<幸運と不運>
最愛”だった”両親の屍を踏み越え。俺は両親を殺した魔術師に弟子入りした。
―――俺は外道だ。
父も母も平凡な人で、時には叱られ。時には甘やかされ。普通に育てられた。
もうすぐ生まれてくる、妹? 弟?の胎動を感じながら両親は笑っていた。
俺も笑っていた
―――オカシナ意味ではない。普通に幸せだったからだ。
そう、”だった”
あの時。運悪く―――いや。運良くと言うべきか?。
―――まぁいい。
偶然。師匠に出会った、あの時。
魔術師と魔術師の”領域争い”に巻き込まれた時。
全ては始まった。
弟子入り一年目。雑用にこき使われた。小学生だと言うのに容赦は無かった。
弟子入りニ年目。魔術の基礎を教えられた。手伝わさせれる範囲を増やすためらしい。
弟子入り三年目。人体実験の材料にされた。半年ほど記憶が無い。
弟子入り四年目。簡単な魔法を見よう見真似で覚えた。それを知った師匠の態度が変わった。
弟子入り五年目。正式に弟子として認められ。色々と教わった。ついでに中学に通う許可が出た。
弟子入り六年目。順調に魔術を覚えた。師匠に天才だと褒められた。嬉しかった。
弟子入り七年目。師匠を殺した。師匠の”領域”と”守護天使”を奪い―――魔術師となった。
魔術師の条件は二つ。一つ目は守護天使を持つこと。
守護天使はソロモン王の72柱の悪魔から選ばれるのが普通だ。
”選ぶ”のではなく”選ばれる”のだ。
誕生日と言う運命によって決められ、通過儀礼を経て具現化することになる。
だが、それは最初だけだ。
本人の実力に、良い意味でも、悪い意味でも守護天使が合わない場合。
後天的に変更することが出来る。
変更方法は様々だ。
*直接守護天使を呼び出し。交渉して契約を交わす。
*現在の守護天使にお願いして、他のモノを紹介してもらう。
*師匠や友人など交渉して、守護天使を交換する。
*力づくでねじ伏せ、守護天使を奪い取る。
と、言った方法だ。
俺が選んだのがどれなのかは、言うまでもないと思う。
魔術師となる2つ目の条件は領域を持つことだ。
領域は、言わば魔術師の縄張りだ。
魔術的にラインが引かれ、明解に境界線で区切られた空間。
もっとも、それは普通の人には感知できるものではない。
だからと言って、無関係でもない。
なぜなら、領域内のあらゆるモノはmasterである魔術師のモノとなるからだ。
人間も例外では無い。
領域内に”所属”するモノは全て、魔術師によってmarkingされる。
markingされたモノは、他の魔術師の領域に行っても言わば治外法権として扱われる。
これは領域内のモノでmasterの自由に出来ない、数少ない例外の一つだ
領域を持つことで、魔術師は領域内のモノを好きにできる”権利”が得られる
同時に領域を守る”義務”も生じる
もっとも、領域を全て失えば自動的に魔術師では無くなるため
義務と誇張するまでもなく、大半の魔術師は領域を死守しようとするだろう
領域を獲得する方法は一つ
領域を支配しているmasterから奪い取ること
masterの居ない領域は存在しない
―――正確には存在価値が無い
masterは必ずしも魔術師とは限らず
聖霊、精霊、神木、神霊などなど、人外のモノや
巫女、住職、神父、老師など、魔術師に匹敵する”力”を持つ者が領域を守護してることも少なくない
つまり、masterの居ない領域は、人からも人外からも見放された不毛の地と言うことになる
一時的に事故死や寿命などで、master不在の領域が出来ることもあるが
殆どの場合、その縁者が継承し。
縁者が居ない場合、そこの領域内で最も力の強いモノが継承したものと見なされるため
実質上。領域を増やすには、誰かから奪い取る必要が出てくる
そのため、魔術師同士の領域争いは珍しくはない
珍しくはないが、そうそう頻繁に起きるものでもない訳で
―――俺の両親が巻き込まれたのは、純粋に不運だったとしか言いようがない
両親には感謝している
―――俺を産んでくれたこと。可愛がって育ててくれたこと
師匠にも感謝している
―――弟子にしてくれたこと。厳しくも、まじめに育ててくれたこと
両親には感謝している
―――あの時。俺を命がけで庇ってくれたこと
師匠には感謝している
―――信用してくれたこと。油断してくれたこと。
そして、その命を持って、俺を”魔術師”にしてくれたこと
家族を奪った不運に祝福を
未知の力に魅せられ、屍を踏み台とした―――俺の幸運に祝福を
平凡な人生から道を外れ。道なき地を走る、俺の未来に祝福を
―――armen