嘘つきシスター
二人はシスターに会いに来ていた。家まで押しかけて。
開口一番。
「さっきのは、魔術。あなたは魔術師」
「……だから、さあ。なんでお前は真っ先にそこで前に出てくるんだよ。おかしいよな。おかしいよな? 俺が話するつってんのにどうして俺の出番を奪うんだよおい!?」
コーデントが問い詰めると、リャッカは無言であさっての方向を向き出した。
「ちっ。まあいい、とにかくシスター・アンジェリカ」
「私が、その、魔法使い? だというんですね。ですが、私は魔法なんて使っていません」
「魔法ってのは理論的なもんだ。個人によって魔力の性質の違いはあれ、自覚なしに魔法は使えない」
「だから、魔法ではないのでしょう」
「魔法の訓練をしたものならだれでも、魔法を流し込む魔法回路を目で見ることができる。その回路に魔力を流して魔法を発動するわけだしな。俺だって専門的な訓練を受けてる」
「だからあなたには、魔法回路……ですか? それが見えると……?」
「ああ。あんたが魔法回路を構築するのも見えてた……治療系の性質の魔力を持つ奴はそうそういないけどな」
「もし、私が魔法使いだったとしたら、あなたはどうするつもりなのです?」
「さあ、どうするだろうねぇ。神の加護を受けた奇跡ならともかく、得体のしれない魔法なんてものをこの町の人が受け入れると思うか?」
「…………」
「一緒に来いよ。さっきも言ったが、治療に向いた魔力を持ってる奴なんてそうそういないしな。……美人だし」
ぼそっと言った本音に、シスターが眉をひそめる。
それから、彼女は静かに口を開いた。
「ある日、年老いた旅人がやってきました」
「あん?」
「昔のことです。彼は、広大な海を旅して神の教えを広めているのだと語りました。彼は私に不思議な心の落ち着け方を教えてくれた……それから、私はお祈りをするときに神聖な光の柱が見えるようになりました」
「その老人が魔法使いか。大陸から来たんだ」
「彼は聖職者です。私は崇高な志を持ったあの方を信じています」
「ふん……だとしてもあんたが魔法使いだって事実は――」
「シスター・アンジェリカ!?」
「大工のおじさま……どうしたのです。怖い顔をしてやってきて」
「竜神様の手紙が町長のところに届いたんだ……教会に通うアンジェリカは魔法使いである。罪深き彼女をいけにえに差し出せ、と書いてある」
「……竜神様って、手紙、書くの?」
「そもそも字を書くのかも怪しいからなぁ……」
「なんだ貴様らは、よそ者は黙ってろ!」
「あの、おじさま、私は魔法なんて知りません」
「あんたが魔法というのを使ったのかどうかは……聞かないでおこう。シスター・アンジェリカに助けられた人が多いのは確かだ。けれどな」
「けれど……?」
「あんたは竜神様の怒りを買っちまったんだ。これを拒否したら町が危ない。悪いが来てもらうぞ」
手首をつかまれたシスターが、コーデントを見た。彼はいってらっしゃいと手を振る。リャッカも同様に。
そして、家の主がいなくなった。
「手紙、か。どういうことだ……? 知らなかったにしろシスターが魔法使いだってのは間違いないが」
「……魔法使い。自覚的に」
「なんで?」
「魔術師って言った。彼女の使ったのは、魔術」
「言ったのはお前だろ」
「適切に、言い直した」
「言い直した……魔法使い。そうか、なんにも知らなきゃ、シスターはお前が言った通りに魔術師って言わないとおかしいんだ。ということは」
「……いうことは」
「っ……まんまと騙されたぁ!?」