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「……その短剣でどうするつもりだ」

「どうする? ……決まっているでしょう」

「決まってる……剣ってのは斬るためのもんだ」

「そういう意味ではないですよ……私が望むもの、てーんーしーっ!」

「な、なんだと!? じ、自分を斬った……」

「でも……幽霊」

「ま、魔力が溶けてやがる……。それさえも鍋で煮込んで……」

「私はかつて、黄金の色をした夜を越えたのですよ」

「お、黄金?」

「そう……魔王による、せかーいの破滅! ……私はただ、見上げることしかできなかった」

「…………」

「その破滅も英雄たちによって防がれ、魔王は勇者に倒された」

「そ、そんな……そんなことってないだろう!?」

「なにがでしょうかー?」

「レオンの言ってることがほんとなら、魔王の存在した時代に生きていたことになる」

「そう、言ったつもりですがね。それが、わたーしの、あなた方にない知識の理由」

「……っ。この船の状態は、あまりにも保ちすぎている。魔王の時代からあるのなら……」

「くひひ。だれもこの船まで、その頃に手に入れたものだとは言っておりませんですよ」

「ぐ……。っ、鍋が緑色に発光して……。いったいなにをするつもりだ!」

「最初から言っていたはず」

「なに?」

「くーひひひひひひひっ…………ひっ!?」

「っ。シスター!」

「は、はい!?」

「魔力が分散しかかってる! どうにか……どうにかレオンの身体をつなぎとめられないか!?」

「え、ええええ!? そんなこと言われても……っ」

「とにかくやってみて……そうだ、それで……、ぐ、だめなのか!?」

「天使……てーんしをー……」

「っ。なんで天使なんだよ! 破滅を……金色の星を防いだのは天使だったのか!?」

「星を防いだ英雄は……もういないのです。ですから、天使を……今度こそ天使を……! ああ、だが私は……失敗してしまったみたいだ……」

「しっかりしろ。世界を救うんだろう!?」

「世界を救う……そう、救う……なんのために」

「!?」

「世界は救われた……救われるべきでない人々の手によって」

「どういう意味だよ!」

「ただの人々……戦うべきでない……民……。聖騎士である……わたしーが、戦う……べきだった」

「それを悔いているのか……? 今度こそ世界を救いたかったのか!?」

「だが……それも……」

「レオン……、レオン……っ!?」

「コーデントさんっ」

「消え、た……」

「コーデントさん!」

「…………世界を救う。いいこと」

「……そう、だな。リャッカ」

「…………わたしも?」

「世界を救うって? リャッカにそんな気はないだろ。ま、救ったって構いやしないけどな。どうせ悪魔と戦うことに変わりはなさそうだ……ちっ」

「コーデントさん!!」

「シスター……どうした?」

「い、いえ。魔力の結合、成功しましたよ」

「は?」

「……お鍋」

「はあ?」

「……お鍋、まずそう」

「リャッカ、お前なあ!? って、なんだ、鍋が」

「いやぁ、昇天するかと思いまーしたな」

「鍋に浮かんでやがる……このやろう!?」

「いやぁ、くひひひ。世界をすくーってくださるというのなら、私はこのまま気楽に船旅でーも」

「待て。おいこら、自分の手で世界を救いたかったんじゃないのかよ」

「あなたがたは、わたーしの守るべき民でもありませんし」

「うおい」

「わたーしの伝えた情報で世界が救われる。それは私が世界を救ったのーと同じこと! ……かもしれない」

「微妙に自信なさげだな」

「うまれてこのかた、自信など持ったことがありませ~んっ。ええ、間違いない」

「なんでそこだけ自信満々なんだよ!?」

「それはびっくり。そういうわーけで、世界は頼みました」

「さ、さらっと世界の命運を押しつけられた」

「自分でお救いになるとおっしゃっていましたよ、コーデントさん……」

「ぐっ……そうしても構わないって言っただけで、俺は」

「…………そういう、契約」

「そりゃそーだ。…………ますます、ますます危ない方向に」

「…………もとから、そのつもり」

「そりゃそーだ……なぜこんなことに」

「し、しっかりしてくださいよ。大丈夫ですって!」

「言っておくが……俺がひどい目に会うとしたら、同じ船に乗ってるシスターもひどい目に会うんだからな」

「え、ええええ!?」

「そりゃそーだろ……」

 これからの旅路に天使の祝福がありますように。そのような意味のことを言ってまた天使を連呼するレオンへと視線を向けながら、コーデントは深くため息をついた。

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