004 【ハルツキ】
会議室のドアが閉まる音がカワセの背中を押す。
廊下に響く自分の靴音が、彼女の心臓の鼓動と重なる。
会議室からの視線が、まだ背中に突き刺さっているような気がする。
曲がり角を曲がると、重厚な扉が姿を現れる。
【面会室】と書かれたプレートが、冷たい光を放っている。
守衛が静かに近づいてきた。
彼の額には薄い汗が浮かんでいた。
「カワセ記述士ですね。こちらです」
守衛の声が、わずかに震えていた。
守衛は深呼吸をして、緊張した面持ちで説明を始めた。
「まず、シフター及び通信端末の持ち込みは禁止されておりますので、こちらに収納してください」
カワセはホルスターからシフターを取り出して、安全装置を確認する。
守衛が示した保管庫にそれらの機器を収納し、自ら鍵をかける。
続けて、守衛は面会時の注意事項を説明した。
「面会時の注意事項をお伝えします。まず、物理的な接触は一切禁止です。ガラス越しの会話のみとなります。また、外部連絡時は内線をお使いください」
カワセは真剣な表情で聞き入る。
手のひらに汗が滲むのを感じる。
「次に、個人情報の交換も禁止です。特に、あなたのSOLARISのトリガーに関する情報は絶対に明かさないでください。また、被収容者の質問にすぐに答える必要はありません。考える時間を取ってください」
カワセは小さく頷き、髪を耳にかける。
「そして、捜査本部の指示で、被収容者の拘束は緩和されています。言動は勿論、表情や視線誘導には充分お気をつけ下さい。被収容者の急な動きにも動揺を見せないよう心がけてください」
カワセの瞳が僅かに開く。
自分の鼓動が高まるのを感じる。
「面会の内容も極秘事項となっておりますので、申し訳ないですが、私の役目はここまでです……健闘を祈ります」
守衛は少し身を引き、心配そうな表情で敬礼をした。
彼の手が微かに震えているのが見えた。
カワセはドアノブに手をかける。
深く息を吐き出し、手の震えを止め、ドアを開ける。
◇
白い壁と床に囲まれた空間は、まるで現実から切り取られた一片のようだった。
中央に置かれた椅子と、正面に張られた透明なガラス。
その向こうにもまた、同じように配置された空間。
まるで鏡に映ったような対称性が、二つの世界の境界を示していた。
ガラス越しに一人の青年が静かにこちらを見つめていた。
物理的には手を伸ばせば届きそうな距離なのに、その透明な壁は、想像以上に厚く、重たく感じられる。
青年は穏やかな表情で、優しい眼差しをカワセに向けていた。
見た目から歳もカワセとそれほどかわらず、整った顔立ちと柔らかな雰囲気は、危険人物というイメージからかけ離れていた。
カワセは思わず安堵の表情を浮かべる。
青年は軽く会釈し、カワセに対し、正面に置かれた椅子に座るよう視線を移した。
その仕草には、どこか気品さえ感じられた。
カワセは背筋を伸ばし、顎を少し上げて毅然とした様子で椅子に腰掛け、目の前の青年を見据える。
カワセが椅子に座ったことを確認した青年も、ゆっくりと、緩やかに椅子に腰掛けた。
──突然
青年の表情が変わった──
彼はカワセの顔を覗き込むように身を乗り出す。
その瞳は深い闇のように漆黒に変わった。
魂を覗き込むかのような、不気味な視線。
カワセは思わず身震いする。
ハルツキが問いかけた──
その声は春の日差しのように柔らかく、
冷たい刃のように鋭く、
影のように静かにカワセの心に忍び寄った。
「昨日見た夢を聞かせてくれないか?」