遺跡へ
「………………」
「ふぁむ……ふむ…………。おいしい」
「………………。チーズケーキは、どうした」
「…………? なかった」
「なかったのは知ってるっての! もうちょっとこう、ずーんとかぐわーんとか」
「わけ分からないですよ、コーデントさん」
「悔しがったり落ち込んだりあるだろう!? なんで平然と肉食ったり芋食ったりしてるんだよっ」
「これも……おいしい」
「こんにゃろう……。もうチーズケーキはいらないってことでいいんだな?」
「これは、これ」
「それはそれってか。最近のリャッカはさっぱり思考が読めない……」
「そう、なのですか?」
「いや、いつもどうりっちゃあいつもどおりだが」
「あのですね……」
「チーズケーキは、どっちにしろとうぶんお預けだけどな」
「なぜ、ですか?」
「ん、ああ、シスターはこの店に食いに来るのが遅かったからな。聞いてないのか」
「ええっと?」
「つまり、なんだ……」
「おめえらもあの爆弾に困らされてるくちかい?」
急に話しかけてきたのは、あごひげを生やした中年の男である。腕にはほどよく筋肉がつき、がっしりとしている。
「はっはっは。お前らもたまったもんじゃねえよなあ。海にぷかぷか浮いてるかと思えば、触ればすぐにどかんときたもんだ。それがどんどん範囲を広げてるってんだから、そのうちこの島からもでられなくなっちまう」
「は、範囲を広げているのですか!?」
「やっぱりシスターは聞いてなかったか……。そういうわけで、お菓子探しの旅をしてる余裕はない」
「なんだ、おめえらそんなことのために船旅なんかしてるのか? このおっかない海でよう」
「望むもののためなら、どんな理由でだって旅をしていいものだと思うがね。そう簡単に死ぬつもりもないさ」
「ほおう。ま、たとえ食い物のためでも、運はいいみたいだがな。それとも判断力か」
「……うん? どういう意味だよ、おっさん」
「あの爆弾にどれほどやられた奴らがいるか、って話さ。おっかねえもんだぜー? あれにやられなかったんだ。運なり能力なりは持ってるんだろう」
「いや…………あんだけぷかぷか大量に浮いてて、あからさまに怪しいものにやられるのもなかなかないと思うが。まあ、そうでもないか?」
「心当たりがあるようじゃあねえか」
「怪しいと思いつつどうしたものかって眺めてたのさ。そしたら、偶然近くを通りかかった船が……」
「……あれは、ひどかったですよね」
「ははん。ま、怪しいと思って手出ししなかったぶんだけ、上等なもんだろう」
「えっらそうに」
「ははは。んぐ、ごく」
「飲みすぎるとあとがつらくなるぞ」
「はっはっは。飲んでなきゃやってられねえよう。うちは何隻もの商船とその護衛で航海をしてたんだ。ところがあの爆弾が浮かんでやがって」
「……航海を続けられなくなった? ま、商人としては手痛い損失かもな」
「護衛として乗ってた俺には関係ない話だがな。ったく、その護衛の一隻だよ」
「あん? どうしたんだ?」
「せっかく気づいて様子を見ようってことになったんだが。ちょっかいを出して」
「………………どかん」
一心不乱に食事を続けていたリャッカが、そんなときだけ相槌を入れてきたりする。
男は続けた。
「というわけだな。ったく、支払いが大丈夫なのかすら不安になるっての」
「まあ……慎重なのは大事ってことか。おっさんの給料は知らんが」
「冷てえな、おい。うかつに手を出してやられたのは俺らだけじゃねえぞう。いつの間にか取り囲まれて逃げ場なくしたりな」
「そーかい。とにかくまあ、困った船がこの島で解決するのを待ってみたり、この島から出てひたすら遠くへ逃げてみたり、してるわけだな。こっちは、あてもなくチーズケーキを探しに行くのか、爆弾をどうにかしてなにかありそうなこの先を目指すのかで悩んでるわけだが」
「おう、なんだ。お前ら爆弾をどうにかしようって思ってたのか?」
「あん? なんだよおっさん。にやにやして」
「へへへ。おう、爆弾を一掃できるかもしれないうまい話があるんだが、この話を買わねえか」
「そ、そんなものがあるのですか!?」
シスターとコーデントは顔を見合わせる。
リャッカが立ち上がり、飲み物を注文した。
「…………。どうにかできるってんなら、まあ、聞いてみてもいいような気はするけども……」
「どうしたのですかコーデントさん。こんなチャンス逃す手はありませんよ」
「まあ使われるのはシスターが大事にため込んでる財産だから、俺は困りゃしないが」
「う…………。いえ、ですけど…………ええ、やめておきましょうか」
「素直で結構」
「なんだ。聞かねえのか? おいしい話だってのによう」
「おっさんがそんなに得意げに話そうとしてるのを見るとな」
「見ると?」
「他の人に聞けばただで教えてもらえるんじゃなかろうかと」
「ぐっ……わかったよ。ただで教えてやるって」
「うううう。こんなことでぼったくられそうになるなんて……神よ、悪しき者たちに天罰をお与えください」
「それで天罰が与えられるのは、いつも適当なこと言ってるシスターだと思うけど……。それで、爆弾をどうにかする情報ってのはなんなんだよ」
「ああ、それなんだがな」
またビールをぐびっとあおると、男は話し始めた。
「この島には魔王時代の遺跡があるんだよ。むかし……なんとかっていう悪魔がこの海にやってきて、猛威を振るってたとかでな」
「悪魔ぁ?」
「おうよ。悪魔の中の悪魔って話だが、まあ尾ひれがついてるんだろう。とにかくその悪魔が、今問題になってるのと似たような爆弾を使ってたらしくてな」
「なんだと……?」
「この島にある遺跡ってのは、その悪魔に対抗した学者の研究施設だったって噂だ。爆弾をどうにかする手がかりもあるはずだとかなんとか」
「…………その手がかりがあるはずの遺跡が存在して、なんで爆弾はどうにもなってねえんだよ。おかしいじゃないか、おっさん?」
「そりゃあもちろん、理由があるさ。遺跡は対悪魔用の結界で包まれていて悪魔は入り込めないらしいんだけどよ……結界以外にも罠がしかけられてるらしくて、誰も手がかりを見つけられないんだよ。まったく」
そんな話を聞いて、コーデントはほくそ笑んだ。
「悪魔に操られた人間避けなのか、……単純に結界で弱体化した悪魔避けなのか。なんにしろ、面白そうな資料が残ってそうだな。魔法道具に関係するものだったらなお素晴らし」
「と、いうことは。コーデントさんは、その遺跡とやらに行くつもりがあるのですか?」
「……? シスターだって行くだろ?」
「なぜです」
「まだ見ぬ、魔王降臨時代の財宝が……」
「行きます! あ、いえ。爆弾でみなさんが困ってらっしゃいますし、どうにかしなければなりませんから」
「そーかい。で、リャッカは……」
「……いく」
「…………。まあ、行かないつっても無理やり連れて行くつもりではあったが」
「たのしそう」
「……。なあ、リャッカ。お前、熱とかないよな?」
「……。…………?」
「まあ、まあいい……。うっし、それじゃ遺跡へ行ってみるか!」