急処置をすることにした。
どうも、牧場サロです。
先述の通り執筆ペースが遅いため、次話掲載は未定です。
消えたと思ったら、いきなりわいて出てくるかもしれません。
なるべく早く掲載できるように努力します。
よろしくお願いします。