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糸口

「出てきたでしょ、ちゃんと」

「待て。勇者がこの島の出身だったこと、大妖精ってのが神降ろしの儀式で勇者に『破滅の魔剣』を与えたことは分かった。だが、スターズブルーはどこで……」

「大妖精様の神降ろしの儀式によって、神様が天より降臨なされた。その儀式は、大妖精様の力だけではできなかった、って言ったはずだし」

「たしか、島に立ち寄った魔法使いがどうこうって……」

「そう。その魔法使いは、魔王の降臨した大陸から逃げて、偶然この島にいたの」

「スターズブルー……」

「大陸から逃げたことに引け目を感じてたらしいよ?」

「やっぱりスターズブルーは、大陸からこの海に来たのか……。だが、引け目だと?」

「だって、大陸の賢者たちは、魔王を封じ込めようと頑張ってたんでしょ?」

「魔王というか、魔王の瘴気の影響を大陸からなくしたんだが」

「ふうん。とにかくそのことを後悔してた魔法使いは、魔王を倒すための方法を求めていたらしいの。それで、この島の妖精の里を訪ねてきてたんだけど……」

「魔王を倒す勇者に協力するってのは、スターズブルーの願うところだったわけだ」

「……んー、まあそーだねー」

「なんだよ。その言い方は」

「どうも、魔法使い自身も、神の祝福みたいなのが欲しかったみたいなんだけど」

「なんだと? だが、その言い方だと」

「断られたんだって。しかも、どんな神様だったとしても、お前に祝福を与えることはないだろう、っていう神様の断言つき」

「ひどいなそれは……」

「かくして魔法使いは魔王退治をあきらめたのでした、めでたしめでたし」

「なにがめでたいんだよ。スターズブルーは、失意の中でこの島を去っていったわけか……」

「違うよ」

「なんだと!?」

「魔法使いが島にきてから、儀式までにそれなりに時間はあった……。魔法使いとボトランタスの間にも、友情が芽生えていたんだって」

「じゃあ、ボトランタス……友人が魔王を倒すと信じていたから、スターズブルーは気にしなかった?」

「魔法使いとボトランタス、ふたりは約束を交わしたの」

「約束だと? それはどんな……それが失意に沈まなかった理由なのか?」

「うん。ボトランタスは、たとえ魔王がいなくなったとしても、瘴気がこの海から完全にはなくならないだろうことを予感していた」

「……まあ、広大な海だからな」

「ボトランタスは大陸の魔王を討伐する。魔法使い……スターズブルーは、この海の瘴気を完全に浄化して、つまりはボトランタスの故郷であるこの島を平和にする。そう誓いあったんだって」

 不意に気づく。

 妖精の里の幻想的な光景に心を奪われていたリャッカが、顔をこちらに向けて無表情に聞き入っていた。

 約束。契約……。

「ボトランタスはもちろんだが、スターズブルーも約束を守ったってことになるな。彼は人の身で神器を作り出して、この海に広がる瘴気を駆逐した」

「まあ、そうだね。あなたも神器作ろうとしてるんだっけ」

「ああ」

「なんのために?」

「なんの……ため……?」

「理由はあるべきでしょ。いやほら、あたし、別に変なことを聞いたつもりもなかったし」

「まあ、そりゃそうなんだが。なんのため……作れると、思ったからか?」

「えー?」

「ここではどうだか知らないけどな、大陸では神器ってのは神様の持ち物で……なんというか、魔法道具とは別物だと考えられてるんだよ」

「こっちでもその認識で合ってると思うよ。そもそも認識がないって考え方もあるけど」

「神器が知られていないって意味でか?」

「ううん。スターズブルーの遺産とかも、すごいねー、で終わりだし。深く考えないよ」

「………………なんだかなぁ」

「お、疲れ切った顔してる」

「そりゃあな。まあとにかく、俺は神器ってのが魔法道具の一種なんじゃないかと思って、それを確かめたいからこの海に来たわけだ」

「思ったって、誰かに教えられたとかじゃなく?」

「とかじゃなく。魔法道具の研究をしてると、そういう気がしてくるんだよ。魔法道具に含まれるべき材料はいっさい、神器には含まれてるように思えない。だが、それらを魔法の効果だと仮定すると……」

「だったら」

 妖精はコーデントを見上げながら、はっきりとした声で言った。

「あなたは、とてもすごい魔法使いなんだね」

「……なんだと?」

「スターズブルーを超えるほど、すごい魔法使い」

「俺は魔法道具を研究してるだけであって、すごい魔法使いでは……ふふふ、いや、魔法道具への洞察には天性の才能があると言っても過言ではないが。くっくっく」

「妖精さん妖精さん」

「なに? お姉さん」

「コーデントさんはそれほどすごくないですよ」

「そうなの?」

「自分で神器を作れなかったからって、スターズブルーの資料を探しに来たのです。いちからその……神器? を作ったスターズブルーと比べてはいけません」

「シスター……お前な」

「な、なんですか怒った顔をして。私は本当のことを言っただけです」

「ぐっ……」

「それは間違ってるよ。やっぱり、このひとのほうがすごい」

「なんだと?」

「スターズブルーは、いちから神器を作ってなんていないから」

「…………ど、どういうことだ。いや、この島を出てそれからの旅で、神器の作成に関するなんらかの情報を得たってことなのか?」

「違うよ」

「じゃあ」

「さっき言ったし。大妖精様とスターズブルーの神降ろしの儀式によって、神器『破滅の魔剣』をボトランタスに与えたの」

「それが?」

「その時まで、スターズブルーは神器が魔法道具に似た物なんじゃないか、なんて思ってなかったみたいだよ」

「っ。まさか、その場に降ろされた神様は」

「そ。降臨したその場で、『破滅の魔剣』を作って見せた。だからこそ……その一部始終を見ていたからこそ、スターズブルーは神器の作成に成功できたし、そもそも神器を作ろうだなんて思い始めたってことだね」

「あ、ああああああっ」

「……どうしたの? 自分のほうがすぐれていて安心でもした?」

「うらやましいっ。目の前で、神様が道具を作る場面を見学してたなんて! 俺がその場にいれば……っ」

「おおー……。思いもよらない反応が。魔法道具が好きなんだねー」

「だからここにいるんだろ! それで、それでスターズブルーは結局、どこへ行ったんだ!? それとも、神器作成に関する手がかりがこの里にも……!」

「神器を作る手がかりは、この里にはないよ。もしかしたらスターズブルーはそんなことを話してたかもしれないけど、そんなこと伝わってないし」

「なんでそんな大事なことを、伝えようとしないんだよっ」

「あたしたちにとって大事なのは、出来事の流れだもの。大妖精様に関するね。昔にこういうことがあったんだよ……ってみんな言って語り伝えてるし」

「それで、スターズブルーの行方は」

「どこいったんだろうね」

「知ってるけど、とぼけてるだけー……」

「たしかに知ってるけど。なぜ人間に寝返るのさ。ひどいよ」

「怖い顔して、にらまれちゃかなわないからー……」

「……で?」

「待ちなよ人間。いらいらしたら健康に悪いって」

「いらいらさせてるのはお前だろう!? ほら、さっさと行方を教えろよ」

「わくわくした顔しちゃって。それはね」

「飽きたとかは言うなよ……?」

「だ、大丈夫だから。ちゃんと教えるから」

「んー……。それは教えちゃ、だめー……」

「え? さっきあたしを裏切ったばかりなのに、止めるの? もしかして嫌われてる?」

「他にも人が、やってきてたからー……」

「!?」

 心を読むことのできる妖精の、何気なく聞こえる一言に、全員がぎょっと身体をこわばらせた。

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