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第33話 クリスマスはしない主義

「ねえ進藤くん、どうして受験生の冬ってこんなにむなしいんだろう」

「なに? この前の模試、判定よくなったの? 追い込まれてるの?」

「ううん。模試はけっこうよかった。志望校はよっぽどのことがない限り受かるって先生にも言われた」

「じゃあいいじゃん。なにをそんなに沈んでるの」


 勉強する以外特に何もなかった夏休みも終わり、二学期に入って随分と肌寒い季節になってきた。

 一、二年生が楽しんでいる文化祭を眺め、三年生は自由参加の球技大会も参加することなく、ただただ勉強に勤しむ日々。

 私の運動神経が良ければ球技大会参加したけんだけどな。ちなみに進藤くんいわく、大崎くんは参加してすごく活躍したそうだ。


 今日も放課後、一緒に自習室で勉強していた。今は自習室を出たところで、進藤くんにちょっとした不満を溢す。


 勉強漬けのおかげで成績は悪くないし、気を抜かなければ受験も大丈夫だろう。でも、だからといって勉強をしなくていいわけではない。その年で難易度は違うし、体調管理だって気を付けなければいけない。

 何をしていても緊張と不安がつきまとう、気を遣う時期なのだ。

 そしてなんといっても――


「クリスマスもお正月も楽しめないなんてひどくない?!」

「別に楽しんだらいいでしょ」

「進藤くん! わかってない! そりゃもちろんクリスマスパーティーも初詣もすればいいよ? でもやっぱり手放しでは楽しめないというか、勉強しないと、とかこんな人混みに来て風邪ひたらどうしようか、とか色々考えちゃうじゃん」

「気にしすぎでしょ。だったらどっちもやめればいいよ」

「進藤くん~」


 こういうところほんとあっさりしてるよな。

 でもやっぱりイベント事は楽しみたいよ。勉強ばっかりは疲れるし、たまには息抜きしたいって思うでしょ。それに、特別な日に進藤くんと過ごしたい。


「ねえ、クリスマスパーティーしない? 家だったらパーティーしたあと勉強できるし」

「僕、クリスマスはしない主義だから」

「どういう主義?! 子供のころもしてなかったの?」

「してないね」

「そう、なの……?」


 そんなことあるの?

 でも、進藤くんの両親忙しそうであんまり家にいないみたいだし、小さい頃からそんな感じだったのかも。もしかしたらずっと寂しい思いしてきたとか? クリスマスの話はタブーだったかな。いやでも、だったら尚更今年は一緒に楽しみたい。


「佐倉さんが考えてるようなことはないよ」

「え?」

「プレゼントももらったし、ケーキも食べてたよ。今はもうしなくなったけど」

「ちゃんとクリスマスしてたの?」

「してない」

「えぇ?! どういうこと?」

「まあ、とにかくクリスマスはしないよ」

「そっかぁ。わかった」


 どういうことなのかすごく気になるけど、家の事情を深く追求するのもよくないか。

 よくわからないけど、クリスマスパーティーは諦めよう。

 しょぼんとしていると、進藤くんはフッと笑う。


「初詣なら行ってもいいよ」

「え! ほんとに?!」

「まあ、人並みに合格祈願とかしといてもいいかなって」

「うんうん、そうだよ! 受験生こそお参り行かなきゃ」

「行かなきゃってことはないだろうけど」


 人混みとか嫌いそうなのに。神頼み的なことをするのも意外だ。

 でも、一緒に初詣に行けることが嬉しい。


 自習室を出て一緒に下駄箱まで行くと、それぞれのクラスの棚でいったん分かれた。

 靴を履いて玄関を出ようとすると「佐倉先輩!」と廊下側から声がした。


「あ、市村くん」

「佐倉先輩、勉強はどうですか?」

「まあ、それなりにやってるけど……」

「そうなんですね……。お疲れ様です」

 

 どうしたんだろう。何か言いたそうにしてる。いつもニコニコしてるのに、今はちょっともじもじしてる感じだ。


「どうかしたの?」

「あの、終業式の日ってなにか予定ありますか?」

「終業式?」

「いや……終業式というか、クリスマスなんですけど……やっぱり、忙しいですか?」


 クリスマス……。これって、誘われてるのかな。さっき進藤くんに断られたから予定はないんだけど、この誘いは受けるべきじゃないよね。


「ごめん――」

「佐倉さん、クリスマスパーティーしたかったんでしょ」

「進藤くん……」


 いつからいたのか、すぐ後ろに進藤くんがいた。話、聞いてたんだ。


「ほんとですか?! 先輩、俺とパーティーしましょう!」


 市村くんは、ぱあっと表情が明るくなり、楽し気になる。受験があることで気を遣っていただろうけど、私がクリスマスパーティーをしたがっていると聞いて喜んでいるのだろうか。

 

「いや、でも勉強もあるし……」

「今すぐ決めなくていいんで! なんなら当日の気分でもいいし! 俺、予定空けとくんで気が向いたらしましょう! じゃあ!」

「えっ、市村くん!」


 私の返事も聞かないまま、市村くんは去って行ってしまった。

 走っていく背中を見送り、私と進藤くんも学校を出る。


 並んで歩くが、会話はなかった。

 どうして、進藤くんは市村くんにあんなこと言ったんだろう。クリスマスパーティーしたいとは言ったけど、私は進藤くんとしたかったのに。ただパーティーをしたいわけでも、誰でもいいわけでもない。

 それに気を持たせるようなことしない方がいいって言ったのは進藤くんなのに。

 なんだかすごく寂しかった。


 それから学校で会うたびに市村くんに断りを入れたけど、当日気が変わるかもしれないからと、聞き入れてはもらえなかった。

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