Wedding snow
過去の連載作品、「ぐらとぐら」の完結編です。
消化不良のまま終わってしまった「ぐらとぐら」を完結させるため、完全に自己満足乙な感じの作品となっております。
夢は続いていた。
止まることを知らず、何度も何度も同じ時を繰り返す。
あの日から始まった日々は、今もまだ続いている。
ただの少しも進まずに。
あの日、俺の目の前に神宮羅門が現れた瞬間から始まった、あのドタバタした日々は、進まない。故に、終わらない。
海音寺魁人の凶弾により、文化祭のあの日に神宮羅門は倒れた。かけがえのない「弟」を、俺はその瞬間に失った。そしてそれから数年後、俺は田原の開発したタイムマシンによって過去へ飛ぶ。俺と羅門が出会った日まで……。
タイムマシンで過去へ飛んだ俺、それこそが神宮羅門の正体。神宮羅門を名乗り、記憶を失った俺は過去の羅生の弟としてドタバタした日々を送る。そして、海音寺魁人によって殺害される。そしてまた神宮羅生はタイムマシンで過去へ飛び、神宮羅門として日々を送る――――その繰り返し。
永遠に終わることのない、ループする夢。目覚められない。否、目覚める必要はない。
俺はこの夢の中でこそ、幸せだから。
「神宮羅生、私のことがわかりますか?」
最初に耳に入ったのは、女性の声だった。どこか聞き覚えのある、そんな声。
金髪の女性が、俺の顔を覗き込んでいた。
まるでドリルのような、縦ロールの金髪。明らかに「お嬢様」と言った風貌の女性だった。
「鳳凰……院、涼香」
ボソリと。彼女の名前を呟く。
「――っ!」
すると、目の前で彼女は声にならない声を上げ、両手で口元を覆うと突然ボロボロと涙を流し始めた。鳳凰院涼香、彼女の涙を見たのは初めてだった。
目の前にいる涼香は、どこか俺の記憶と違っていた。高校生だったハズの彼女は、今ではすっかり大人の女、と言った様子で、顔付きや身長もすっかり変わってしまっている。
「神宮……羅生……!」
俺の名前を呟いて、彼女は泣きながら笑った。
次に俺の前へ現れたのは両親だった。どういうわけか以上に老けており、既に老人と言っても過言ではない様子になっていた。
二人はベッドで寝たままの俺両手を握り締め、泣きながら何度も良かったと繰り返していた。状況が掴めず、俺はただ茫然としていた。
「貴方は九年間、眠り続けていたのですよ」
そのことを医師に告げられた時、俺はこれまでにないショックを受けた。
医師の話を聞いている内に、朦朧としたままだった意識は徐々に回復していく。
九年前、白凪高校の文化祭の最中に、海音寺魁人によって頭を撃たれた俺は、死にはしなかったが、脳に深刻なダメージを受け、脳死状態となっていた。
機器によって肉体だけ生き続けていた俺。しかし一年前、脳死状態の人間を元に戻す治療法が確立された。鳳凰院財閥の全面的なバックアップにより、俺はその治療を受けることになり、なんと自発呼吸を回復。意識状態こそ回復しないものの、脳死状態から植物状態への回復を果たした(医師は脳幹がどうのとか難しいことを言っていたが、よくわからなかったのであまり聞いていない)のだ。
そして一年の時を経た今日、ついに俺は意識を回復した、ということらしい。
目覚めた時鳳凰院がいた理由は、なんと彼女は俺が脳死状態に陥った後何度もお見舞いに来ていたらしい。医師から聞いた話だと、他にも何人もの人達がお見舞いに来てくれていたそうだ。
「神宮っ!」
俺が目を覚ました翌日、病室に駆け込んで来たのは肩までの茶髪の、低身長の女性だった。息を切らしており、肩で息をしながら俺の方を見つめている。
「お前、まさか……福井か?」
「……私が、わかるの?」
その問いに、俺は静かに頷いた。
「神宮……」
一瞬、泣きだしそうな顔を見せたが、福井はすぐに顔をそらす。
「福井?」
「…………ない」
「は?」
「泣いてないっ!」
そう言って、福井はバッグから取り出したハンカチで目元を拭った。
「神宮君……!」
次に病室へ入って来たのは胸の大きな女性だった。胸元を強調した服装で、長い髪をポニーテールにしている。
「お前は……えっと、木下……か」
俺がそう呟くとほぼ同時に、木下は顔をくしゃくしゃにして俺のベッドへ駆け寄り、寄りかかると声を上げて泣き始めた。
「お、おい……」
「もう……ずっと……起きないかもって……!」
皆に心配、かけてたんだな。
そのまま立て続けに、俺の病室へ何人もの友人が駆けこんで来た。
先日も来ていた涼香と、その付き人である牧村霧。霧は九年前より一層凛々しくなっており、涼香の付き人として今も頑張っているらしい。田原陽一は、科学者として立派に成長しており、ノーベル化学賞まで受賞したそうだ(一瞬タイムマシンかと思ったが、別の物だった)。ロボ子はやはり、昔とほとんど変わらぬ姿だった。有馬真紀は女性ボクサーとして活躍中であり、先日タイトルマッチで勝利したばかりだとか。ツインテールだった髪は短く切られており、最初は誰だかわからなかった。
「ぐらー! ホント良かったなお前!」
最後に現れたのは岸田。あの影が薄いだけだった岸田は、どういう訳か一会社の社長にまで上り詰めていた。これには一番驚かされた。
懐かしい、面々だった。
全員が俺の仲間で、馬鹿みたいに楽しくて騒がしかった日々の欠片達。その中に、羅門がいないことに違和感を覚えたが、すぐに首を振ったそれを否定する。
神宮羅門は存在しない。
羅門は、俺の夢だ。都合良く何度も同じ夢を見るための、辻褄合わせでしかなかった。
それが、現実。
最初は誰もが俺の目覚めを喜び、泣いたり喜んだりと言った様子だったのだが、しばらくすると昔話をネタに大騒ぎする迷惑集団と化していた。
皆変わってしまっている。そのハズなのに、何故か昔と変わらないやり取りを楽しそうにしている。まるで同窓会だ。
「そういえば、詩織はまだなのか?」
俺が問うた瞬間、ピタリと一同が動きを止めた。
「志村さんは……」
「待って」
鳳凰院が言いかけたが、それを福井が遮る。
「私が、言う」
「お、おい……詩織に何か……あったのか?」
コクリと。福井は頷く。
「詩織は、白凪町にはいないわ」
志村詩織。俺の彼女だった女性。
詩織は今、白凪町にはいないそうだ。彼女の父が事業の立ち上げに成功したらしく、今では詩織は社長令嬢。仕事などの都合で他県へ引っ越したというのだ。
「その、言いにくいんだけど……」
逡巡を見せたが、すぐに意を決したように福井は俺へ視線を向けた。他の皆は、どこか切なそうな表情で俺から目をそらしていた。
「詩織にはもう、婚約者がいる」
そう、福井は俺に告げた。
「そう……か」
他県へ越したと聞いた時点で、そんな気はしていた。
それに、俺はそれで良いと思う。
「良かった」
「……え?」
不思議そうに、福井は声を上げる。
「幸せなら、それで良い。俺のことなんか忘れて、詩織には幸せになってほしい」
「神宮……」
呆気に取られた様子ではあったが、福井はどこか不満そうに表情を歪めた。
高級そうなレストランだった。いや、本当に高級なのだと思う。
店全体がとても綺麗で、店内にいる人々は如何にも上流階級、といった感じの人達ばかりだった。今ではあたしも、立派な上流階級の一人なのだけれど。
「どうだいそのドレス、気に入ってくれたかな?」
正面に座る彼、藤内浩哉は嬉しそうにあたしへ問うた。
大きく胸元の開いた真っ赤なドレス。首には彼の――藤内さんの買ってくれたネックレス。長い髪はいつもは下ろしているのだけど、今日はいつもと違って後ろでまとめている。
「ええ、まあ。いつもありがとうございます」
藤内さんは、まるで貢ぎ物でもするかのようにあたしに物を買い与える。もらってばかりで申し訳ないのだけど、あたしから何かしようとすると藤内さんはいつもそれを断る。レディにおごらせるなんてとんでもない、とでも言わんばかりの表情で。
「そうか……それは良かった」
「少し、胸元がセクシー過ぎる気もしますけど」
「まあ、僕も男なので。セクシーな方が好きなんですよ」
そう言って、藤内さんは冗談っぽく笑って見せた。
藤内さんはとても良い人だ。優しいし、頼りがいもある。父の会社の契約相手の息子で、親同士が会社のために無理矢理婚約させられたあたしだけど、こうして藤内さんといるのは嫌いじゃない。
「それにしてもそのドレスはよく似合う。まるで貴女に着られるために存在していたかのようだ……」
「褒め過ぎですよ藤内さん。あたしは……そんなに良い女じゃ、ないです」
そう、あたしは良い女なんかじゃない。
過去の男が忘れられず、いつまでも引きずり続けるあたしが、良い女なわけがない。
「そんなに謙遜するなよ。僕は君のそういうところが好きなんだけど……」
そう言いつつ、藤内さんはポケットの中から小さな箱を取り出すと、机の上へそっと置いた。
「……それは?」
あたしが問うと、藤内さんはそっとその箱を開けた。
「プレゼントだ」
キラリと光るそれは、間違いなく指輪だった。何カラットかなんて、素人のあたしにはわからないけど、それがダイヤであることは確信出来た。
「受け取ってくれるよね?」
プロポーズ。
藤内さんは、結婚してくれとは言わない。ただ婚約指輪を差し出し、受け取ってくれるかどうかで答えを出させようとしている。
少し、キザなやり方のような気もした。
「あたし……は……」
受け取るべきなんだ。
あたしは藤内さんが嫌いな訳じゃない。それに、藤内さんはきっと幸せにしてくれる。それくらい、あたしにだってわかってる。
「あたしは……」
受け取れば良い。でも、これを受け取るのは――――
「詩織さん」
後押しするかのような藤内さんの声。
しばしの沈黙。早く決めなきゃって思うのに、決められずにいた。息苦しい数分の末、あたしは出しかけていた右手を引っ込めた。
「詩織さん……」
落胆した、藤内さんの声。その声から察することの出来る彼の表情が見たくなくて、あたしは視線を逸らした。
「ごめんなさい」
そっと、指輪を箱ごと突き返した。
その時、藤内さんがどんな顔をしていたのか、あたしは知らない。逸らした視線を、戻すことが出来なかったから。
まともに動かせない身体を動かせるようになるため、リハビリを初めてから数週間。まだ満足には歩けないが、とりあえずベッドから身体くらいは起こせるようになっていた。
この間鏡を見せてもらったのだが、思ったより酷い有様だった。髭や髪などは手入れされているものの、中学時代に喧嘩で鍛えた俺の身体は情けない程ヒョロヒョロになっており、顔の方も痩せこけている感じだ。
「しっかり食べないとな……」
そんなことを呟きながら、ガツガツと米を口の中へかき込む。別にここの食事が特別おいしい訳じゃないが、とにかく今は、何か食べれる、身体を動かせる、ということを実感していたい。ぎこちないながらも、自分の手で食事が出来るようになったのは心底嬉しい。とは言え、危なっかしいので看護師さんが横で心配そうに見ているのだが。
これで良い。
自分に言い聞かせるように心の内で呟く。
そう、これで良いんだ。このまま回復して、なんとか職に就いて、それからやり直そう。まだ年老いたわけじゃない。九年のブランクはあるが、まだ二十代だ。十分やり直せる。
「……詩織……」
ボソリと。窓を眺めながら呟く。看護師さんは既に食べ終わった俺の食器を持って病室の外へ出ているため、この部屋にはいない。
「詩織」
呟いたところで、返事などない。
「……馬鹿だな。幸せならそれで良いって、自分で言ったんじゃねえか」
自嘲気味に笑い、身体を倒してベッドに横になる。
全て、変わってしまった。
環境も、人も、俺自身も。変わり行く時の中で、俺は一人眠り続けていた。
まるでタイムスリップ。生きたタイムカプセル。中を開いて出て来るのは、今はもう取り戻すことの出来ない、今が空しくなるような思い出ばかり。
開かない方が良かったのかも知れない。
タイムカプセルは開けられないまま、土の中で眠り続けていれば良かったのかも知れない。ずっと、思い出に浸りながら。
俺が嘆息すると同時に、ガチャリと病室のドアが開く。
「……神宮」
中に入って来たのは、福井だった。
「どうしたんだよ、こんな昼間っから。仕事はどうした?」
「休み、取ったから」
「俺のために?」
冗談めいた笑みを浮かべて問うたが、福井は否定も肯定もしなかった。
ゆっくりと俺の傍へ歩み寄り、椅子へ腰掛ける。
「ねえ、この間のことなんだけど……」
「この間?」
「……詩織のこと」
ボソリと。呟くように福井は言った。
「本当に、良かったの?」
静かなその問いに、俺はコクリと頷いた。それを見ると同時に、福井の表情に失意の色が見える。
「詩織が幸せなら、それで良い」
そうだ。良いんだ。詩織さえ幸せになってくれるなら、俺はどうなろうが関係ない。新しい男を見つけたなら、それで良い。むしろ、そうしてくれて安心したくらいだ。
それで……良い。
良いの、か?
「……は…………ってない……」
「え?」
うまく聞き取れず、聞き返す。すると、福井は俺の顔へ真っ直ぐに視線を向け、ギロリと睨み付ける。睨み付けるその瞳には、どこか涙が浮かんでいるようにも見えた。
「アンタはっ! 全然わかってないっ!」
「な、何をだよ……!」
「アンタは、詩織のこと何にもわかってない!」
勢いよく、福井の手によってベッドが叩かれた。
「……うるせえ! お前に何がわかんだよ! 九年間眠り続けて、目ェ覚ましたら全部変わってて、友達も皆変わってて、彼女もどっか行って……! 諦めさせてくれよ! もう忘れさせてくれよッ! もういいんだよ全部! 終わったんだよ……何もかも……俺の眠っている間に……終わっちまったんだよ」
ギュッと。シーツを握り締める。泣きだしそうになるのを、グッとこらえる。
「だったら……だったら!」
不意に福井は身を乗り出し、俺の胸ぐらを掴み、頭がぶつかるかどうかギリギリのとこまで俺の顔を引き寄せる。
「アンタに詩織の何がわかんのよ! 大切だった彼氏が眠り続けて、ずっと待ち続けて……! どんな想いで詩織が見舞いに来てたかアンタにわかるの!? 何も出来ないってわかってるのに、時間さえあればアンタの傍にい続けた詩織の気持ちが、アンタに少しでもわかるのっ!?」
俺の知っている福井からは、想像出来ないような形相だった。凄まじい剣幕でまくし立て、福井は更に言葉を続ける。
「アンタさっき言ったよね? 詩織が幸せならそれで良いって……! 今の詩織が、幸せだとでも思ってるの!?」
今の詩織が、幸せかどうか。
俺から見て幸せかどうかじゃない、詩織自身にとって、幸せかどうか。
「でも詩織は……来ないじゃないか。待っててくれてたなら、何で俺が目覚めても来ないんだ……」
正直な思いだった。
俺は最初から、そうだったのかも知れない。
詩織の幸せを素直に望んでたんじゃない。詩織が現れないことに拗ねて、諦めていただけ。もっともらしい理由を付けて、正当化していただけなのかも知れない。
「それは、わからない……。連絡取りたいけど、他県へ行って以来音信不通なの……アドレスもわかんないし」
俺の胸ぐらから手を離し、寂しげに福井はそう答えた。
「でも、何か事情があるんだと思う。それと、これだけは覚えといて」
乗り出していた身体を元に戻し、福井は真っ直ぐに俺と視線を合わせる。
「詩織の幸せは、絶対にアンタだけだから。詩織は今も、きっと待ってる」
脳裏を過るのは、幸せそうな詩織の笑顔。一緒に歩いている時、一緒に買い物している時、一緒に話している時、一緒に甘い物を食べてる時、一緒にゲームしてる時。
その笑顔は、いつだって俺の傍にあったんだ。
それが一番の笑顔だったかどうかはわからない。だけど、俺の知ってる詩織の表情の中で、その笑顔が一番だった。幸せそうな、笑顔。
――――羅生。
そんな笑顔で、俺の名前を呼んでいた。これ以上ないって程の笑顔で、俺の名前を呼んでいたんだ。
きっと彼女は、その時こそ幸せだった。
大好きだった。きっと詩織も、大好きだった。
詩織の幸せは、俺だけなのか。そんなこと、俺にはわからない。詩織自身じゃなきゃ、わからない。だから――
「行くよ、俺」
「え……?」
「詩織に会いに行く」
来ないなら、行けば良い。会いに来ないなら、会いに行けば良い。
詩織がどう思うかわからない。福井の言う通り、俺のことを待ち続けているのかも知れないし、もう俺のことなんか忘れてるかも知れない。
だから、確かめに行く。
「だったら、リハビリ」
「……だな」
「私も付き合うから、頑張ろ」
ああ、そうだな。そう言って、俺は頷いた。
「来年には、式を上げることになっている」
食事中不意に、藤内さんはそう言った。
「え……?」
不思議そうにあたしが問うと、藤内さんはワインを一口飲み、コクリと頷いた。
「元々僕達は婚約者だ。そろそろ結婚しても良い頃だろう」
「でも、この間あたしは……」
「この近くに教会があるだろう? そこで式を上げよう。予定上は来年の十二月ということになっている」
あたしの言葉を遮るように、藤内さんは言葉を続ける。
「君の父上も大賛成してくれたよ。僕の両親も喜んでくれている」
「でも……」
あたしの話なんて少しも聞かずに、藤内さんは嬉しそうに式の話を続けた。ウェディングドレスはどうするだとか、最高の式にするだとか、そんなことばかり。
藤内さんは嫌いじゃない。むしろ好きなくらいだ。
でも、それでもあたしは……。
藤内さんと別れ、自宅へ戻る。お父さんは仕事でいない、お母さんはあたしを待ちくたびれたのか、テレビをつけたままソファで眠ってしまっている。
部屋に戻り、部屋着に着替えるとすぐにベッドへ寝転がる。
お父さんも藤内さんも、勝手だ。あたしの意思なんか気にもしないで、会社のためにあたしを結婚させようとする。いや、藤内さんはきっと真剣にあたしのことを考えてくれているのだろう。お父さんも、それがわかっているから藤内さんとの結婚を喜んでるんだと思う。
「でも……あたしは……」
携帯を取り出し、待ち受け画面を見つめる。
そこに写るのは、まだ高校生だった頃のあたし。今では考えられないような笑顔で写っている。その隣にいるのは――
「会いたい……」
知らず、涙がこぼれた。
「会いたいよ……羅生」
あの日以来、俺のリハビリに対するモチベーションは異常な程に高かった。少しずつでも、動けるようになるのが前より嬉しかった。
休日は、よく福井や木下が応援しに来てくれていた。彼女達も忙しいハズなのに、毎週来ては俺の近況を聞いたり、談笑したり。
話せば話す程わかった。
変わってないんだ。
勝手に思い込んでいただけだった。見た目が変わって、皆変わってしまったんだと思っていた。でも違う。何一つ変わっちゃいない。
福井理恵は福井理恵で、木下優は木下優だ。何も変わらない。他の奴らだってきっとそうだ。変わってしまっただなんて思い込んでたのは、俺だけだ。
そして、俺が目覚めてから一年が経っていた。
十二月。本格的に寒くなって来るこの時期に、俺はリハビリを終え、退院することになった。
異常なスピードでリハビリを完了した俺に、周囲だけではなく医師も非常に驚いていた。
普通こうはならないとか、前例がないとか、そういうことばかり言われた。正直俺も、こんなに早く終われるなんて思わなかったし、あまりのしんどさに何度も諦めようかと思った。
諦め切れるわけ、ないのにな。
詩織の笑顔、福井達の言葉、諦められない理由が二つもあるのに。
「結構都会に行ったんだな」
電車の中、静かに呟く。すると、隣で福井がそうだね、と頷いた。
「詩織の婚約者、藤内浩哉はかなり大手企業の御曹司みたい。詩織、玉の輿だなぁ」
そう言った後、俺の顔を見て福井は申し訳なさそうにごめん、と呟いた。
「気にすんな。まだ結婚してないんだし……。それにしても、連絡が取れないのは妙だな」
「うん。携帯変えたっぽいし……。電話番号も知らないし、向こうからもかけてこない。手紙は出しても返って来ないし」
「確かに妙だな。まるで、意図的に止められてるみたいな感じもするな」
だとしたら……誰が? 藤内浩哉か? 詩織を俺達から遮断することに一体何の意味が……?
もしかすると、詩織は俺が目覚めていることすら気付いていないんじゃ……?
予定では、明日には到着出来るハズだ。
既に式の準備は整っている。予定通り、明日には式を上げることが可能だ。準備は全て整っている。
「後は、詩織さんだけか」
ボソリと呟き、藤内は嘆息する。
志村詩織。親同士が勝手に決めた婚約者だったが、今は本当に愛している。きっと、親同士が勝手に決めていなくても、志村詩織と何かの縁で出会っていればきっと惚れていただろう。
魅力的な女性だ。生涯会えるかどうかわからない程に。
藤内はそう思える程に志村詩織のことを想っていた。
だからこそ、彼女の一番の笑顔が見たかった。
彼女はよく笑う。その笑顔を、惜しげもなく藤内へ見せてくれる。しかしそれが彼女の一番の笑顔じゃないと気付いたのは、彼女の携帯の待ち受け画面をたまたま見てしまった時だった。
高校生時代の詩織と、隣に写る少年。考えるまでもなく、恋人同士と言った様子だった。その画面に映る詩織の笑顔は――――藤内が今まで見た中で、最も幸せそうな笑顔だった。
悔しかった。ただただ、悔しかった。
自分以上に、彼女の笑顔を引き出せる存在がいることが、とてつもなく悔しかった。
――――独占欲。
藤内の中で湧き出した独占欲は、志村詩織は徐々に束縛して行く。あの少年の眠る病院のある町、白凪町から詩織を遠ざけた。住所も変え、携帯も変え、手紙でさえ、藤内が検閲した。今藤内の手元には、詩織へ届くハズだった何通もの手紙がある。
福井理恵、木下優、他にも数人……流石に鳳凰院家から手紙には驚かされたが、それさえも検閲。
間違っていることは、自分でもわかっている。この行為が、彼女を孤独にしていることも……。
それでも、独占したかった。志村詩織を、自分だけの物にしたかった。
そして去年届いた何通もの手紙。それが藤内を、結婚という決断に至らせた。
少年――神宮羅生の目覚め。
何としても神宮羅生と志村詩織が出会う前に、結婚してしまわなければならない。
それは彼女の幸せか?
心の内で、藤内は自問する。答えは当然、否だった。
「藤内様」
部屋の中へ、黒服の男が入って来る。
「神宮羅生が、友人と共にこちらへ向かっているそうです」
「いつ到着する?」
「明日には到着するかと思われます……」
結婚式当日、か。
「……阻止しろ」
間違っていることは、自分でもわかっている。
「やっと……か」
ボソリと。バス停で呟く。福井が藤内の住所を調べておいてくれたおかげで、行き先には困らなかった。このバス停から一時間程度歩けば藤内の家へ到着。後は、藤内本人へ詩織に会いたいと伝えれば、何とかなるかも知れない。
藤内が渋る可能性も、否定は出来ないが。
「……行こうか。一時間も歩ける?」
「さあな……。休み休み行きゃ大丈夫だろ」
正直、一時間も歩き続けられる自信はない。それでも、歩かなきゃいけない。
俺自身の足で、だ。
「よし、行こう」
そう言って、俺と福井が歩き出した時だった。
ピタリと。福井が足を止める。
「どうした?」
「……前」
福井の指差す方向、前方へ視線を向けると、四人程の黒服の男が立っていた。まるで俺達の行く手を阻むかのように。
「申し訳ありませんが、この先へは行かせぬよう、指示が出ております」
「へぇ、誰から? 藤内浩哉?」
挑発的な態度で福井が問うたが、黒服達は表情一つ変えない。
「……邪魔」
呟くと同時に、福井は素早く駆け出した。
「お、おい!」
俺が声をかけるのと、黒服の一人の顔面へ福井の右拳が食い込むのはほぼ同時だった。
「――ッ」
ドサリと音を立て、その場へ男が倒れる。
「コイツッ」
男の内もう一人が福井へ掴みかかるが、福井はすぐに体勢を低くしてそれを回避する。そしてそのまま、男の顎へアッパーを喰らわせる。
顎へアッパーがクリーンヒットした男は、そのまま仰向けに倒れる。
「すげえ……」
そのまま一人、また一人と撃破し、気付けば福井の周りには四人分の死体――もとい、男達が倒れていた。福井はその内一人へまたがると、胸ぐらを掴んで右拳を振り上げる。
「……言いなさい」
「な、何を……」
「アンタを差し向けたのは、誰?」
「言えな……」
「そう、もう一発喰らいたいのね」
ニヤリと、福井が笑みを浮かべる。
「ま、待て!」
「待て?」
「待って……下さい……」
蚊の鳴くような声でそう言った男を見、福井はSな笑みを浮かべる。
「アンタを私達に差し向けたのは、藤内ね」
男はコクコクと何度も頷き、そして助けを求めるように俺へ視線を向けたが、助ける義理も義務もないので無視。
「式の邪魔はさせるなと……ハッ」
男の失言を、福井は聞き逃さなかった。
控室の中、鏡に映る自分は、驚く程に真っ白だった。ウェディングドレスに身を包んだあたしは、どこか不満そうな表情で鏡に映っている。
これで良いの?
自問しても、答えるのを渋っている自分がいた。
「これで……良い」
藤内さんは、あたしを真剣に愛してくれている。これまでも、これからも。きっと幸せになれる……そのハズなのに。
溢れそうになる涙を、必死に堪えることしか出来なかった。
「……羅生」
携帯を開き、呟く。
「ごめんね、あたし……誰のとこにも行かないって、ずっと傍にいるって……決めたのに……っ!」
届くハズのない謝罪を、独り告げたその時だった。
「え……?」
登録されていない電話番号から、携帯に電話がかかってくる。数瞬、取って良いのか迷いが生まれたが、何かに期待するかのように、あたしは通話ボタンを押した。
『もしもしっ!』
「え……その声……」
どこか聞き覚えのあるその声に、あたしは驚嘆で表情を変えた。
『詩織ちゃん! 良かった、やっと通じた!』
「優!」
電話の主は、木下優だった。そういえば、こちらへ引っ越してきてから一度も連絡を取れていない。携帯を紛失して新しくして以来、皆の連絡先がわからず困っていた。
『ごめんね、急に電話して……。どうしても詩織ちゃんに伝えなきゃいけないことがあったから、鳳凰院さんに頼んで強引に調べてもらってたの!』
「強引にって……」
相変わらず無茶苦茶なことをするお嬢様だった。クスリと、笑みがこぼれる。
「それで、あたしに伝えたいことって?」
『お、落ち着いて聞いてね! 詐欺じゃないからね!』
優に詐欺が出来るとは思わないし最初から疑ってないわよ。
『知ってるかもしれないけど、神宮君……目が覚めたんだよ!』
「……え?」
ピタリと。あたしは動きを止めた。
「ごめん、もう一度言って」
『だからね、神宮君、目が覚めたんだよ!』
聞き間違いじゃない。
「羅生……が? ホントに……?」
『うん!』
羅生の目が……覚めた?
脳死で、二度と目覚めることはないと言われていた羅生が、目覚めた。
『あ、ごめん電池切れちゃう……』
「ねえ、羅生は今どこに――」
あたしが言い切る前に、電話はブツリと途切れた。優の携帯の電池が切れたのだろう。
ツーツーという空虚な音が、携帯から聞こえた。
「羅生が……目覚めた……」
携帯を取り落とし、天井を見上げる。
――――詩織。
脳裏を過るのは、あたしの名前を呼ぶ羅生の顔。
「良かった……羅生……っ!」
あたしは、その場に泣き崩れた。
詩織と藤内の結婚式。それは本日行われるそうだ。まだ開始されてはいない、もしくは開始されていてもまだ序盤らしい。
教会の場所は、福井のおかげで聞き出すことが出来た。だが、悠長に歩いて行くような状況ではないし、タクシーなどの交通機関は藤内によって一時的に止められているらしい。
何故そこまで……?
どうやら、走って行く他に選択肢はないらしい。
「アンタ……大丈夫……?」
走りつつ、福井が問う。
「わかんねえ……! でも」
走るしかない。詩織の元まで、この足が千切れてでも走るしかないんだ。
――――志村様は、藤内様と式を上げることを望んでおられない。それくらいは、この私にもわかる。
それが、男の言葉だった。
まだ、待ってるんだ。
九年間も待たせたってのに、まだ待ち続けている、もう、十年も詩織は俺を待っていることになる。
「これ以上は、待たせねえ」
「……だね」
ニコリと。隣で福井が笑った――その時だった。
「またかよ」
再び俺達の前へ立ちはだかるのは、先程の黒服の男達の仲間と思しき男達だった。今度はさっきより人数も多い……四、五、六人か。昔の俺なら、余裕で倒せた人数だが、今の俺には一人を相手に出来るかどうかすら怪しい。
福井だってさっきの戦いで疲れているハズだし、何より人数が多い。
「クソッ……!」
悪態を吐いても、状況は変わらない。男達は何も言わず、ただ俺達の行く手を阻むように立っている。
「神宮」
そう、福井は呟くと同時に、先程と同じように黒服の一人へ殴りかかる。完全に不意をつかれた男の顔面に福井の拳は直撃し、男は仰け反った。
「……行って」
「行くって……」
「先に行きなさい!」
殴りかかる男へ対応しつつ、福井は俺を怒鳴りつけた。
「でも、お前……」
「詩織が会いたいのは、私なの?」
「……」
「違うでしょ」
目の前の男を殴り倒し、こちらへ視線を向けると、福井は微笑んだ。
「……わかった!」
意を決したように頷き、俺は一気に駆け出した。しかし、その進行方向を黒服の一人が阻む。
「退けよッ!」
怒号と共に、俺が右拳を突き出そうとしたが、それよりも先に福井の一撃が黒服を仕留める。
「さんきゅ!」
一言礼を言い、俺はそのまま教会へと駆けた。
足がもつれる。何度も、もう走れないと思った。何度もこけたし、何度も諦めかけた。
でも、諦められない。諦められる訳がない。この程度で何だ。詩織は、この倍以上諦めかけて、諦めなかったハズなんだ!
福井だって、俺と詩織のために闘っている。
こんな所で、俺だけが諦めてたまるか!
いつの間にか降り始めた雪が、俺の身体に落ちては消えて行く。そういえば、走り出す前は寒かったな。
美しい。一言で形容するなら、そんな言葉が相応しいと思える程、この教会は美しかった。光が、ステンドグラスに反射して、まるで七色に光っているかのよう。
目の前には神父。隣にはタキシードに身を包んだ藤内さんがいる。
こんな綺麗な場所で式を上げられるあたしは、きっと幸せなんだろうと思えた。
――――他人から見れば。
目の前で神父が何を言おうとも、あたしの頭にはてんで入らない。
隣にいるのが羅生だったら……って、式が始まってから何度思ったことか。
羅生が目覚めたと知って、やっとわかった。
あたしは今、幸せなんかじゃない。最初からわかってたのに、逃げようとしていただけなんだ。
羅生が傍にいない。そんな現実から逃げたくて、あたしは藤内さんに言われるがままに白凪町を出た。
あたしは、逃げていたんだ。
現実から、思い出から――羅生から。
逃げることで、見ないようにしていた。逃げることで、楽になろうとしていた。逃げた先には、何もないのに。
やっとわかった。あたしの幸せは一つしかない。一人しかいない。
羅生じゃなきゃ、駄目なんだ。
「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「……誓います」
静かに、藤内さんはそう答えた。
「……あたしは……」
言いかけて、口籠る。
言えない。誓いますだなんて、言えない。あたしは、二度も羅生を裏切りたくない。傍にいるって、誰のとこにも行かないって、約束したから。だから、誓えない。
「誓いますか?」
急かすような神父の声。隣では、藤内さんが怪訝そうな顔でこちらを見ている。
「あたしは、誓えません」
そう言った瞬間、教会中がざわつき始めた。神父と藤内さんも、目を丸くしてこちらを見ている。
「どういうことだ詩織さん! 誓えないって……」
「ごめんなさい。あたしは、誓えません」
「何故……ッ」
驚愕に顔を歪め、藤内さんは拳を握り締めた。その姿は、まるで悔しがっているようにも見えた。
「頼む、詩織さん! 僕は必ず君を幸せにする! 何が不安なんだ!? 僕の何がいけない!?」
「ごめんなさい。あたしの幸せは――」
あたしの、幸せは
「羅生だけ、だから」
再び、教会中がざわめいた。神父に至っては、先程と同じ表情のまま硬直してしまっている。
「神宮……羅生……ッ!」
まるで憎しみを込めるかのように、藤内さんは羅生の名前を呟いた。
どうして、藤内さんが羅生の名前を……?
「どうしても君は、彼でないと駄目だと言うのか……ッ」
「ごめんなさい。羅生じゃなきゃ、駄目なんです」
次の瞬間、藤内さんの表情が怒りに歪んだ。
今までに見たことのない、藤内さんのその表情は、驚く程に恐ろしかった。
「僕じゃ……駄目なのかッ」
勢いよく振り上げられたのは、藤内さんの右腕だった。まさか……殴る気?
「僕じゃ……ッ!」
右腕が、振り下ろされようとした瞬間だった。
音を立てて、教会の扉が開いた。
勢いよく、扉を開けた。迷いを、振り切るように。
本当は、幸せなんじゃないのか? 俺が来ることが、この結婚式を妨害することが、本当に詩織の幸せに繋がるのか? 本当に詩織は、待ってくれているのか?
そんな迷いが、いくつも頭の中を駆け巡った。
それでも、会いたかった。
例えどんな結果が待っていようと……一目、逢いたかったんだ。
俺が扉を開いた瞬間、教会中がざわついた。誰だ? とか、何者だ? とか、式の最中に……だとか、そんな言葉ばかり聞こえて来る。神父に至っては、目を丸くしてこちらを見つめ、あろうことか口まで開けっ放しになっている。どこか間の抜けた顔をしていた。
「詩織ッ!」
俺がそう叫んだと同時に、花嫁は――詩織は、こちらを振り向いた。
純白のウェディングドレスに身を包み、薄めながらも化粧をした詩織は、一瞬言葉を失う程に、美しかった。長く美しい黒髪はアップにまとめられており、昔と違う、大人になった詩織。
でもきっと、変わってない。
変わらず、待ってくれていたに違いない。彼女の顔を一目見るだけで、何故かそう断言出来た。
「らしょ……う……」
俺を見て、驚嘆で目を丸くしていた詩織の顔は、やがて涙と一緒にくしゃくしゃになっていった。
「ごめん。待たせた」
俺がそう言うのと、詩織が駆け出すのはほぼ同時だった。長いドレスを両手でつまみ、俺の元へと全速力で駆けて行く。
誰も、止める者はいなかった。
ただ驚愕で動けなかったのか。詩織の真意を察したのか。
「羅生っ!」
そして勢いよく、詩織は俺に飛び付いた。
「詩織……」
「馬鹿っ! いつまで待たせるつもりだったのよ! あたしが……あたしがどれだけ待ったか……わかってんのっ! ねえ……!」
俺の胸に顔を埋め、細い両腕でポカポカと俺の胸を叩きながら、嗚咽混じりに詩織は叫んでいた。詩織の涙が、俺の服を濡らしていく。
「ごめん……本当に、待たせ過ぎたな」
「謝んなくて……良いよ。だって――」
そっと顔を上げ、詩織は俺の顔を真っ直ぐに見つめた。
涙で濡れたその顔は、笑顔だった。
最高の――笑顔。
「羅生は、帰って来てくれたから」
そうだ。何も変わってない。あの頃と同じ、一番の笑顔は何も変わっていない。
「羅生、逃げよっか」
「は?」
「このままここになんていられないでしょ」
それもそうだ。でも逃げるって……。
「して」
「……何を?」
「お姫様……抱っこ……」
そんな恥ずかしいことを、こんな恥ずかしいタイミングで要求するか。
クスリと。笑みが自然とこぼれた。
「じゃあ、行くか」
そっと、彼女を抱き上げる。ウェディングドレスに包まれた華奢な体躯。そこから伝わる温もりは、間違いなく詩織の温もりで、十年前と何も変わらなくて。
「あ、おい待てッ!」
新郎の呼ぶ声も聞かずに、俺は詩織を抱いたまま走り出した。外ではまだ、雪が降り続いている。
白い雪。真っ白なウェディングドレスと、同じように真っ白な。
走って走って、振り向けば教会が小さくなってて、その頃にやっと俺は足を止めた。落ち着いて考えれば、走ってばかりだ。
「詩織、ありがとう。それと、ごめんな」
「羅生……」
「九年+リハビリ一年。十年は待たせ過ぎた。でも……お前は待っててくれた」
変わらずに、待ち続けていてくれた。
タイムカプセルが開くのを、ずっと待っててくれたんだ。
「だったら、待たせた責任……取りなさいよ」
待たせた責任、か。取るよ、いくらでも。
「待たせた分、幸せに……しなさいよ」
頬を赤らめ、ぷいっとそっぽを向いて、詩織はそう言った。
変わらないな。前にもこんな顔、してたよな。
待たせた分、幸せにしなさいよ、か。待たせた分どころじゃねえ、その何倍も幸せにしてやりたい。
だから、答えは決まってる。
「ああ、勿論だ」
そう言って、そっと彼女の唇を奪った。
振り続ける、白い雪の中で。
終
「ぐらとぐら」完結編「Wedding snow」どうだったでしょうか。
ツッコミ所が結構あったと思います(笑)
リハビリがそんなに早く終わる訳ないだろー、とか^^;
それに、羅門に対する伏線回収が、自分でもどうかな? と思う感じなのですが……。
しかしそれでも、「ぐらとぐら」をここに完結させることが出来て良かったです。
ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございました。
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