第二十四話 救出作戦
智観が麗奈や千秋と一緒にチョコを食べている時、突然それは起こった。
耳をつんざくかのような爆発音がいきなり聞こえてきたのだ。
「きゃっ! 何、今の音!?」
驚いた為に危うく落としかけたチョコの袋を、間一髪キャッチした智観が叫んだ。
「知らないわよ!」
「何かが爆発したんでしょうか? あっちの方から聞こえましたよ?」
当然だが麗奈と千秋にも原因は分からない。二人とも音が聞こえてきた方向を、不安を湛えた瞳で見つめている。
彼女達の視線の先を目で追ったところで、智観は気付いた。
「あれ? 向こうって確か明日華達のいるところじゃ……」
そう言われて彼女達も思い出したらしく、顔に浮かぶ不安の色が更に濃くなったように見えた。
「ねぇ、見に行った方が――」
良いんじゃないかな、と智観が言おうとした時。今度は空気を切り裂くような音と共に青白い電撃が走るのが見えた。
「今度は何ですか!?」
「今のは見えたわ! 電撃よ! でも下から上に走ったってことは……」
裏返った声で尋ねる千秋に、麗奈が冷静に答えた。
彼女ははっきりとそれを見たらしい。
「明日華か悠里の魔法ってことだよね?」
智観にもそれは見えていた。あの電撃は確かに地上から空中へと向かっていた。
それはつまり自然現象ではなく、地上にいる者が放ったものであることを意味する。
「行きましょう! 明日華達の身に何かあったのかもしれません!」
真っ先にそう言ったのは千秋だった。彼女は不安と覚悟が入り混じったような、複雑な表情を見せていた。
無理も無い。唯一無二の親友である明日華が――そして当人達以外は誰も知らないが、互いに守り合うことを誓ったパートナーが――危険に晒されているかもしれないのだから。
「そうね。さっきのは多分明日華の魔法剣だと思うけど、魔力を抑制されてるようには見えなかったわ。早く行ってあげた方が良いんじゃない?」
一年生はこの合宿中も普段の授業時と同じく、魔力を抑えるブレスレットを着けさせられている。
魔力の暴走を防ぐ為の措置らしいが、先程の電撃はその抑制が効いてなさそうだったという。
つまり麗奈の言いたいことは、明日華と悠里の身に相応の危険が迫っているということだ。
(麗奈なりの気遣いなのかな?)
いたずらに千秋を動揺させない為の気遣い。
麗奈が直接的な言葉でそれを伝えなかった理由を、智観はそう解釈した。
「麗奈の言う通りだね。千秋、準備は大丈夫?」
「もちろんです!」
「えぇ、行くわよ!」
三人は明日華と悠里がのもとへ全速力で向かう。
この頃になると周りの生徒達も、何らかの非常事態が発生していることを肌で感じていた。不安や恐怖、緊張といった感情はほぼ全ての一年生に伝染していた。
辺りには爆発音のした方向から少しでも離れようとする生徒達の波ができている。智観達はその波に逆らって友人のところへと急いだ。
途中で智観達は神田と合流した。彼女は走りながら無線機で誰かと連絡を取り合っていたが、通信を終えると智観達に話しかけてきた。
「あれ? あんたら一年生やろ? こんなところで何しとるん?」
「友達がいるんです! この先に!」
「えぇ。実はですね――」
智観達は足を止めることなく答えた。
爆発と電撃が発生するのを見たこと。ちょうどこの先に明日華と悠里がいること。そして彼女達が危機に晒されている可能性があることを。
「何やて!? 北条と日野がか!?」
神田はそれを聞くと、立ち止まって叫んだ。
彼女の先程から真剣な顔付きだったが、今では一層険しいものに変わっている。
それから彼女は、同じく立ち止まった智観達の方に振り向いた。やや迷ったような様子を見せてから彼女は口を開いた。
「分かった。うちも一緒に行くから、絶対うちの側を離れたらあかんで!」
「は、はい! 頼りにしてます!」
「お願いです、神田先輩! 明日華にもしものことがあったら私……」
智観と千秋は縋るような想いで神田にそう言った。
一人、麗奈だけは少し間を置いてから尋ねた。
「ねぇ、先輩。こういう時って下級生(あたし達)を連れて行っても大丈夫なの?」
「本当は問題があったらうちら三年生や教師が対処せなあかんねんけど……」
麗奈の疑問に神田は言葉を濁した。彼女はまだ困惑しているようだ。
続けて千秋も尋ねる。
「え? じゃあ私達が行ったらまずいのでは?」
「まぁその通りやけど……どうせ来るな言うても無理やろ? 友達が心配やと思うし」
「あれ? お見通しでしたか?」
千秋は自分の心が見透かされていたことに意外そうな表情を見せた。
しかし神田は当然だと言わんばかりに答える。
「そら、うちがあんたの立場やったらそうするからな」
「なるほど……」
納得した顔になる千秋。このやり取りを見ていた麗奈と千秋は顔を綻ばせた。
「話が早くて助かるわ」
「頼りにしてます、神田先輩!」
三年生の先輩、神田深那子。
雰囲気から軽そうな性格だとばかり智観は思っていたが、意外な面倒見の良さと物分りの良さを備えているようだ。智観は彼女に対する認識を改めさせられることになった。
だがすぐに智観は現状を思い出すと、真剣な顔に戻って叫んだ。
「それより早く行かないと明日華が!」
その声ではっとなった麗奈と千秋は慌てて駆け出そうとするが、しかし神田はそんな二人を制止した。
「ちょい待ち! その前に魔力制御外して、フィールドが機能してるか確認しとき!」
神田の指示に従って、三人は揃って魔力を抑えているブレスレットを外した。続いて逆の腕に着けたフィールド発生用ブレスレットが正しく機能しているか確認する。
もしこれが機能していなければ、飛び道具に対して丸裸で挑むも同然であるからだ。
智観は念の為に形見のペンダント――こちらにも同様フィールド発生機能がある――も確認しておく。幸いどちらにも異常は無かった。
「準備はええな? 行くでっ!」
三人とも確認が終わったのを確認すると、神田は先頭に立って走り出した。
智観達一年生も彼女の後に続く。
建物の廃墟を迂回し、斜面を滑り降りて進んで行くこと数分。すぐに明日華と悠里のいる場所は見つかった。
その場所は遠目にもよく目立った。と言っても明日華達自身の姿が目に付いたわけではない。
彼女達の周りをぐるりと取り囲んでいる、十体弱の大きな影の方が目に付いたのである。
その円陣の中央で明日華は膝を地に着き、苦しそうな表情を浮かべている。その隣には悠里が寄り添っているのが見えた。
「明日華ー! 大丈夫ですかー!?」
「先輩も来てくれたし、すぐに助けるからねー!」
千秋と智観が声を掛けると。
「あぁ、分かった! 出来るだけ早く頼んだ! 痛っ……」
右の肩口を左手で押さえたまま、顔だけをこちらに向けた明日華が叫んだ。
よく見ると彼女の制服の右肩部分は破け、少量だが流血もしていた。
だが致命傷には至らないようだし、悠里が治癒魔法で傷を治しているので心配する必要は無さそうだ。実際彼女は右手で刀の柄をしっかりと握りしめている。
二人の無事を確認してひとまず胸を撫で下ろす智観。だがまだ油断はできない。
「アームドタウロスね。弱いけど十体くらいで群れるって聞いたけど……」
智観のすぐ横で麗奈がそう呟いた。
「よう知っとるな」
神田が感心したように答える。
そのまま二人は明日華達を助ける作戦について相談を始めてしまった。
「お父様の書斎の本で見ただけよ」
「親父さん……あぁ、納得。ともかくその本の情報は確かみたいやな」
「えぇ。破壊されたのが四体に、未だ生存してるのが――八体ね。全部で十二体」
「平均よりやや多めってとこか?」
すっかり話から取り残されてしまう智観。
話しかけようにも隙が見出せないし、話すべきことも見つからない。
とりあえず会話と視覚情報から分かったことは、明日華達を襲った鉄騎兵は十体前後で群れる習性があること。そのうち四体は彼女達によって倒されていること。つまり彼女達を助けるには残り八体を自分達が何とかしなければならないことの三つだった。
多分千秋も同程度の認識だろう。
そんなことを考えていると突然神田が鋭い声で智観に指示した。
「よし決まった! 小林、あんたは右の二体の注意を引き付けろ!」
「えっ!? 私一人でですか!?」
確かに明日華と悠里を助けたい気持ちでは千秋にも負けていない。
だが自分一人で鉄騎兵二体を相手にするなんて不可能だ、と智観は反論したかった。
しかし彼女はすぐにその意見を下げざるを得なくなってしまう。
「あぁ。うちは手前の三体を、伊藤は左の三体の気を引く。森本! あんたはその隙にあいつらを救出せい!」
神田にも麗奈にも、そして戦闘が不得手な千秋にも各々の役目が割り振られているのだ。
横目で千秋の方を伺うと、彼女は一瞬驚いた様子だったもののすぐに覚悟を決めた顔付きになってメイスを構えていた。
(私だけ怖気付いてるわけにはいかない! でも……)
だがそう思っても智観の中から恐怖心が消えたわけではない。
「でも私、実戦なんて一回も……いえ、一回は経験ありますけど……」
彼女は不安を言葉にして零した。
しかし神田は笑みを見せ、智観の両肩に手を置いて言った。
「一回でも経験あるだけで充分や。注意を引くだけでええ。それに伊藤の前で格好悪いところは見せたくないやろ?」
「なっ、何でそこで麗奈なんですか!?」
不意に麗奈の名前を出され、智観は心拍数が跳ね上がったのを感じた。
智観が密かに想い――自覚したのはつい昨夜だが――を寄せる相手であり、絶対に負けたくないライバルでもある麗奈。
しかも彼女は智観よりも多い三体の鉄騎兵を相手にしなければならない。
恐怖心が少し残ってはいるものの、既に智観の心の大部分は別の感情に支配されていた。
「確かに……麗奈に格好悪いところなんて見せられません!」
「なら任せた! 全員、行くでっ! セイントレイ!」
智観の返事を聞くと神田は満足気に頷くと、鉄騎兵に正対してそう叫んだ。
同時に彼女は手前の三体のうち二体に光の魔法を叩き込み、更に残る一体に薙刀で斬り掛かっていた。
無詠唱な為か威力は低めだが、それでも敵を怯ませるには充分な威力だったようだ。
麗奈も神田の声を合図に、向かって左の三体に向かって行く。
途中、彼女は前を向いたままで智観に激励の言葉を掛けてくれた。
「智観! ちゃんとやりなさいよ!」
「う、うん! 麗奈も気を付けてね!」
「そっちこそ死んだりしたら承知しないからね!」
互いにそんな短い会話を交わした後、智観は右の二体の鉄騎兵を見据えた。
全高は五メートル前後。智観の三倍はあるだろう。
前後に少し距離を開けて二体が並んでいる。どちらの機体も手には大型の剣を装備していた。
これから彼女は千秋が明日華と悠里を助けるまでの間、この二体を相手にしなければならないのだ。
(二体同時は厳しいかな。だったら……)
決して豊かとは言えない知識と戦闘経験を総動員し、彼女は何とかして対抗策を練り上げる。
まず智観が考えたのは二体を引き離すことだ。
彼女だけの力では二体を同時に相手にするのは分が悪い。
「姿無きその刃でもって、我が敵を切り刻め! エアストリーム!」
彼女は奥にいる敵だけを狙って左の掌を突き出し、得意のエアストリームを叩き込んだ。巨体が風に押されて少しずつだが後退していく。
手前にいるもう一体がその隙を突いて斬りかかってきたが、ここまでは狙い通りだ。
左手はそのままに、右手だけで剣を持って敵の斬撃を防御する。
「くっ……」
智観は右腕に力を込め、歯を食い縛りながら受け流した。
力をもろに受け止めないようには善処したが、それでも重い一撃だった。
何とか防ぎ切ると、彼女はそのまま次の魔法の詠唱に移る。
「母なる大地の力よ、我が眼前の敵を再び地に還せ! グランドランス!」
詠唱が終わるや否や、対象となる鉄騎兵の足元から鋭く尖った岩が数本飛び出した。まさしく「大地の槍」だ。
槍は鉄騎兵の脚の一本に直撃し、それを破壊した。のみならず、突き出した岩そのものが障害物となり、この機体を智観と分断することにもなった。
彼女は一対一の状況を作り出すのに成功したのである。
作戦の第一段階が成功したのを見計らって彼女は後ろに飛び退いた。直後、再び振り下ろされた大剣が先程まで彼女が立っていた地面を抉った。
しかし智観はそれには目もくれず、水と雷の魔法を続け様に放った。
水に濡れて電気が通りやすくなった為、単純な攻撃だが特に機械には効果絶大だった。
次の斬撃を繰り出す暇も無く鉄騎兵は動きを停止した。やがて機体の各所をスパークさせながらゆっくりと倒れ込んでいく。
(まず一体!)
手前の機体が再起不能になったのを確認すると、智観は最初にグランドランスで分断したもう一体に向き直った。ちょうどその時。
「今や、森本! 北条らを助けに行ったれ!」
刃と刃がぶつかり合う音に負けない声で神田が叫んだ。言うが早いか、千秋も走り出す。
神田と麗奈の様子を伺ってみると、二人はほぼ一方的に戦いを運んでいた。もちろん優勢なのは彼女達の方だ。
後は彼女が明日華と悠里を助ける時間さえ稼げばそれで終わりだ。
(よし、もう少し! 私、意外と戦えてる!?)
今、智観は少しだが自分に自信を持ち始めていた。
初めは怖かったものの、いざ戦ってみると彼女は自分でも不思議な程に冷静に行動できている。
もちろん鉄騎兵三体を相手に一方的な戦いを演じる神田や麗奈と比べると見劣りしてしまう程度の実力なのだが……。
それはともかく、智観は残る一体を観察する。注目したのは右前脚が損傷している点だ。
(だったら左も壊して機動力を奪うのが良いかな?)
そう判断した智観は敵の左前脚に意識を集中させて、再びグランドランスを唱えた。
狙いは的中。前脚を二本とも失った鉄騎兵はバランスを崩して前のめりに倒れ込んだ。
片手と二本の後脚で何とか立ち上がろうとしているが、その動きは極めて鈍い。智観にとっては単なる的に過ぎない。
「我が眼前の敵に裁きを与えよ! サンダーボルト!」
智観の掌から放たれた雷は、ようやく立ち上がった鉄騎兵のボディを直撃。再びその鋼鉄の身体を地に沈めた。
彼女は自分の力だけで二体の鉄騎兵を撃破できたのである。
「あれ? 私……もしかして勝っちゃったの?」
自分一人で機械の化け物に勝った? 有り得ない。それが智観の今の気持ちだった。
勝利を実感できずに呆けた顔をして立ち尽くしていると、誰かが彼女の肩にぽんと手を置くのを感じた。
振り向くとすぐ目の前に神田の顔があった。
「お疲れさん、よう頑張ったな」
笑顔の彼女は、何よりもまず労いの言葉を掛けてくれた。
「まぁあんたにしては頑張った方じゃない? その……なかなか格好良かったわよ」
続いて麗奈があくまで彼女なりにではあるが褒めてくれた。
自分の側にいるということは、この二人は早々に役目を果たしたのだろう、と智観は思った。
それから友人の安否が心配になった彼女は。
「そうだ! 明日華と悠里は大丈夫!?」
そう言うと辺りを見回して二人の姿を探そうとする。
「心配せんでもええ。全員無事や」
神田の言うように二人はすぐに見つかった。
智観が戦っていた場所の少し後方で、明日華は地面に座り込んでいた。
傍らでは悠里が、そして救助に向かった千秋が、彼女に治癒魔法を掛けてやっている。
それを見て智観の表情は一気に明るくなった。智観は彼女達の元へと手を振って駆け出す。
「明日華ー! 悠里ー! 大丈夫だったー?」
「あぁ、大丈夫だ。ちょっと怪我したけどな」
「私は大丈夫。明日華が守ってくれたから……」
「怪我は治しましたので心配しないでください。智観もお疲れ様です」
どうやら皆元気そうだ。
明日華の制服の右肩部分だけは破れて血が滲んでいたが、もう傷は塞がっており、新しい血は流れ出していないようだった。
「良かった……ところで、早く戻った方が良くないかな?」
安否の確認が終わると、智観はクラスメイト達の居る場所に戻ることを提案した。
「賛成だ。また増援が来ないとも限らないしな」
「増援?」
明日華の返答に気になる単語があったので智観は聞き返す。その疑問には悠里と千秋が答えてくれた。
「うん。最初は二体だけだったの。でも途中から十体もやってきて……」
「明日華は四体までは倒したけど、その時に怪我してしまって追い詰められたそうなんです」
「う……あんなの十二体相手でよくそれで済んだね」
智観はあの型の鉄騎兵十二体に囲まれたところを想像して身震いした。
「まぁ身体が丈夫なことだけが私の取り柄だからな。それより早く戻るんだろ?」
「あ、そうだった。じゃあ戻ろっか」
明日華が千秋と悠里の手を借りて立ち上がる。
ちょうどその時、追い付いてきた麗奈が言った。
「あたしも智観の意見に賛成ね。アームドタウロス――さっきの鉄騎兵の名前だけどね――あいつら群れる性質があるのよ」
神田が説明を引き継ぐ。
「つまり近くにまだ仲間が居るかもしれん訳や。後は国防軍にでも任せてうちらは帰ろ」
当たり前だが誰も異論を挟む者はいなかった。
六人は元来た道を戻り始める。死の淵から生に満ちた場所へ。
途中、神田は無線機で教師や他の三年生に状況報告を行っていた。智観は通信の合間を見計らって聞いてみる。
「色々大変なんですね、引率って。お世話おかけします」
神田は陽気な笑みを浮かべて答える。
「大変は大変やけど、これはこれで結構楽しいで。三年になったらやってみ?」
「そんなものなんですか?」
そうは言われても智観には自分が下級生を指導している光景が想像できなかった。
「うーん。まぁ考えて……あれ? 何の音だろ?」
そう言ってお茶を濁そうとしたところで、智観の耳は何かの音を捉えた。彼女は立ち止まって耳を澄ます。
金属の擦れ合う音。地面を踏みしめる音。そして機械の駆動音。増援と判断して間違いは無さそうだ。
「増援が来おったな。ほっとき」
「あ、はい。戻りま――」
戻りましょう。そう言いかけた智観の台詞は、最後まで言い切られることは無かった。
替わりに聞こえたのは、一筋の青い光線を伴う電撃に似た音。続いて人間の身体がどさりと地面に倒れる音だった。
「なっ!? おい、どうした!?」
真っ先に現状を理解した神田は、倒れた人物――智観の傍に駆け寄った。
彼女の身体の右胸あたりには穴が貫通していた。そこから先の明日華の怪我など比較にならない量の血が流れ出している。
「何が起こったんですか!?」
「私に聞くな! 何か青白い光が見えた気はしたが……」
「それより智観の手当てを……」
状況が呑み込めず、混乱する千秋達。
麗奈は黙って智観の傍に駆け寄り、それから大声で怒鳴った
「一体どうしたってのよ!? ちょっと! 何か言ったらどうなのよ!?」
しかし泣き叫ぶかのような麗奈の声にも、智観は何の反応も見せなかった。