第二十一話 ひとときの休息
合宿二日目。
智観達はクラスごとに分かれて、多摩川町から南へ向かって行軍の練習を行っていた。
全員、食料や治療薬などが入った背嚢を持たされている。
十キログラム弱だろうか。実際の兵士のものよりはずっと軽いようだが、重いことには違い無い。
ましてや十代半ばの少女達にとっては負担にならない筈がない。
ただ、道中の奇妙な風景は良くも悪くも智観達の目を楽しませてくれた。
最初のうちこそ、どこにでもあるような町並みが続いており、ごく普通の住人達が行き交っている、珍しくもない光景だった。
だが町を出て、荒野を更に少し歩いた辺りから一変。
建物の基礎部分らしき残骸だけが無数に、それこそ地の果てまで広がっているようにさえ思える、荒涼とした土地が姿を現した。
遥か昔に、巨大な都市圏が広がっていた事実を、現在に伝える光景。
しかしそれらの残骸は、既に大部分が植物に侵食されていた。
「人の文明ってのも、意外と無力なものなのかもしれないね……」
「そうね。自然の力と流れる時間の前では、あたし達なんて所詮そんなものなのよ」
いかに繁栄を極めた文明であろうと、ふとしたきっかけで簡単に滅んでしまう。
後はただ、無限の時の中で大自然によって風化させられるのみ。
この中を歩いていると、智観は否応無しにそのことを実感させられた。
智観の呟きに、隣を歩いていた麗奈は、彼女にしては珍しく物憂げな調子で同意する。
「お前らしくないことを言うな、麗奈」
「あたしだってこうなる時くらいあるわよ……」
明日華にらしくないと言われても、彼女はやはり物憂げに答えるだけだ。
この光景を見て、彼女なりに何か感じるところでもあるのだろう。
「これを見てたら誰でもそうなる。私だって」
それまで黙々と歩いていた悠里が、そこで口を挟んできた。
もっとも、見た限りでは、当の悠里本人は普段とあまり変わらないように思えるのだが。
「いや、あんたはいつも通りじゃない」
「だよなぁ」
「と言うか悠里、一番落ち着いてません?」
ちょうど智観が考えていたことを、麗奈が代弁してくれた。明日華と千秋も同調する。
「そんなことない。私、結構デリケートだし」
悠里は首を小さく左右に振ってそれを否定するのだが。
「ふうん。具体的にどの辺が?」
次の麗奈の質問に答えられず、黙り込んでしまった。
先行するクラスメイト達の方を見てから一言。
「……置いて行かれるから急ご」
それだけ呟くと、悠里は逃げるように全力疾走を開始した。
「答えられなくなったからって逃げるなー! 待ちなさーい!」
「私達も追いかけよっか?」
「う、うん」
言い終わらないまま、麗奈も駆け出す。智観達もそれに続いた。
「ちょっと……置いてかないでくださーい!」
一人だけ出遅れた千秋も慌てて走り出した。
だが既に他の四人とは大きく差が開いており、追い付くのに少し時間を要してしまったのだった。
出発時には東の低い位置にあった太陽は、いつの間にか南の空高くへと昇ってきていた。
時間帯はちょうど昼時だ。
しかしこれだけ歩いても、一向に周囲の景色に変化は見られない。
ただただ、緑に覆われつつある建物の跡が延々と続いているだけだ。
歩きながら智観は、前に授業で聞いた、この辺りの土地についてのことを思い出す。
ある確かな記録によると、この辺りはかつて国内有数の港湾都市であり、世界最大規模の都市圏の一角としても栄えたのだと言う。
名前は確か――横浜だっただろうか。
もっとも今では見る影も無い有様だ。自分達を除いては、人っ子一人としていない。
「ここに住んでた人達って、どこに行ったんだろう?」
それについてずっと考えていると、そんな呟きが口を突いて出てきた。
独り言のつもりだったのだが、並んで歩いていた麗奈と千秋がそれに答えた。
「さあね。でも彼らの子孫であるあたし達が存在してるってことは、何だかんだで生き延びた人も多いんじゃないの?」
「東京……でしたっけ? そこみたいに街ごと消し飛んだところもあるそうですから、跡形だけでも残ってる分、ましだったのではないでしょうか?」
「そういうものなのかな?」
二人の返答を聞いても、どうにも納得が行かない智観。
だがあまり考えても仕方が無いことだと思い、足を動かすことに専念した。
「それにしても、まだ目的地に着かないのー……」
「疲れました……」
「もうやだ」
それから数時間。歩いても歩いても、まだ廃墟に終わりは見えない。
初日の疲れと今日の疲れが一度に押し寄せてきて、智観と千秋、悠里はとうとう音を上げた。
クラスメイトの大半も三人と同じような状態だ。
しかも文明の終末を想起させる風景のせいで、必要以上に気が滅入ってしまう。
「今で大体十五キロ地点。そろそろ半分を切ったぞ」
「もうすぐお昼ご飯なんだから、もうちょっとだけ頑張りなさい」
そんな彼女達を励ますのは、多少疲れが見えてきてはいるものの、まだ幾分かの余力は残っていそうな明日華と麗奈だった。
時々額に浮かぶ汗をタオルで拭いつつも、あまり呼吸を乱さずに歩き続ける二人。
智観は懸命に足を動かしていながらも、気が付けば自然とそんな二人に――どちらかと言うと麗奈にだろうか――視線を釘付けにされているのだった。
憧れと尊敬の眼差し。と言っても、智観が目標としている梨恵に対するそれとは微妙に性質が異なるようにも思えた。
「はぁ、はぁ……智観、歩くペース落ちてる」
「あ、あれ?」
余計なことに考えを巡らせていた為か、それとも単純に疲れた為か、智観は徐々にだが歩くペースを落としてしまっていたらしい。
息の上がった悠里に指摘されて、ようやく智観はそのことに気付いた。
確かに言われてみれば、前を歩く麗奈達の姿がやや小さくなっているような気がする。
「ありがと。ちょっと遅れを取り戻そっか」
小走りになって麗奈達との距離を詰めようとした智観。
だがその考えは、背中から聞こえてきた大声によって阻止されてしまった。
「みんなー! 明日華ー! 待ってくださーい!」
声の主はクラスの集団の中でも一際後ろの方を歩いていた千秋だった。
彼女は地面に座り込み、大声で明日華を呼んでいる。
近くを歩いていたクラスメイト達も何事かと足を止め、へばる少女の姿を注視している。
「千秋、どうした!?」
千秋の声を聞いた時の明日華の行動は、一体どこにこれだけの力が残っていたのか不思議に思えるほどに早かった。
叫び声が耳に入るや否や、彼女はほとんど反射的に踵を返して走り出し、そのまま智観達のいる場所も駆け抜けて、一直線に千秋のところへ向かう。
少し遅れて麗奈も同様に戻ってきた。彼女と合流し、智観と悠里もまた、千秋のところへ向かった。
「もう歩けませんよー。荷物も重いし……」
「大丈夫。もうすぐ休憩だから安心していいぞ」
「でも……」
智観達三人が駆け付けた時、そこには千秋の隣に並んで座り、励ましの言葉をかける明日華の姿があった。
時々千秋の肩や足をさすったり、頭を優しく撫でてやったりもしている。
自然と顔を綻ばせる千秋だが、それでもなかなか立ち上がる気力は湧いて来ないようだ。
見かねた明日華は千秋の背後に回り、彼女の背嚢を開けると、いくつかの包みを取り出した。
「じゃあこうしよう。少しだけど、千秋の荷物を私が持ってやる」
明日華はそう言いながら自分の背嚢を下ろし、その中に包みを押し込んで行く。
「うぅ……何から何まですみません、明日華」
「十数年の付き合いだろ? これくらい気にするなって。よいしょっと」
全て詰め終わると、元よりやや膨れた自分の背嚢を再び背負う。
千秋もそれに続くようにして、申し訳無さそうに立ち上がった。
「重くないですか?」
「大丈夫だって。ふふ、千秋は心配性だなぁ」
不安気な千秋の問いに何でもないと言うように微笑んで返す明日華。
だが言葉とは裏腹に、見た目にはかなり重そうに思える。
(本当に大丈夫なのかな?)
智観が不安に思っていると、今まで黙って立っていた麗奈が不意に動きを見せた。
明日華の膨れた背嚢から荷物を取り出すと、自分のそれへと移していく。
「いきなりどうしたんだ、麗奈?」
「半分持つわ。あんたの方がウェイト重いってのは、負けた気がして何か嫌でしょ?」
「そうか? まぁ助かるよ、ありがとう」
明日華は麗奈の行動の意図が読めなかったらしく、彼女に尋ねた。
返ってきたのは彼女の負けず嫌いな性格を顕著に表す言葉。
だが明日華はその返事に満足したようで、それ以上は何も聞かなかった。
今、明日華は自分と同じことを考えている、と智観は確信した。
恐らくこれは麗奈なりの優しさだ。
彼女は感謝されることに慣れていないのか、素直に「手伝ってあげる」と言えず、このようなことを口走ったのだろう。
(もう少し素直になってくれれば、人気者になれると思うんだけどなー)
ただ、それはそれで何だか寂しいような思いが、智観には感じられた。
その思いがどこから生まれたのかは彼女自身にも分からないのだが、ともかくもうしばらくは今のままの関係でいたい。
それが智観の本音だった。
その後、途中で何度か「敵襲」を想定した訓練があったものの、基本的には引率の教師や三年生の指示に従えば問題が無かったので、滞り無く終了した。
智観がすべきことと言えば、敵である鉄騎兵に見立てたターゲットに向けて簡単な攻撃魔法を使うことだけであった。
千秋は治癒魔法が得意ということもあってか、攻撃役ではなく、負傷者を演じる生徒の応急手当てに回っていた。
悠里や他の数人の生徒達も同様なのだろうか。千秋と共に治癒魔法の練習をしていた。
そういった訓練を挟みつつも、着実に目標地点へと近付いていたようで、午後五時半を回る頃には野営の準備を始めるように指示があった。
「やっと休めるー!」
「ご飯よ、ご飯!」
全てが赤く染まる秋の夕焼け空の下、あちこちから湧き上がる歓喜の声。
同時に何人かずつのグループに纏まって野営の準備に入っていく。
「あたし達も行きましょう」
「うん。疲れたしね……」
「千秋の為にも早く腰を落ち着けたいしな」
麗奈の言葉に後を押されるようにして、智観達も設営作業に取り掛かる。
こんな時でも明日華はやはり千秋のことを気にかけているようであった。
微笑ましい光景だ、と智観は思った。
足が棒になりそうな状況だが、その光景を見ていると自然と笑みが零れてきた。
五人は適当な場所を見つけて協力してテントを設置した後、昼食兼夕食を作る作業に入っていた。
そして今、智観達の目の前にはレーションのパックが五つと小型のアルミ鍋があった。
いずれも各人の荷物の中に含まれていたものだ。
「えっと、どうすれば良いんだっけ?」
「ちょっと待ってください。説明書読みますね」
智観の疑問に答えるべく、千秋が学園側から渡されている説明書に目を走らせる。
答えは簡単に見つかったらしく、すぐに顔を上げた。
「とりあえず水を入れた鍋で十五分ほど温めれば大丈夫らしいですよ」
言い終わるより早く説明書を折り畳み、制服のポケットに仕舞う千秋。
「あ、それだけで良いんだー」
「意外と簡単……」
ポンと胸の前で手を合わせる智観。
傍ではパックに視線を落としたままの悠里が、感心したように呟いている。
「まぁ野戦用の食料だしね。そんなものでしょ。いざとなればそのままでも食べられるらしいし」
麗奈は特に驚いた様子を見せることもなく(もっとも、父が軍属の彼女なら別に不思議なことではないのだが)、鍋の蓋を開ける。
途端に真剣な顔付きになり、鍋をじっと見据えて。
「じゃあやるわよ。我が敵を射る矢となれ! ウォーターアロー!」
比較的短い詠唱で水属性の攻撃魔法を唱えた。ただしその用途は攻撃ではない。
麗奈によって生み出され、彼女の意思を宿した水の矢は、寸分の狂いも無く吸い込まれるように鍋の中に収まった。
分量も狙いも完璧だ。
満足気に水で満たされた鍋を見ると、麗奈は続いてレーションのパックを五つ纏めてその中に沈めた。
「えぇ!? そんなので良いの!?」
この一連の流れを見て素っ頓狂な声を上げたのは智観だった。
水と聞いて近くの川に汲みに行く光景を勝手に想像していた為、彼女の受けた衝撃は大きかったのである。
「何か不満でも? 不純物とかは混ざってないと思うわよ。ちゃんと集中したし」
「いや、そうじゃなくて――」
水に問題が無いということを証明するように、麗奈は鍋の水を指で少し取り、それを舐める。明らかに話が噛み合っていない。
この感覚をどう説明したものかと智観が考えあぐねていると。
「智観の言う通りですよ! それじゃ風情も何もあったものじゃありません!」
「おぉ、もっともな意見!」
千秋が声を張り上げて割り込んできた。明日華がそれに便乗した。
悠里も口を開きこそしないものの、小さく拍手をしている。
少し間を置いてから、麗奈は呆れたように智観達を見回すと口を開いた。
「……そういう問題なの?」
「うーん……何て言ったら良いのかな? てっきり川にでも汲みに行くと思ってたから、ちょっと意外で。それでびっくりしたと言うか――」
智観は戸惑いつつも、何とか今の感覚を言葉にしようと試みる。
幸運にも麗奈には言いたいことが伝わったようで、彼女は簡単に説明してくれた。
「あぁ、そういうことね。近くに川が無かったり、あっても水が汚れてたりしたら困るでしょ? だからこの方が良いのよ」
「なるほど。持ち運ぶにしても荷物が増えるしねー」
確かに極めて合理的な手段だ。彼女の説明に智観は素直に納得した。
「と言ってもお父様の受け売りだけどね」
最後にそう付け加えて、麗奈は説明を締めくくった。
ところが納得の行かない者がまだ数名。
「せっかくのキャンプなんだぞっ!」
「もっと雰囲気を楽しみましょうよ!」
雰囲気重視派の明日華と千秋、それに悠里だ。
麗奈は溜息を吐くと、かまど作るから説得よろしく、とだけ言い残して手頃な石を組み始めてしまった。
付き合いきれない。彼女の背中は暗にそう語っている。
説得を丸投げされたものの、何を言えば良いのか見当の付かない智観。
考えれば考える程、ますます空腹が気になってくる。
(そうだ! これがあったじゃない!)
智観の決定。それは今の気持ちを正直に述べることだった。
「えっと。私もキャンプは楽しみたいけど、今はそれよりも早くご飯食べたいな。皆もお腹減ってない?」
言ってから自分の腹に目を落とし、右手を当てる智観。
「むぅ、確かに言われてみれば……」
「今回は諦めましょうか。でも絶対いつかちゃんとしたキャンプしましょうね!」
「残念……」
三人とも惜しみつつも空腹には勝てなかったらしく、意外とすんなりと折れてくれた。
智観はほっと胸を撫で下ろす。
千秋にはキャンプの約束を取り付けられたが、智観もそれはそれで楽しみなので悪い気はしない。
何はともあれ、これでようやく夕食にありつけるのである。
なお、石でかまどを組みながらも会話に耳を傾けていた麗奈は叫びたい気持ちで一杯になっていた。
誰か「キャンプ」の部分にツッコんでくれ、と。
麗奈お手製の即席かまどは間も無く完成した。
かまどの上には水を満たした鍋が置かれ、その中にはレーションのパックが五つ。
下には近くで集めてきた薪がくべられている。
「さて、じゃあ点火するね」
点火役に選ばれたのは智観だった。と言っても、威力を落とした炎の魔法を薪に当てるだけの役目だが。
彼女は暴発させたり狙いを外すことの無いよう、深呼吸して精神を統一する。
そしていざ、詠唱に入ろうとした瞬間。
「ちょっと待ってください!」
千秋の制止の声が、秋の夜空を切り裂き、鋭く響き渡った。
「うわっ!? っとと、どうしたの?」
「今度は何よ!?」
驚いた様子で聞き返す智観。
麗奈はうんざりしたように千秋の方に目を向ける。
他の二人も興味津々だ。
「何も言わずにこれ見てもらえますか?」
口で説明するよりも目で見た方が早いと言いたげに、彼女は一枚の紙――先程の説明書だ――を皆に見えるように差し出した。
彼女の指は紙面のある一文を指し示している。
「なになに? 『一パック:三千六百キロカロリー』……!? 多いよ!」
千秋の示す箇所を読み上げた智観は、思わず紙に向かって叫んでしまった。
年頃の少女である智観にとって摂取カロリーは重大な問題である。
そしてそれは他の四人にとっても同様だった。
「なぁ、一日の目安ってどれくらいだったっけ?」
「確か大人で一日二千前後だったはず」
「おいおい、二倍近いじゃないか……」
明日華と悠里は何か恐ろしいものでも見たかのように青くなっている。
いや、恐ろしいものというのもあながち間違いではないのだが。
「……二個でいいわね? これでも全員の昼と夜の分は賄えるでしょ」
頭の中で簡単にカロリー量を計算した麗奈は、鍋からパックを三つ取り出すと、タオルで拭って背嚢に戻した。
「じゃ、よろしくね」
「うん、了解!」
彼女はそれから智観に点火するように促す。
水嵩の減った鍋を見つめつつ、改めて智観はファイアボールを唱えた。
説明書の通り、十五分程度で智観達の食料のパックは程良く温まった。
下手をすると火傷してしまいそうなそれらを取り出し、熱い水滴を拭うと、注意して開封する。
すると中から湯気が立ち上るチキンライスやハンバーグ、魚の蒲焼き等が姿を現した。
空腹の身体に、香ばしい匂いがいっそう食欲を掻き立てる。
もう一つの方は微妙に献立が異なるようで、こちらにはチャーハンや麻婆豆腐等が入っていた。中華料理メインなのだろうか。
これらもやはり湯気が立ち上り、食べられる時を今か今かと待ち構えているように見える。
「では、時計回りに回して食べていきましょうか」
「賛成! 色んなものが食べたいしね」
二つのパックを順に回していくという千秋の提案に、智観は真っ先に同意した。
他の三人も特に反対することは無かった。
「よーし、食べるぞ!」
「一人で美味しいところだけ食べたりとかしないでよ」
張り切った様子で右手に割り箸を、左手にパックを持つ明日華。
そんな彼女に麗奈が釘を刺す。
「そんな卑しい真似しないから安心しろって」
「前してませんでしたか? ねぇ、智観?」
「うん、先週だってハムとか卵焼きとか独り占めしてたよね」
「ちょ! 何でばらすんだよ! あ……」
始めはさらりと否定した明日華だったが、千秋と智観に前科を暴露されてしまい、つい本音を喋ってしまった。
「やっぱりね」
溜息を吐き、案の定かといった口振りで言う麗奈。
「智観、悠里、千秋! 明日華から絶対に目を離すんじゃないわよ!」
それから智観達に順に目を走らせてそう指示する。
「はーい、伊藤隊長!」
「了解……」
「勿論です!」
三者三様の返事を返す智観達。ただしいずれも内容は肯定だ。
「ゆっくり食べさせてくれー!」
「だったら独り占めしないで!」
「今はまだしてないだろ!」
「これからやる気満々じゃないですかーっ!」
学園から遠く離れた土地であっても、良くも悪くも彼女達は変わらない。
他のグループと比べても一際騒がしい食事の時間は、賑やかに過ぎて行く。