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第23話 噓だね

「なんか、いい返事だね」

「進藤くん……」


 ふいに名前を呼ばれてドキッとしたけれど、進藤くんの顔を見るとなぜか安心した。

 こうやって、待ち伏せされるのも、顔を合わせて話すのも久しぶりだ。


「この感じ、すごく懐かしい気がする」

「そんなに経ってないでしょ」

「そうかな? それより、どうしたの?」


 私たちは話をしながら並んで歩き出す。進藤くんは私の顔を窺うようにじっと見る。

 

「佐倉さん今日ずっとそわそわしてたし、なかなか帰ろうとしないしちょっと心配だったんだよね」

「私、そんな心配されるほど挙動不審だった?!」

「僕が気になるくらいにはね」

「そうなんだ……」


 今日、大崎くんと話そうと決めてずっとそのことばかり考えていたから、自分では気づかないうちに挙動にでてたのかも。

 それにしても進藤くんはよく見てるよな。


「さっきも、異様に暗い表情で歩いてたし、なにかあったよね?」


 進藤くんは確信めいたように聞いてくる。

 なにかあったわけではない。見てしまっただけだ。

 そう、私はなにもしていない。なにも出来なかった。ちゃんと話をしようと思ったのに、声をかけることさえできなかった。でも、あんな二人を見て、声をかけられるはずもない。

 だから、なにもなかった。


「なにもないよ」

「噓だね」

「え……?」

「なにもないはずないでしょ。なにもなかったとして、どうしてそんな暗い顔してるの? いろいろあったけど、気にならないくらいには今日まで普通だったよ」


 進藤くんって、私のことよく見てくれてるんだな。気にかけてくれてるんだ。

 しばらくこうやって話すことがなかったけど、それでも私たちの関係は変わらないんだと思えた。

 心配してくれて、声をかけてくれた進藤くんに、甘えてもいいかな。


「今日、大崎くんと話をしようと思って部活が終わるの待ってたんだよね。そしたら……」

「あの先輩といるところを見た?」

「知ってるの?」

「どういう理由かは知らないけど、僕も二人が一緒にいるところ何度か見たから」


 やっぱり、大崎くんとみお先輩が一緒にいたのは今日だけじゃないんだ。

 私、なにも知らなかった。大崎くんは今、私とのことを考えてくれているのだと思っていた。

 そうじゃないのかもしれない。でも、じゃあなんで私になにも言ってくれないのだろう。

 先輩のほうがいいなら、そう言ってくれたらいいのに。

 ちゃんと、別れようって言ってくれたらいいのに。

 いや、もしかすると先輩とはただ仲良くしているだけで、そういう関係ではないのかな?

 まだ、私のことを好きでいてくれてるのかな?

 いや違う。そんな都合いいことあるわけない。都合の、いいこと?

 これって、私と別れないまま先輩と仲良くして、都合よく扱われているのは私のほうなのかな?

 ああもうなにこれ。なにこれ。こんな醜い感情知らない。ドロドロしたものが押し寄せてきて怖い。怖い――


「――さん、佐倉さん!」


 はっ――


「ごめん、余計なこと言ったかも」

「ううん。そんなことないよ」


 遅かれ早かれわかることだ。むしろ今日まで気づかなかった私が鈍いし。

 もっと早くに私が行動してたら、なにか変わっていたのかな。


「二人のことに口出しするべきではないけど、ちゃんと大崎と話すのがいいかもね。僕が言えた立場じゃないけど」


 私のことばかり気にしてくれている。つらい思いをしているのは同じなのに。


「進藤くんは、このままでいいの?」

「僕はいいんだ。もう吹っ切るしかないから。失恋するってこういうことだよ」

「でも、大崎くんとは友達だったのに……」

「それは、どうにもならないから。仕方ないよ」


 本当に、どうにもならないのだろうか。

 あのとき、大崎くんはどんな気持ちで“無理”と言ったのだろう。

 思いに応えることができないのは、そうなのかもしれない。

 でも、友達として関わっていくことさえ無理なのだろうか。

 そんなに簡単に変わってしまう関係だったのかな。

 だったら、私との関係なんてすぐに壊れてしまっても仕方ない。


「佐倉さん、また良くないこと考えてるでしょ」

「進藤くん、私どうしたらいいのかわからないんだよね」

「それは、みんな同じだよ。大崎だって、今自分がしてることわかってないのかもしれない」

「そうなのかな?」

「周りが見えなくなることってあると思うんだよね。だから、ちゃんと話した方がいい。勇気がいるかもしれないけど」


 聞くのが怖い。でも、ずっとこのままでいるのだってよくない。

 本当はどこかでわかっているのかもしれない。話をすればもう終わってしまうこと。

 それでも、前に進むためには、はっきりさせなければ。


「進藤くん、私頑張る!」

「それはいいけど、変に張り切りすぎないでよ」


 進藤くんはフッと笑う。

 久しぶりのその表情に、もっと早く進藤くんと話をすればよかったと少し後悔した。

 別に私たちは喧嘩したわけではなかったのに、なんとなく話す機会を見失っていた。


 なにもかも、悪いほうに考えてしまっていたけど、そうじゃない。

 進藤くんの笑った顔を見て、そう思った。


「僕、佐倉さんがいてくれてよかったと思ってるよ」

「え、なに突然?! どういう意味?」

「そのままの意味だよ」


 それなら、私だってそうだ。

 今日、こんな気持ちのまま一人で帰っていたら、もっと落ち込んでもっとモヤモヤしていただろう。進藤くんが私のことを気にかけてくれて、話を聞いてくれたから、少し楽になった。やっぱりちゃんと大崎くんと話をしようと思えた。

 全部、進藤くんのおかげだ。私はなにもしてあげられてないけど、同じように思ってくれてるのかな。


 ――その日の夜、珍しく大崎くんからメッセージがきた。


『明日、部活が休みだから遊びに行かない?』


 なんの変哲もないメッセージだけれど、今の私たちにとっては不自然な内容だ。

 普通に付き合っていたころでさえ、二人で休日にデートをしたことなんてなかった。

 誘われたことがなかった。

 遊びに行くっていうのは会う口実で、話をするのかな?

 

 私も話したいことがある。聞きたいことがたくさんある。

 明日、ちゃんと自分の気持ちを伝えよう。


 私は承諾の返事をして、眠りについた。

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