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危うきには近寄らず

「どうにかこの巨大生物の体内から脱出しないと……!」

「……うん」

「が! ……船推進装置の勢いで突破しようとしてるのに、まったく方向が定まらない。やっぱり転覆装置だろ!?」

「……うん」

「そして後ろからはじりじりと消化液が……というか、さっきから何度か浴びてるけど。なんで消化液が口のあたりまでくるんだよっ」

「……浴びて、大丈夫?」

「な、なんとか……」

「……そう」

「消化しきれなかったらしい魚介類を見てもしやと思ったが……、少しは耐えられてもこのままじゃまずい。というか、転覆装置での体当たりの影響でさらに消化液が強くなってる気もする……。ええい、もう一度だ!」

「……うん」

「……っ、ぐっ、抜けた!」

「の?」

「ああ、だが顔を出すのはもう少し待ってろ、海の中だし巨大生物が暴れてる。どうにか逃げないと」

「……」

「……どうした?」

「……海の底に、沈んでも」

「縁起でもないことを言うんじゃないっ」

「……。わたし、このままなんだろうなって。……空気、なくても」

「後悔してるのか? スターズブルーの遺産なんてものを使ったことを」

「…………」

「ふん……。とにかく、このまま海の底ってのだけは避けないとな」

「……うん。おなか、すいた」

「さっき魚食っただろう!?」

「…………。頭、ぐるぐるする」

「我慢しろ……そろそろ海面にでるぞ!」

「うん……。出た」

「久々の青空……って感傷にひたるには、巨大生物生活が短すぎたが」

「……うん」

「しかし、しかし……帰ってこれた。死ぬかと思った!」

「……。そう」

「ああ、なんだか気が抜けるぜ……」

「……船」

「なくなったな」

「どうする、の?」

「まあ、とにかくどっかにたどり着くまで泳ぐしか……なんだよその顔は」

「……さっきの」

「ああ」

「乗せてもらえば、楽だなって」

「人を乗り物にするつもりか!? 俺はお前の雇い主だぞ」

「……」

「だいたい、さっきの消化液であちこち痛いってのに……くそっ。転覆装置も脱出の時におとしちまった。大事なものとかは無事だが……」

「……。大事な、もの?」

「ああ。魔法道具作成に使う工具とかな」

「……、そう」

「問題は材料だよな……工具だけあったってなにもできやしない。まあ、工具のほうがこの海じゃ貴重だが」

「わたしも」

「……あん? なんだ? お前も貴重だから大事にしてほしいってか?」

「ううん」

「じゃあなんだよ」

「大事なもの、無事」

「…………食料だな」

「うん」

「まあ、たしかに大事だが……」

「うん」

「……。なあ、リャッカ」

「……なに?」

「お前さ、自分の島を出てから……やる気ないだろ」

「……そんなこと、ないよ」

「そうか?」

「うん」

「そりゃあすまなかったが……」

「現実味が、ないだけ」

「そう、かもな。……まあとにかくだ」

「うん」

「ええと、なんだ。その」

「……うん」

「つい、お前のことを否定ばっかり」

「島」

「しちまったが今回は助かっ……なんだと?」

「……島。あっち」

「なーんにも見えないが。本当に島なんてあるのか?」

「ある」

「…………じゃ、お前を信じて行ってみるか」

「うん」

「……はあ、なんだかな」

「……。どうか、したの?」

「なんでもないよ」

「……?」

「おっ、あれか島。あのなんかかすんで見えるやつ!」

「うん、そっち」

「……なんであんなの見えるんだ。もしかしてお前、目がいいのか?」

「……。さあ」

「お前なあ。まあお前らしいって言えばらしいのかもしれないけどよ」

「……そう」

 しばらくして。

「よしっ、上陸した!」

「……うん」

「いやぁ、この島はあれだ。見事に」

「うん」

「……無人島ってやつだな!」

「……うん」

「とりあえずここで一息つくとして、人のいる島を探さねえと……くっくっくっ」

「悪い顔、してる」

「アーデルのおっさんに感謝しないとな。本をよこせリャッカ。俺たちの目的に一歩近づいたぞ!」

「……目的」

「そうだ。言ったはずだろ。始まりの島に到達し、スターズブルーの遺産誕生の原点を手に入れる!」

「そのあと、は?」

「なに? そりゃあ、大陸に戻って俺が一躍有名人になって、各国から研究の依頼が舞い込み、女だって選り取りみどり……」

「……。わたし、は?」

「…………。ま、待った。それはつまり、その、え?」

「……? どう、したの?」

「どうしたのじゃなく! 待て、お前はなにが言いたいんだ」

「……うん。だから」

「だから?」

「……契約が、どこまで続くのか」

「………………」

「……?」

「……か、考えてもみなかったな。始まりの島が見つかったあと、お前が自由かどうか、ってことか」

「……そう」

「あー……自由に、なりたいのか。やっぱり」

「……別に」

「お前な」

「……島に、戻れないから」

 手のひらを太陽に透かし、リャッカは見上げている。

 しばしの沈黙の後、リャッカは口にした。

「……。また、負けた」

「リャッカ、お前な」

「わたしはか弱いから……もっと、強くならなきゃ」

「剣士として、か。アーデルのおっさんだって、スターズブルーの遺産を使ってたんだ。お前がスターズブルーの遺産を使っても、魔法道具を使ったとしても、負けたことにはならないさ」

「…………」

「勝てばいいんだ、勝てば。おかげで、俺たちはここにいられるんだろう?」

「…………うん」

「あの巨大生物に飲み込まれさえしなければ、そんな危険な目に合うこともなかったんだろうが」

「……船。捨てれば、逃げられたもんね」

「ほんとはな。さっきだって、巨大生物が暴れてたものの逃げ切れたし」

「……うん」

「船を捨てるのがいやで乗ったままだったが。油断しすぎたというか、巨大生物を甘く見てたな……というかそもそも、もっと早く巨大生物に気づければ接近する前に船で逃げられたんだよな」

「……うん」

「あのままだったら、なにも気づかずに消化されてたかもしれないし。甘く見すぎてた」

「……溶けるのは、いやかも」

「リャッカでもそう思うのか……。今回、始まりの島の手がかりになる本を手に入れたのは幸運だったが」

「…………」

「今後はなんというか……危険なことには、近づかないようにするぞ! さっさと逃げたほうが賢明だ」

「……うん。そうする」

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