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嫌な感じ

「……なんだか凄まじい物を見た気がしたのですけど」

「俺もそんな気がするが、見ろよ現実を。向けよ前を」

「いやですよっ。いやですったらいやです」

「はぁ……血まみれのリャッカが泳ぐもんだから、入り江まで真っ赤に……」

「聞きたくもないですっ。うううう」

「はいはい。リャッカ、調子はどうだ?」

「…………絶好調」

「…………………………」

「こ、コーデントさん? どうしたのですか、よろめいて」

「あ、あのリャッカがだぞ」

「え、ええっと」

「いっつもなに考えてるか分からん無表情で、普通だの平気だの大丈夫だのご飯だのしか言わない、あのリャッカがだぞ!?」

「それは……まあ、そうかもしれませんけど」

「絶好調ってなんだよ。なんか悪いものでも食ったのか、それとも天変地異の前触れか!?」

「いえ、まあ、たしかに世界が滅びるとか聞いたりもしましたけど」

「そりゃそうだが。……む、リャッカがあがって……」

「服を着てください、服を!」

「…………着替え、船室」

「言ってくだされば、そのくらい用意しますから」

「…………大丈夫」

「なにがですか」

「気にしない、から」

「こちらが気にするのです!」

「…………コーデント」

「お、おう?」

「海賊の……死体。なにか、へん」

「なにかってなんだよ」

「……なにか」

「あーあー、わからないってことだな。どうせ」

「…………手ごたえ?」

「あん? まあ、いいか。俺も調べてみるとしよう」

「うん」

「ほら、こっちきてください。きれいにしないと。はい、着替えてくださいね」

「ぬー…………おかしいな」

「なにかわかったのですか?」

「わかったってわけじゃないが……たしかにリャッカの言う通り、おかしいな。魔法検知に反応している。普通の人間じゃなかったってことか……?」

「ええええっ」

「シスター、いきなり後ろにさがるなよ。……この死体が起きあがる可能性もゼロではないが」

「ゼロでないなら下がりますとも。いくらみっともなくとも」

「自覚はしてるんだな……。さて……む、これは」

「…………これ、は?」

「外から魔法回路に干渉できるように、出入り口が設定されてやがる……。多人数で行う儀式魔法なんかとおんなじ要領だな。問題は本人の意思なく行使されるよう設計されているところだろうが……少なくとも今回の襲撃にはほぼ影響がなさそうだ」

「…………。なん、で?」

「魔力不足なんだよ。まだ全部解析しきったわけじゃないが、この回路を動かすためにはな。それでも肉体に影響が出てるようだから、リャッカも不自然さを感じたようだが……嫌な感じがするな」

「どういうことです?」

「これ、もしかして海賊たちを遠隔操作するための魔法回路じゃないのか?」

「え、ええええっ。そのようなものが存在するのですか!?」

「意識を誘導するとかならともかく、意識を失わせて肉体を操作するだけなら……まあ。人間の能力ではこんな魔法回路を組むのは無理だし、そもそもこんな回路を動かすだけの魔力を供給するのも無理だが……」

「…………だけど」

「だけど? リャッカさん、なにかに気づいたのですか?」

「…………海賊。全員に、魔法回路?」

「…………っ」

「だよなぁ……。ひとり動かすだけでも頭痛いのに、もしも全部の海賊におんなじ回路が組み込まれてるんだとしたら……。その魔力を用意できるんだとしたら大変なことだぞ」

「その……。操られて襲ってきた、というわけではないのですよね?」

「そんな魔力あるんなら自分で襲ってこいよ、という気しかしないが。その時はシスターのこと見捨てて泳いで逃げるぞ」

「…………わたし、も」

「……………………。ううううっ」

「あ、自爆回路がある」

「ええええっ!?」

「にぎやかだなー、シスターは」

「驚きますよ普通はっ。爆発しないんですか!?」

「魔力ないから平気だっての。……わざわざ自分でなにかをせずに魔法回路組むってことは、この海賊たちにさせたいことがあったってことだよな。なにかお前らは、思いつくことあるか?」

「神様にお祈りさせるとか……あ、寄付金を集めさせるとかどうでしょう」

「…………お料理?」

「お前らな……だいたい、料理するならひとりでいいだろ」

「…………パーティ、とか。……たくさん、お料理」

「はあ……。お?」

「どうしましたか?」

「いや、ひとりじゃ料理しきれないから、人を雇ったってことか?」

「…………あの、本当にお料理で話を進めるおつもりですか?」

「つまり、リャッカのために飯を作ろうとするんだけど、あっという間に食べちまうから速度が足りないってことだろ? どんだけ料理の腕が良くたってしかたないわけだ」

「…………そこまでは、食べない。…………かも」

「自信ないんじゃないかよ、おい」

「……大丈、夫?」

「知らん」

「…………。お腹すいた」

「やりたい放題かお前は!? 今はこっちの魔法回路の話なんだよ」

「あ、覚えてはいたのですね……。料理の話を進めていたから、てっきり」

「ずっと魔法回路の話をしてただろうが。で、だ。必要なのは魔法の質じゃなく魔法の量……あるいは範囲なのかもしれん。広範囲で一度に魔法を使う必要があるってことだな」

「…………。シェフが、人間である理由、は?」

「……人間から直接魔力を利用するためだろ。魔法道具を使おうなんて思ったら……っ」

「顔が青いですけど、どうしましたかっ!?」

「人間を……人間を魔法道具の材料にしてるってことだ。わざわざ貴重な素材を探す必要もない。そこらの人間に魔法回路を組み込むだけでいいんだから」

「う……」

「こんな発想聞いたこともないぞ……。人間の魔力量が足りなくてほとんど回路の維持だけになってるが……」

「ど、どうしましょう」

「どうしましょうったって……俺たちにできることはなにもないだろ。同じことされてる人間を全部探し出せるわけでもないんだ」

「それは……そうですけど……」

 重苦しい雰囲気が漂うなか。

 ご飯を食べ始めたリャッカの物音だけが、緊張感なく響いていた。

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