話し終わって
「あー……」
「…………」
「暇だなー……」
「…………」
「おい、リャッカ、黙ってないでなんか言えよ」
「…………。なにを?」
「なにをたって……こう、面白そうな話題とかないのかよ」
「……コーデント、は?」
「あん?」
「……あるの?」
「あったら話せなんて言わないで、こっちから話題を振るが……もう一回、始まりの島の話でもしようか?」
「……いい」
「だよなぁ。無人島で、まったくなにもなく、こうして優雅なバカンスがこんなに退屈だとは……」
「……そう」
「リャッカはなにか、感じないのか? 暇だったりしないか?」
「……たまには」
「おお、やっぱり暇か?」
「……別の物。食べたい」
「あのな……いや、確かに俺ももうちょっといろんな食べ物あると嬉しいけどよ」
「……うん」
「……。そろそろ本気で、バカンスを終了しないとまずいかもな。のんびりしててもしかたない」
「…………」
「行き先のあてはないが……この島を脱出するか」
「……泳ぐ、の?」
「いや、さいわいこの島は、人はいないが木々には困らないからな。船とはいかなくても、いかだくらいなら作れるだろ」
「……じゃあ、斬ってくる」
「……木って、こんなにすぱすぱ斬れるもんだったかな。今の俺なら同じこともできるんだろうが……あいつ剣だけで斬ってやがる。腕力か? 技術なのか?」
「どう、したの?」
「いや……おつかれさん。お前、村で暮らしてた頃もそんなに腕力強かったのか?」
「…………今と、同じくらい」
「そうか……」
「……?」
「気になっただけさ。それじゃ、今度は俺の出番か」
「……すごい」
「そうだろうそうだろう。くっくっく、リャッカじゃこんな細かい作業はできないだろうからな」
「指、伸びない」
「こうやって指先を尖らせて動かせば、簡単に穴が開くってわけだ。さぁて、作るぞ!」
「……うん。器用、だね」
「はははは! もっと褒めたっていいんだぜ!」
「すごい」
「さぁ、どんどん行くぞ!」
などと。
コーデントの嬉しそうな声と、リャッカの褒め言葉が、無人島にしばらく響いていた。
「というようなことがあってだな。その後、リャッカの飯の欲求が日増しに強くなっていったりして本当にひどかった……」
「うわぁ……。大変だったんですね、おふたりとも」
「はっはっは。今は他人事してるシスターだって、そのうち当事者に……」
「そうならないために危険感知装置作ったのでしょう!? そのために作ったのですよね!?」
「世の中、なにが起こるか分からないもので。一寸先は闇というか……どんな道具を使ったって不幸な事件が起きるときは起きるもんさ」
「ああああ……。やっぱり海賊船になんて乗ったのが間違いだったのでしょうか……」
「なんなら今から、引き返して元の島に連れ帰ってやってもいいけど」
「戻れるわけないから乗り込んだんじゃありませんか! それにもしかしたら島が全滅してるかもしれないのに、戻る勇気なんてありません!」
「さすがにそこまで深く気絶させたわけでもないし、住民全滅ってことはないと思うが……まあどうなってるかは分からんよな」
「うう……みんな無事でありますように」
「見捨てて逃げた人の台詞じゃあねえよなあ」
「見捨てられて生贄に捧げられた人の台詞だと、置き換えてもらえれば」
「なるほど。……それでも知り合いが心配だって?」
「そ、そりゃあ心配ですよ。なんてったって、私は心が清らかですから」
「自分でそういうこと言うなよ、自分で。別に否定しようとは思わないけど」
「ああっ、そんな私が海賊の片棒を担ぐことになるだなんて。いったい私はどうなってしまうのでしょう……」
「その海賊のお宝を、目を輝かせながら見てたような気がするが」
「気のせいです」
「はい。……ところでシスターは戦えたり」
「するように見えますか?」
「見えない」
「……それこそ、いつぞやのコーデントさんみたいにフライパンを振り回すことになりますよ」
「いらない怪我の元にしか思えないなぁ。いっそ船の奥に閉じこもってるか?」
「それって、状況がわからなくてすっごく不安だと思いますけど……」
「ううむ……外の様子を探る魔法道具でも作ってみるか? 材料はないが」
「……ないんですか」
「ない。完全無欠にない。きっぱりとない」
「ど、どうしようもないように聞こえますね。それは」
「大陸だったら、小規模な魔法道具の材料ぐらいいくらでも手に入ったんだけどな……」
「そうなのですか。やはり、大陸はすごいですね」
「ん……別に大陸じゃなくたって材料ぐらいありそうだけどな。単純に、この海じゃ誰も魔法道具なんて作らないから、材料が出回らないってだけで」
「なるほど……。魔法道具の材料って、お高いのですか?」
「物による」
「ええと、具体的には」
「さっき言った小規模な材料だったらそれこそ超安値……というほどでもないが、普通の家で苦も無く買える程度だろうし」
「大規模なものだと?」
「うむ。大規模な魔法道具の材料だと……それこそ、材料だけで国宝級だろうな。少なくとも街を買えるぞ、街を」
「……え?」
「え、じゃなく」
「街でお金を出し合えば買える程度ってことですか?」
「いや、街をそのまま自分のものにできるだろうって意味だが」
「え、ええええええ!?」
「まあ、そんなもの滅多にあるものじゃないが……一度は触ってみたいよなー。憧れだなー」
「あ、憧れですか」
「魔法道具に携わる人間だったら、誰だって思うことだろ。そんな材料があれば、もうなんだってできるぞ。数十人で魔法回路を組んだって尽きない程度の魔力が……」
「コーデントさん!」
「お、おお?」
「ぜひ、ぜひその材料を探しに行きましょう! 憧れなんですよね!?」
「………………別に探しに行ったって構わないが、あんた絶対にお金のことしか考えてないだろう」
「そ、そんなことあるわけないじゃありませんか。私はただ、コーデントさんの夢をかなえて差し上げようと」
「だったら始まりの島を……」
「始まりの島……たしかに素晴らしいです。スターズブルーの遺産の起源は誰しもが興味を引かれるものです」
「あ、ああ」
「ですが、私たちは今を生きているはずです。過去の事よりこれからのこと……魔法道具の材料を探して、未来に貢献すべきではありませんか?」
「ふむ。確かにシスターの言う通りなのかもしれないな……」
「そうでしょう、そうでしょう」
「ちなみに、始まりの島にある資料さえ見つかれば今までの魔法理論が一新され……それこそ材料なんて目じゃないほどの栄誉と財宝が手に入る予定だが」
「やっぱり大事なのは過去ですよ。人間、誰しも過去に目を向けることによって進歩していくことができるのですから!」
「シスター……」