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旅立ち それと飛来

 世界を冒険する為に歩みだしたカエデパーティー。

 最初の目的地であるスガラナ国は徒歩で一ヶ月はかかる距離だ。

 時間もたっぷりあるので、カエデは霊体の父親から渡された注意事項を読んでいた。



項目

1 魔法を使う際は集中力を途切らせないこと。貯めた魔力が暴発して周囲に危険が及ぶので魔法はしっかり修行してから使うべし。


2 拳を固めて相手を殴らないこと。人が文字通り消し飛ぶので、もしもの時以外は全力で肉弾戦をしない。


3 よく文化を知ること。その土地にはその土地の文化や生き方がある。自分の価値観や意見を押しつけないこと。


4 健康に暮らすこと。健全な精神は健全な肉体に宿る。心身ともに健康であれ。


5 仲間や家族は自分より大切にすること。強力な力は攻撃ではなく防御にて真価を発揮するものと思え。


6 その他自分で気づいた注意点などは随時更新すること。思考の停止は人生の終わりと思うべし。



 神妙な面持ちで注意事項を黙読し、カエデは一つ疑問が浮かんだ。

 (親父はスキルがどうとか言ってたけど、ソレについては一切書かれていない。あの話はなんだったんだろう)

 カエデの疑問も当たり前で、確かにカエデの父、クレナイはスキルの適応力について話していたが、渡された紙にはソレらに関する記載は一切書かれていなかった。

 書き忘れたのかと考えを巡らせ、多少大雑把な性格をしている親父ならあり得ると結論に至るカエデ。


 「カエデ、少しいいか?」

 カエデの隣を歩くクロム族の獣人、エレナが気を遣いながら質問する。

 「この注意事項、真っ先に魔法の事に関して書いてあるし、お義父さんはカエデに魔法を一番に修行して欲しいんじゃないだろうか?」

 第1項目を指でなぞりながらエレナは言う。

 その意見にフィス族のカルカラさんもにこやかに同意した。

 「その可能性は高いかもしれないだね。わざわざ教えてもいない魔法の事を一番に書いてるって事は、それほど危ないってことだ」

 二人の意見に俺は頷く。

 「つまり親父は俺に魔法を覚えさせたいって事か?」

 エレナは首を傾げる。

 「覚えさせたい。というよりも、注意事項なのだから使うならちゃんと学んでからという事だろうな」

 「そういう意味か。にしても魔法なぁ」

 存在は知っているが、使えるなんて考えたこともないから修行と簡潔に言われても、まず何をもって修行とするのかがわからない。

 悩む俺にカルカラさんが助言をしてくれる。

 「まったく知識が無いなら魔導書や呪文書を読んで勉強をすればいいだよ」

 「勉強、ですか」

 「んだ。誰か魔法使いに弟子入りするのもええけど、まずは頭で魔法がどういったものか理解してなきゃだめだよ」

 カルカラさんの言葉にエレナも頷いた。

 「確かに、基礎を識れば応用も可能だが、基礎も識らぬでは話にならない。カエデ。スガラナ国に着いたら、まずは図書館に寄るのはどうだろうか?あそこは世界中から色々な文献や教科書、名の通った魔法使いの直筆の魔術書等も無数にある。学びとしては適切な環境と言える」

 「確かにそうだな。じゃあスガラナ国での目的としては、図書館で知識を集めるってことにするか」

 まだまだ先の事とはいえ予定が決まり、注意事項の紙を仕舞う。



 野営地を何処にするかと相談している一行の前に、突如木製の立て札が現れた。

 「おわ!」

 カエデは激突寸前で足を止め、立て札の文字を読む。

 『あなたは かえで ですか?』

 その質問の下に はい いいえ と書かれていた。

 「なんなんだこれは?」

 エレナは訝しみながら俺と一緒に立て札を読む。

 「これは、カエデの事を差しているのか?」

 「そうだろうけど、なんだこれ。カルカラさんはわかる?」

 エレナもよくわかっていなさそうだし、一番知識がありそうなカルカラさんに聞くが、首を横に振られた。

 「個人を名指しの立て札…。聞いたことないだね」

 「そうですよねぇ」

 立て札の前で、三人で首を傾げる。

 しばらく悩んだが、とりあえず『はい』の文字に触れた。

 すると立て札はボロボロと崩れ、跡形もなく消えた。

 「あ、カエデが壊した」

 「酷いこと言うなよエレナ。そんなに力入れてないって」

 二人で笑い合って前を向くと、次は空から剣が目の前に降ってきた。

 金属音をけたたまらせ、地面に突き刺さった剣は、装飾もない銀色のシンプルな剣であった。

 「はーっはっはっはっはっ!待っていたぞ兄上よ!」

 上空から高らかな声が降ってきた。

 見上げてみれば金の束ねられた髪をたなびかせて、誰かが落ちてきていた。

 「兄上よー!受け止めてくれー!」

 手を伸ばしてこちらへ落ちてくるその者は、受け止めろと言う。

 突然の展開に思考は追いつかず、俺は言われたとおりに受け止める体勢をとる。

 墜落者と激突する。

 足を踏ん張り、上半身を反らして激突の衝撃を少しでも逃がし、お互いに無傷で事なきを得た。

 上体を戻して、キャッチした者を地面に下ろす。

 地に足をつけたソイツは、女性だった。

 「助かったぜ兄上!」

 明るく笑う口には八重歯が覗いている。

 丸みのある瞳は海を想わせる深い青色をしていて、長い金髪はポニーテールで纏められている。

 装備は装飾のない銀色の鎧を身にまとい、空の鞘を背負っていた。

 そして、口元に米粒が付いていた。

 「あ!あったあった!先に行くなよなぁ、ステル〜」

 鎧の女性は突き刺さった剣を抜き、籠手で土を落とすと鞘に剣を納める。

 空から降ってきて俺を兄上と呼ぶこの人は何者なんだろう。

 「おい貴様。先ほどから兄上兄上と、カエデの事をまるで兄弟のように馴れ馴れしく呼んでいるが何者だ」

 俺の気持ちをエレナが代弁してくれた。

 こちらを向いた鎧の女性は、足を折って座り真っ直ぐ見据えてくる。

 「名はウルスラと申します!女神ウルメアが母にしてクレナイ・マツナガが父!天界にて修行の後に兄上が旅立つ頃を今か今かと待機しておりました!」

 「えっと、立て札が突然目の前に現れて消えたんだけど、それに関してはわかる事はあるかな?」

 「はい!兄上がカルメン街周辺からある程度離れたら出現するよう調整しておりまして、立て札に触れればこのウルスラが天より舞い降りるようにしてありました!」

 「そうだったんだ」

 「父からは『カエデは畑内にあるの砂漠や火山くらいしか外に出たことがないから、旅に出る時に力を貸してやって欲しい』と申しつけられておりました!」

 「なるほど、だいたいはわかった」

 つまりは、親父から送られた手助け役ってことだ。

 「じゃあ早速出発を」

 「認めん!」

 エレナが吠えた。

 「認めんぞアタシは!ただでさえ二人っきりの旅を我慢しているというのに、そんなよくわからんヤツの同行など認めん!」

 眉間にシワを寄せてエレナは吠える。

 「困ります!ウルスラは兄上の手助けになりたいのです!」

 「駄目だ!お前のような金髪の美人が居てはカエデが気移りするかもしれない!」

 「同行を認めてくださいエレナお姉様!」

 お姉様という言葉に、エレナは耳がピクりと動いた。

 「おねえ…さま?」

 「はい。天界より時折見ておりましたので兄上とのご関係は承知しております。であれば貴女はウルスラのお姉様では?」

 エレナは腕組みをして考え事をする。

 「お前は、アタシがカエデの嫁に相応しいと思うか?」

 「昨晩の行いも見る限り、お二人は夫婦だと確信したのですが、間違っておりましたか?」

 「いや、間違っていない。お姉ちゃんに着いてこいウルスラ!」

 満足げに口角を上げてエレナは親指を立てた。

 「はい!お姉様!」

 話はまとまったようだ。

 剣士ウルスラが仲間に加わった。




 立ち上がったウルスラはバサリと、どこからともなく羊皮紙を取り出して広げた。

 「それでは早速ウルスラの役目をお教えいたします!」

 広げられた羊皮紙に、文字が浮かび上がり光った。

 「ウルスラの役目は兄上のスキル管理でございます!」

 「スキル……管理?」

 羊皮紙には『ワープガード』の文字。

 「このワープガードが現在、兄上が使用できるスキルです!」

 「ふむ……その、ウルスラ」

 「はい!」

 「スキルってのはなんなんだ?」

 「スキルというのは魔力を使わない魔法だと解釈してほしいです!」

 「なるほど、魔力を使わないなら今の俺でも使えるわけだ」

 「はい!スキルは兄上の行動などで増えていきます!スキルを会得したらその都度ウルスラがこの羊皮紙に書きますので、スキルを確認したくなったらウルスラをお呼びください」

 ウルスラは羊皮紙を閉まった。

 「ところで、ワープガードってどんな」

 ウルスラにスキルについて聞こうとしたら、遠くの方から土埃がこちらへ向かってきていた。

 「厶、あれは…」

 鋭い目を細めて先を見るエレナ。

 すると、目を見開き言い放つ。

 「ビーナの群れだ!」

 カルカラさんはエレナさんの言葉に驚く。

 「ビーナだって!轢かれたら骨が粉々になっちゃうぞ!」

 ビーナ。角を生やし、褐色肌をした筋肉が発達した四足歩行の猛獣。

 親父は『ウシ』って呼んでた。


 「アレの蹄に踏まれたら痛いじゃスマンぞ!カエデ、逃げるぞ!」

 俺を肩に担いで走ってビーナの群れから逃れようとする。

 ウルスラもそれに続きついてくる、が。

 「わぷっ!」

 「カルカラさん!」

 カルカラさんが自分のフードを踏んでしまい転んだ。

 「なんだと!」

 「助けなきゃ!」

 「間に合わんぞ!」

 「俺を投げろ!」

 「届かん!」

 カルカラさんを救おうと必死に思考を巡らせる。もう数秒で彼女はビーナの群れに押し潰されてしまう。

 その時だ。

 ウルスラが叫ぶ。

 「兄上!スキルです!」

 「なに!?」

 「カルカラ様を見てワープガードと唱えてください!」

 決死迫るウルスラの提案。

 何が起こるか分からないが、俺は迷う事なく唱えた。

 「わかった!ワープガード!」

 視界が歪む。

 横に重力が発生したのか、全身が前方へ引っ張られる。


 次の瞬間。俺はビーナの群れとカルカラさんの間に立っていた。

 「……俺が前に来てもどうしようもないだろ!」

 振動する身体。

 ビーナ共の地鳴りなのか、死への恐怖なのか、震えが止まらない。

 その時、親父の声が走馬灯のように脳へ流れてきた。

 『強力な力は攻撃ではなく防御にて真価を発揮するものと思え』

 防御!

 俺は顔の前で腕を交差させて、足を踏ん張ってカルカラさんの前に立つ。


 先頭のビーナが俺に激突する直後、鈍い金属音が響き渡った。

 大きく仰け反るビーナ。

 頭を振り、見えない壁での存在するのか、ビーナ共は俺とカルカラさんを避けて、草原の向こうへと走り去っていった。


 遠ざかる土煙。

 埃さえ付いていないカルカラさんを見て、身体の震えが止まっていることに気づいた。


 「カ゛エ゛テ゛ェ゙ェ゙ェ゙ェ゙ェ゙ェ゙ェ゙ェ゙!!」

 声を枯らして涙を滲ませながら駆け寄ってくるエレナは、俺の無事を確認して骨が折れそうなほど抱いてきた。

 「大丈夫大丈夫。カルカラさんも無事だから」

 特性の発作を起こしているエレナを撫で、落ち着かせる。

 「流石兄上!見事に守りきりましたね!」

 ウルスラは笑ってこちらへ歩いてきた。

 「お前な!こちとら死にかけたんだぞ!」

 「へ?どこがですか?」

 「どこがって、見てただろ!」

 「あぁ!もしかしてビーナに踏まれて死ぬと思ったんですか?」

 ウルスラは「ご冗談を!」と笑い飛ばして続ける。

 「父と鍛えたその鋼の肉体があの程度で傷つくわけありませんよ!」

 「え?」

 「そんな事よりも、先ほど追加されたスキルを追加しておきますね!」

 ウルスラはそう言って羊皮紙を広げる。指を舐めて羊皮紙に指を滑らせると、文字が光った。

 『フロントバリア』

 そう浮かんだ文字は光を失い消えた。

 「では、行きますか!」

 ウルスラは羊皮紙を丸めて、先を歩き始めた。


 カルカラさんを起き上がらせて、ウルスラの背を眺める俺達。

 「あいつ、ヤバい人か?」

 「カエデの妹らしいが、アレはやはり無視した方がいいんじゃないか?」

 「天界の人って、倫理観が違うだかね?」


 散々な評価を受けているウルスラは、そんな事などつゆ知らず「兄上!お姉様!この先に野営できるポイントがありますよ!」と健気に手を振って声を張っていた。

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