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第14話 褒めてるよ

「えー、夏休みだからといって、はめを外し過ぎないように、節度を守って楽しんでください」


 一学期最後の日、特に変わったこともなくいつも通り担任の話を聞き、一日を終えた。

 明日から夏休みだ。

 大崎くんは三年生が引退したあと、バスケ部の部長になった。

 休み中も部活や練習試合などで忙しいと言っていた。

 デートに誘ってみようかと思っていたけど、誘って大丈夫かな。


 そんなことを考えながら荷物を片付けていると、裕子が振り向き声をかけてくる。


「葉月、幸人が遊園地の割引券もらったらしいんだけど夏休み中に一緒に行かない? 大崎も四人で」

「いいの? あ、でも大崎くん部活が……」

「何日か休みもあるからその日でよかったら行けるよ!」

「じゃあその日に合わせるから、休みわかったら葉月経由で教えてよ」

「わかった! 誘ってくれてありがと! 遊園地なんて久々だな」


 楽しみだ、と言って嬉しそうにしながら、大崎くんは部活へ行った。

 私も遊園地に行くのは久しぶりだし、なによりダブルデートなんて絶対に楽しいよね。

 

「裕子、ありがとう。幸人先輩にもお礼言っといてね」

「うん、私も葉月たちと行けるの嬉しいよ。また連絡してね」

「はーい。またね」


 裕子に手を振り私も学校を出る。

 夏休み何の予定もなかったので、遊園地に行くことが決まって嬉しい。

 大崎くんとも会えるし、本当に楽しみだ。


 真っ直ぐ家までの道を歩いていると、交差点の角に進藤くんを見つけた。

 コンクリート塀にもたれかかり、待ち伏せされているみたいだ。

 いつもあれくらい分かりやすく待っててくれたらいいのに。

 いや? あれは、私を待っているのだろうか。

 待たれているなんて勝手に思っているだけで、そうじゃない可能性もある。


 もし私を待っているなら、向こうから話しかけてくるよね。

 ゆっくりと近づき、そーっと前を通る。

 

 あれ? 話しかけてこないな。やっぱり私を待ってたんじゃなかったのか。

 変に声かけなくてよかったと思いながらそのまま歩いていると、背後にものすごく気配を感じる。

 この気配は進藤くん? 進藤くんだよね? むしろ進藤くんじゃないと怖いんだけど。


 私は立ち止まり、振り返る。


「ひっ」


 想像以上に近かった。そっぽを向く進藤くんは少しむくれた顔をしている。


「ど、どうしたの? 声かけてくれたらよかったのに」

「遊園地いいなぁ」


 進藤くんぼそりと呟いた。

 遊園地の話聞いてたんだ。ほんとなんでも聞いてるな。

 関心しているとこちらを向き、さらに頬をふくらます。


「僕も行きたかったなぁ、いいなぁ、いいなぁ」


 あからさまに拗ねている。


「進藤くんキャラ崩壊してない?」

「キャラとか関係ないよ。みんなで遊園地なんてずるい!」

「遊園地好きなの?」

「好きじゃない」

「ええ?!」


 好きじゃないんだ?! まあ進藤くんが遊園地ではしゃいでいる姿はあまり想像できないけど。

 遊園地って楽しいけどそれなりに疲れるし。

 でも、行きたかったと言うことは、それ以上にみんなと遊びたいって気持ちが強いってことなのだろうか。


「進藤くんも行っていいか聞いてみる?」

「いいよ。ダブルデートでしょ。それに僕、幸人先輩って人知らないし。ちょっと拗ねてみたかっただけ。行くつもりはないよ」


 行くつもりはないだろうけど、寂しいんだろうな。自分で拗ねてるって言ってるし分かりやすいな。

 最近はクラスでも、私と裕子とは少し話すようになっていた。

 みんなと打ち解けるまではいかないけど、雰囲気が柔らかくなっていると思う。

 もしかするとこれが本当の進藤くんなのかもしれない。

 私たちは並んで歩き出す。


「進藤くんって本当は人が好きだよね?」

「どうだろ? わかんないけど、もっとちゃんといろんな人を知るべきだとは思ってきた」

「へえ、すごいね。どうして?」

「佐倉さんのせいだよ」

「私のせい?!」


 せいって言い方ひどいな。私のおかげとか言ってくれたらいいのに。

 でも、なにが進藤くんをそうさせたのだろう。

 いつも振り回されてばかりで、私がなにかしたことってあったかな。

 

「大崎が好きになったのが佐倉さんで良かったと思ってるよ」

「進藤くん……」

「自分をさらけ出してもいいって思える人がいるのって悪くないね」


 進藤くんは私を見てニヤリと笑う。私のこと、そんなふうに思ってくれてたんだ。

 何を考えているかよくわからないこともよくあるけど、私だけに見せてくれる顔があることも知っている。

 けど、改めて言われるとなんだか照れる。でも嬉しかった。


「私も、進藤くんにはなんでも言えるかも」

「BL小説書いてることとかね」

「それは今言わないでよ!」

「面白かったよ。主人公が急に泣き出すところとか笑えた。そこ泣かないでしょって」

「それ、褒めてないよね?!」


 私は感動的な場面を書いたつもりだったのに!

 主人公は普段けっこう俺様タイプだけど、たまに見せる弱いところがそそられるんだよね。

 自分からグイグイいくのはいいのに相手から責められると急に可愛くなったり、ちょっと冷たい態度取られるとシュンとなったり。でもそのギャップを見せるのは幼馴染の彼だけで……いけない! 妄想が爆発しかけてた。


「褒めてるよ。ほんと想像力豊かだよね。続き読みたいよ」

「じゃあ、ノート返してよ」

「今持ってない」

「ええ!」

「持ち歩くなって言ったの佐倉さんでしょ」

「まあそうだけど……」

「そのうちちゃんと返すよ」


 そのうちっていつだろう。明日から夏休みだし、夏休み明けかなぁ。

 それまで続き書けないのか。いや、新しいノートに書き始めてもいいか。

 夏休み暇だし、はかどりそう。


「遊園地、どんなだったか“再現”してね」

「それはちょっと難しくない?!」

「冗談だよ。楽しんできて」

「うん、ありがとう」

 

 そういえば、最近“再現”してないな。こうやってただ話しているだけだ。そのほうがありがたいんだけど。

 最後にしたのはいつだろう。

 私が、大崎くんのことが好きだと気づいたころあたりなような気がする。

 もしかして、進藤くんなりに気を遣ってくれている? それともたまたま?

 

 私は隣を歩く進藤くんをちらりと見た。

 

 夏休み、彼にとっても楽しいものになればいいな。



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