森
「えー……気を取り直して。若干荷物が重くなった感じもする中で、改めて俺たちはあの妖精を追いかけることになったわけだが」
「やっと私のお金を取りもどしたのです。なにが不満なのですか!」
「私のお金と思うんなら自分で持てよ! 売り物の財宝やら取りもどしたお金やら、持ってるのは全部このリャッカなんだぞ!?」
「なにが指さして、リャッカなんだぞ! ですか。それをかわいそうって思うなら、コーデントさんが持つべきでしょう。女の子にこんな大荷物持たせてなんとも思わないって言うのですか!?」
「今話し合うべきはリャッカがかわいそうかどうかではなく、シスターの持ち物のはずなのになんでシスターが持たないのか、だ! リャッカがかわいそうだなんて言うのは話のすり替えだろうっ」
「ああああ、コーデントさんには人の心ってものがないのですね。リャッカさんだって、黙ってなにも言わないだけで、本当はコーデントさんに持ってもらいたいと思ってるはずです!」
「なーにをいいやがる。リャッカだってこんな無表情してるが、本心ではシスターに! ……シスターに」
「なんで口ごもるんですか。あ。やっぱりコーデントさんが持つべきだって、ようやく気づいてくださったのですね!」
「……シスターに、このお金でおいしい食べ物でもおごってくれないかなと思っているはずだ!」
「………………。ところで、盗人が襲って来たり妖精が魔法を放ったりして騒がしかったのに、あたりはもう落ち着いてますね」
「リャッカにおごるのが嫌で話題を変えようとしてるだろう」
「いえいえ、そんなことは」
「せめてこっちの目を見て言えよ……。妖精のいたずらなんて習慣的なものだから、もうこの島の住民は騒ぎに慣れてるんだろ」
「なるほど……うう、やめてくださいリャッカさん。そでをつままないで……」
「ほーらな。リャッカ、やっぱりなにか食べ物食べたいなとか思ってたんだろう」
「…………。うん」
「うううう。なんでコーデントさんはそんなに勝ち誇った顔をするのですかっ」
「なんでってそりゃあなあ……くっくっく」
「…………妖精」
「うん? なんだよリャッカ」
「行っちゃうけど。……いいの?」
「あ、ああああああ! 無駄な言い争いをしていたから、あの妖精に逃げられてしまったじゃありませんか!」
「……なーんか、いかにも俺のせいって聞こえるんだが」
「それはもちろん! ……もちろん、私のせいでもありますけど」
「八つ当たりを我慢したのはいいこった。なら本当のことを教えてやるけど」
「本当のこと……ですか?」
「俺は最初から、またあの妖精を追いかける気はなかった」
「なんでですか!」
「ちょっ、やめろシスター。人殺し! 首を絞めるなっ……こんなことじゃ死にやしないがっ」
「当たり前でしょう、身体が鉄なのですからっ。追いかけないなんて、ひとのことをからかってそんなに楽しいのですか!?」
「待てっ。言葉が足りなかっただけだっ。妖精は捕まえるっての!」
「…………本当でしょうね?」
「くそっ、大げさに身体を揺さぶりやがって……。あのな、よく考えてみろよ」
「……なにをです」
「こんな大量の金をあのちっこい妖精が運んでて、俺たちは追いつけなかったんだぜ?」
「……あ」
「重荷がなくなって素早くなった妖精に追いつくなんてのは……まあ、無理とは言わないが面倒だろう」
「で、ですけどっ。こうやって見失ってしまったら、どうしようもないじゃありませんか。……あ、もしかして、得意の魔法道具で居場所を探せるとか!」
「作れないことはないが、そんな材料はないっ」
「……………………。で、どうするつもりなのですか。コーデントさん。ここまできて考えがないとは言わせませんよ」
「別に居場所を探す道具なんて必要ないさ。妖精だって、自分の住処をもってそこで暮らしているんだからな。つまり……」
「つまり?」
「その辺で聞き込みをすれば、さくっと寝床が見つかるはずだ。妖精の油断したところへ奇襲をかけるぞ!」
「……あの。本当にさくっと住処が聞き出せてしまったのですが」
「なにかご不満か?」
「不満はありませんけど……なんと言いますか、そこらの行商人に妖精の住処を訊ねて、あっさり答えが返ってくるって悲しくありません?」
「シスターは、妖精を神秘的な生物にしたくてたまらないらしいな……」
「うううう」
「とにかく、聞き出したところに妖精の里っていう根城があるから、そこでシスターの怒りを晴らすぞ」
「は、はいっ。今度こそあの妖精に痛い目を……!」
「……なんでこんなことしてるんだろうなぁ、俺。シスターだけ行かせて、始まりの島の情報収集でもしたほうがお得なんじゃなかろうか」
「よ、妖精たちなら人間の知らない情報も知っているかもしれませんよ?」
「ひとりじゃ敵わないとみて、俺たちをまき込もうと必死だな……」
「……りゃ、リャッカさんなら、私の気持ちを分かってくれますよね?」
「………………。そういうの、無駄」
「え?」
「俺のこと手伝うって約束だからな、リャッカは。こいつ自身がどう思おうと、俺が嫌がることはできないってわけだ」
「うううう。と、とにかく行きましょう! ええと、なんでしたっけ。紫の霧の都だって、始まりの島だって、きっと妖精たちなら知っているはずです!」
「はいはい。……ん、なんだあの男は」
「森の手前で……なんだか、疲れ切っているご様子ですね。そこのかた、どうなさいましたか?」
「うお、このシスターためらいなく声をかけやがった」
「聖職者ですから。困った人を見捨ててはおけません」
「ペテンを働いて生贄になったくせに」
「…………そういうことは言わないでください。大丈夫ですか?」
「あ、ああ。何度試しても、やっぱり妖精の里にたどり着けなくて……」
「…………。え、やっぱり?」
コーデントとシスターは顔を見合わせた。
男性がうなずく。
「僕は病気の妹のために、妖精の長老と話して秘薬を分けてもらいたかったんだ……。それなのに、どうしても森にかかった迷いの魔法を越えられないっ」
「迷いの、魔法……」
「妖精の秘宝を狙うトレジャーハンターも似たようなもので、みんな追い返されてきてる。妖精の里にたどり着いた人間もいるらしいから、無理ではないはずなんだが……」
「コーデントさん、コーデントさん」
「なんだよシスター」
「迷いの魔法って、なんだかわかりますか?」
「……迷って元の場所に戻ってきちまう魔法なんだろう?」
「……そういう、誰でもわかりそうなことを聞いているのではなくってですね」
「知らない」
「……知らないのですか?」
「あのな、シスター。もしかして俺のことを魔法の専門家かなにかと勘違いしてないか?」
「魔法の専門家だと思ってますけど」
「俺は魔法道具の専門家で、魔法の専門家じゃないんだよ」
「それはそうですけど……。でも、このなかで一番魔法に詳しいのって、コーデントさんじゃありませんか」
「そりゃそうかもしれんが。道に迷って戻ってくるなんて、そんな魔法滅多にないぞ」
「……そう、なのですか? それは、この間言っていた、治癒魔法が貴重ということと比べるとどちらが珍しいのでしょうか」
「間違いなく迷うほうだな」
「……そ、そんなにですか?」
「治癒魔法に適性のある魔法使いは国という単位で探せば数人はいるだろうし、すっ……ごく凄腕の魔法使いだったらシスターほどではないにしろ、適性がなくても治癒魔法を使えるはずだ」
「そ、そうなんですか。わたしは凄腕の魔法使いよりも上手に治癒魔法を……」
「シスターアンジェリカはそっちに注目するわけか」
「な、なんですか。変な目で見ないで下さいよ。それで、迷うほうはどうなのです?」
「探すのが面倒なくらいだな。国として見てもいるかどうかってところだし、魔法使いじゃないやつを合わせても適性のあるのは大陸で数えるほどだろう」
「数えるほど……ですか」
「ああ。俺の国にも偶然ひとりだけそういう魔法使いがいたが、魔法の適性が判定された時点でまたたくまに噂が各所へ広まって、俺の同級生なんかはどうにかその魔法を無効化する道具を作れないかと徹夜したもんだ」
「うわぁ……。大騒ぎだったんですね」
「騒ぐだけ騒いで、とくにその後話題になったりはしなかったけどな。どんな魔法も使うやつ次第ってわけだ」
「……なんだか、すっごく悪い魔法に聞こえるのですけど」
「場合によっては小さな国のひとつぐらい滅ぼせそうな魔法ではあるな。人を惑わすってのはそういうことさ」
「うううう。……あ、ちょっと待ってください」
「なんだ?」
「いま、言っていたじゃありませんか。魔法を無効化する道具。これをコーデントさんが作ってくれればすべて解決ですよ」
「無理だ」
「……材料ですか」
「技術的に。俺の能力じゃそんな魔法道具は作れない。どうがんばっても無理だ」
「な、なにを弱気になっているのですか。ご学友だって作成なさったのでしょう。コーデントさんほどの人だったらきっとできますって」
「いくら俺がすごいって言ったって、無理なものは無理なんだって。言っておくけど同級生だって全員作るのに失敗したし、俺の師匠だろうとおそらく無理なんだ」
「そ、そうなのですか?」
「むしろそのほうが気が楽だけどな……」
「な、なぜです。コーデントさんは魔法道具にこだわりを持っているみたいですから、作れない魔法道具って聞くと作りたくてたまらないと思ってましたが」
「あのな……。たしかに魔法道具ってのは使い手によらず汎用性があるけど、万能じゃないんだ。そして、過ぎた道具ってのは人にわざわいをもたらすものさ」
「わざわい……ですか?」
「たとえば、迷いの魔法の効力を発揮する魔法道具なんてあったらどうするよ。街中で使っても誰が犯人か分からないんだぜ?」
「それは……それは困りますね」
「それに………………」
「ど、どうしました?」
「前言撤回する」
「え?」
「俺は迷いの魔法も無効化できる魔法道具の研究をしているし、いずれは無効化してみせる予定だ。だが、今はまだできない」
「ど、どうしたのですか急に。そうやって目標は大きく持っているほうが素晴らしいですけど」
途方に暮れている男性をぼーっと眺めていたリャッカが、不意に顔を向けて話に混ざってくる。
「……スターズ、ブルー」
「え? どうしたのですかリャッカさん」
「……。スターズブルーの遺産なら、どんな魔法も無効化できる。そういう、こと?」
「そ、そうなのですかっ?」
「スターズブルーの遺産がどうだかは知らないが……その親戚というか、類似品だったら、どんな魔法も無効化したって話を聞いたことがあるな。俺の研究テーマはもともとその類似品のほうなんだ」
「そのようにすごい道具が、スターズブルーの遺産のほかにもあるのですね……」
「そーだな。まあ、とにかくだ」
「とにかく、なんでしょう?」
「とりあえず俺たちも、迷いの森とやらに入ってみようじゃないか。危険なことはないようだし、今後のことはそれから考えればいい」
「そ、そうですね。ぜひとも妖精の里へたどり着いて、妖精の秘薬をこのかたの妹さんに……秘薬を……」
「すっかり元の理由を忘れてやがるな、シスター。どうした、怒りを思い出して悲しくなったか?」
「いえ、病気の内容にもよると思いますけど、秘薬じゃなくてもその病気って直せたりするのではないでしょうか」
思わず三人でごしょごしょと話し込んでいたが、シスターが男性に向き直りながら言う。
疲れ切って座り込んでいた男性が、ゆっくりと顔をあげる。
「いや……ありがとう。秘薬を取りに行ってくれると言ってくれたことも、他の方法を探してくれるのも、うれしいよ。だが、だめなんだ」
「だめ、とは?」
「この島のすべての医者が匙を投げた……。たとえば治癒魔法使いなら妹の病気も直すことができるらしいが、残念ながらこの島にも、その近辺にもそんな人物は……」
「治癒……」
「魔法使い……」
「…………だよね。シスターは」
コーデントとリャッカが見つめる先で、シスター・アンジェリカがわなわなと自分の両手を見おろしていた。
男性がまとっていた疲れを忘れて、がばっと立ち上がる。
「ち、治癒魔法使い!? ほ、本当なのかいっ!」
「お、落ち着いてくださいっ。お役にたてるかは分かりませんが、全力はつくしますのでっ」
「ありがとうっ。僕の家はこっちだ!」
「もしシスターが太刀打ちできなかった場合、逃げる準備でもしたほうがいいかもしれないな」
「…………気絶、させるとか」
「さすがに後味悪いだろ、それは」
「……そう」
「ふ、不吉なことを言わないでください。お、おうちが見えてきましたよ」
「なんだか俺はすっごい回り道をしている気がする。始まりの島はどっちだ」
「ま、まあまあ、そういうことは言わずに。人のためっていうのは、回りまわって自分のためになるものですよ」
「回らなくていいから、直接俺は始まりの島へ行きたい……」
「さて、妹さんの病状は……」
「あ、無視しやがった」
「それでは始めますね。むにゃむにゃむにゃ……」
「おお……優しい光で、妹の表情からつらさが抜けていく……」
「さて、そろそろ逃げる準備を……」
「………………うん」
「おにい、ちゃん……?」
「ああっ……お兄ちゃんはここだぞっ。よかった、よかったなあっ」
「無事に成功しましたけど……なんで逃げる準備なんてしているのですかっ」
「だってなぁ」
「……うん」
「うううう。不思議と信用されていない……」
しばらくたって。
コーデントは、まだベッドの中で安静にしている少女に問いかけた。
「さあ、きりきり話してもらおうか。霧の都がどこにあるかをな!」
「なに言ってるんですか、コーデントさん……」
「シスターが言ったんだろ。回りまわって自分のためになるって。その説で言えば、この子は霧の都の場所を知っているに違いない。知っているはずだ。むしろ知っているべきだ」
「無茶なことを言わないでくださいよ……まったくもう。この妹さんだって困っちゃうじゃないですか」
「霧の都って、スターズブルーの遺産が生まれた場所でしょ?」
無邪気そうな声で、男性の妹がはしゃいだ声をあげた。
沈黙の訪れとともに、コーデントとシスターはまじまじとその少女を見つめる。
「なんで……なんで、そんなことを知ってる? 俺から聞いておいてなんだが」
「んー。妖精さんたちが話しているのを、偶然聞いちゃったの。あなたも、だから知ってるんじゃないの?」
「いや……そういうわけではないが。ところで、具体的な場所とかは話してなかったか、その妖精」
「ううん。でも」
「でも、なんだ。ほらなんだ。どうした」
「妖精さんたちは知ってみたいだったよ?」
「……………………。く、くっくっく……。そうかそうか、妖精たちが」
「すっごい極悪な顔してますよコーデントさん。落ち着いてください」
「ばっかやろうシスター! これが落ち着いていられるかっ。この俺が歴史に名を刻む日が、もう目の前に……」
「ああああ、コーデントさんが遠い世界に……。しっかりしてください、コーデントさん。迷いの森を突破する方法を、私たちはまだ見つけていないのですよ? これじゃあこのかたたちみたいに、私たちも目的のものを手に入れることはできませんよ」
「しっかりしろよ、シスター」
「してるつもりなのですけど、私は」
「あのな。俺たちは別に秘薬やお宝を欲してるわけじゃない。妖精の里になんて入らなくても、かたっぱしから手ごろな妖精を捕まえて情報を聞き出せばいい。シスターの探している妖精に関してもおんなじことだ」
「おなじこと……というのは?」
「たとえ今は妖精の里にいたとしても、いつまでも里にいるわけじゃないんだから待ち伏せすればいいだけさ。姿かたちを忘れさえしなければ、いつかは見つかる」
「な、なるほどっ。なぜそのような素晴らしいことを、もっと早く教えてくださらなかったのですか」
「迷いの森に入ってみることもなく、ここでこうやってシスターが治療してたからだと思うが」
「あ、なるほど……」
「じゃあ、聞くことも聞いたし、そろそろ迷いの森とやらに行ってみるとするか」
「は、はいっ、コーデントさん。それでは、おふたりともお元気で」
「あ、あの……っ。妹を治してくれて、本当にありがとう。あの、その……」
「え、あ……このお金は」
「少ないかもしれないけど、我が家ではこれで精一杯で。どうか受け取ってほしい」
「…………。受け取れませんよ」
「えっ?」
「私は、人として当然のことをしたまでです。治ったとはいえ妹さんはまだ体力をつけなければならないのですから、そのお金はおいしいものを食べさせてあげるのに使ってください」
「そんな……。本当に、本当にありがとうっ」
「…………どう思う、リャッカ。このがめつそうなシスターが、ただで人助けだってよ?」
「……この、お金や財宝」
「まあ、それなりにたくさんあるな」
「だから、満足してるのかも」
「あのなリャッカ、財産っていうものはいくらあっても困らないものじゃないか?」
「……かさばる、よ?」
「……いや、まあ、お前はそうかもしれんが。シスターがその金を持つわけじゃないだろう」
「……ちやほや、されたかったのかも。今は」
「あー……なるほどな。とりあえず金はあるからいいとして、この人はなんて素晴らしい人なんだってあがめ奉られたくなったってことか」
「…………言っておきますが、リャッカさんにコーデントさん。全部お話は聞こえていますからね」
「別に聞こえてても困らないしなぁ。シスターなんて怖くないし」
「…………うん」
「うううう。もっと温かな仲間が欲しい……」
「いいから、そんなこと言ってないでとっとと行くぞ」
「はいっ。それではお元気で!」
そしてまた、森の手前。
「まあ、とにかくだ」
「とにかく、なんでしょう?」
「とりあえず俺たちも、迷いの森とやらに入って……」
「まったく同じ会話からやりなおす必要はないんですよコーデントさん」
「………………入る」
「おう、そうだな。危険はないだろうが、一応注意しておけよ」
「……わかった」
「どこからどう見ても、普通の森ですよねぇ。さきほどの男性の言葉を疑うわけではありませんし、迷いの魔法というのはたしかにあるのでしょうけど」
「案外、迷いの森とか言いつつ魔法じゃなかったりしてな」
「魔法じゃない?」
「ああ、人間の錯覚を利用したり……ってどこいくんだよシスター。はぐれるぞ」
「あ、すみません。……錯覚と考えるのは難しいのではありませんか」
「なんでだ?」
「なんらかの目印をすれば、迷わず妖精の里にたどり着けるってことになるのでは」
「それくらいのことを、がめついトレジャーハンターたちが試していないわけがない、か。やっぱり魔法ってことかよ。……おい、リャッカ。大丈夫か?」
「…………大丈夫」
「まったく、ぼーっとしやがって。きちんと契約は守ってくれよ?」
「…………大丈夫」
「あの……。その契約とか約束っていう話、大まかなところは聞きましたけど。実際のところはどうなんです?」
「ああ、シスターにはあんまり話してなかったけな。リャッカから聞いたんなら要領を得ないだろうし」
「コーデントさんがリャッカさんを助けたお礼に、リャッカさんはコーデントさんを助けることになった……って聞きましたけど」
「まあ、実際それだけの話で、それ以上話すようなこともないよな」
「え、えええ。もうちょっと詳しいことを聞かせてくれたっていいじゃありませんか。ここまで話題になったのですし」
「……ま、じゃあ話すけど」
「はい」
「リャッカは大陸にほど近い島の暴れん坊チャンピオンで、その名をとどろかせていた」
「待ってください。なんですか暴れん坊チャンピオンって」
「いや、いくつかの島が一緒になって、戦いの大会みたいなのが開かれたらしく。その優勝者がリャッカだったんだ」
「へ、へええ。昔からリャッカさんはすごかったのですね」
「変わり映えのしない海の景色、俺はそのころ航海に飽きていた。で、可愛い女の子で腕の立つって噂のリャッカを、どうにか旅の道連れにできれば便利だろうし少しは楽しいのではないかと思い立って、リャッカの島へ立ち寄ったわけだ」
「コーデントさん……」
「なんだよ、その目は」
「いえ、別に……」
「しかし、島はちょうど海賊に襲われ、立ち向かったリャッカは返り討ちにあって致命傷を負っていた」
「え。りゃ、リャッカさんが負けたのですか!? あ、ごめんなさい……」
「どこへ行くどこへ。別に気遣ったりしなくて構いやしないっての。相手がリャッカより強かったってだけの話さ」
「うううう」
「しょせんはその近辺の暴れん坊チャンピオンというか、他の場所にはもっと強い奴がいたってことだな」
「恐ろしい話ですけど……」
「もっと恐ろしい話もあるんだが……まあ後で話すとして。とりあえず俺はリャッカを蘇生して、取引を持ちかけた」
「待ってください」
「なんだ。…………リャッカ、話に混ざらないからって変な方向に行こうとするな」
「コーデントさんは、治癒の魔法を使えないですし、そんな魔法道具もお持ちでないのでは?」
「……その時は、スターズブルーの遺産を持ってたんだよ。肉体の再生が効力なんだ」
「あ……では、リャッカさんにはいまだに……」
「俺は問いかけた。今は一時的に蘇生してるだけだが、俺の研究を手伝ってくれるってんならスターズブルーの遺産を与えて助けてやってもいい。どうする? ってな」
「じゃあ、リャッカさんの答えは、はい、だったのですね」
「違う。こいつは……だからどこに行くんだよお前は。こいつは、俺に村のことを聞いてきた」
「村のこと?」
「自分の住んでた村のやつらのことさ。多少人死には出ていたがある程度は生かされていて、俺はそのことを伝えてやった」
「じょ、情に厚いのですね。リャッカさん」
「なに感動してやがる……。で、リャッカの突きつけてきた条件はこうだ。襲ってきた海賊から、村の安全を保障してくれるなら、ってな」
「では……」
「そんな海賊、どうってことなかったからな。その条件で俺たちは契約を交わし、海賊を退治したってわけだ」
「す、すごいですね……」
「ああ、すごかった。海賊の頭が。あれはありえない」
「え。なにかあったのですか?」
「もっと恐ろしい話もあるってさっき言ったが……。俺とリャッカがふたりがかりで戦っても、それより強かったんだよな。海賊の頭」
「え、えええええ」
「リャッカの殺されたふりでどうにか隙を作って倒しはしたが……。頭がリャッカと一度戦ったことで油断してなけりゃ、隙を突くこともできなかったかもしれないな」
「ほ、本当に怖いですね……。これから先も、そのような強い人たちに出会うかもしれないのでしょう?」
「そんなやつばっかいると思えないが……。その時のことがトラウマになったのか、リャッカはか弱いか弱い言ってやがる」
「そうだったのですね……。きっと恐ろしかったのでしょう……」
「とか言いながらどこへ行く、シスター。いくら涙を隠したいからって、迷いの森で単独行動を取ろうとするな」
「…………なにか、へん」
「なにがだよ」
「………………へん」
「だからなにがって聞いてるんだろうが。リャッカ?」
「…………。なにか」
「よーするに、なんにもわからないってことか。小首をかしげてんじゃねえよ」
「……。ごめん、なさい」
「別にあやまることでもない。……どうした?」
「…………あれ。なにか、見えた」
「見えないな」
「見えませんよね。……もしかして、なにかの条件でリャッカさんだけ迷いの魔法が利かないとか!?」
「…………単純に、リャッカの目がいいだけだと思うんだが。もう少し近づけば……おっ」
「あ、ああああ。や、やりましたよコーデントさんっ。きっとここが妖精の里です!」
「あー……そう、だな」
「なにか、ご不満でも?」
「なんにも苦労なく、迷いもせず、妖精の里にたどり着いてしまった……」