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ーーヴィーンヴィーンヴィーン

 蝉の声が耳を劈くような真夏日。対面の席に身を置く君はファンデーションを目の下に馴染ませながら食い入るように鏡を見ている。

「今日テストなのやばくない?うち全然寝てないんだけど。」

 隈が目の下に染み付いている彼女は顔を隠すように俯き気味に笑う。

「結構隈隠れてるし大丈夫だと思うよ?」

「そうかな?ありがとう。」

 ふと顔を上げた君と視線が絡まり、気まずさを隠すように窓の方へ目を滑らせる。

 見上げた空は、ただ青く、ただ静かで、ただ熱かった。

「ねえ、ひなまる。…もしこの世界が作られたものだったらどうする?」

 ふいに投げかけられた問いに、少しだけ思考を巡らせる。

「私は…この世界が作りものだったとしても楽しいから大丈夫かな。」

 そのお気楽な回答に、君は乾いた笑いをこぼした。

「そうだね。」

 長い沈黙が二人の間に溶け込んでいき、時間だけが過ぎていく。彼女の金色の目が私の黒い瞳を捉えて離れない。そんな重苦しい空気に終止符を打つように君は口を開いた。

「…そろそろテストだし行こ。」

 軽い口調で話す声の奥には気まずさが滲み出ている。

「うん。」

 立ち上がった君の金髪が靡き、桃の甘い香りを漂わせた。

 続々と教室を出ていくクラスメイトを追うように歩いていくと校庭に白くて大きな四角い部屋が見えてくる。あれが今回の試験会場だ。

 皆扉の前に並んで、前髪を整え、鏡をじっと見つめている。だが私たちが近づいた途端列は二手に分かれ真ん中に道が拓けた。

「毎回順番譲ってもらうのなんか申し訳ないね。」

「勝手に譲ってくれてるだけだし良くない?」

 彼女が躊躇いもなく堂々と間を歩いていくので、私もそそくさとついていく。

 扉が開くと試験監督のえりちゃむ先生が駆け寄ってきた。

「ひなまるとあいりんじゃん!久しぶり。今回も2人は成績トップかな?」

「いやいやまだ分からないですよ。」

 謙遜する私に対し彼女は自慢気に胸を張る。

「まあ今回も私が2位でひなまるが3位でしょ。」

 その言葉に照れくさくて俯いたが、口元はかすかに緩んでしまう。

「丁度機械の準備終わったから早速テストしちゃおう。先生はそこら辺ウロウロしてるから何か用があったら呼んでね。」

 試験会場にはたくさんの機械が置いてあり、真ん中にはプリ機に酷似したものがズラリと並んでいる。

「ひなまる隣来てよ。」

「うん。」

 彼女に手を引かれ隣同士の測定器へと入った。

[測定を開始します]

 カメラから赤外線が放ち私の体を測定していく。

[目95点]

[鼻98点]

 世の中顔だ。

[口元100点]

[フェイスライン85点]

 この学校では可愛さをAIで測定するテストが定期的に行われ、その点数によりスクールカーストが決まる。

[頬92点]

[バランス98点]

 男女問わず可愛いを13品目で数値化し、高い人は高待遇を得られるのだ。

[肌91点]

[おでこ89点]

 大人になれば可愛い程多額の給付金が貰える。

[Eライン90点]

[小顔97点]

 顔が可愛ければどんな罪だって赦される。

[スタイル82点]

[着こなし91点]

[髪の毛99点]

 可愛さの前では王も富豪をも平伏す。

[測定が完了しました。]

 可愛いは正義なのだ。

[合計得点1207点]

[平均約93点]

[高得点を記録しました。おめでとうございます。]

「よし。」

 私が出るのとほぼ同じタイミングで彼女も測定器から出てくる。

「ひなまる何点だった?」

「1207点。あいりんは?」

「1220点。」

「流石だね。高一でその点数はめちゃくちゃ高いよ!凄い!」

「前回より下がっちゃったけどね。夜更かししすぎたー!」

 表面上だけのガールズトークを繰り広げる私達に、1人の黒髪ツインテールの女の子が近づいてきた。

「あいりんさん〜!1220点だなんて流石です〜♡」

 前回の学年成績4位のるいるいだ。唇をきゅっと結びながら青い瞳で見上げてくる様子が妙に幼く見える。

「ありがとう。るいるいも頑張ってね。」

 るいるいは1度も私に目を向けることなく計測器へ歩いていった。

「あいりんさんに応援してもらえて嬉しい!頑張ってきます♡」

 その笑みは無邪気だが底知れぬ恐怖を孕んでおり、思わず背筋を凍らせる。

「ひなまる。早く教室戻ろう。」

「あ…うん。」

 どことなく嫌な予感を感じたが、あいりんに手を引かれて教室へ向かった。

「ねえあいりん、もし私の成績が3位以下だったとしても、それでも仲良くしてくれた?」

「ひなまるは入学してからずっと3位でしょ?今回も大丈夫だよ。」

「そうだよね…。」

 なんとなく回答を濁された気がした。きっと彼女は私の内面なんかには興味が無い。彼女が好きなのは可愛い友達と一緒に過ごす自分なのだ。

「ねえさっきの話だけどさ。」

「さっきの話?」

 歩く速度が徐々に遅くなり、気づけば止まっていた。

「もしこの世界が作られた物だったらってやつ。あれが本当かもって言ったら信じる?」

 その真剣味のある声のトーンに空気が一気に重くなる。

「信じられるかは分からない。非現実的だし。」

「そっか…じゃあこれ見て。」

 彼女は鞄から教科書サイズのタブレットを取り出した。

「週に1回港に船が来るじゃん?その船に乗ってた人がこのタブレットをベンチに置いたまま忘れてったんだよね。」

 電源を入れると、すぐに島全体の地図が表示された。

「ただの地図?」

「違う、ここ見てよ。」

 彼女が指す場所には今私達がいる学校があった。しかしその名称には見慣れない文字が使われている。

「実験用育成施設…。」

 声に出した瞬間ゾワッと大量の鳥肌が立つ。

「なにこれ。」

「あとこの島の名前が『プロジェクト試験島』になってたり、うちの家が『α-18生活区域』って記されていたり、変な所を探すとキリがないんだよね。」

「誰かがふざけて地図を書き換えてみただけとかじゃないの?」

「そうだったら良いんだけどね。先生に聞きにいきたいからひなまるもついてきてよ。」

「えー、先生に?」

「1人だと心細いんだよ!お願い!ついて来てくれるだけで良いから!」

「うーん…分かった。いいよ。」

「ありがとう!」

 彼女がご機嫌な様子で歩き始め、軽い足取りが1つずつタイルに落ちていく。

 廊下の窓から差し込む柔らかな陽光に照らされる君はまるで現実から切り離されている様に見えて、気づけば彼女の背を追っていた。

「あ!たくぴ!」

 廊下を歩いていた先生を見つけ、私達はその背中へ駆け寄っていく。

「たくぴに聞きたいことあるんだよね。」

「あれ?2人共もう試験終わったの?早いね。」

 たくぴ先生はふわふわのパーマに小柄な体つきで、教師の中でも一際目を引く可愛さだ。

「うち考えた事があってさ。この世界ってーー」

 彼女は先生にタブレットを見せ、私に話した事とほとんど同じように話し始めた。私は2人の会話に入りそびれたまま1歩下がって空気に溶け込む。

「ーーということだから、先生達は何か知ってるんじゃないの?」

 彼女の言葉が言い切られると、たくぴ先生は考え込むように目を伏せた。

「はあ。」

 重い溜息が吐かれ、張り詰めた時間が流れる。

「僕さ…。」

 たくぴ先生の視線がタブレットに向けられた。

「なに?」

 彼女は強気な態度で聞き返すがその場の重苦しい空気に押されて後ずさりし、唾を飲む。


 長い沈黙が続いた後、遂にたくぴ先生の口が開いた。

「この島の秘密を知られたからには君達を生かしておくわけにはいかないな。」

「まさか…たくぴ?!」

「そうだよ。僕が黒幕さ。」

「あいりん!」

 私は彼女の手を取り、必死に廊下を駆けた。

「ごめんごめん!2人とも待って!」

 たくぴ先生の追いすがる声に心臓が高鳴り、力強く床を蹴り出して速度を上げる。

「うあっ。」

 だがあまりの焦りで足がもつれ、後ろのあいりんまで巻き込んで豪快に転んでしまった。

「はあはあ…やっと止まってくれた。若い子は本当体力が凄いねぇ。」

 倒れ込んだ私達の背後に暗い影が落ちる。

 床に手をついたまま顔を上げると、たくぴ先生が屈託のない笑顔でこちらを見下ろしていた。

「たくぴ先生…どうか命だけは!」

 目を固くつぶり覚悟を決める。

「いやごめん本当ごめん。」

「え?」

「嘘だよ!ただふざけて言っただけ。そんなに怖がらせるつもりはなかった!」

「そうなんですか…!」

 安堵に包まれた瞬間、ふとした違和感が胸を掠める。そういえばあいりんが一言も喋っていないな。

 たくぴ先生も同じ事を考えたのか、同時に視線をあいりんへ向ける。

 そこには足を押さえてうずくまる姿が…。

「痛い…。」

「「あいりん?!」」


**************************


「重めの捻挫かな、松葉杖貸してあげるよ。」

 保健室の先生にテーピングされている彼女の横で揃って正座をする。

「あいりん本当ごめん!私が転んで巻き込んじゃったから…。」

「いやいや、僕が脅かせすぎたからだよ!本当ごめんね!」

 たくぴ先生が母性くすぐるつぶらな瞳であいりんを見つめているので、私も負けじと熱い視線を送る。

「分かった分かった。もう大丈夫だから。とりあえずひなまるは目力強すぎるからほどほどにして。」

 そう言われ恥ずかしくて目を伏せる。愛嬌を作るのは中々難易度が高いようだ。

「そういえば僕に見せてくれたあの地図他の人にも見せたりした?」

「ううん、たくぴとひなまるだけだよ。」

「そっか。じゃあそのタブレット僕に貸してほしい。そういう事に詳しい知り合いがいるから相談してみるよ。」

「おお、たくぴ意外と頼りになるじゃん。」

 彼女はタブレットを取り出そうと鞄に手を突っ込んだが、いつまで経っても引き抜く気配がない。

「あれ?タブレットがない。あ!さっき転んだ時床に落としてそのままかも!」

「それなら僕が取ってくるよ。」

「ありがとう!」

 正座で足が痺れたのか先生はよろよろと保健室を出て行った。それと同時に、黒髪ツインテールを大きく揺らしながら一人の生徒が勢いよく駆け込んでくる。

「あいりんさん!怪我をしたって聞いたんですけど大丈夫ですか?!」

 テーピングが終えた保健室の先生は、松葉杖を取りにドアから出ていった。

「え、もしかしてあいりんさん骨折ですか?!」

「ただの捻挫だよ。」

「それなら良かったです♡」

 るいるいは息を整えながら私の隣に座る。

「実はあいりんさんに伝えたい事があるんですよ!」

「なに?」

「ふふん♡なんとこの度!テストの点が過去最高を記録しました!」

「おー!何点なの?」

「1208点です♡」

「え?」

 驚きのあまり声がこぼれ落ちてしまう。

「念願の学年3位です♡」

「凄いじゃん!」

「これであいりんさんの近くにいても問題ないですか?」

「えー?そんな事の為に頑張ってたの?可愛いなあ。勿論良いよ!」

「光栄です♡」

 るいるいは私に顔を向けた。

「ひなまるさんって今まで3位でしたよね?」

 その一言にじわじわと感情が追いついてくる。

「今回のテスト、私が抜いちゃったってことですね♡」

 るいるいは悪気なく小首をかしげて笑っていた。

 ――そうか私は負けたのか。

「…あれ?ひなまるさん?」

「ううん。なんでもないよ。おめでとうるいるい。」

 笑おうとしたのに口元が引きつってしまった。なんだろう、この胸の奥がギュッとつかまれる感じ。

 滲む涙を隠すように目を下に背けた。

「大変だ!」

 先生が乱暴にドアを開けて入ってくる。

「どうしたんですか?♡」

「タブレットが無い!」

「「え?」」

 キョトンとしているるいるいを横目に、私達は焦ってバタバタと動き出す。

「やっぱりうちのバッグの中には入ってないよ!たくぴ本当にちゃんと探した?」

「隅から隅まで血眼になって探したよ!」

 あのタブレットが無ければこの謎は解明できずに終わってしまう。もし実験用育成施設とかが本当だったとしたら……本当だったとしたらなんだ?解明できたとして私達には何ができたんだろう?というかあの地図が本物だと決まったわけじゃないし。

「ねえあいりん。やっぱりあの地図は偽物だったんじゃない?厨二病が抑制できなくて作っちゃったとか有り得ると思うんだけど…。」

「うーん、確かに僕もあの地図が本物の可能性よりかは作り物の可能性の方が高いと思うな。」

「そうかな…。」

 あいりんは怪訝そうな顔をしているがひとまずこれ以上は突っ込まないでくれそうだ。

「あいりんさん、地図ってなんの事ですか?」

 場が綺麗に収まりそうだったのにるいるいが話しに入ってきてしまう。

「るいるいはさ、この世界が偽物かもって言ったら信じる?」

「勿論ですよ!あいりんさんが言った事ならなんだって信じます♡」

「実は拾ったタブレットにうち達が暮らしてるこの島の地図が入ってたんだけど、島の名前がプロジェクト試験島って記されてあったんだよね。他にも不可解な事が沢山書かれてあって…。」

「そんなの大事件じゃないですか!!」

 るいるいが感情的に立ち上がりあいりんに近づく。

 保健室の窓から吹き抜ける風が私と2人との間を隔て、彼女達とはきっと同じになれないとふと感じてしまった。

「あいりんさん!ちゃんとタブレット探しに行きましょう!」

「でもあいりんは足怪我してるでしょ?僕とひなまるでもう一回探してくるよ。」

「え?私?」

「分かりました…私はあいりんさんと大人しくしてます♡」

「ひなまる行こ。」

 先生に促されるまま保健室を出ていく。廊下には試験が終わった生徒達がちらほらと歩いていた。

「誰かが落とし物としてタブレットを職員室に届けたかもしれないから行ってみよう。」

「はい。」

 たくぴ先生の後ろについて歩いていると不意に軽い話を振られる。

「ひなまるって昼休みいっつもあいりんと一緒にメロンパン食べてるよね。好きなの?」

「まあまあですね。メロンパンが好きなのはあいりんの方ですよ。」

「へえ、じゃあひなまるはなんのパンが好き?」

「うーん、レーズンパンとか?」

「おお!意外!」

 もっと無難なやつ言えばよかった…レーズンパンってちょっとダサかったかも。

「ひなまるはこの島全体が実験の為に作られた施設だったらどうする?」

「どうでも良いですね。平和で衣食住があって毎日充実した生活を送れて…実験施設だとしたらこんな設備を整えてくれた方達に感謝したいぐらいです。」

「はは、僕も同感。」

 先生はにっこり口角を上げるが瞳に笑みの色は無かった。

「じゃあ僕は職員室見てくるからドアの前で待っててね。」

「分かりました。」

 たくぴ先生が職員室へ入っていき、私はその場で1人残された。

 壁に寄りかかりながら何度も時計を見るが、時間はなかなか進まない。じっとしていられなくて職員室のドア前を往復し始める。

「おまたせーって、何してるの?」

「あ、たくぴ先生お帰りなさい。タブレットありましたか?」

 恥ずかしくて白々しく話を逸らす。

「無かったよ。一旦また保健室戻ろうか。」

「はい。」

 先生の後ろを歩きながら無言のまま廊下を進み、規則的な靴音だけが響く。

 目の前を歩く先生の背中はどこか薄っぺらく見え、空いていく距離を詰める事ができなかった。

 廊下の端から吹きぬける風がスカートの裾を揺らす。

 階段の手すりに軽く手を添え、踏み出した足にほんの少し力を込めた。


「きゃあああああああ!!」


 静まり返った空間に突然叫び声が突き刺さった。

 階段を登りきった先、右手の方から響いた声に嫌な予感がよぎる。たくぴ先生が身体を翻し廊下を走り出したので私もすかさずついて行った。

 保健室前に集まる人だかりを見て胸がうるさく騒ぎ始める。

「皆離れてー!」

 たくぴ先生が野次馬を掻き分けて中に入っていくのを見て、私も慌ててその後を追った。

「あっ…ぅ…。」

 中ではるいるいが背を向けて立ち尽くしており、奥にあいりんが座っている。

「るいるい?どうしたの?」

 先生が問いかけるがピクリともせず、虚ろな目で宙の一点をぼんやりと見つめていた。

 あいりんは深く椅子に腰掛け、瞼を閉じて力無く頂垂れている。首元から覗くうなじがなぜだか妙に艶めかしい。

「あいりん?」

 私がそっと近づき肩を揺さぶるが微動だにせず、目を覚ます気配すらない。

「るいるい何があったか説明して。」

 そう問いかけると彼女は堪えていたものが溢れ出したようにどっと泣き始めてしまう。

「う、ひぐっ、んぐっ。」

 嗚咽で喉を震わせ、肩を小刻みに震わせながら荒い呼吸を繰り返す。せっかくの可愛い顔をぐしゃぐしゃにしながら、膝を抱えてその場にうずくまってしまった。

 声を絞り出そうとする度に言葉が喉に詰まり、上手く話せずにもがいているようだ。

 結局彼女は震える手で私の足元を指す。

「え…?」

 視線を下に移すと、そこにいたのは赤い液体に反射して映る自分だった。

「ん?は?」

 赤が伸びる先を目でゆっくりと辿っていく。冷や汗が吹き出し、今にも心臓が飛び出そうだ。


ーー私の瞳はあいりんの胸元に辿り着いた。


「あっ、あ!うわあああああ!!!!」


**************************


 目を覚ますと保健室のベッドに横たわっていた。頭が割れるように痛い。

「はあ。」

 ズキズキと鳴り止まない痛みに溜息をこぼし寝返りを打つと、左隣で寝ていたるいるいと目が合った。

「あ、やっと起きた。」

 彼女は起き上がり、前髪をいじりながら私のベッドに座る。

「頭痛に効くお薬保健室の先生からもらったのでひなまるさんもどうぞ。」

「ありがとう。」

 薬瓶から錠剤を3粒私の手のひらに出してくれた。

「もう下校時刻過ぎてるのでなるべく早く寮に帰るように。と、たくぴ先生からの伝言です。」

 薬を口元に運びぐいっと飲み込む。

「分かった。私は薬効いてきたら帰るよ。」

「じゃあ待ってます。」

「え。」

「何か問題でも?」

「いや、大丈夫。」

 素っ気ない態度を取るので私の事が嫌いなのかと思っていたが、意外と友好的だった。

「私悔しいです。」

「なにが?」

 るいるいは立ち上がるや否や窓へと歩み寄り、勢いよくカーテンを閉めた。

「あいりんさんはこの窓の外から飛んできた銃弾によって撃たれました。あいりんさんは知ろうとしすぎて都合の悪い存在になったから殺されたんです。私達はただの実験材料で人間だと思われていない。それが凄く…悔しいです。」

 彼女は拳を握りしめ私に向き直る。

「ひなまるさん!一緒にこの島から抜け出しましょう!」

「え?なんで?」

「ん?」

「てかそもそもあいりんさんって誰?何の話してるの?」

「何言ってるんですか?あいりんさんはひなまるさんといつも一緒にいた、成績学年2位の…」

「学年2位はるいるいでしょ?」

「え?」

 今まで彼女とはあまり話したことが無かったが、意外と厨二病っぽいんだな。まあ誰にも理解されない特別に憧れる時期は誰にでもある。

「頭痛治まってきたからそろそろ帰るね。」

「ひなまるさん?冗談ですよね?」

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