約束された戦い
太い枝の上に、その少年はいた。
「前言撤回ー……」
「おい、妖精。早すぎるだろ撤回するの。だいたいいるぞそこに。見えてるっての子供が」
「いることじゃなくー……。人ってところを撤回ー……」
「なんだと?」
「あれれ、なにかは知らないけど話をしていたんじゃないのかい。僕に気にせず、続けていいよ?」
「あのな。いきなり他人が現れて平然と会話を続けるほど、普通は図太くないんだよ。お前みたいな子供はどうかしらないけどな」
「ふーん。そうなんだ。ま、どうでもいいけどね」
「ちっ……」
「自己紹介でもしておこうかな。僕はエリオット。まー、気軽にエリオって呼んでよ」
「エリオ、か」
「そうだよ、コーデント・グラム」
「……っ!? 年上にはさんづけするもんじゃないか?」
「ふうん。じゃあ、コーデントはそうしてるの?」
「してないな。俺は無礼な態度を取るのは好きだが、取られるのは嫌いだ」
「あはははっ。僕もそうだよ。しかたないよね、お互い様だし」
「子供のくせに、無礼な態度を取られるのが嫌いだって?」
「うん。言ってみただけだけど」
「あのな……。いいから、枝の上からおりてこいよ。見下されて気分が悪い」
「はーい。よっ……と。これでいい?」
「ああ。……こうしてみるとやっぱり小さいな」
「別に大きければいいってものでもないじゃないか」
「ま、そうかもな。……で、なんで俺の名前を知ってるんだ?」
「そりゃあ知ってるさ。僕たちの邪魔をしてるのは君だろう?」
「僕、たち……?」
「そっちの黒髪の子はリャッカ。肉体再生の能力を持ってる」
「…………よく知ってるじゃないか」
「で、そっちのお姉さんが生贄さん」
「…………。ぷっ。くっくっくっ」
「ちょっ、コーデントさん!? そっちの子も、人の気にしていることを笑いものにするなんてよくないんじゃありませんか!?」
「そんなこと僕に言われてもな……お姉さんの名前、知らないし」
「アンジェリカですっ」
「そうなんだ。アンジェリカ」
「分かったぞ、つまりお前は……お前は……ええっと」
「……どうしたのさ?」
「名乗られた覚えはあるんだが」
「エリオットだったら。エリオって呼んでよ」
「エリオ。つまりエリオは、竜神様を倒そうとしていた魔法使いの仲間ってことだ」
「そうなるね」
「生贄、なんて話題が出てくるのはあの島だけだからな。だが、山賊たちならともかく、あの魔法使いの邪魔をした覚えはないぜ」
「……ま、そうだろうね。他にも僕の知り合いと出会っただろう?」
「他にも?」
「たとえば、アーデルのおじさんとか。覚えてる? ナアナクシトンの体内で出会ったって言ってたけど」
「……言ってた、だと?」
「あははっ。そうだよ。大けがをしたみたいだけど、彼は生きてる。本を取られたって怒ってたけど……一応取り返したほうがいいのかな?」
「一応程度のことだったら放っておいて、もっと優先順位の高いことをしたらどうだよ」
「うん、そうだね。……ところで、クラウリンドのおじさんにも会ったでしょう?」
「…………。誰だよそれ」
「あれ? リャッカの住んでいた島に、海賊が襲いかかってこなかった?」
「…………っ」
思わずコーデントは息をのんだ。
鋭い眼差しでリャッカが少年を見据えている。
「……お前らの目的は、スターズブルーの遺産と始まりの地、だな?」
「そうだよ。……聞いておきたいんだけど」
「なんだ?」
「うん。できれば他のスターズブルーの遺産も手に入れてはおきたいんだけど……物を探すスターズブルーの遺産、心当たりない?」
「物を探す……」
「そうさ。知りたい人がいればその人の居場所が分かり、欲しい物があればその位置が分かる、スターズブルーの遺産」
「知らないな。心当たりなんてあったら、それを奪って始まりの島でもなんでも見つけてるさ」
「そっか。君も始まりの島を探してるんだっけ? それは残念」
「残念そうには聞こえないが……」
「そうでもないよ。その道具を入手するのは、僕たちの組織の悲願だからね」
「……組織だと?」
「うん。……そうだ、君たちも僕らの組織に入らない? 歓迎するけど」
「ふざけんな。だいたい、お前らのなにが狙いかも分かりゃしないんだぜ」
「そういえば、言ってなかったね。僕たちの組織の目的は……」
一息置いて、少々言い方を困ったように。
「……世界滅亡、かな」
「なんだと?」
「どう? 入る気になったかい?」
「なるわけないだろうが!? どこぞの魔王じゃあるまし、なんのために世界を滅ぼさなきゃならないってんだよ」
「ま、そうだよね。それじゃ、仕事を果たさせてもらおうかな」
「なんだその短剣は……アーデルのおっさんが持ってたやつとは違うな?」
「見てれば分かるよ。ほら」
「短剣が分身して……浮いている!?」
「ほらほら。まだまだ出せるよ。僕が願っただけね」
「くっ……持ち主の考え通りに動くってことか? これで襲いかかられたらとてもじゃないが、ただじゃすまないぞ」
「コーデントさん、コーデントさん。いったいお仕事ってなんでしょう」
「自分で聞けばいいだろう。シスターにだって、これが穏便にすみそうな場面には見えないと思うが」
「あはははっ。心配しなくても、大したことじゃないよ」
「具体的には?」
「とりあえず皆殺しかな」
「大したことだろうそれはっ!?」
「そう? まあ、素直に僕の望む情報を教えてくれれば、皆殺しは勘弁してあげてもいいんだけど」
「スターズブルーの遺産や、始まりの島ってことか」
「うん。そうだね。でもまあ、どうも教えてくれそうな雰囲気じゃないし」
「教えたら命を救ってくれるらしいが……。その情報を使って、世界を破滅させたいんだろ?」
「うん」
「教えようが教えまいが、待ってるのはどっちにしろ破滅ってわけだ。教えようと思わなかった妖精たちは、頭がいいな」
「どっちにしろ破滅するんだから、僕の役にたって死んでいくほうが生産的なんじゃないかな」
「世界を破滅させる手伝いが、生産的なわけないだろうが」
「それはそうか。じゃ、始めるよ」
「ちっ……。なんなんだよ、この短剣の数はっ。スターズブルーも厄介なもの作りやがって」
「コーデントさん! あの短剣が飛んでくる前に逃げ……いえ、妖精さんを助け……やっぱり逃げ……!」
「どうしたいのかさっさと決めろ! このシスター、保身と良心の間で迷ってやがるっ。ええい、迷ってる俺も言えた話じゃないが!」
「ど、どうしましょう!」
「妖精さえ逃げれば、俺もこんな場所に用はないが……戦う気だぞ、あいつら」
「どうして!」
「大妖精が動かせないからだ。魔法陣の上に寝かされていた……なんらかの魔法であの大妖精は健康を維持してるんだろ」
「うううう……っ。ますますどうしましょう!?」
「ええい、おいこら妖精! 例の話を教えやがれ!」
「だめだって。ほら、この子に口止めされちゃったし。あとでね、あとで」
「あとがあるかどうか分かんないから、ここで教えろって言ってるんだ!」
「…………」
「ぐっ。無視すんな。…………リャッカ、こっちこい」
「……どうして?」
「一時撤退だ。情報は惜しいが、エリオがこの状況で余裕を見せてるってことは相当力の強い道具だろう。戦わないほうがいい」
「…………ここで話を聞かないと、見つけられないかも。永遠に」
「この里を留守にしてる妖精だって、いくらでもいるはずだ。そっちに聞けばいいさ。いいから行くぞ!」
「…………」
「リャッカ!」
「…………いや」
「っ。な、なんだと?」
「あの子。スターズブルーの遺産で、世界を滅亡させようとしてる」
「……それがどうした」
「この場で、倒すべき」
「いつからお前は正義の味方になった! 勝手にしろ、俺は行くからな!」
「……それもだめ」
「なんだと……? いつからお前が俺に指図できる立場になったってんだ」
「…………あれは、同じ敵」
「同じ?」
「わたしの村を襲った、同じ敵」
「……たしかに、そう言ってたな。同じ組織の仲間だったとかなんとか」
「………………あの敵から、私の村の安全を保障すること。それが約束」
「っ!? だがそれは!」
「……世界の滅亡。私の村が、危険ということ。……約束は守ってもらう」
「…………………………………………ぐ。わかっ……た」
「…………」
「……戦えばいいんだろ、戦えば」
「…………。そう」
「だ、大丈夫ですかコーデントさん。なにやらものすごく顔色が悪いですよ」
「失敗した。……約束の仕方を間違えた。この先ずっと、得体のしれない組織との闘争と関わっていくかと思うと頭が痛い……」
「しっかりしてくださいっ。……約束を破ったり、しないのですね」
「ここまで散々リャッカのことをこき使っておいて、いまさら勝手にしろって放り出すわけにもいかんだろ……くそっ」
「なんて律儀な……」
「まずは……おい、リャッカ」
「……なに?」
「こっちこい。こっち」
「……うん」
「リャッカさんを呼び寄せて、どうなさるつもりなのですか?」
「あれを見ろ、シスター」
「は、はい」
「妖精たちは一心不乱に呪文を唱えていて、エリオは不敵な笑みを浮かべながら短剣の数を増やし続けてる。激突はもうすぐだろう」
「あ、リャッカさんとはぐれないように、ということですか?」
「なんでだよ。短剣が飛んできても、こいつの後ろにいれば俺は安全だろう?」
「な、なんてひどいことを考えるのですか! み、見損ないましたよ、コーデントさん!」
「とか言いながらそそくさと俺の後ろに隠れられても、説得力がないんだが」
「短剣の刃がきらきらと輝いてまぶしいから、直視しないように移動しただけです」
「この状況でそんなこと言えるシスターって、案外すごいんじゃないかと思うぞ」
「このような状況だから、このようなことしか言えないのです」
「……シスター。リャッカには相手を倒したい理由があるし、俺も残念ながらリャッカを手伝わないとならないが」
「はい」
「……別にシスターはこの場を離れてもいいんだぜ?」
「いえ……。な、仲間を見捨てて逃げるなんて……できませんよ」
「シスター……」
「お、お気になさらないでください」
「いや、故郷を見捨てて逃げたシスターがよくそんなセリフを吐けたなと」
「もうちょっと素直に感動してもいいのですよ!?」
「……っ。エリオが先手を取ったぞ!」
「な、なんだか妖精さんたち、大げさに避けているように見えるのですが!?」
「理由があるんだよ……リャッカ、分かってるな!」
「うん……。ていっ」
「え、ええええっ。リャッカさんに弾き飛ばされた短剣が……戻ってきたっ」
「弾き方が甘かった数本だけだ。分かったかシスター」
「な、なにがです」
「あの短剣は、空中で自由自在に方向を変えられるんだ。ぎりぎりで避けようとすればあっさり斬られるって分かってるから、妖精たちは事前に回避行動を始めている」
「なるほどっ。……で、ですが、リャッカさん避けていませんよね?」
「方向を変えたりなんだりするよりも、リャッカの剣のほうが速いってことだろ」
「わ、わあ……。すごいじゃありませんか、リャッカさん!」
「……この数、だから」
「え、ええっと……」
「困った顔でこっちをのぞき込むなよ。俺はリャッカの通訳じゃない!」
「それはそうですけど。……お願いします」
「……。半自動的ではあるんだろうが、これだけの短剣を、エリオは完全に使いこなせてはいないだろって話じゃないか? あるいは、リャッカだけに集中していたら、結果は変わるのかもしれない」
「そんな……あ、妖精さんたちが」
「反撃に移ったな。……なんだ?」
「短剣がまた、あの少年の周りに集まって……。ほ、炎や吹雪を弾き飛ばしてますよっ」
「さすがスターズブルーの遺産……魔法を跳ね返すぐらいなんともないってわけだ。だが……っ」
「ちょ、コーデントさん、どこへ行くんですか!?」
「見学のためにここへ残ったわけじゃないだろっ。物理的にぶん殴ってやれば……ちぃっ」
「大きな金槌に身体を変化させた……。僕はそんな能力を聞いてないけど、やっぱりスターズブルーの遺産かな。でも、残念だったね」
「揺らいだだけか……っ。威力が足りないっ」
「さあ、こっちの番だよ」
「くっ、ちょこまかと短剣を動かしやがって」
「ほらほら、避けないと危ないよ?」
「え、エリオさん! ひとつだけ教えてください!」
「……なんだい? 生贄のお姉さん」
「私が生贄になったその島は、結局どうなったのですか!?」
「ふぅん、気になるんだ。僕の仲間は、ドラゴンからスターズブルーの遺産を引き剥がせないと理解して、さっさと退散したみたいだけど」
「そ、それでは島は無事なのですね?」
「さて、怒り狂ったドラゴンがその後、落ち着いたかによるんじゃないかな。どうなったと思う?」
「……エリオさんの考えでは、どうなのですか」
「質問に質問で返さないでよ。でも確かに、お姉さんの考えも分かるよ」
「どういうことですか」
「あははっ。話を引き延ばして、僕の集中力を乱したいんでしょ? そうすれば、コーデントが楽になるもんね」
「う、ううううっ。島のことが気になるのは本当ですっ」
「だとしても、僕は知らないよ。残念ながらね」
「……っ、来るなリャッカ!」
「……でも」
「仲間思いなんだね。それじゃ、まずは腕の一本でももらおっか」
「ぐ、まずいっ!?」
「あはははっ…………は?」
「なぬ」
コーデントの腕に当たった短剣が、宙に舞った。
それを見ながら全員が、口から声を出すことを忘れた。
「…………。っ、おい妖精! お友達から聞いておけ!」
「リャッカさん、リャッカさん。お忙しいところ悪いのですけど、コーデントさんの言っている妖精さんのお友達ってどなたでしょう」
「…………あの、のんびりした子」
「ああ、たしかこ……痛いですっ。な、なぜ殴るのですか?」
「……コーデント」
「コーデントさんが?」
「……口に出して、欲しくないはず」
「…………?」
「くっくっくっ、状況が変わったみたいだな。エリオ」
「そう……かな」
「攻防自在のスターズブルーの遺産……だが、威力自体は高くなかったってわけだ。お前は俺を殺せない!」
「……ちぃっ」
「くそっ、何度叩いても無傷ってわけか。だがどこまで耐えられるんだろうなっ」
「油断は怪我の元だと思うよ、コーデント」
「やれるもんならやってみろ!」
「……なんだか、コーデントさんが身体を広げてエリオさんを取り囲んでますけど。一応聞いていはいたものの……身体の変化って、あのようなことまでできるのですか?」
「……伸縮自在が、妖精の特徴、だから」
「………………え、妖精さんも同じことができると」
「……うん」
「なんだか神秘的なイメージが、私の中から薄れてきたのですけど……」
「……泥棒、されて。怒ってたはず」
「そ、それはそうですけど。……コーデントさんは、周囲を取り囲んで隙を探しているのでしょうか。それとも、手数を増やしている……?」
「…………。言わない」
「……理由をお聞きしても?」
「……コーデント。……盗み聞き、警戒してる」
「ぬ、盗み聞き?」
「敵……耳が、いいんじゃないか、って」
「なるほど……? あ、妖精さんたちの呪文が終わって……終わって、なにか起きましたか? 今」
「起きた」
「あ、リャッカさん!? っ、妖精たちが吹き飛ばされて……コーデントさん!」
「ぐ、ぐあああああっ!」
「ちぃっ……やってくれたね、コーデント。僕の視界を遮ったうえで、妖精たちに地中から攻撃させたわけか。たしかに僕の持ってる道具じゃ、下からの攻撃には対処しづらい」
「くっ。平気な顔して反撃しやがって……」
「別に平気なわけじゃないさ。だからって、倒れているわけにはいかないだろ……僕には君みたいに」
「…………」
「間に割って入ってくれるような仲間がいないからね。リャッカみたいなさ」
「リャッカ、あいつの……エリオの正体は分かってるか?」
「…………ううん」
「あいつは、悪魔だ」
「……。魔王の、手下」
「そうとも言い切れないけどな。悪魔の生態ってのは人間にとっちゃ謎なんだ。だが……気をつけろよ。なんにしろ人間よりも優れた能力を持ってる」
「うん」
「俺が攻撃されたのは、エリオが最初から手に持っている短剣……魔力かなにかをさらに込めたんだろう」
「それが分かってもどうしようもないと思うけどね。なにをしようと、全部切り裂くだけさ。それっ」
「…………。……?」
「僕の攻撃を、受けるんじゃなくさばいてる……!? くっ、邪魔をしないでよ、コーデント!」
「持ってる短剣はリャッカにあしらわれ、浮いてる短剣は俺に防がれる……手詰まりのはずだ」
「…………ちぇっ。そうだね。妖精の数も多いし、退散させてもらおうかな。またね、コーデント」
「会いたくないんだが……」
「………………」
「おっと。僕の短剣を投げて僕を殺そうとするなんて、リャッカも無駄なことするね。それじゃ、ばいばい」
「翼を生やして飛んでいきやがった……。最初からそうしておけば地中から攻撃されることもなかっただろうに。ずっと余裕を見せてやがる」
「……うん」
「ひどい目にあった。もーやだ。なんでこの里に、こう連続して侵入者が」
「おい妖精、そろそろ例の情報を教えてもらおうか」
「……。例の?」
「いい度胸だな」
「待って。冗談だって。手を伸ばしてこなくたって、痛い目には会いたくないし」
「そりゃいい心がけだ。で?」
「それはね……」
「おう」
「飽き……冗談、冗談だから。ねえ、代わりに教えておいて」
「他人に任せる時点で冗談じゃないだろうがっ」
「スターズブルーの、行き先ー……?」
「お、おう! く、くくくくっ。ようやく始まりの島の手がかりが……!」
「スターズブルーは、材料を探しに行ったのー……」
「材料……。すでに神器の作成法について考えはあったってことか。それで、どこへ探しに行ったんだ!?」
「あっちのほうー……」
「………………おいこら妖精」
「それしか、知らないー……。痛くしても無駄ー……」
「ぐっ、心を読めるんだったか。……質問を声に出す必要もないのか?」
「お仲間に、伝わらないけどー……」
「……………………」
「たぶん、仲間は大事にするべきー……」
「……………………」
「あてはなかったはずー……。気の向くほうへ行ったのかもー……」
「ふん……しかたないか。向こうの方角で、昔に材料が産出された場所を探せばいいってわけだ。それじゃ、世話になったな」
「あ、コーデントさん。もう出発ですか?」
「…………なんでシスターは、当たり前のように里の修復なんか手伝ってるんだよ」
「かわいそうじゃありませんか。罪もないのにあんなものに襲われて、住処が滅茶苦茶になってしまったのですよ?」
「……いまさらいちいち、この里に来た理由を指摘しようとは思わないけどな。とにかくそのへんにしておけ」
「は、はい。……大丈夫ですか、リャッカさん」
「…………平気」
「リャッカ、先に言っておくけどな。これからお前の村に戻るつもりはないし、あいつらの組織を探すつもりもない。始まりの島を優先するつもりだ」
「…………」
「なんにも手がかりがないうえに、どう動くかも分からないあいつらを警戒しても、無駄に終わるだけだろうからだ。……いいな?」
「…………」
かくん、と。
リャッカが小首を傾げた。
「……変なこと、言ってる」
「なにがだよ。俺は当然のことを言ったつもりだ」
「……。あの人たちは。始まりの島を、探してる」
「そう……言ってたな。それらの情報を集めてるって」
「…………コーデントが行く先には、あの人たちもいる、っていうこと」
「ぐっ」
「……都合が、いい」
「俺にとっては悪夢のような状況なわけだが。ちぃっ」
「そう、だね。……ほんと、そう」