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第15話 ダブルデート

 夏休みも終盤にさしかかったころ、大崎くんの都合がつき、今日は待ちに待った遊園地ダブルデートの日だ。

 天気は快晴で、遊園地日和! ちょっと暑いけど。


「晴れて良かったね」

「そうだね! 幸人先輩、割引券ありがとうございます」

「俺も、一緒に誘ってもらってありがとうございます!」

「ちょうど四枚もらったんだよね。ゆっこが二人を誘いたいって」


 そうだったんだ。裕子、ありがとう。

 幸人先輩とは学校で何度か話したことはあるけど、こうやって一緒に遊ぶのは初めてだ。

 一つ年上なだけなのにすごく大人びていて落ち着いている。


 待ち合わせの駅から十分ほど歩くと遊園地が見えてきた。

 観覧車や、ジェットコースター、空中ブランコが遠くからでも良く見える。


「佐倉さん、絶叫系好き?」

「うん、わりと好きだよ。大崎くんは?」

「俺さ、小さいころに酔って吐いちゃったんだよ。あれから乗ってないんだよね」

「そうなんだ。だったら乗れるものだけ乗ろうか」

「でも、これを機に克服したい!」


 大崎くんは、なんだか燃えている。すごく気合いが入っているみたいだ。

 無理しないといいけど。


 フリーパスチケットを買い、中へ入る。

 大きなゲートをくぐると、賑やかな空間が広がっていた。

 キャラクターのカチューシャをしているカップル、ベビーカーの中でぬいぐるみを抱きしめている子供、みんな笑顔で楽しそうだ。


「まずは何乗る? 最初だし、あんまり激しくないものとかにする?」

「そうだね。すぐそこにコーヒーカップあるけどあれから乗る?」


 裕子と幸人先輩がコーヒーカップを指差している。

 激しくはないけど、目が回るかも。

 大崎くん大丈夫かな、なんて心配していたが、本人は元気よくはい! と返事をして楽しそうにしている。

 まあ、早く回さなければ大丈夫か。


 裕子と幸人先輩、私と大崎くんで分かれてカップに乗った。

 ブザーが鳴り、音楽が流れはじめるとカップもゆっくり動きだす。これは、床の円盤が動いているだけで、カップが回っているわけではない。

 私はハンドルをゆっくり回す。


「大崎くん、これくらいなら大丈夫?」

「佐倉さん、もしかして俺に気をつかってくれてる?」

「うん。酔うといけないと思って」

「俺、回るのは大丈夫なんだよね。佐倉さんがいいならもっと回すよ」

「私は全然平気だよ」

「お、じゃあ回すね」


 大崎くんはハンドルをぎゅっと持ち、体を使いながらぐっと回し始める。

 少しずつスピードが上り、コーヒーカップはクルクルと回る。ハンドルの重みも感じなくなるほど、勢いよく回っていた。


「わぁーはやいっ、気持ちいい!」

「佐倉さんほんとに全然平気なんだね」

「うん。けっこう好きなんだよね。楽しい」

「良かった」


 大崎くんも楽しそうで、ハンドルを回す手を止めない。本当に回るのは平気なんだな。

 酔ったのは小さいころって言ってたし、案外ジェットコースターも平気だったりして。


 次は空中ブランコに乗った。大きく風を切る感覚が気持ちよくて、暑さも忘れるほどだった。

 続けてメリーゴーランド、ゴーカート、バイキングに乗ったところで、お昼ご飯を食べることにした。


 フードコーナーのある広場へ行き、お店を見回す。


「それぞれ好きなもの買って、席につこうか」


 幸人先輩が言い、各自食べたいものを買いに行く。


「佐倉さん何食べるの?」

「そうだなぁ、ホットドッグとポテトかな」

「俺もそれにする!」


 大崎くんはホットドッグとポテトを二つずつ買い、私に渡してくれた。


「私の分のお金――」

「いいよ! お弁当とか差し入れのお礼! これじゃ足りないくらいだし」

「そっか……ありがとう」

「ううん、こちらこそいつもありがとう」


 お弁当のお礼はチョコレートをもらったし、遠足も差し入れも私が勝手に作ったのだから気にしなくてよかったのに。でも、大崎くんは気にしてるようだったから、ありがたく受け取ることにした。


 二人で席に戻ると、裕子と幸人先輩はもう座っていた。

 

「お待たせしました」

「じゃあ食べよぉ」


 裕子と幸人先輩はからあげとポテトと焼きそばを分け合って食べている。

 自然と分け合えるのってすごいな。普段からこうやって食べてるんだろうな、と二人の様子を見て思った。


「幸人さんって、もう進路決めてるんですか?」


 食べている途中、唐突に大崎くんが質問した。

 幸人先輩はポテトをつまみながら頷く。

 

「うん、決めてるよ。家から通えるとこの大学」

「それって、いつ決めました? てか、どうやって決めました?」

「んー、ちゃんと考え始めたのは三年生になってからかな。行きたい学部を決めて、その学部がある大学を調べて、自分に合った学力で行けそうなとこ選んだって感じかな? ちょうど通えそうな大学があったから、そこに決めた感じ。そんな特別なことはしてないよ」

「行きたい学部か……」


 なんだか真剣な表情で悩んでいる。大崎くんはもう進路について考えているのだろうか。


「進路について悩んでるの?」

「はい……。俺、バスケの強い大学行きたいって思ってるんですけど、周りからはバスケもいいけど、卒業した後のことも考えて大学決めろって言われて」

「確かに就職のことを考えたらそうかもね。プロになりたいとかは思ってないの?」

「なれたら、とは思うんですけどそこまでの覚悟がないんですよね」

「まあ、難しいもんね。まだ時間はあるしゆっくり考えてもいいんじゃない?」

「そうですね、ありがとうございます」


 大崎くんが進路のことを真剣に考えてるなんて知らなかった。真剣に考えているからこそ、悩んでる。今、バスケもすごく頑張ってるのに先のことまで考えていてすごいな。

 私なんてまだ全然何も考えてないや。


「裕子は進路とか考えてるの?」

「具体的なことは決めてないけど、短大か専門学校かな? なんか資格取っとこうかなって。適当でしょ」

「そんなことないよ。資格取りたいって立派な目標だよね」


 資格かぁ。何か資格があるだけで就職にも困らないだろうし、堅実な裕子らしい。

 

「まあ幸人が遠くの大学とか行くってなったら追いかけてたかも」

「へえ、ゆっこ追いかけてきてくれるんだ」

「私がいないと寂しいでしょ」

「それはそう。まあ、だから僕も近くの大学探したんだけど」

「え! なにそれ初耳!」


 裕子は幸人先輩の方を向き、驚いている。でも、すごく嬉しそうだ。

 本当に仲良いな。傍から見てても、お互いのことを想い合っているのがよく伝わってくる。


「幸人先輩、裕子のこと考えて進路決めるなんて、本当に裕子のこと好きですね」

「ゆっこってさ、昔泣き虫だったんだよね。いつも僕の後をついてゆきくん、ゆきくんって言って。一歳しかかわらないのに」

「え、いきなり昔の話しないでよ」


 怪訝そうにする裕子だれけど、幸人先輩はフッと笑い話を続ける。


「それが、妹みたいで可愛いなって思ってたんだけどね。でもお互い成長して、少し距離ができた時期もあったけど、気づいたんだよね。れから先お互い変わっていくけど、その変化を一緒に楽しみたいのはゆっこだなって。ゆっこのこれからを、そばで見ていたいなって思うんだよね」

「もう、こんなとこで恥ずかしいじゃん!」


 裕子は頬を膨らませながらも、目元は緩んでいて嬉しそうだ。

 変化していくこれからをずっとそばで見ていたい、そんなふうに思ってもらえるなんて幸せ者だな。それにきっと、裕子も幸人先輩に対してそう思っているだろう。


 私は、大崎くんとのこれからを考えたことはなかったかもしれない。

 気持ちの変化についていくのがやっとで、先のことなんてわからない。

 でも今は、気づいたこの気持ちを大切にしていきたい。


「そろそろ行く?」

「そうだね! ジェットコースター行こう!」


 裕子と幸人先輩が立ち上がる。

 私も立ち上がり、大崎くんの顔を見ると、心なしか緊張しているようにも見える。

 大丈夫かな?


「大崎くん、無理そうなら私たちだけ待ってても――」

「乗る! 行こう佐倉さん」


 何かに立ち向かうような顔で歩き出す。

 そんなに無理して乗らなくてもいいのに、と思いながらも私たちはジェットコースターの列に並んだ。



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