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不思議な人。  作者: 薄桜
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少しは俺にも語らせろ

「えーと、食い物買うって……私あんまりお金持って無いんだけど?」

「いいよ、そのくらいおごるよ、言い出したの俺だし。」

「じゃぁ……長葉堂の松花堂弁当とか?」

「了解。」

「ええっ、ちょっとそれ本気? あれ千五百円もするよ!?」


 と、まぁそんなおかしなやり取りを経て、彼女の希望通り長葉堂で松花堂弁当を買った。それからかなり挙動の不審な美晴の手を引っ張って、再び桜の咲く土手に戻ってきた。……正直面白くて仕方がない。



 美晴は強気な姿勢で、耳の痛い事を平然と言い放ってくれた。最初はカチンときて腹が立ったんだ。けどそれからパッタリ来なくなって……俺は相当焦った。

 見切りを付けられたという悔しさと、彼女がもうここには来ないという現実を突きつけられて、俺は考えを改めた。

 彼女も酷いが、俺も悪い。

 『中途半端』と言われて腹が立ったのは事実に他ならないからであり、分かっていながら何も出来ずにいる自分が歯痒いからだ。口に出せばきっと色々状況は変わる……かもしれない。だが、そこまでの度胸が無いから俺は燻ってんだよ。長年の親からのプレッシャーってのは精神的にしんどいんだ。……だが、贅沢な悩みなんじゃないか? 彼女を見てるとそう思わざるを得ない。自分が弱いだけじゃないかって。

 それに、あんなに真っ正面から厳しい事を言ってくれるようなヤツってのはそういない。今までを振り返ってみてもほんの数人だ。そいつらは親友と呼んでもいい仲だが、恥ずかしいから悪友でいいな。


 俺は今まで打算的な人間をたくさん見てきた。家が病院だから金持ちだろう? 親が医者って羨ましい。そんな考えの、薄っぺらいヤツばっかで嫌になってた。もう関わるのも嫌で見下してたな。

 親がどうだろうと、家がどうだろうと関係ない、俺は俺だ。だが俺をそのフィルター無しで見てくれるヤツは滅多にいなかった。

 だが彼女は『史稀』と名乗った俺をいぶかしんだものの、結局そのまま受け入れて、そう呼び続けた。媚びるでもなく俺個人に当たり前にぶつかってきた。実は知っていたなんて事もないだろう。何度も探りを入れてきたし、昨日姉貴が話して……相当驚いていたそうだ。まあ仕方が無い、うちの病院は彼女にとって良い思い出なんかじゃないからな。

 ……そうか、彼女に関しては逆にそこが不安材料になるって事か。


 彼女は最初……そう、かなり鬱陶しかった。

 俺を見つける度に、一方的に話しかけてくるのは邪魔でしかない。必死に描くものを考えてる時に集中力を乱され続けた。だが無邪気な顔して寄ってくる女の子を邪険に追い払うのも気が引けた。

 そのうちそれも楽しくなってきたんだが……仕返し? あの時はからかう気の方が強かったな。俺から見た、俺が感じてた彼女の内面を絵に描いて、その性格を指摘してやると、怒って泣いて、そのまま勢いよく出て行ってしまった。図星だったらしい。

 さすがにやり過ぎたなと思ったものの、それから数日後には、平然とした様子で弁当を渡された。

 ……彼女のやる事は分からない。おまけにその弁当は美味くて、それでたぶん罪悪感以外の感情が芽生えたんだ。


 今まで俺の絵を見て変な絵だとか、自分には分からないって言うヤツは多かった。それに凄いねって取り敢えず言ってくるヤツもいた。だが彼女はいきなり『何の絵?』って訊いてきた。正直これにはかなりテンションが上がった。後で思い返して引かれたかなと反省するほど舞い上がった。

 『ついで』のチョコマフィンにガッカリして、誰かからのお返しを持ってた姿に嫉妬した。自分のを渡した時は……あれは心臓に悪い。彼女の表情に一喜一憂している姿はきっと滑稽だったはずだ。

 嫌な夢にうなされて俺にすがりついて泣いた彼女、不謹慎だがあの姿は可愛いと思った。完全には寄りかかりたくないと思っている部分と、どうにも出来ない感情を持て余した部分。そんな同居が『ついでだから腕を貸せ』って事になるらしい。彼女の発想は面白い。そして何より、そんな台詞を言える事が凄い。あの場面で拒否するなんてのは、男のする事じゃないだろう?

 本当に嬉しかったんだよな、少しでも俺を頼りにしてくれた事が。あの気の強いのが俺の前で弱点をさらけ出してくれた事もな。

 もちろん彼女の涙は狡い女の武器じゃない、自己憐憫のものでもない。そもそも彼女にそんなマネが出来るとも思わない。たぶん彼女はそういうのを嫌う。……そんな安心感も正直あったから、俺の方が狡いんだろうな。


 今、彼女をイメージするならば戦の女神か正義の使者か? とにかく真っ直ぐであろうとしている。その姿勢は立派で、彼女自身とても眩しいのだが……問題もある。

 それを人にも求めようとする点だ。特に弱音を吐いたヤツに切っ先を向けて叱咤するのはやり過ぎだろう。

 なんだ、最初に感じた『迷惑なヤツ』って印象は外れてなかったって事か。


 結局俺は段々と彼女にはまり、引き返せなくなってきた頃に……その切っ先を向けられた訳だ。その言葉の刃は胸に深く刺さった。ずっと目を逸らしてきた痛い事ばかりな訳だからな。俺もさすがにカッとなったが、あれは防衛反応ってやつだろう。

 直後はとにかく腹が立って、数日は頭にきたまま日が過ぎた。分かりきってる事を言われるのはプライドが傷つくもんだ。今思えば情けないが、あの時はただ苛々してた。

 だがそれも直に違う種類の苛々に変わる。……それで俺はうっかり姉貴に少しこぼしたんだよ。姉貴は時々フラッと様子を見に来てたんだが、日を改めてしっかり聞かせろとか言って、ビール持参して来やがった。俺と違って母さん似のザルだからな。


挿絵(By みてみん)


 結果、姉貴は見事に暴走した。俺に酒を勧めてきた時点で疑っていれば良かったんだが……まさかそこまでやるとは夢にも思わなかった。

 知らない間に彼女を訪ね、そのまま連れ出し、あれこれ全部話してくれやがったらしい。あっさり酔いつぶれてソファで寝てた俺を叩き起こすなり「美晴ちゃんって可愛い子ね、気に入ったからあんた絶対捕まえなさいよ!」って……何が起きたのかさっぱり分からなかった。訳が分からないまま喋りまくる話を聞かされて、話の内容を理解した時には血の気が引いた。何やってんだよ姉貴!? って。

 いつものように、言いたい事だけ言ってさっさと帰ってしまった姉貴に、頭をハッキリさせてからもう一度きちんと事情を訊こうと携帯を開いて……止めた。

 もうチャラで良い、あんな姉貴に俺は感謝した。……ああ、単純な男だよ。悪いか?

・(改)について

間違えて、UP後にまで推敲してました(汗)

言い回し的な所を少し直しちゃったので、一応同期。

話は変わってないです!!

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