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建前と本音

「やかましいっ! リャッカそっちを……ああ、もう終わったのか」

「……倒した」

「なにやってるんですか、おふたりともっ。はやくしないと、私のお金が!」

「あのなシスター……。にしても、次から次へと盗人どもが襲ってきやがる。売りに来た財宝なんて担いでるからだが……ええい、うっとうしいっ」

「………………」

「シスターが盗まれた金を取りもどさなけりゃならないのに、肝心の盗んだ妖精に追いつこうにも盗人どもが邪魔で……って、またか!」

「…………倒した」

「おふたりともっ、はやくはやくっ」

「ああああ、なんで戦いもしないシスターが俺たちを急かすんだ! せめて盗人のひとりでも倒してから……うん、悪かった、やめてくれ」

「まだなにもしてませんよ!? なんで今あきらめたのですかっ」

「いや、な……シスターが無駄に怪我して追いかけるのが遅くなる未来しか考え付かなかった」

「うううう、不吉なことを言わないでくださいっ。私にもその未来しか見えませんけどっ」

「自覚があるのはいいことか……シスターが攻撃魔法を覚えれば、全部解決するんじゃないか?」

「……魔法の適正がどうとか言ってませんでしたっけ。私でも使えるのですか?」

「回復魔法も使えて攻撃魔法も使えた魔法使いはいたらしいが……どのみち教えられる人間がここにはいないな」

「意味ないじゃないですかっ! ああ、無駄な話をしてる間にも妖精が遠くへ……」

「あんだけ重い金を持ってそこそこ速度を出してるんだから、あの妖精もすごいよなー」

「感心してる場合ですか! どうにか追いつかないと……って言ってる間にまたっ」

「また盗人……リャッカ、短剣なんか奪ってどうするつもりだ?」

「投げる……ていっ」

「あー……おしい。もうちょっとで妖精に当たって……げ。伏せろシスター!」

「痛いですっ。手で押さないでくださいっ。いったいなにをして……きゃあああっ!? な、なんですか、冷たくて、氷が飛んでいきましたよ!?」

「あの妖精の魔法だ! リャッカが投げた短剣の仕返しのつもりなんだろ。……シスター、あの妖精に攻撃魔法教えてもらったらどうだ」

「絶対に嫌ですっ。あなたはよくこんな状況で冗談を言う余裕がありますねっ」

「竜神様のブレスじゃあるまいし、俺もリャッカも、この程度じゃ死なないしなぁ」

「……もしかして、危ないの私だけですかっ!?」

「平和だなー」

「うううう……っ」

「だいぶ追いついてきたか……さっきの派手な魔法で、盗人が近づいてこなくなったのがよかったな。いい魔法だった」

「いい魔法じゃありませんっ。絶対にあの妖精は許しませんよ……!」

「まあ……別にかまわないけどよ。魔法放たれたのは向こうの責任だけとは限らないんじゃないか?」

「人のお金を盗んだんですから、攻撃されるような事態になるのはあたりまえでしょうっ。全部自業自得というものです!」

「なるほど……。耳が痛いな」

「なんの話をしているのですか!?」

「あれだけ派手に財宝だのなんだのを売りさばけば、そりゃあ悪い奴の目に留まって奪われるような事態になるのは当たり前かと」

「わ、私はまっとうに商売をしていただけですっ」

「しかし売り物は偶然出会った海賊から奪ったもの。自業自得かどうかはともかく……天罰ってやつか?」

「それは……ほら、なんの罪もない人々から金品を奪った海賊たちへ、天に代わってコーデントさんたちが罰を与えたのですよ。財宝がどこの誰のものかなんて調べようがないですから、善行をしたコーデントさんたちへの報酬としてあの財宝は送られたのです。そう、神からの贈り物です」

「シスターの町で火事場泥棒したこと覚えてるか?」

「あのままでは貴重な魔法道具の材料が、竜神様に壊されてしまう。そう思ってあの場から材料を持ち出したのでしょう? 物を大事にする心。素晴らしいことです」

「……なんでだろう、これから先、聖職者とかそのたぐいが信じられなくなりそうだ」

「どうしてですか!?」

「やかましいっ。なんでも口先だけで綺麗ごとにされたらなんだって信じられなくなるっての!」

「あなたこそどうして物事を悪いほうに見ようと……見ようと?」

「お、なんだ? 妖精が立ち止まって……いや、浮き止まって?」

「そんなことどうでもいいじゃありませんか」

「そりゃそうだ。引き離せないことが分かって、もしかしてここで勝負をつけるつもりか?」

「え、えええっ。それって危ないってことじゃありませんか!?」

「絶対に許さないとか息巻いてたのに、このシスターは……」

 雑多な建物にかこまれたせまい路地。

 その中で、ぴたりと移動するのをやめた妖精を見上げ、リャッカが小首をかしげる。

 視線を浴びながら、妖精が一言。

「飽きた」

「……は?」

「いやもう、ほら。十分遊んだし。飽きたよ。あたし、友達からも飽きっぽいってよく言われるんだよね」

「おい、待て」

「お金返すね。別にこんなのいらないし」

「袋を投げ捨てやがった……」

「わ、私のお金っ!」

「…………。あのな、飽きただかなんだか知らないが、このままで済むと思ってるのか?」

「んー……。まあそっか。じゃあ、ごめんね。あたしが悪かったです。ごめんなさい」

「はあ?」

「じゃあ、謝ったから。さよーならー」

「行っちまった……」

「な、なんで追いかけないのですかっ」

「必死になって金の入った袋に頬ずりしてたシスターには言われたくない……。別にシスターと違って、そこまであの妖精に興味ないしなぁ。金も返ってきたことだし」

「あ、甘いですよ! ああやって人に迷惑をかけて、いたずらばっかりして、立派な大人になれませんっ。教育のためにもきちんと罰を与えるべきなのですっ」

「あの妖精の教育とか、ますます興味ないなぁ。ところでシスター」

「……なんでしょう」

「立派な大人になった妖精というのも、妖精という種族だから人にいたずらして迷惑かける生き物なんだが」

「………………。だからって許せません! なんですかあれ、飽きたから返すって!」

「ああ、ついに本音が……」

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