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第十話 覚醒の刻

今回で話に一段落が付きます。

 先週の土曜日に特訓に熱中しすぎて寝坊するという失敗をしてからも、智観は夜の修行を継続していた。

 ただし千秋や明日華に無理をするなと言われていることもあり、時間は三十分程度、学園生活に支障を来さない範囲に抑えている。

 土曜日の時点で魔法習得への手掛かりを掴んでいた彼女は、日曜日、月曜日と練習を重ねるうちに、ますますゴールへと近付けた感覚があった。

 だがそれでもまだ、何かが足りない。

 今の智観は、例えるなら暗い洞窟の中を、風を頼りに出口へ向かって歩き続け、最後の分岐点に差し掛かったというところだろう。

 そして時間は流れ、水曜日の夜。

 明日には魔法の授業があるのだが、彼女は未だに最後の分岐点で迷い続けていた。

「今日は無理そうですかね……もう遅いし、寝ましょう」

 クラスメイト達が皆先週の時点で魔法を習得している中、自分だけが使えないというのは歯痒い状況である。

(ごめんね。千秋ちゃん、明日華ちゃん……)

 まして彼女は、友達である千秋達に教えを請うている身だ。

 自分が力不足なせいで、彼女達の想いや熱意を無駄にしてしまっているのではないか。そう考えると申し訳無くさえ思えてくる。

 実際のところ、智観は今夜だけは徹夜してでも魔法をものにしたいところであった。

 だがそれでは先週の土曜日に交わした約束――無理はしないという彼女達との約束を反故にしてしまうので、それも出来ない。

 失意のうちに智観が秘密の修行場を後にした、まさにその瞬間であった。

 林の奥、彼女の居る場所よりも深い闇の中から、何者かが草を掻き分けて走る音が聞こえてきたのは。

「誰っ!?」

 反射的に剣の柄に手を掛け、いつでも抜けるように構える智観。

 魔法の使えない彼女にとっては、この剣こそが唯一にして最大の頼みの綱であるからだ。

 彼女はそのままの姿勢で、迫り来る何者かに細心の注意を払う。

 次第に草の揺れる音が大きくなっていることから、一直線に接近してきていることが分かる。相手は彼女の声になど気にも留めていないのだろう。

「誰なの!? 答えて!」

 もう一度接近する何者かに問うが、やはり返事は無い。

 もしや相手は答えないのではなく、答えられないのではないか。もっと言えば人外の何かではないのだろうか。

 そんな考えが智観の頭を過ぎった。剣を握る彼女の手を汗が伝う。

 彼女の予想は当たっていた。

 暗闇なので正確な距離は分からないが、体感でわずか数メートルあたりの距離まで迫ってきたであろう時のことだ。

 智観に狙いを定めた何者かは走ってきた勢いを利用して大きく跳躍し、一気に智観に飛び掛ってきた。

 そしてその時、智観は初めてその者の全貌を、シルエットだけだが把握することが出来た。

 人間のそれらとは明確に異なる、鋭く血走った眼。

 闇の中では細かなディテールまでは分からなかったが、体高が一メートルを超える四足の獣であることは分かった。

 跳躍した獣はそのまま滑るように空中を移動し、智観目掛けて右前脚で殴り掛かってきた。足の先端には鈍く光る部位――恐らくは爪だろう――が見える。

「い、嫌あああああ!!」

 智観は叫ぶと同時に、反射的に剣を抜き、襲い来る獣の前脚に斬り付けていた。

 剣を通じて手に衝撃が伝わる。

 斬ったという手応えは感じられなかった。まず間違い無く、効いていない。

(敵わない……!?)

 少しずつ恐怖に飲み込まれて行く思考で、しかし智観は冷静な判断を下した。

 頼みの綱の剣が効かないなら、逃走あるのみだ。

「来ないでっ!」

 左前脚から繰り出される第二撃を剣で受け止め、力の限り押し返すと彼女は後ろに飛び退き、そのまま全速力で女子寮棟を目指して駆け出した。

 簡単に逃げ切れるとは思えなかった。

 だが戦うにしても助けを呼ぶにしても、この場所では分が悪過ぎる。

 闇の中では、夜目が利くと推測される敵と戦うのは自殺行為だ。

 更に林の奥だと、泣いても叫んでも寮棟までは声が届かない可能性が高い。

 彼女の行動は、そう考えた結果ゆえのものだ。


 夜の林の中を、智観は木の枝を潜り、根を跳び越えながら走った。

 農作業で足腰が知らぬ間に鍛えられていたのは彼女にとって幸いであった。

 やがて追手の草を掻き分ける音が途絶えた。

(振り切れた?)

 様子を確認しようと、ちらりと後ろを振り返る。

 その瞬間に彼女が目にしたのは、眼前に迫ってきている追手の獣の姿だった。

 今、まさに智観を引き裂かんと振り下ろされる爪の一撃を、智観は精一杯の力で横に跳躍して回避する。

 いつの間に接近を許したのか、という疑問を抱く余地は無かった。

 獣の背に広がる一対の翼が見えた為だ。

 恐らくは先程、この獣が滑るように空中を移動したのも、この翼を持っていた為だろう。

 ちなみに翼とはそもそもは前脚が変化したものであり、有翼の四足獣など自然界には決して存在しない。

 居るとすれば、それはかつての大戦時代に作られた鉄騎兵とは別種の兵器――生体兵器が野生化したものくらいだろう。

 この個体の好戦的な性格も、生体兵器の遺伝子ゆえと考えれば納得出来る。

 なぜ生体兵器が学園の敷地内に居るのかという新たな疑問も湧いてきたが、それはまた別の問題だ。今は気にするべきではない。

 獲物を仕留め損ねた獣が智観の方に向き直る間に、彼女もまた立ち上がった。と同時に、左脚に痛みを感じて顔を顰める。

 自分の左脚に目を遣ると、ハイソックスのすね辺りが避け、血が染み出しているのが見えた。

 獣の爪が掠ったのか、それとも着地の瞬間に木の根で引っ掻いたのか。

 戦闘用の丈夫な生地で織られた靴下が守ってくれたので深手にはならなかったようだが、走ることは出来そうにない。

 状況は最悪と言っても良い。

 現在地は林の中で、寮棟まではまだ少し距離がある。脚をやられている以上、逃げることも出来ない。そんな状態で無防備な背中を見せるのは、相手に殺してくれと頼むようなものだ。

 唯一の救いがあるとすれば、遠くない距離に電灯があるらしく、その明かりで先程いた場所よりは視界が利くことくらいだろう。

 智観は覚悟を決め、再び剣を正面に構える。

 先程組み合った際の感触から察するに、この獣の毛皮は下手な防具よりも頑丈だ。ならば急所――例えば目や口など――に一撃を見舞うより他に生き延びる道は無い。

 智観がそう考えていると、獣は跳躍、滑空して、再び襲いかかってきた。

 ただし今度は爪の攻撃ではなく、牙による噛み付きだ。

 チャンスと思って口の奥目掛けて突きを放つ智観。

 だがその攻撃は左前脚によって防御されてしまう。そのまま獣は、今度は右前脚の爪での攻撃に転じる。

 智観はこれを剣で受け流し、返す刀で獣の左目目掛けて斬り付けた。素振りのお陰か、剣を振るう速度が上がっていたのが幸いだった。

 一瞬だけ感じられた、柔らかい部位を斬る感触。

 咆哮を上げつつのた打ち回る有翼獣。左目からは赤黒い血が流れている。敵の視界の半分を奪うことに成功したのだ。

 だが智観の優位は長くは続かなかった。

 次第に獣は落ち着きを取り戻し、憎悪の炎を滾らせた右目で智観を睨み付ける。

 そう。まだ左目以外に、この獣は何一つ失っていないのである。

 そして爪にも牙にも、直撃すれば一撃で智観の命を奪う程の威力がある。

 更に悪いことに、無理な動きが原因で、智観の左脚の傷口が開いてしまっていた。

 立っているのも辛くなってきて、遂には片膝をついてしまう。

 敵にとって、これはまたと無い好機だ。

 それを悟ってか、獣は爪で、牙で、また尻尾で、絶え間なく攻撃を仕掛けてくる。

 動けぬ智観はそれらを間一髪で受け流し続けていたが、それも悪足掻きに過ぎない。

 完全に防ぎ切れなかった攻撃は、致命傷には至らないまでも、確実に智観の命を削っていく。

(私、ここで死ぬんでしょうか……魔法の一つさえも使えるようにならないうちに……)

 いつしか彼女の目からは涙が溢れてきていた。

 理由は死に対する恐怖と、もう一つ。

(結局私では、お母さんのようにも、梨恵さんのようにも、なれないんでしょうかね?)

 強くなれなかった自身に対する悔しさから来た涙であった。

(でも、どうせ死ぬなら……)

 涙に滲む視界の中、有翼獣が智観の方に向けて動き出すのが見える。

 溢れる涙を軽く袖で拭い、彼女は片膝をついたままの姿勢で剣を上段に構えた。

「どうせ死ぬなら、最後まで足掻いてから死にます!!」

 地を蹴り、翼で滑空し、一直線に突っ込んでくる敵。智観はほとんど自棄になって、剣を振り下ろした。

 肉を斬った手応えはしなかった。

 だが外したというわけでもない。

「やった……の……?」

 意識が闇へと落ちて行く間際に彼女が見たもの。それは全身を無数の刃で切り刻まれたかのような、崩れ行くあの獣の身体だった。



「おい、大丈夫か!?」

「部長! そんなに揺すったら駄目よ!」

 次に智観が目を覚ました時、辺りは相変わらず夜の闇の中だった。

 丸一日以上眠っていたりしなければ、あれからそれ程時間は経過していないはずだ。

 そして彼女を取り巻く二人の男女。

 どちらも大人びた顔立ちをしていることから、上級生――それも恐らくは四年生以上と思われる。

「あの、あなた達は――痛っ!」

 あなた達は誰? そう尋ねつつ起き上がろうとしたところで、智観は激痛に襲われて顔を顰めた。

「まだ動くな! 江尻えじり、もう一回治癒魔法を掛けてやってくれ」

「了解。人の庇護者たる我等が神よ――」

 身体を動かさないように注意しつつ、智観は会話内容から自分が眠っていた間の出来事を推測することにした。

 多分あの戦いの後、自分はこの二人に助けてもらったのだろう。

 もう一回と言っていたことから、既に一回以上は治癒魔法を掛けてもらったことは確実だ。

 考えているうちに江尻と呼ばれた女子生徒は詠唱を終え、魔法を発動する。

「キュアライト!」

 白く温かい光に包まれ、智観は身体から痛みが引いて行くのを感じた。

 もう一度身体を起こそうと試みると、今度は大した苦も無く、すんなりと起き上がることが出来た。

「あの、先輩方。危ないところをありがとうございました」

 一先ず上体だけを起こした姿勢で、智観は二人の上級生達に頭を下げた。

 するとどういう訳か、二人は申し訳無さそうな顔になる。

「いや、礼には及ばない。元はと言えば僕等のせいだからな」

「ええ。むしろ謝らなければならないのはこちらの方ね。ごめんなさい」

 江尻はそう言って智観に頭を下げた。男子生徒の方もそれに倣う。

「えっと……何がどうなってるんですか?」

 理解が追い付かないうちに話が先に進んで行ってしまい、智観は戸惑う。

 一体なぜ、自分を助けてくれたはずの上級生が、逆に自分に頭を下げるのだろう。

「おっと、悪かったね」

 そんな彼女の様子を察してか、男子生徒は改めて説明を始めてくれた。

「申し遅れたけど、僕は古代兵器研究部の部長の杉山と言う者だ。ちなみに学年は五年。そしてそっちは副部長の江尻だよ」

「四年Aクラスの江尻です。副部長と言っても非公式の部活だけどね」

 順番からして次は智観の紹介する番だろう。

 そう考えて、学園に来てから何度目になるか分からない自己紹介をした。

「えっと、私は一年の小林智観です。よろしくお願いします」

 古代兵器研究部という物騒な名前の部活で、しかも非公式と来ているが、自分よりもずっと年上の上級生であることは間違い無いので、一応丁寧な挨拶を心掛けておいた。

 名乗りが終わると、杉山は軽く咳払いをして話を進める。

「さて、本題に入るよ。君を襲った化け物――ウィングビーストと呼ばれる奴だけど――あれはうちの部で飼っていたものなんだ」

「え!? あれって確か生体兵器ですよね!?」

 あんな物騒な生物を飼う物好きがこの世界に存在した事実に、智観は驚愕した。いかに古代「兵器」研究部とは言え、だ。

「あれ? 知ってたの?」

 横から江尻が口を挟んできた。

「はい。名前は初耳ですけど」

「ならば話が早い。我々はその名の通り、大戦時代の兵器について研究する部で、あいつは研究の為に捕まえたものなんだ。だが……」

 杉山はそこまで話すと暗い顔になって俯いた。

 江尻が彼の言葉を引き継ぐ。

「ええ。飼育当番の隙を突いてまんまと脱走されたの。それであちこち探し回っていたら、ビーストの死骸と、気絶したあなたを発見したってわけ。本当にごめんなさい」

「済まなかったな」

 話し終えると、二人はまた揃って謝罪をする。

 智観はようやく事態が把握できた。生体兵器が学園の敷地内にいた理由も含めて。

 酷いとばっちりを食わされたものである。

 本当のところなら文句の一つでも言ってやりたいところであった。

 だが相手は仮にも上級生であるし、真摯に謝っている以上は問い詰めるのは気が引けてしまう。

「いえ、結果的に助かったんですし……」

 意に反してそんな言葉が出てきてしまう自分が情けなかった。

 しかしそんな気持ちも、次の江尻の言葉で吹き飛ぶことになってしまった。

「ありがとう。でもビーストを倒してしまうなんて、見た目によらず強いのね。風の魔法?」

「え? 魔法……ですか?」

 魔法。智観はその言葉を、頭の中で何度も反芻した。

 気絶する寸前、獣を倒した時のことは鮮明に覚えている。

(私が魔法を!?)

 斬撃そのものは命中しなかったにも関わらず、切り刻まれ、倒れる獣。

 改めて思い返してみると、確かに自分が魔法を使ったとでも考えなければ説明の付かない現象だ。

 だが今まで一度もまともに魔法を発動させたことの無い自分が、そのような極限の状況下で初めて魔法を成功させられたとは、にわかには信じ難い。しかも恐らくは斬撃に乗せて撃ち出す魔法剣をだ。

 戸惑う智観に、杉山は更なる追い討ちを掛ける。

「周りの様子から察するに風の魔法だな。それもかなりの威力のものだ」

 言われて辺りを見回すと、何かで斬り付けられたような痕が周囲一帯の地面に刻まれていた。確かに風の魔法でもなければこのような痕は残らないが……

「でも私、今まで魔法が使えなくて……」

 不安気に呟く智観。

「へ? 嘘でしょ?」

 江尻は怪訝な顔をしている。

「だったら試してみたら良いんじゃないかな?」

 杉山の言ったことは当たり前だが、もっともだ。

 本当に自分が魔法を使ったのか、それとも違うのか。確かめるには議論を交わすより、実行してみた方が早くて確実だ。

「じゃあ、やってみます」

 智観は立ち上がると、林の奥の方、闇の中の一点を見つめ、詠唱に入る。

「大気を司る神よ――」

 ウィングビーストと戦っていた時の精神状態を可能な限り思い出し、呪文に想いを込める。

「姿無きその刃でもって、我が敵を切り刻め!」

 唱える呪文は風の基本魔法のものだ。今までに何度も唱えてきた呪文だった。風に限った話ではないが。

 だが詠唱の際の、精神の高揚する感覚とでも言うべきだろうか。そういったものが今までとは明らかに異なっていることが、智観自身にも感じられた。

 今や彼女は、完全に出口の光を見出したのだ。

「エアストリーム!!」

 最後に魔法の名前を叫んだ直後。

 突如として突風が巻き起こった。

 草や葉を巻き上げ、あらゆる障害を斬り付けながら、風の刃は林の奥へと吹き抜けて行く。

 後には大量の土煙だけが残った。

「何だ。やっぱり出来るんじゃない」

 やれやれと言いたげに溜息を付く江尻。

 だが智観の返事は無い。

 彼女は魔法を放った時のままの姿勢で固まって、放心してしまっている。

「これが、私の魔法……?」

 自分が魔法を習得した事実が、またその威力が、彼女は信じられなかったのだ。




 あの後、智観は江尻に寮棟前まで送ってもらった。

 杉山は林の中に残っていた。ビーストの死骸の処理でもしていたのだろう。

 戦いで破れた制服と靴下はとりあえず洗って干しておき、翌日は予備の方を着用して登校した。

 簡単な裁縫用具なら持ってきているので、破れた衣類は週末にでも直しておけば問題無いだろう。流石にミシンを持ってくることまでは出来なかったので、手縫いになるが。


 今日、木曜日の三時限目と四時限目には魔法の授業がある。

 智観は千秋達に修行の成果を見せられるのが楽しみでならなかった。

 浮ついた気分で二時限目までを過ごす。内容はあまり頭に入っていない。

 そして魔法の授業が始まり、遂に各自での演習時間がやってきた。

「千秋ちゃん、明日華ちゃん。私、魔法が使えるようになりましたよ!」

「えっ!? 確か昨日は使えなかったよな?」

「一体いつの間に覚えたんですか?」

 早速二人にそのことを話してみると、彼女達は驚いた顔をして見せた。

「うふふ、秘密ですよ。でも」

 ふざけてわざと意地悪っぽく言ってみる。もちろん、彼女達に対する感謝も気持ちを忘れてなどいない。

「でも二人が毎日教えてくれたお陰なのは確かですよ。でなければ私、今日ここにいなかったかも」

 ますます二人は首を傾げる。

 後で詳しく教えます、とだけ言って智観は訓練用標的に正対する。と、そこで麗奈が横槍を入れてきた。

「あたしに負けたのが悔しくてハッタリでもかまそうってつもり? 悪いけどそんな古い手には騙されないわよ」

 別に彼女と勝負をした覚えなど智観には一度も無かったが、今日はあえてそこには突っ込まない。代わりにこう切り返した。

「嘘じゃないですよー。そんなに言うなら、標的の前に立ってみますか?」

「ええ、良いわよ。受けて立ってやろうじゃない」

 麗奈は全く物怖じした様子も見せずに、堂々とした態度で標的の前に、智観と向かい合う形でどっかりと腰を据えた。逃げ出す気は無いという意思表示だろう。

「ちょっとした冗談なのに……」

 多分そう言えば引き下がるだろうと智観は思っていたので、彼女のこの行動には少し不意を突かれた。だが別に構わない。

「じゃあ、しっかり見てて下さいね。行きますよ」

「いつでもどうぞ」

 智観は詠唱に入った。力加減などはまだ出来ないが、今はその心配も無い。

 ブレスレットで一定以上の魔力は出ないように抑えられているし、フィールドで軽減もされる為だ。

「エアストリーム!」

 詠唱を完了した智観は、麗奈の後ろの標的目掛けて、風の基本魔法を放った。

 威力は昨晩のものに比べると劣ってはいたが、それでも麗奈が腰を抜かすには十分過ぎる程であった。

 なお、それから数日の間、珍しく麗奈は大人しく学園生活を送っていたということを付け加えておく。

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