期待
船の上。
「ひーまーだー……」
「…………そう」
「ひーまーだー……」
「………………」
「コーデントさん! さっきから甲板に寝転んでばかりで、なにをやっているのですか」
「ひまだし」
「あのですねぇ」
「せっかくの魔法道具の新回路も試し終わって興味わかないし、海の景色なんてどれだけ見ても変わり映えしないし、海の上だから可愛い女の子も……ああ、シスターの胸に抱かれて眠れたらこの退屈も」
「変なこと言わないでください!?」
「ちっ……じゃあしょうがないからリャッカに」
「そんなこと許しません!」
「むぅ。どこか、この海にはきっと、可愛い女の子だらけのしまがあるに違いない。そこへ行くのが俺の夢だ……」
「日差しを浴びすぎて、頭がおかしくなってしまったのでしょうか……」
「もとから、こんなの」
「それはそうかもしれませんが。リャッカさん、ときどき容赦がありませんね」
「……そう?」
「どこか、どこかに……」
「…………あった」
「なにがだよ」
「………………女の子。だらけの、島」
「!? お、おお……女の子たちがたくさん、浜辺ではしゃいで、建物でくつろいで……! リャッカ!」
「……なに?」
「だ、だめですよ、コーデントさん!?」
「全力で遠ざかるぞ!」
「女の子がいっぱいだからってそんな……って、あれ? 遠ざかるのですか?」
「ためしに言ってみた端から願いがかなってたまるか!? 絶対罠だ。なんの罠だかは分からないがきっと罠だ。近づかないほうがいい……」
「な、なんですかその用心深さ……」
「危険には近づかないことが俺の願いだ……リャッカのせいでその願いも打ち砕かれつつあるが」
「……じゃあ、進路を変える、ね」
「うお……危険生物感知器が作動し始めた。し始めた……が、作り直さないとだめだなこりゃ……」
「な、なぜです? あの島に反応しているのでは」
「実は海底に巨大生物がいるのかもしれんし。もっと明確に危険の理由が分かると便利なんだがなー……む」
「どうしました?」
「いや、退屈はなくなったなと思ってな」
「……ほんとうに魔法道具が好きなのですね。そのために危険を冒してまで冒険なんてしているのですから、当然かもしれませんが」
「魔法道具が好きだから……か」
「違うのですか?」
「……………………………………」
「こ、コーデントさん?」
「いや、すまん。ちょっと考えてた」
「海に来た理由をですか?」
「まあ、そうなるか……。きっかけなんてなくっても、俺はこの海にきたんだろうかってな」
「…………」
「俺の研究は行き詰っていた。それは確かだった……が、俺は自分の仮説に自信があったし、それを人に笑われることが許せなかった。だから、俺は笑ったやつらにむかついて、自分の仮説を証明するために海へ出た」
「それは……」
「そいつらが笑わなかったとして、俺はこの海に来たんだろうかってな」
「き、きましたよ。きっと」
「…………なんでシスターはそう思う」
「コーデントさん、ほんとうに魔法道具のことが大好きですもの。遅かれ早かれ、この海にやってきたはずです。…………生贄にされそうだった私にとっては、遅くなくって助かりましたけど」
うふふ、とシスターは笑う。
「俺も……そうだな。やっぱり、いつかは海にきたんだと思う。誰もがみんな俺のことを笑ってたわけじゃなかった」
「コーデントさん……」
「お前ならできるって言ってくれた人もいて……ほんとうは、それがきっかけだったのかもしれないな」
「では、その期待に応えるためにも、頑張らなければなりませんね」
「そう…………かなぁ」
「ちょっ、コーデントさん!? そこは、そうだなって言っておくところですよ」
「うーむ、あいつのために頑張るってのもまったくやる気でないんだが」
「ううううっ!?」
「まあ、あれか。迷惑かけっぱなしの師匠に恩返しってのもいいかもな。まあ、第一に来るのは俺のためだが」
「今までの話なんだったのですかっ。コーデントさん……」
「他人のためとか言われても、どーも反発したくなる」
「期待に応えようってだけじゃありませんか……。もう」
「はいはい」
「…………コーデントさん」
「なんだよ?」
「……私も、期待していますからね?」
「…………ふん」