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空色の恋模様  作者: 氷室冬彦
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12 果たして血とはどれほど重要か

司令室がやけに静かだったので中を覗いてみると、ソファでうとうとしているリンとその正面で何かの書類に目を通している郁夜、それから部屋ではデスクに突っ伏して居眠りをしている礼がいた。ロアは嫌に静かだねえと言いながらリンの隣に腰掛ける。ロアについてきていたジオは郁夜の隣には座らず、ロアの後ろに立った。彼はいつもこうだ。


礼は寝ているのかい、とロアが問うと郁夜はため息を吐いて「揺すっても叩いても起きない」と言った。リンは欠伸をしながら、さっきまではまだ起きてたわよと言った。ロアは一度立ち上がって礼のデスクの前に立ち、安らかな寝息をたてて眠っている彼の顔を覗き込んだ。すっかり熟睡している。


「ああ……これはしばらく起きないね」


ロアがリンの隣に座りなおすと、郁夜は手に持っていた書類を置いてロアに声をかけた。


「ロア、空來のことだが――」


「気になるのかい?」


「そりゃあ、あんなんでも一応は仕事仲間なんだ。他人事じゃないだろ。本当に放っておいて大丈夫なのか」


「いいんだよ、むしろ放っておいたほうが」


「どういうことだ」


「――っていうかあんた、なんでそんなにはっきり言えんのよ?」


リンが口を挟んだ。ロアは顎を掻いてそうだねえ、と少し間をあけて答える。


「似てるんだよ。私と空來は」


「似てる?」


リンと郁夜が同時に聞き返す。いったい何処が、というような声だ。たしかにロアと空來ではまったく違う。性格も能力も素性も何もかも、ロアと空來に共通点などはないように見える。しかしロアはそう、と頷いてみせた。


「どこがどうってわけじゃないけど、空來と私には通じるものがある。だから私には――空來の気持ちというのもよくわかるのさ」


「ますますどういうことだ」


「それが全てなんだよ。それに、前に礼が言った通り、私たちが手を貸すまでもないのさ」


郁夜はまだ納得がいかないというような顔をしていた――彼は感情が表に出にくい性質なので表情はほどんど変わっていない――が、やがて諦めたようにため息を吐いた。ロアはそれからしばらく黙り込んでいたが、やがて何処か物悲しそうな笑みを見せた。


「――ただ、彼らに嘘を吐く必要はなかったかもしれないけれどね」



*



外の世界は平和そのものだというのに、彼らの世界は未だ荒れたままである。彼らの世界だけが――平和でないのだ。現に、我々の世界もまた、外の世界と同じように平和なのだから。


鈴鳴龍華が座敷で茶を飲んでいると、玲華に連れられて柴闇と癒暗がやってきた。二人は長方形のちゃぶ台を囲むように敷かれてある座布団に腰を下ろすと、龍華に今日これまでにあった出来事を話した。自分たちが勇來と静來に協力することとなり、あれこれと調べているうちに空來のいる場所を大まかにだが特定することができた――という報告であった。


「――で、結局あの迷子少年は何処におるんや?」


ひと通り話を聞き終えた後に龍華が問うと、柴闇は真剣そうな顔と声でダウナだ、と言った。龍華は片眉を吊り上げてダウナぁ、と頓狂な声を出す。


「なんや、あいつそんなとおまで行っとるんかい」


「学と竹鬼の話によると、そうらしい」


学というのは二重人格のギルド員のことで、竹鬼とはその学のもう一つの人格のことだ。龍華は腕を組んではあ、と驚いたような呆れたような声を出した。ダウナが勇來たちの故郷であることは龍華も重々承知している。


「つまり仕事もほっぽって帰郷しとるっちゅうことか。もしかして……『あのこと』となんか関係あるんか?」


あのこと、という龍華の言葉に柴闇と癒暗は僅かに反応した。癒暗はどうだろうね、と曖昧な返事をしたが、柴闇は違った。


「後で竹鬼から聞き出した話を聞く限り――その可能性が高いと、俺は思ってる。それに、空來がここまでするほどの事情といえば、それくらいしか思いつかない」


「そらまァ……大層たいそなこっちゃなあ」


「俺たちはこれから静來たちとダウナに行ってくる。今日中に戻れるかどうかはわからないが、あまり長い間向こうに滞在するつもりはないから、どれだけ遅くても三日後には戻る」


「はいよ。気ぃつけてな」


出かけていく柴闇と癒暗の見送りに行った玲華が戻ってきたとき、龍華は少しだけ笑っていた。


勇來たち三つ子はお互いが外出する際に何処に行くのか、いつ帰るのかという連絡を欠かさない。しかしあの三つ子が特別「連絡」への執着が激しいだけで、兄弟姉妹かぞくのいるギルド員は皆そうなのだ。それは柴闇と癒暗も例外ではない。


しかし、柴闇と癒暗の「連絡」は双子間のみのものではなかったのだ。


「兄さん、どうしました?」


「いや、なんちゅうか――俺らもちゃんと家族として見られとるんやなって、改めて思うとな……」


龍華の言葉に玲華はなんだか嬉しそうに微笑んだ。我が妹ながら艶美で愛らしい。これが将来は嫁に出るというのだから、兄として非常に心苦しいことだ。


「……家族ですよ。私たちは」


「そう、やな」


玲華が龍華の妹であるように、あの天風の兄弟もまた、血の繋がりはなくとも龍華の弟たちなのだ。

次回は五月二十八日に更新する予定です。

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