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第36話 何をお願いするの?

「裕子~、久しぶり! 明けましておめでとう!」

「明けましておめでとうー。葉月、元気だった?」

「うん。元気だよ」


 元旦の朝、私はダメもとで裕子を初詣に誘ったら快く了承してくれた。

 彼女は指定校推薦で早々に看護の専門学校を決め、今はバイトを始めている。バイトが休みの日は幸人先輩と過ごすことが多い。私自身受験があるし、裕子も気を遣ってかお互いに声をかけることが減り、ちゃんと会うのは久しぶりだ。


「葉月、受験があるし誘っていいかわからなかったんだよね」

「そんなこと気にしなくていいのに」


 お参りするためにできた長い列に並び、話をしながらゆっくり進んでいく。

 予想はしていたけど、すごい人だ。たしかに進藤くんはこういう人混み苦手かも。無理に誘わなくて正解だったかな。


「葉月、最近なんかあった?」

「なんにもないよ。冬休みもずーっと家で勉強してる」

「受験生はすごいなぁ」

「裕子は? やっぱりバイトって大変?」

「大変だけど、ちゃんと働いた分だけのお金が貰えるって充実感あるよね」


 働くってすごいな。私にはまだ想像つかない。大学に入ったら私もバイトしようかな。その前に合格しないといけないんだけど。

 

「そういえば初詣、幸人先輩と行かなくてよかった?」

「大丈夫。幸人とはカウントダウンしたから。実はさっきまで一緒にいた」

「え、それで今来てくれてるの? 眠くない?」

「お正月でなんかテンション上がってるから全然平気。葉月から連絡きて嬉しかったし」


 裕子は元気だな。私なんて昨日勉強してたら眠くなって年越す前に寝ちゃったよ。

 でも、カウントダウン楽しそう。年の始まりに大好きな人と一緒にいられるって素敵なことだよな。


「あ、大崎だ。あの人が彼女さんかな」


 その時、裕子が少し離れたところに大崎くんを見つけた。横にはみお先輩もいる。

 あの二人、今でも仲良くやってるんだ。お似合いだったし、ずっと上手くいってくれたらいいな。一年経ってそんなふうに思うようになっていた。

 しばらく二人を眺めていると、横にもう一人いることに気が付いた。


「え……進藤くん」


 人混みが苦手だから家でいると言った進藤くんが、大崎くんとみお先輩と三人で初詣に来てる?

 どうしているんだろう。私には行かないって言ったのに。それって、私と行きたくなかったってことだろうか。

 そもそもなんで三人? 進藤くん、みお先輩のこと嫌いじゃなかったっけ。それは随分前のことだし、大崎くんと付き合い始めて仲良くなったのかな。

 なんだか、すごく疎外感を感じる。なんだか、すごく胸が苦しい。


「あ、進藤もいるね」

「うん……。本当、仲いいよね」

「進藤はちょっと嫌そうだけどね」


 裕子には進藤くんが嫌々来ているように見えるのかな。まあ、楽しそうではないか。でも、進藤くんは本当に嫌なら来たりしないよ。それが大崎くんの誘いでも。

 最初は初詣行ってもいいって言ってもんな。誕生日の日にやっぱり行かないって言われて……。

 私、なにかしたのかな。冬休みに入って連絡もとってない。進藤くんからくることもない。勉強に集中したいって言ってたから邪魔したら悪いと思ってた。

 でも、もしかしたらそれは私から距離を置くための口実だった? また、モヤモヤした感情が湧き上がってくる。だからといって何もできず、三人を眺めるだけだった。


「裕子は何をお願いするの?」

「私は無難に無病息災かな」

「本当に無難だね」

「葉月は?」

「まあ、私も無難に受験合格かな」


 神社ではお願い事をするのではなく、自分が頑張ることを宣言するのだと聞いたことがある。

 お願いしてもしなくても、どっちでもいいと思うけど、結局は自分次第だと思っている。神様にお願いしたからって勉強しなくても合格するなんてことはさすがに思ってないから。

 でも、時には神様にすがりたくなることもある。そういう時だってあることもわかっている。

 

「ねえ葉月、なんか悩みとかあったら何でも聞くからね。受験のことも、そうじゃないことも」


 裕子は私の顔を覗き込み、にこりと笑う。私が何か悩んでいるとわかっているときの顔だ。

 わかっているけど、言っても言わなくていいよ、言いたかったら聞くよって待ってくれているときだ。

 さすがに進藤くんがあそこにいてモヤモヤするとは言えないけど、裕子に聞いてみたかったことがある。


「裕子はさ、幸人先輩に何度も振られて諦めようと思ったことはなかったの?」

「え、なに? まさかの恋バナ? しかも私の?」

「まあ、そうかな? なんか聞きたくなって」


 思っていた内容と違ったのか、裕子は驚いた顔をしている。でも、すぐに嬉しそうにすると、幸人先輩とのことを話し始めた。


「毎回振られるんだけどさ、嫌いとは言われなかったんだよね」

「嫌い……」

「嫌われてるならもう無理かなって思うんだけど、そうじゃないならまだいけるかなって。実際にいけたしね」

 

 笑いながら話しをする裕子。何度も振られて何度もつらい思いをしたはずだけど、今こんなに幸せそうなのは、諦めずに頑張り続けたからなんだ。

 嫌われてないなら、か。私は進藤くんに嫌われたのだろうか。

 誕生日の日、抱きしめられたとき、もしかしたら進藤くんは私のことが好きなのではないかと勘違いしそうになった。

 そのあとすぐに距離をおかれた。もう、進藤くんのことがわからない。

 自分の気持ちの行き先が怖い。想いを伝えるなんてできない。私はずっと、臆病なままだ。


 やっぱり私には恋愛は向いていないのかもしれない。

 進藤くんとはずっと友達でいる方が上手くいくのかもしれない。

 そんなことを思い始めていた。


 受験は自分の力で頑張る。

 お参りのお願い事は別のことにした。自分の頑張りだけではどうにもならないこと。

 でも、ほんの小さな願い。


『進藤くんが、また私に笑ってくれますように』


 

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