出発と発見
「でーきーたーぞー!」
「なんだかこう、コーデントさんらしくない輝くような笑顔を浮かべてますね」
「もぐもぐ……」
「はっはっは、いつも不機嫌そうに言うもんじゃないっての。それより、おい、爆弾除去装置を作ったぞ。五つほど」
「短時間でそれほど作れるというのは素晴らしいです……けど。そんなに数を作っても、残念ながら使う人がいないのではありませんか?」
「もぐもぐもぐ……」
「なんでだよ。これで、海に浮いてるやっかいな爆弾で悩まされることもなくなるんだぜ?」
「そのやっかいな爆弾を作ったのがだいぶ大物の悪魔で、森での爆発が爆弾を除去できる資料を狙ったものだという噂が広がりましたから……。コーデントさんもわかっているはずです」
「もぐもぐもぐもぐ……」
「わかってる? なにをだよ。その悪魔を恐れてだれも資料に近寄らなくなったことか? 便利な建物を無理やり借りられて作業は楽だったが」
「魔法道具の材料を持っている人に対して、このまま爆弾の除去装置を作る材料があればその材料を狙って悪魔が……などと言って材料を脅し取ったこともです。ご飯を食べさせてもらえずに自分たちが居座ったらそのうち悪魔が……などと言って」
「もぐもぐもぐもぐもぐ……」
「リャッカの食料を根こそぎもらってきたこともか。つまりシスターが言いたいのは、この装置を持っていると」
「悪魔が襲ってくるのではないかと怯えて、他の人たちは装置を受け取らないはずです」
「臆病ものどもめ」
「不安をあおったコーデントさんの言うことではないと思いますけれど……」
「そもそも森の爆発の時点で怯えられてただろーが」
「まあ……それはそうですね」
「しかたない……自力だけでなんとかするか」
「はむ…………。……もう少し」
「……リャッカが食い終わってから」
「あ、優しいですね」
「無駄になりそうな四つの装置の活用方法でも考えておくとするか。やっぱり回路自体もいじったほうが……」
「そちらが本音ですよね。絶対」
それからしばらくして。
「なんだか、ものすごく感動的に見送られたのですけど。コーデントさんが脅してた人たちまで総出で。暖かい言葉つきですよ」
「せめてなんとかなってほしい、っていうわずかな期待なのかもなー。自分の目で出ていくところを見ないと不安だったのかもしれんが」
「……それだけなら、温かい言葉を送ってくれたりはしませんよ。もう」
「だが不快なことをしようものなら、俺は島を出るのを渋って嫌がらせしようとするだろ?」
「しますね。……あ、あれ?」
「そうしてなんだかんだ悪魔が襲来してくる可能性を恐れた、とかもなきにしもあらず……」
「う、ううううっ」
「まあ、一応、装置はいくつかおいてきたけどな。襲来を恐れて海の底に捨てるのか、使って状況を打開するのか……それはあいつら次第か」
「コーデントさんは……気にならないのですか? 自分の作った道具が、使われもせずに捨てられるかもしれないのですよ」
「んー……シスターが気遣ってくれるのはありがたいが、ま、しょせんは道具だしな。どうすれば役に立つかってのは、個々が考えることだろ。邪魔になるならしょうがない」
「……悪魔相手に言っていましたね。魔法道具は人の役に立てるためのものだと。コーデントさんの信念、というものでしょうか」
「俺じゃなく師匠の考えだが」
「あまり、コーデントさんのお師匠さんの話は、聞いたことがありませんね」
「話すようなもんでもないだろ。ただのあほな魔法道具作りだ」
「ですが、尊敬しているのですよね?」
「ふん。リャッカ、魔法道具の調子はどうだ?」
「…………順調、だと思う」
「この先もこれを続けてかなきゃならんと思うと、だいぶ気が重いけどな」
「すごいですね……。指定した範囲の爆弾を、爆発を押さえて爆発させてしまうのでしたっけ」
「そこそこ遠い範囲まで指定できるように調整はしてあるが……うっかり気を抜いて、爆弾の一個でもこの船にぶつかったら終わりだ」
「リャッカさんがひたすら装置を持って向きを調整してますけど……。自動で範囲を指定するようには、できませんでしたか?」
「うーん……爆弾についてもう少し詳細なことが分かれば別だったんだけどな。あるいは、もっとましな材料さえあれば作れたはずだ。残念ながら今は無理だな」
「そう、ですか……」
「シスターもやるか、あれ。リャッカはなんだか楽しげではあるが」
「あー……いえ、他にやりたいこともあるので」
「…………? ふうん、お宝の整理かなにかか」
「え、ええ。まあそのようなものです」
シスターの生返事。
それから何日もたって。
「……………………」
「なんで、お前は、無言で俺の腕を引っ張るんだよ」
「…………………………………………」
「おい、リャッカ。なにかあったのか? 事件か?」
「…………。おは、よう」
「おはよう。そうじゃねーよ、その言葉はせめて腕を引っ張る前に言えよ」
「…………」
「む。朝日か……。日差しが空気中の水分を照らして光ってる。霧の……都。始まりの島……!」
コーデントは呆然とつぶやいた。リャッカに腕をつかまれたまま。
船自体も朝の光に包まれている。
リャッカがまぶしげに目を細めていた。
「ついに……たどりついたのか」
「……うん」
「旅の……終わりか」
「…………うん」
光と霧に囲まれて、島に並び立つ素朴な建物。
それらを遠くに見ながら、コーデントはただただ息を吐いた。