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第17話 僕、チャーハンがいい

 私たちは行き先を進藤くんの家へ変更した。


 進藤くんはご両親があまり家におらず、一人で寝込んでいるかもしれないとのことだった。

 大崎くんは私を家まで送ると言った手前どうしようか悩んでいたけれど、だったら私も一緒に行くと言った。私も進藤くんのことが気になるし、心配だ。

 簡単な食事ならその場で作ってあげられるし、様子を見たあと一緒に帰れる。

 そう言うと、申し訳なさそうにしながらも頷いてくれた。

 途中スーパーで必要そうなものを買い、進藤くんの家へ向かう。

 大崎くんは何度も行ったことがあるようで、迷うことなく歩いていった。


 着いたのは広い庭のある二階建ての一軒家だった。

 インターホンを鳴らすと返事はないまま玄関のドアが開く。


 部屋着姿の進藤くんは私を視界に入れると、特に驚く様子もなく『佐倉さんも来たんだ』と言った。

 そのまま家の中に招かれ、リビングに通された。


「わあ、広いね」

「そうかな? 普通じゃない?」


 リビング、ダイニング、キッチンがワンフロアになっていて広々としている。

 大きなテレビとソファー、その奥にテーブル、キッチンがある。キッチンの横には二階に上がる階段。

 進藤くんのお家って裕福なのかな。そんなことより――

 

「進藤くん、体調大丈夫?」

「うん。まあ大丈夫」

「ご飯とか食べた? いろいろ買ってきたんだ。良かったら作るよ」

「そうなの? ありがとう」


 私はキッチンを借りる了承を得て、買ってきたものを広げた。


「俺たちが作るから、蓮は寝とけよ」

「ええ、大崎は作らなくていいよ」

「なんでだよっ」


 いつもと変わらないやり取りに安心した。そんなにひどくはないみたいだな。

 寝とけという言葉を無視し、進藤くんはソファーに座る。

 大崎くんにも座るように促し、二人でゲームを始めたようだ。


 冷蔵庫にあるものも使ってくれていいと言うので、中を確認してみる。

 卵があるな。お粥にしようと思ってたから卵粥にしようかな。

 あ、冷凍庫にご飯ある。卵雑炊でもいいかも。


「ねえ、お粥と雑炊どっちがいい?」

「俺、どっちも同じだと思ってた」

「僕、チャーハンがいい!」

「「え?!」」


 進藤くんの返答に大崎くんと二人で驚きの声をあげる。

 体調が悪いときに、チャーハンって食べたくなるものなのかな?

 もっとこう、体に優しそうな、ほっとするような味を欲しないのだろうか。


「蓮、けっこう食欲あるのか?」

「うん。朝からなにも食べてないしお腹すいたー」


 朝から何もって、今はもう夕方だし相当お腹減ってるんだろうな。

 私は要望通りチャーハンと、追加でスープも作った。

 進藤くんがみんなで食べたいというので、大崎くんと私の分もよそい、三人でテーブルにつく。

 

「佐倉さんありがと。いただきまーす」

「うまそう! 俺もいただきます!」

「じゃあ、私も」


 冷凍庫にあった卵とベーコンと買ってきたネギでチャーハンを作り、スープはわかめとごまだけのシンプルなものだ。

 味付けは少し薄めにしたけれど、男の人って濃い味が好きだったかな。そんなことを思いながら二人を見ると、いつものように美味しそうに食べてくれていた。安心しながら私も食べる。


「美味しかった。ごちそうさま」

「蓮、けっこう食べたな」

「お腹すいてるって言ったでしょ」

「てか、元気だよな?!」

「あ、ばれた?」


 え、元気なの? 元気そうだなとは思ったけど。そう振る舞ってるのかなって勝手に思ってたのに。

 私は食器を洗いながら二人の会話を盗み聞く。


「朝、熱が三十七度三分あったんだよね」

「微熱だな!」

「朝はけっこうしんどかったんだから。でも今日は遊園地だって言ってたしこの時間まで我慢したんだよ」

「いや、ここまで元気ならもう呼び出さなくても大丈夫だろ」

 

 もしかして進藤くん、寂しかったのだろうか。朝、調子が悪くて心細くて、でもみんなは遊園地で楽しんでて。そう思うとなんだかすごく申し訳なくなった。いや、悪いことはしてないんだけど、彼の気持ちを知っているからこそ、罪悪感が湧いてくる。


「佐倉さん、何から何までありがとね」

「あ、ううん。体調悪かったんだし、ゆっくりしてね」


 ソファーから顔をひょこっと出し、キッチンにいる私に声をかけてくる進藤くんは落ち着いた表情をしている。

 大崎くんも呆れてはいるけれど、なんやかんや心配しているのがわかる。

 

「今は? 熱、ないのか?」

「んー、測ってないからわかんない」

「まあそんだけ元気ならないだろうけど」


 そう言いながら進藤くんのおでこに手のひらを当てる。黙っておでこを差し出す進藤くんも可愛いな。手のひらじゃなくておでことおでこだったらなお良し――って! なにを想像し始めてるんだ。だめだめだめ。洗い物に集中しよう。


「これは全く熱ないな!」

「だと思った」

「自分で言うなよ。あ、そういえば前に貸した漫画読んだ? 読んだならちょうどいいし持って帰るわ」

「うん、読んだ。僕の部屋の机に置いてあるから取ってきて」

「俺に行かすのかよ」


 ぶつぶつ言いながらも慣れた様子で二階に上がっていく大崎くん。

 私は洗い物を終え、進藤くんに駆け寄る。


「ね、ねえ。私のノートわかるとこに置いてたりしないよね?」

「ああ、心配しないで。読んでて開きっぱなしにしてるから」

「うっそ!」

「噓だよ。そんなに大きな声出すと大崎に聞こえるよ」

「どこに置いてるの? ちゃんとしまってるよね?」

「引き出しの中だよ。そんなに心配なら今日持って帰る?」

「いや、今日はいい。今日はだめ」


 今渡されて、大崎くんにそれ何のノートって聞かれたら困る。二人きりのときにもらわないと。


「学校でいい。前みたいに誰もいないときに!」

「早く返してほしかったんじゃなかったの」

「今はだめでしょ!」


 進藤くんはいたずら気に笑う。やっぱりいつもの進藤くんだ。私を揶揄うことができるくらい元気なんだ!

 大崎くんがいたら絶対こんなこと言わないのに。でも、いつもの調子が少し心地よくも感じた。慣れってほんとこわい。


「それより髪纏めるやつ、使ってるんだね」

「うん。これ、すごく気に入ってるんだ。ありがとね」

「似合ってるけど、僕があげたって言ってないよね」

「さすがにそれは言ってない……」


 友達からの誕生日プレゼントとして受け取ったが、やっぱり進藤くんは男の子で、それがどういうふうに思われるかはいくら私でも想像がつく。

 それにまだ誕生日のことを大崎くんには伝えてないので、余計に言えない。


「悪い女だなぁ」

「えぇ、言い方! 進藤くんがくれたんじゃん! 物に罪はないんだからいいでしょ」

「開き直ってるね」


 そんなやり取りをしていると、大崎くんが戻ってきた。

 手には少年漫画と、もう一冊私も見覚えのある漫画が握られている。

 あれは――『星クズ』だ! 界隈ではものすごく人気のBL漫画!

 

「なあ蓮、これってどんな漫画? 貸して――」

「「だめーーーー!」」


 初めて進藤くんと声を揃えて叫んだ。



 

 

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