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お互いさま

「神々の時代が終わったころ。魔界から大陸へと降臨した魔王の瘴気は、波のように世界中へと広がっていった――!」

「おやおやおや。聖地セウコルスの賢者たちは死力を尽くして瘴気を防ぎ、大陸を救ったのでございますな」

「そう、大陸は救われた。降臨した魔王の脅威は変わらなかったが、ともかくその瘴気からは救われたわけだ」

「魔王から放たれる気の力、瘴気は、呪いのような……あるいは悪夢のような力を持っていたのですな」

「そう、ある時は瘴気に蝕まれて身体が腐り落ち、ある時は瘴気が実体を持って魔物となり人々を襲う」

 リャッカが船のはじっこで身を乗り出し、オールを持って巨大生物の内部を軽くたたいていた。

 こんこん。

「それらの現象に常人が立ち向かうことはできません。おやおやおや。常人でなくとも太刀打ちできるものではなかったのでしょうな」

「しかし、大陸は賢者たちによって救われた。……ふふふ。大陸、だけだ!」

「ええ、ええ。大陸より西方……この海とそこに点在する数多くの島々は、瘴気に飲み込まれた呪われた海となったのです!」

「大陸が完全に救われたあとも、この海は呪われているとして誰も近寄ろうとはしなかった。が、実は」

 リャッカが、生物の壁を叩くのにあきたのか、オールを元の場所に戻しに行く。

 少しして、釣竿を片手にもどってきた。

 ひゅっ。ぽちゃん。

「――魔王の余波に襲われたこの海は、すでに救われていたのでございます。救ってくださったのは、もちろん」

 コーデントとアーデル。

 ふたりの声が重なる。

「スターズブルー!」

 リャッカはぼーっと、釣竿を持ちながら、水面を眺めていた。

 コーデントと、そしてひょろっとして頼りない中年男性であるアーデルのかわしている会話には、まったく興味がないらしい。

「……一説によると、スターズブルーと呼ばれる何者かは、神に祈りこの海を救う力を授かったという話ですな」

「その力こそ、スターズブルーの遺産、というわけだ。誰もが求めてやまない力……」

「……先ほど聞かせていただいた話ですと、あなたがたも始まりの島を探しておいでとか」

「ああ、そうだ。こんなところで同士に会えるとはな」

「ええ、ええ。素晴らしいことでございます。ところで……なぜ、始まりの島をお探しに?」

「……。神への祈りが届いた奇跡の地だ。誰もその場所を見つけたことはないとされてる。その神秘の場所を、一目でも見てみたいじゃないか?」

「なる、ほど……。そうかもしれませんな。もしや、スターズブルーの遺産をお探しになっているのではないかと思いまして」

「……始まりの島のスターズブルーの遺産は、島々を救うために海の各地へばらまかれたんだ。始まりの島には残ってないさ」

「しかし、全部がばらまかれたとも限りますまい?」

「つまり……つまりおっさんは、スターズブルーの遺産を目当てにしてるってのか?」

「おやおやおや。わたくしも、あなたと同じ考えですよ。ただ、もし遺産を目当てにしているかたがいらっしゃっても、おかしくはないと思ったもので」

「くっくっく、ま、もしもあるならそのほうが助かるがな」

「……というと?」

「つまり、だ」

「ええ、ええ」

「辿り着いて、帰る時。スターズブルーの遺産があれば、帰り道がちっとは楽になるんじゃねえかな……」

「……こんな怪物に閉じ込められても、あるいはなんとかなるかもしれませんなあ」

「ぬう……」

 リャッカはいまだに釣糸をたらしたままだった。

 魚の釣れる様子はなさそうだ。

「あなたがたは、おふたりで旅をなさっておいでなのですよね」

「そうだが?」

「魔物はもちろん、性根の悪い海賊などもはびこるこの海です。ふたりで旅とは危険でございましょう」

「ん、まあ、そうなんだが……。俺はこないだまで学校で勉強なんてしてただけだからさっぱりだが、知り合いの、ほら」

 釣竿をひたすら持っている、少女を指さし。

「リャッカが、ものっ凄い剣の腕をしてるもんだから」

「そうなのでございますか」

「ございますよ。まあ、あやしいおっさんを簡単に船に乗せることができる程度には、腕が立つな。……なんとなく俺の立場もないが」

「ですが、彼女は釣りの夢中のご様子」

「夢中ってほどでもないだろうが……。まあ、暇なんだろうな。それで?」

「この隙に、あなたを人質にとってしまえば、困ったことになるのでは?」

「……、言ってみた、だけだよな?」

「……言ってみただけですな」

 平然とアーデル。

「ぬう、人の困るようなことを言いやがって」

「おやおやおや。それは申し訳ございません」

「ところで、あやしいおっさん」

「アーデルと申し上げたはずですな。そこまであやしくない、という自負もございます」

「あやしいだろう。さっき投げられた質問を返してやる」

 ぴっ、とアーデルを指さし。

「中肉中背、道化師みたいで腕力がありそうに見えない。そんなおっさんが不思議なことに」

「不思議なことに?」

「ちゃっちい小舟一隻で、たったひとりで、始まりの島を探す旅の途中だと? 俺には、あんたがリャッカほどすごい人物だとはとても思えないがね」

「それはそれは」

 アーデルは、薄い笑いを浮かべた。

「あなたは、勘違いをなさっておいでですよ。おやおやおや」

「勘違い、だと?」

「ええ、そうです」

「……言ってみろ」

「始まりの島を探す旅の途中、この怪物に飲み込まれた。そのようなことは言ってございません」

「いや、言っただろ」

「いえいえいえ。探す途中、飲まれたのです」

「………………あん?」

「つまりですな。始まりの島を探そうと思って、とりあえず一時間ぐらいでいける隣の島へちょっと小舟で向かったところを、偶然居合わせた怪物にごくり、というわけですな」

「ああ、ああ……うん。旅ではなかったと言いたいわけか。なんて災難な。不幸だったな、おっさん」

「いやはや、まったくです。もう少し海が浅ければ、このようなことにもならなかったでしょうに」

「うちの師匠が川を渡るために、自分で舟を作ったときのことを思い出すな。もう少し川が深ければ舟も浮いたのに、って嘆いてた」

「おやおやおや。それは大変でしたでしょうな」

「歩いて渡れるって何度も教えてやってるのに、舟を作るって譲らない師匠に付き合うのはそれはそれで大変だったが」

 コーデントは遠い目をした。

「師匠とおっしゃいましたが、なんのお師匠で?」

「む。まあ、あれだ。魔法に関する遺跡とかの。さっきの浮かばない舟も、昔は川の水位が高くて舟で渡ってたって伝承があったからそれに倣おうとしたようだし」

「ははあ、なかなか素晴らしいご趣味をお持ちのお師匠さまですな」

「そうだろうそうだろう。浮かばなかった舟はともかくとして」

 そんなことを話していると、リャッカが竿を引いて大きな魚が船の上に落ちてきた。

「……。釣れた」

「なんだと……おいおい、ちょっと待て」

 そんなことを言いながら、コーデントは魚へ近づいていく。

「この巨大生物は、体内に魚を飼ってるのか……?」

「食べる」

「この魚を食べるのは、まあ構わないが」

「…………。どう、だった?」

「なんか妙に警戒されてるというか……やけにこっちの情報を探ろうとしてやがるな。あのおっさん、どうもあやしいぞ」

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