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第7話 今日はしょっぱいんだ

「うーん! 空気が美味しい!」

「いや、獣くさいでしょ。佐倉さんどんな鼻してるの」


 遠足当日、バスに揺られやってきたのは、県境の山の中腹にある動物園。

 山の自然をそのまま使い、動物たちが生息地に近い環境で生き生きと過ごせる工夫をした動物園だとホームページに書いていた。

 今日のためにしっかり調べておいたんだよね。


「進藤くん、こういうのは雰囲気だよっ」

「いや、雰囲気だってもろ動物園じゃん」

「自然がいっぱいじゃん」

「動物もいっぱいじゃん」


 よくわからない言い合いになってしまった。

 進藤くんは動物園嫌いなのかな。


「ねえ、二人って仲いいの?」

「俺も、それ思った……」


 しまった。出だしからやってしまった。

 裕子と大崎くんが不思議そうに私たちを見る。

 進藤くんは急に大人しくなり、そっぽを向いてしまった。

 いや、あなたの突っ込みのせいなんだけど!

 教室ではほとんど話したことはないし、実際仲がいいかと言われたらそういうわけではない。

 でも、大崎くんとしたことを進藤くんに再現してる、なんて絶対に言えない。


「えっと、遠足だから、テンション上がっちゃったのかも?」

「まあ確かにはしゃぎたい気持ちはわかるかも。私もすっごい楽しみにしてたし」


 裕子は無類のげっ歯類好きだ。

 この動物園にはカピバラとビーバーとプレーリードッグとモルモットがいる。

 モルモットはふれあい体験もできるので、遠足がこの動物園に決まったときすごく喜んでいた。


「だよね! 進藤くんも楽しみで口数増えてるのかも」


 進藤くんを見ると、変わらずそっぽ向いたままだった。

 おいぃ、私が必死になって誤魔化してるのに!

 でもまあ、気にしなくていいか。


「じゃあ行こうぜ。ほら蓮も」


 大崎くんに促され、四人並んで中へ入る。

 中に入ると、動物園のシンボルである木の家をモチーフにした時計台の前で集合写真を撮り、すぐに自由行動になった。


「コース通り順番に回るのでいいだろ?」

「うん、大丈夫だよ。この、ちょうど真ん中あたりでお昼食べてもいいかも」

「ここ、カピバラの小屋がちょっと入り組んだとこにあるから見逃さないようにしないと」

「僕こっちのショートカットコースがいいんだけど」


 みんなでマップを覗きながらそれぞれが思ったことを口にする。


「せっかく来たんだから全部回った方がいいだろ」

「絶対しんどいよ。この動物園坂ばっかりだしもう登山じゃん」

「まあ、休憩しながらゆっくり行こうよ」

「私たちも体力があるってわけではないしね。大崎はあるだろうけど」


 相談しつつ、コース通りをゆっくり回ることにした。

 はじめに通るのは熱帯の動物ゾーンだった。

 チンパンジーが木のタワーを行ったり来たりしていたり、隣の柵ではフクロウがじっとこちらをみている。


 次の温帯動物ゾーンでは、まずカワウソの水槽があった。その横にはビーバーがいる。


「葉月見て! あの二匹くっついて巣の中にいる! 夫婦かな? かわいい」

「ほんとだね。巣から出てきてくれないかな」

「ビーバーは夜行性だからね。起きてるとこ見られるだけでも運がいいよ!」


 裕子は嬉しそうに何枚も写真を撮っていた。

 次の場所にはレッサーパンダがいて、木の上でお昼寝していた。


「寝てるのかー。立ってるとこ見たかったな」

「起きてたって立つとは限らないよ」


 大崎くんと進藤くんは並んで柵越しからレッサーパンダを見ている。

 こうして見ると普通の友達同士だ。いや、普通の友達なんだけど!

 

 でも、私が大崎くんに告白されなければ、進藤くんが大崎くんを好きなことを知ることはなかったし、進藤くんに言われなければ、私は大崎くんと付き合ってなかったかもしれないし、大崎くんと付き合ってなければこうやって四人で動物園を回ることもなかったかもしれない。


 なんかややこしい。ややこしいけど、今すごく楽しい。


「そうだ、ここの温帯ゾーンを抜けたら芝生の広場があるからお昼にしない?」


 ちょっと疲れてきたし、そろそろお腹もすいてきた。

 みんなもそうみたいで全員頷く。


 他にも何人か広場でお昼を食べはじめていて、空いている木陰を見つけレジャーシートを敷いた。


「二人ともお弁当美味しそうだな!」

「今日は裕子も自分で作ったんでしょ?」

「うん。幸人が作って欲しいって言うから」

「三年生はたしか水族館行ってるんだよね」


 水族館も楽しそうでいいなぁ。室内だし、涼しそう。

 まだ夏真っ盛りというわけではないけれど、快晴での山の動物園はけっこう体力を使う。

 楽しいけど、思っていた以上に疲れる。


「大崎は葉月にお願いしなかったの?」

「え? なにが?」

「お弁当」

「まぁ、頻繫に作ってもらうのも悪いし……」


 大崎くんはそう言い、リュックからコンビニで買ったらしきおにぎりとパンを取り出す。


「あのね、少し多めに作ってきたからよかったら食べて」


 私は自分のお弁当とは別に、おかずだけ入れてきたタッパーを開けた。

 玉子焼き、からあげ、アスパラベーコン、ひじきのハンバーグ。

 我ながらけっこう頑張った。

 からあげは昨日の晩御飯にたくさん揚げておいた残りだし、他のも夜に仕込んでおいて、朝焼いただけだけど。


「すげえ! いいの?」

「もちろん。裕子も進藤くんもよかったら食べてね」

「やったぁ。葉月のハンバーグ好きなんだよね」


 大崎くんと葉月は嬉しそうにおかずをつまむ。

 進藤くんは取ろうとしなかったので、タッパーを差し出した。


「いらない?」

「もらう……」


 案外素直だな。私の料理気に入ってくれてるのかも。

 進藤くんはつまんだ玉子焼きを口に入れた。


「今日はしょっぱいんだ……」

「今日は? 蓮、佐倉さんの玉子焼き食べたことあんの?!」

「え、いや違う! 前に大崎が佐倉さんの玉子焼き甘さが絶妙で美味しいって言ってたからそうなのかと思って!」


 進藤くん! 墓穴掘ってるよ、らしくないよ気を付けて!

 ちょっとあたふたする様子も楽しみながら、私もお弁当を食べた。


 少し疲れてるけど、後半も楽しもう。



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