そしてご飯
「負けた……」
「こ、コーデントさん?」
教会に開けられた大穴を見て、コーデントは呆然とつぶやいた。
「資料は確保しておいたが、巨大宝水晶を持って行かれた……」
「ええっと、よく分かりませんけど……。私たちは生き残りましたし、神器とやらも作れたのでしょう? 大勝利ではありませんか!」
「そ、そうだな。そうだよな!」
「そうですよ!」
「たとえ悪魔たちに星を落とすための魔力を確保されたからって、俺は俺の目的を達成したわけだしな。負けにはならんよな」
「………………え?」
「さー、帰ろ。俺はなにも見なかった」
船の上。
「ふふふー」
「ご機嫌だな、シスターは」
「悪魔たちは、財宝にまで興味を向けなかったようですからね。見てくださいこの輝き! 大収穫です」
「そーかい。俺はこの資料が最大の収穫ってわけだ……が、理論があっても実行するだけの魔力がなぁ」
「なんだか大変そうですね……。そういえば、コーデントさんがこもっていた少しの間、霧が紫色に光ってましたけど、ずっとそのような現象はなかったらしいですよ」
「巨大宝水晶を使っていた間、ってことだろ。神器を作る際に生じる発光現象だったってわけだ」
「そういうものですか……。私、修行の旅をしようと思っているのですが」
「修行? なんだよ唐突に。しかもシスターらしくもない」
「そんなことありませんよ。聖なる波動で悪魔を退治した感触に、なんだか感動してしまって。これからどうするかはともかく、もう少し悪魔祓いとしての修業をしてみようかと」
「ほほう。ま、いいんじゃないか。そのまま魔法を極めたとして、聖職者らしいかどうかは別として」
「うううう。……コーデントさんはどうするのですか? もう、旅を続ける必要もないのでしょう?」
「このまま海賊してるのも気楽だし、国に戻ってなにもかも忘れて研究に没頭するのも楽しいんだが……ぬう」
「ど、どうしましたか?」
「やっぱり悪魔たちを追わないとまずいんだろーか、俺。現実を直視したくないんだけど」
「ええっと、人類の平和のためには素晴らしいことだと思いますけれど……」
「興味ないっての。問題は、リャッカとの契約が悪魔を全滅させるまで続きそうだってことだ」
「あ、そういえばそんな話もありましたね。ですけど、もう残っているのは残党だけではありませんか」
「シスター……あいつらの話のなにを聞いてたんだ?」
「え?」
「我らが組織の大幹部……この海における組織の行動のすべては……」
「と、いうことは」
「あれと同等以上の敵が、どこかにいるってことだぁな。大陸にいるのか他の海にいるのかは知らんけど」
「うわぁ……コーデントさんの無事を、遠く離れた空の下から祈っておきます」
「悪魔退治の修業するんだろう!? なんで自分だけ逃げるつもりでいやがるんだ!」
「悪魔退治の修業をするだけです! 悪魔退治をするだなんて言っていません!」
「こんにゃろう……屁理屈言いやがって」
そんな話をしていると、船内からリャッカが料理を持ってくる。
コーデントはぎょっとして目を見開いた。
「どーしたんだ、その料理」
「…………作った」
「お前がか。魚を焼くことすらできなかったお前がか」
「…………。うん」
まじまじとその料理を見つめ、コーデントはつぶやいた。
「リャッカにとって、料理を作れるようになったのがこの旅の一番の収穫かもな」