予兆(オーメン)
轟音と共に閃光が走る。
同時に2つの影が面前で重なり、その閃光に飲まれる。
肉を焦がす独特の匂いが辺りを満たす。
眼下には倒れた男女の焼死体。
ほんの数分前まで手をつなぎ、楽しく笑っていた両親の変わり果てた姿。
その先に見えるのは、一言二言呟いた後、手のひらから閃光を放った不審者。
そして、その者の背後に見えるのは、どこにでもある。
雑多な人々が行き交う。路地裏から見た繁華街の風景。
だが、雑踏の音は聞こえず。辺りは静寂に包まれている。
そんな静寂の中、目の前の人の舌打ちだけが聞こえた。
そいつは気だるそうにこちらへと手を向け。
再び、一言二言呟こうとする。
それを遮り。静寂を破るように残された少年―――八坂 湊は叫んだ。
「僕を、弟子にして下さい!!」
<予兆>
キン・コン・カン・コン
授業終了の鐘が鳴る。
机から数学や国語の教科書無造作に取り出し、カバンに詰め込む。
「おーい、八坂! 一緒に帰らないか?
駅前のゲーセンに新作が入ったってさ。よってかないか?」
「今日はバイトがあるんで無理だよ」
クラスメイトに遊びに誘われる。
友人らしい友人は居ないが、クラスメイトと仲が悪いわけではないので、こうしてたまに誘われる。
―――有りがたくもあるが、煩わしくもある。
用事があるので普通に断る。
バイトが有るわけではない。むしろ有るのは”本業”だ。
本業と遊び。どちらを優先するべきかは考えるまでもない。
カバンを担ぎ教室から出ると、クラスメイト達と校門で分かれる。
電車通学では無いので、用事がない限り駅前に行く必要がないからだ。
「―――?」
ふと視線を感じ、校舎を振り返る。
公立のどこにでもある平凡な高校。
校庭からは部活に勤しむ生徒の、威勢の良い掛け声が聞こえ。
校舎の玄関は、靴を履き替えながら、男女様々なグループを作って、雑談している生徒が見える。
校舎の窓は、校内にまだ残っている生徒や教師の姿がちらほらと見えるだけで、不審な点は無い。
視線を辿ると、玄関から校門までの道の横に植えられてる、記念樹の枝に辿り着く。
そこには、枝にぶら下がったコウモリが居た。
市内でもコウモリを見ること自体は珍しく無く、普通は気にすることもない。
―――そのコウモリがこちらを直視してなければ、の話だ。
「―――」
軽くため息をつき。視線を外しコウモリに背を向ける。
それと同時に胸のポケットに入れていたシャーペンを取り出し。
振り返る動作に隠して、指で弾き飛ばす。
「ぎょえ!?」
「え! な・なに?!」
背後のちょっとしたざわめきを無視して歩き出す。
使い魔は、普通の生物と違い。
死ねば、即座に肉体ごと混沌に還る。
証拠は残らない。残るのは瘴気を浴びて変色した、ただのシャープペンシル。
片付けるのは美化清掃委員の仕事だ。俺には関係無い。
―――そうか、”師匠”も、あの時。こんな気持ちだったんだろうな。
そうあの時―――両親が師匠に殺され。俺も殺されそうになった、あの時だ。
アレから7…いや8年経った今。残された少年―――八坂湊は高校生になっていた。