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巻き戻り島の原因

 光が天使を照らし出している。

「……なあ、シスター。天使って実在したのか?」

「目に見えるものがすべて……なのでしょうか。わたしにもさっぱり。創作物とかだとよく聞くのですけどね」

「だよなぁ。どこぞの船の幽霊は、世界を救ってくれるとか言ってたが」

「救ってくれているのではありませんか? 悪魔たちと戦ってくれていますよ、今」

「かもしれん。そして俺たちは危ない戦いをせずに済むってわけだ……それでいいな? リャッカ」

「…………。うん」

「いや、まあ思うところはあるのかもしれねーが。別に、あの天使が倒してくれるってんなら、わざわざ俺たちで悪魔と戦う必要はないだろ?」

「…………。うん」

 と。

「それ無理」

「天使が話しかけ……もうちょっとましなしゃべり方できないのかよ」

「無理」

「あのな……で、なにが無理だって?」

「コーデントさん、平然と天使さまとお話してますね……」

「うっさい。で?」

「わたし倒せない」

「……悪魔をか? 役に立たない……」

「あなた倒せる」

「な、なに? 俺なら、あの悪魔を倒せるっていうのか……? 大幹部だぞ? だいぶ上級の悪魔だ」

「違う」

「うん? ……うーんと?」

「………………コーデントを、倒せる?」

「なーるほど」

 リャッカの言葉に、コーデントは納得して笑顔を見せた。

「って、俺を倒してどーする!?」

「役に立たないとか言ったからではありませんか……?」

「ちっ、なんて心のせまい……」

 言い合っていると、小柄な悪魔がしゃがれた声をあげる。

「ぎぎぎ、愚かな人間どもめ」

「ふふ、そんなことを言ってはだめよ。多くの兵士たちを倒して、彼らもここにたどり着いたのだから。褒めてあげましょう」

「そんなことされたからって嬉しくはないがな……」

「あら、残念ね。その戦闘力があれば、ますます私たちの組織に入ってほしいのだけど」

「へっ、誰がお前らの軍門になんぞ下るかってんだ」

「では、こういうのはどうかしら。今だけでも、私たちと協力しましょう」

「意味が分からねえんだが?」

「あなたたちはこの島の周辺から抜け出すことができず、困っているのでしょう? 分かっているわ。あなたたちと同じように、私たちも影響を受けているから。あなたたちが天使と呼んだ生物が、その原因……排除したいはずよね」

「な、なんだと!?」

「ええっと……ど、どうします。コーデントさん。裏がありそうで怖いんですけど……」

「いやしかし、ここまでそれっぽい原因も見つけられなかったことだしな……。嘘ついてるんじゃないだろうな、大幹部」

「いいえ。私の神に誓ってもいいわ。嘘はついていないの」

「神官……だったっけか。信用性はあるのか?」

「嘘を推奨する神様かもしれませんよ。世界を滅ぼす邪神ですから。真に受けるのは危険かもしれません」

「な、なるほど……参考になるな。どうしたもんか……っておい、リャッカ!? 待て!」

 とことこと、リャッカが剣を手にしたまま天使へ近寄っている。

 リャッカは気負いもないように見上げて、告げた。

「…………。こんにちは」

「こんにちは」

「なんであいつはいつもあーなんだ……。天使も平然と挨拶返してるし」

「リャッカさんだから、ではないでしょうか」

「うーむ……」

 そんな声を無視して、リャッカが続ける。

「……あなたは、誰?」

「精霊。時空精霊」

「リャッカ戻れっ! ぐっ、あぁああああ!?」

「コーデントさん!? そんな、肉体が分解して、これじゃ幽霊と同じ……。っ、一度は協力を申し入れておいて、攻撃してくるなんてどういうつもりです!?」

「ふふ、もう協力してくれる気はなさそうだったもの。あっけなく理解されてしまったものね」

「なにを……しっかりしてください、コーデントさんっ。大丈夫です、ちゃんと癒しますから……」

「精霊……か……っ。その生態はいまいち分からないが……。話していないことが、あるな……大幹部」

「それはなにか、聞かせてもらおうかしら」

「精霊が巻き戻したいのは……閉じこめたいのは……お前らだ……!」

「その認識で……正しいわ」

「なっ……どういうことです!?」

「あら、治癒魔法の魔力が偏っているわよ」

「あ、あわわわっ。って、なんで敵からそんなこと指摘されなければならないのですかっ」

「ひどいことを言うのね。親切心で教えてあげただけだというのに?」

「そんなこと……さっきの話はどういうことです」

「簡単なことよ。あの精霊は悪魔である私たちを閉じこめたいだけで、あなたたちを閉じこめたいわけではないの。もっと言えば、私を倒そうとしているのね。だから」

「だから……?」

「俺たちが……あの精霊と敵対する意味はないってこった。悪魔たちさえいなくなれば、俺たちは外に出られるんだから……な……。なにが、協力だ……」

「つまらないのよ」

「なん、だと?」

「かつてこの精霊は、私たちの組織と戦ったことがあるの……力が回復していないのね。昔なら、幹部を倒せるほどの力を持っていたというのに……」

「だったら、俺たちを精霊と戦わせる意味はないんじゃないか」

「つまらないと言ったはずよ。ふふ、なにも知らないあなたたちが、意味もなく必死に精霊と戦うのも面白いと思ったのだけれどね……いいお遊びでしょう?」

「趣味わりぃな、おい」

「あら、残念」

「けっ……」

「コーデントさん、コーデントさん。怪我しているところ申し訳ないのですけど」

「なんだ……」

「精霊って、なんですか。話を聞くに凄そうですけど」

「……………………。ああ、なんだか眠くなってきた。ちょっと俺、疲れたみたいだ」

「気をしっかり持ってくださいっ。ほんとにまずいですよそれ」

「ええい……とにかく、すごいんだよ。地上最強だ。目撃例は多くないが」

「な、なんですかそれ」

「神器が暇つぶしに神様が作った道具だとしたら……精霊は丁寧に神様が作った生き物なんだ。有名な所だと……そうだな。あれ覚えてるか」

「ど、どれです?」

「妖精っていただろ。妖精を無尽蔵に作りだしたり、操ったりできる精霊とかもいるらしい。何万、何十万の妖精の軍隊を思い描いてみろよ。どこぞの島の奴らと違って、無駄口ひとつ叩かないんだ」

「それは……」

「とにかく、人智の及ぶところではない……そんな存在なわけだが。弱ってるとか言った今だって、俺たちじゃ手も足も出ない力を持っているはずだ」

「その精霊が、なぜ悪魔と敵対しているのでしょう」

「その精霊を作った神様と、邪神様とやらが敵対してるんじゃないか?」

「な、なるほど」

「で……話してる間にも、天使が剣で雑魚悪魔を切り払ってるが、リャッカとどっちがすごいと思う?」

「それを判別できる段階に立てないと思います、私……リャッカさんも最近凄すぎますし。でも、これだけの悪魔や幹部相手にひとりで戦えるのですから、やはり精霊というのは強いのでしょうね」

「たしかに、俺と違って怪我ひとつしてないようだが……あの大幹部も本気は出してないんだろ。む、動いた――」

 悪魔の大幹部、神官が宙を滑るようにして移動する。その手の先には青黒い凶悪な輝きが見えた。

「ああああ、精霊が……と、また船の上に。どういう、ことでしょう」

 大幹部の手が精霊に突き込まれるかと思った瞬間、船の上に戻っていた。

 呆然として、謎の島を眺めるシスターの服を、ちょこんとリャッカが引っ張った。

「あ、リャッカさん。どうしました」

「………………。コーデント、が」

「コーデントさんが?」

「…………死ぬ」

「……………………。あわわわわっ!?」

 シスターが視線をたどると、治癒魔法の先にコーデントがいなかった。

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