巻き戻り島の進行
「……唐突に悪魔殺しを名乗りたくなってきたんだがどうだろう」
「なにを唐突に言い始めたのですか。コーデントさん」
「もうすでに百匹以上、低級悪魔を倒してる気がしやがる……うちの国にもなぜか悪魔退治の専門家とかいたが、きっと同じくらい俺たちも倒してるぞ」
「あ、大陸にはそういう職業の人たちもいるのですね……。悪魔って多いのですか?」
「少ないから俺たちでも専門家を名乗れるつってんだよ!」
「あ、あはは……」
「……………………」
「なんだか、無駄口も叩かずに戦い続けるリャッカを尊敬してしまいそうだ」
「そうですね……この部屋に入っては戦い、戻されてはこの部屋に入って、を繰り返していますものね。私たち。ちょっと集中力が……」
「……まあ、なんとも言わんが」
「え? どうしました?」
「シスターが、本気で言ってるのかとぼけてるだけなのか分からん……」
「えーと……? って、あわわわわっ」
「…………ごはん」
「戦闘中に食べ始めるな!?」
「あ、ありがとうございます、コーデントさん……。ここまでかと思いました」
「リャッカの空腹に負けて、シスター死亡……しゃれにならねぇな」
「本当に嫌ですから言わないでください……うううう」
「さて、このままざくざく行こうか。終わりあるんだろうな、この悪魔ども」
「い、意外と楽しそうですね」
「くっくっくっ、こいつらを倒せばいよいよ始まりの島へたどり着けるかもしれないからな。かもしれないからな」
「海の爆弾がなくなったおかげで、この部屋の悪魔を全滅させて先に進める可能性も見えましたけど……巻き戻りの原因自体はさっぱりですからねー……」
「おう! ……っ、密度が減った!」
「…………あと、少し」
「よっしっ、このまま…………これで、最後だぁっ!」
「や、やりましたね、コーデントさん! リャッカさん!」
「おうよ! リャッカ、大丈夫か?」
「…………平気」
「うっし、ではさくさくと進むとするか。低級悪魔たちはあの扉の奥から出てきてたんだよな……」
「ですね。気を付けていきましょう……なんだか、思ったよりは広いですね」
「礼拝堂よりは狭いがな……おっと、低級悪魔の残りが。とか言ってる間に倒せてしまうわけだが」
「さっきの部屋に戻りませんか」
「なんでだよ、おい」
「いえ、開けたところにいると、かばってもらいづらいので……」
「シスター、あのな……。いいから先行くぞ。上から襲ってきたところを見るに、上の階になにかあるのかもしれないが」
「しれないが……どうしました」
「壁に沿って円を描くように階段があるわけだが」
「素敵な作りですよね。見てて気持ちがいいです」
「そのかわり階段も長さがあるから、上がり切るまでの時間も長くなるだろ?」
「はい。……もしかして疲れましたか? なにか身体がつらいなら、治癒魔法を……」
「そーじゃなくて。階段を歩いてる最中に悪魔が横から飛んできたら、シスターをかばうのが大変だからかわいそうなことになるなーと」
「……さっきの部屋に戻りませんか」
「おい」
「な、なんですかかわいそうなことってっ。ちゃんとかばってくださいよ……?」
「はいはい。リャッカに遅れないようにさっさと……また悪魔が」
「きゃあっ」
「いいから先行くぞ」
「対応がおざなりに……うううう。あれ……?」
「階段も終わって悪魔も倒して次の部屋もなんにもなくて変な音は聞こえないふりして扉を開けて……」
「聞こえないふりしないでくださいよっ。コーデントさんにも、やっぱり聞こえているんですよね、この音」
「…………。さっきの、部屋に」
「おい、シスター。リャッカに台詞先回りされてるぞ」
「別にいいです。戻りませんか」
「戻りません。戦闘音かなにかなのか? だとしたらいったい……、…………っ!?」
「きゃああああああっ」
「…………。大幹部」
戦慄するコーデント達とは違って、リャッカが淡々と事実を指摘する。
コーデントはシスターの肩をつかんだ。
「よし戻るぞ。さっきの部屋とは言わず、いっそ船まで戻るぞ。というかそろそろ勝手に船に戻ってもいいんじゃないか。戻るべきだよな。巻き戻れよ、おい」
「戻ることには賛成ですけど――悪魔殺しはどうしたんですかっ。専門家を名乗れるのでしょう!?」
「専門家だってあんな大物相手にはしないんだよっ」
「おとなしく、危険感知装置に従っておくべきでしたね……ううううっ」
「…………。天使?」
「なぬ……いや、確かにそんな雰囲気だが」
リャッカの視線の先で、純白の翼を背から生やした長髪の女が空中に浮かんでいた。天窓から燦々と光を浴びている。
その天使のような存在が、悪魔の大幹部やその配下と対峙して、戦っているらしい。