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少年と黒髪少女

 波の音が耳に響いていた。

 潮の匂いが、鼻腔を満たす。

 海に浮かぶ丸太のいかだ。

「ひま、だなぁ」

「……うん。ひま」

 少年の言葉に、応えたのは黒髪の少女だった。

「あー、くそっ。なんか楽しいことないのかよ」

「……、どういうのが、楽しい?」

「んぁ。お前が服でも脱げば俺は楽しいよ」

「……脱ぐ」

「おぉっ……? おおう」

「楽しい?」

「とっても。お前、恥じらいとかないよな……。いや、少し頬赤いか?」

「穴とか掘れば、好きなだけみられるよ?」

 淡々と発せられる、普通は意味の分からない台詞。

 彼女の言いたいことは、彼もとりあえず理解できたのだが。

 否定する。

「そういうのとはまた違うって」

「……そう。でも、楽しくてよかった」

「漂流してなけりゃもっと楽しんだけどね」

「……ほんと、そうだね」

 ざぱーん。

 波の音。

「見えた」

「あ……? なにがだ?」

「……あれ」

「……って、船か!? 助かった。漕げ、リャッカ! おーい!」

 いかだを少女に漕がせながら、自身は大きく手を振りながら声を響かせる。

 そして、船は近づいてきた。

「……海賊船、だね」

「あー、みたいだな」

 落ちついて服を着ながら言う少女の言葉に、少年もうなずいた。

 船の上から呆れたような声。

「おいおい、まだ子供じゃねえか……ちっ、金目のものは持ってなさそうだぜ」

「待てよ、けどそっちの女はけっこう……」

 ぞろぞろと顔を出す海賊たち。

「やっぱ海賊だな。金目のものをだいぶ持ってそうだ」

「……ごはん」

「いつも思うんだが、なんでお前は飯食うんだ?」

「……お腹、減るから」

「だから、俺はともかくなんでお前が空腹になるんだよ?」

「…………」

「ちっ。まあいいや、さっさと獲物にありつこうぜ」

「じゃあ、投げる。ていっ」

「ちょっ、まっ――」

「な、なんだぁあああ!? ガキの男のほうが飛んできただと!?」

 腕を掴まれて思いきり投げられた少年。

 空中で体勢を整えると、海賊の頭上を越え甲板に着地する。

「な、なんだ、お前は!?」

「んあ……俺か。海賊。コーデント・グラム」

「海賊、だぁ……!? ガキの分際でっ」

「やっちまえ!」

「おおうっ!」

 殺到する海賊たち。

 瞬間、鈍色の光が閃く。

「な……なにが起こりやがった!? ガキの体から鉄の刃が現れて……。これじゃ、まるで魔法……」

「ぼさっとするんじゃねえ! 俺らまでやられちまうぞっ!?」

 腹から巨大な鉄の刃を生やす少年。

 その少年に対して迂闊に攻め込めず、海賊たちがただ取り囲む中。

「ん……なんだよ。リャッカも登ってきたのか?」

「……ひま。だめだった?」

「別にいいけど……あーあ」

「へっへっへ。ガキの女がわざわざ人質になりにきてくれるとはな。いっちょまえに刀なんて腰に佩いて、なんの役に立つってんだ。よーし、動くんじゃねえぞ、海賊少年。このナイフで女の喉を裂かれたくなけりゃな」

「やればいいだろ、さっさと……。構いやしないぜ」

「減らず口を……てめえの力の正体は分かってんだ。スターズブルーの遺産、こっちに渡してもらおうか」

 へっへ、と海賊の男がにやつく。

「俺たちゃ優しいからな。このか弱い女の子と、スターズブルーを交換してやろうじゃないか」

「だから、さっさとリャッカを刺せばいいだろ。それに俺のは」

「……わいから」

「あ? なんか言ったか、ガキ。女のほう」

 十数秒後。

 船の上には死体の山。

 すべて、少女の刀によるもの。

「わたしはか弱いから…………もっと、強くならなきゃ」

「やり過ぎだろうよ。お前のせいで、俺の見せ場がねえじゃねえか」

「……大丈夫。強いの、知ってるから。ごはん」

「あーあー、分かったよ。たくっ」

 船内の食料をふたりが漁りながら。

 乗っ取られた海賊船は、海を西へと向かっていた。


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