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「……もぐもぐ。む」

 船の中。

 朝食を食べ終わって、リャッカは首を傾げた。

「……なんだか、不思議な味」

 その言葉に、返事をする人間もいない。

 食器を片づけると、船内を歩き、倉庫で足を止めた。

「……」

「わあ、こんなのも、ああっ、こんな美術品もありますっ」

「……」

「こっちの黄金とか、売り払ったら高いんでしょうねえ。うふふ……」

 その黄金を、大きな胸に抱き寄せて、シスター・アンジェリカが嬉しそうに笑っている。

「……」

「ああ……。っ、はっ。いえその、違うんですよリャッカさん」

「違うの?」

「ええ、そうです違うんです」

「……そう」

「別に、金銀財宝に目がくらんだわけではなくてですね。ええと、ほら、素敵な彫刻じゃないですか。こちらの黄金も精緻な細工が施されていますし」

「……。まあ、そう」

「も、もちろんリャッカさんたちは海賊ですし、そんな美術的なことよりもお金のほうが大事ということは分かっています。私も一応そのお仲間になったのですから、反対したりは……」

「……うーん」

「……首をかしげてますけど、もしかして怒ってます?」

「ぜんぜん」

「そ、それはよかったです」

「あんまり、興味ないから」

「……? 美術品にですか?」

「美術品も、お金も。だから、好きにすればいい」

「本当ですか!? ……こほん。そ、そうなんですか。それはなんというか、珍しいといいますか」

「……そう」

「……。宝物に興味がないとすると、リャッカさんはどうして海賊なんかになったのですか? 腕試しとか?」

「……約束。したから」

「約束?」

「助けてもらうお礼に、海賊を手伝うって」

「……コーデントさんに、ですか」

「そう」

「あの、その……」

「……?」

「こ、後悔とかありませんか? 海賊になんてならなければよかったとか……」

「……とくに、ないけど」

「うう……。元の島、家に残ればよかったとか、本当に思わないのですか?」

「残っても」

「も?」

「お墓のしたに埋まってるだけ」

「………………。ご、ごめんなさい。変なこと聞いてしまいました」

「……。そう?」

「い、いえいえ。ええと、そうするとここにある財宝は、すべてコーデントさんのものなんですね」

「……そういうのを集めるとき。コーデント、活き活きしてるよ」

「そ、そうですよね」

「……そう」

「はあ……。お宝ですものね……。きっと大事にしてるんでしょうね……」

「…………。ぜんぜん」

「……。え? 財宝を集めるのが、楽しくて仕方ないのでしょう?」

「……うん」

「だから、コーデントさんは、このお宝を大事に」

「……。してない」

「…………なぜ?」

「さあ」

「……。さっき、これを好きにしていいって言っておられましたけど」

「……うん」

「コーデントさんが怒ったり」

「……しないと思う。好きに、すればいい」

「……集めるだけで、満足してるってことでしょうか」

「……そうかも」

「ふうん……」

 シスターが、胸元にかき集めた財宝を見下ろす。

 それを見ながら、リャッカは言った。

「ただ」

「ただ? な、なんでしょう?」

「……食費は。残ってると、うれしい」

「ま、まあ。そうですね」

「大事」

「はい……」

 なぜか気圧されたように、シスターが財宝を床へおく。

「リャッカさんは、食事が好きなんですね」

「……。おいしい、よ?」

「今朝は私が作ったのですけど、どうでしたか? お口に合ったでしょうか」

「………………。なるほど」

「な、なにかおかしかったですか!?」

「ううん。いつもと、違ったから」

「いつもは……」

「……コーデントが」

「あのかた、お料理得意なんですね」

「興味、ないみたいだけど」

 リャッカは、シスターをじぃっと見る。

「ええと、なんでしょう?」

「お料理が、できる。いい人」

「あ、ありがとうございます……」

 シスターは戸惑ったように、ひきつった笑みを浮かべた。

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