巻き戻り島の探索
「うふふ、やっと謎の島に着きましたね! さっそく探索しましょう」
「危険感知装置はやっぱり作動したけどな。ったく、このシスター、財宝に目がくらんでやがる」
「なにをおっしゃっているのですか。何度始まりの島へ行こうとしても場所が戻ってしまう謎を解明して、解決しませんと。コーデントさんのためですよ、コーデントさんの」
「じゃあ、財宝が見つかったとしても無視して原因を探すからな」
「いえ、あのですね、そういうもったいないことは神もお許しにならないのではと……」
「神様がなんで人間の財宝に興味あるんだよ」
「そうではなく、人間が精一杯生きることが大事なのですよ」
「人間が精一杯生きることと、財宝を持って帰ることは同じじゃないだろうに」
「財宝を持って帰らないなんてもったいないこと、精一杯生きているとは言えませんよ。最良を尽くすことこそ大切なのです」
「俺は始まりの島に全力をそそいでるからいいんだよ」
「ですけどっ」
「ひとつの目標に全力をそそぐことは悪いことだ、って神様は教えてやがんのか? ええ?」
「う、うううう……コーデントさんがいじわる」
「なんでだよ……って、おい」
すたすたすた。
リャッカがすでに歩き始めている。
「なんでひとりで先へ行こうとしてやがんだ。まったく、ほら、シスターも行くぞ」
「は、はい……」
「………………。なさそう」
「場所が戻っちまう原因がか? そんな、この島にはないってあっさりと断言できちまう理由でもあるか?」
リャッカがふるふると首を振る。
「…………チーズケーキ」
「まだ言ってるのかお前は!? ええい、とにかく進むぞ」
「…………。うん」
「なんだかな。外から見たときは緑一色というか……自然ばっかだと思ったが。こうしてみると、建造物も案外面積が広そうだな」
「壁面をツタが這っていたり、建物の一部が地面に埋もれていたりしていますね。なんだか古そうではありますけど……」
「古けりゃいいってもんでもないとは思うが……というか、嫌なこと思いついたんだが」
「聞きたくありません」
「…………。嫌な予感であって、怖い話ではないぞ?」
「そ、それならどうぞ」
「あのな……まあいい。もしかしてなんだが、もうずっと昔から、誰も始まりの島には入れてないんじゃないか?」
「というと? 悪魔犯人説とか、この島に原因説とかではないということですか?」
「ああ。つまり、スターズブルーか誰かが、始まりの島に結界をはってずっとそのままとか……」
「な、なるほど! わかりやすい理由ではありませんか。それのどこが嫌なことなのです?」
「その場合、もしも結界をはっているのがスターズブルーの遺産だったら俺たちはなにをどうやっても中に入れないんだが」
「あ」
話が止まる。
先頭を歩くリャッカが、ぼそりと言ってきた。
「…………本、は?」
「本? なんの話だ?」
「…………」
「拳を振り回されても分からんが」
「…………生き物の、中で。拾った本」
「……あれか。アーデルのおっさんから奪った本」
「それ」
「スターズブルーについても言及されてて、いまでもたまに読むが。で、その本がどうしたって?」
「……島から、出た」
「結界は、出るのは自由でも入るのは禁止する方式なのかもしれないだろ」
「……。書いて、ない」
「なにが。……って、ああ。結界についてか。だがまあ、スターズブルーじゃない誰かが結界をはった可能性もある。つまり、本が書かれたずっとあとに結界がはられた可能性か」
「…………」
「そしてその場合だとなんのために結界が必要だったのか分からないし、そもそもスターズブルーの遺産とか関係ない結界の可能性が高い。む?」
「つ、つまりどういうことなのですか?」
「いや……頑張れば始まりの島にたどり着ける可能性のほうが高くなった、ってこと、なのか?」
「疑問形になられても困りますけど……それにしても、この前の遺跡と違って分かれ道が多いですね」
「分かれ道が多いとかってより、ただの居住施設とかそんな感じなんじゃないか? 昔、師匠と観光に行った遺跡なんてこんな感じだったぞ」
「へえ……いいですね。観光」
「……一応聞いておくが、なにがだ?」
「なにがって、いいではありませんか。観光。ずっと島に閉じこもって暮らしていたので、そういうのに憧れていたんですよね。うらやましいです」
「…………」
「……………………」
コーデントはリャッカと顔を見合わせた。いつの間にか彼女も足を止めている。
「え、え? どうしたのですか、おふたりとも。私、なにか変なことを言いましたかっ?」
うろたえるシスターに、リャッカがその辺を指さし、
「…………。観光中」
「みたいなものだよなぁ。シスターにとっては特に」
「あ……それは、そうかもしれませんね。なんだか、いろいろあってそういう考えがなかったのですけど。思えば、いろいろなところに行きましたものね」
「よくわからんが、シスターが嬉しそうだな」
「えへへ……」
「うーむ」
「…………。楽しいのなら、いいこと」
「……そうか。ま、俺はまったく観光気分にはなれないが……とにかくさっさと建物を調べ終えないとな。リャッカ、次は右へ行ってみるぞ」
「…………うん」
素直に返事をして、右へと曲がるリャッカ。
見えた光景に、コーデントは叫ぶ。
「…………っ、ふっざけんなぁああああ!?」
大海原。遠くには、目印としていた謎の島が見える。
いつもの船の上に、コーデントたちは立っていた。