巻き戻り島の発見
――始まりの島。
ようやくたどり着いたその光景への感嘆の息が、朝の冷気に白く染まって宙へと立ち上り、その白さが唐突に消える。
「え?」
一瞬の間に起こったその出来事に、コーデントは間の抜けた声を漏らした。
「なにが……、……っ。始まりの島も消えた!?」
「…………」
「おい、リャッカ。なんとか言え。なにが起きた!」
「…………。なんとか」
「殴っておいてなんだが、そういうあほなこと言ってるともう一度殴るぞ」
「…………。太陽」
「なに?」
「位置が、違う。…………かも」
「な、なんだと?」
「……爆弾の、位置も」
海にぷかぷかと浮かぶ爆弾を指さして、リャッカが言う。
「じゃあ……なにか。俺たちは船ごと別の場所に移動しちまったってことか!? どうして!」
「…………」
「ふぁふ……。おはようございます。どうしたのですか。なんだか騒がしいですけど」
「シスター……ちっ」
「なぜ挨拶しただけで舌打ちされるのですか!?」
「別にシスターに思うところはないが」
「理由もなく舌打ちって、もっとひどいと思うのですけど……」
「…………おはよう」
「あ、はい。おはようございます、リャッカさん」
「ごはん……」
「ふざんけんな!」
あまりにも鬼気迫る表情で怒鳴るコーデントに、シスターがぎょっとした。
「え、ええっと……? な、なにがあったのですか? いくらなんでもこんなにコーデントさんが怒るなんて……」
「…………消えた」
「な、なにがですか?」
「……始まりの、島?」
「ええ?」
「始まりの島が見えたと思ったら、船ごとどこかに転移したらしい。なんの嫌がらせだっ」
コーデントはそう吐き捨てながら、海面をにらみつけた。
思いついて、シスターは曖昧な表情を浮かべた。
「あー……あの、神官でしょうか。大幹部とか名乗っていた」
「なんだと? なんの意味があるってんだよ、この状況に。すでに攻撃されてるってことか?」
「いえ、お遊びを欲しがっているようなことを言っていたような……気のせいかもしれませんが」
「たしかに言ってた気が……ええい、どうしろってんだっ」
「それはわかりませんが……」
「…………とりあえず、ごはん」
「リャッカ!」
「…………」
「あ。ちょっと待ってください、コーデントさん」
「シスターまでごはんとか言い出すんじゃないだろうな……?」
「い、いえ……怖いですよコーデントさん……。そうではなく」
「だったらなんだ」
「向こうに見える島なのですけど……見覚えがあるような気が」
「なんだと!?」
「もぐもぐ……」
なにやら果物を食べているらしいリャッカを無視して、コーデントは船から身を乗り出しその島を見た。
遠くのほうに小さく見える島。木々が多く、一見して自然ばかりの無人島のようではあったが、真ん中の奥のほうに古めかしい様式の白い建築物が見える。
コーデントは疑わしげに聞き返した。
「見覚え……あるか?」
「あの、昨日あたりに。危険感知の魔法道具に引っかかって、近寄らないようにしたはず……」
「そういえばそんなことも……。どうみても始まりの島じゃなさそうだったしな。てことはここは」
「それほど離れた場所に来てしまった、というわけではなさそうですね」
「ふむ……」
「どうします?」
「よっし。そういうことなら話は簡単だ。もう一度同じ航路をたどって、今度こそ始まりの島へたどり着くぞ!」
それからしばし。
「……………………」
「困り、ましたね」
「……ふっ、ざけんなあぁぁぁぁああああ!?」
またもや始まりの島を目前にして、船ごと別の場所に移されていた。
近くにある島を見ながら、シスターが言う。
「目印の島がまたありますね。同じ場所に戻されたみたいです」
「ぬう……。なんか悪い呪いでもあるんじゃないか、あの島」
「あ、あはは……」
「…………行く?」
「そうするか」
「え? ええっ? なんで急におふたりで通じ合っているのですか!?」
「もう一回始まりの島を目指してまた戻されるのも悔しいし、実際にあの島に原因があるかもしれないだろーが」
「それはそうかもしれませんけど……うーん」
「なにか不満か。シスターは」
「いえ。コーデントさんとリャッカさん、とても仲がよいなと思いまして」
「そうか?」
「…………。なかよし」
「いえーい……」
なんとなくハイタッチしてみたり。
手をひっこめながら、コーデントは嘆息した。
「こんなあほなことをしてる場合じゃないだろ。始まりの島にたどり着くために、絶対にこの状況を解決しないと。だれの仕業かしらんが、待ってろよ!」
「してる場合じゃない、と思うのならしなければいいじゃありませんか……」
「シスターに疎外感を味わわせるためなら、なんだってするぞ俺は」
「な、なんでですか?」
「別に理由はないが」
「うううう……コーデントさんにきっと八つ当たりされてる……」