谷間のシスター
「――ひきこもってばっかりでよ」
「――またあいつ失敗したらしいぜ」
「――教授のお気に入りだかなんだか知らないが」
「――よかったのは最初だけで」
「う」
「……う?」
「う、っがぁあああああああ!?」
「……どうした、の?」
「はっ、……ゆ、夢か」
「……もうすぐ、島だけど。疲れてる?」
「いや、昔のこと思い出してたら、つい」
「……。ふうん」
「くっ、なにがなんでもあいつらにぎゃふんと言わせてやる。そのためにも――」
もう目前まで迫ってきた、二つの大きな山が特徴的な島を睨みつける。
「さっさと始まりの島の……スターズブルーの遺産が誕生した地の手がかりを手に入れるんだ!」
「……やる気があるのは、いいこと」
「のどか、だなぁ」
「……うん」
「旅人も少ないみたいだな。ま、こんな島に来る物好きもそうそういないってことだろうが。そんなに小さな町でもないけど……」
「……うん」
「情報収集にしても慎重にならないとな。スターズブルーの遺産について話すのが、平気かどうか分からんし」
「……うん」
「なんか他のセリフも言えよ。さすがに身体の倍以上もあると、荷物重いか?」
「ピザ……」
「まあ、いいんだけどさ」
リャッカの指さした店で食事を済ませ、また谷間にある町の中を歩きだす。
「……けぷ」
「ひたすら食べてたよな、お前。一心不乱に」
「……話、聞いてたよ?」
「そうか?」
「……うん。シスターさん、いるって」
「まあ修道女ぐらい珍しくもないけど……ん、なんだ?」
「ら、落石だっ!」
「逃げろぉお!?」
「大変そうだなー……」
「……みたい、だね」
「見物にでも行くか」
とことこ。
「うわぁお。ちょっと、この辺ってこういう事故多いのか?」
「あぁ? 余所者か。普段なら木々が遮ってこんなことにはならないんだが、最近火事があってな……くそっ。今月に入って、怪我人は何人目だ!? これも竜神様のたたりって奴なのかっ」
「竜神様って……まさか、ドラゴン……?」
不思議に思って、コーデントはリャッカと顔を見合わせた。
東にある大陸はともかく、こんなところにドラゴンが生息しているだろうか。
「シスターが来たぞぉ!」
「ああ、シスター。こんな危険な場所に」
「なんと心のお優しい方だ……」
「おおう。意外と美人だ……というか、胸すごいな」
「……。うん」
修道服を身にまとった、自分達とさほど変わらないように思える歳若い女性である。
そのシスターは優しげな顔に悲しみを浮かべ、大怪我を負ってうめく少年へ近づいた。
「また、シスターの奇跡が見られるぞ……」
「おお……」
「ふん、奇跡、ね……」
「……どうしたの?」
「いや。そうか、リャッカはまだ訓練受けてないから回路が見えないのか……」
シスターがうめく少年へと向けた手から光が溢れ、優しく傷を包みこんでいく。
そして、徐々に怪我は癒されていった。
「……治った。でも」
「お前は、大陸に近い島に住んでたしな。そりゃ気付く」
「……うん」
「そうさ。シスターのあれは聖なる奇跡でもなんでもない――魔法使いの魔法だ」