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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

どん底で咲いた『華』

ねぇ、君たちも覚えてる? あの時代の空気。


ギラギラしてて、どこか焦燥感があって、でも、わけのわからないエネルギーに満ちてた。






『平成』







私たちは、あの時代をむき出しの感情で生きてたんだ。




恋も、友情も、怒りも、絶望も、全部が剥き出しで、痛くて、でも、どこか熱かった。





————————————・・・・・





私の高校生活は春の陽射しのように、ぼんやりと始まった。



制服に身を包み、友達と他愛ない話で笑い合う、そんな平凡な毎日が、永遠に続くものだと信じていた。



まさか、あの桜の花びらが散るよりも早く、私の人生が、予測もつかない方向へ急旋回するなんて、思いもしなかった。





『妊娠』





たった二文字が、私の世界をひっくり返した。



何になりたいとかはなかったけど、高校を辞めるつもりなんてなかった。


毎日学校に行って、馬鹿みたいに友達と騒いでいるものだと思ってた。




でも、確かにわたしのお腹には小さな命が宿ったんだ。









その小さな命の父親は、中学の頃から地元で有名な不良だった。


学校でもほとんど見かけた事はなかった。


鋭い眼光と、どこか人を寄せ付けない雰囲気を纏った、ヤクザみたいな男。






私たちの出会いは、最悪だった。






中学の時、先輩に目をつけられていた私は、毎日のように「ボコボコにするぞ」と脅されていた。



別に、心の底から怖いわけじゃなかった。




ただ、あの頃の私は、誰にもナメられたくなかった。虚勢を張って、生意気な態度で、周囲を煙に巻いていたんだ。

 






高校に入学して二週間が過ぎた頃、見慣れない番号から携帯電話が鳴った。


低い、命令口調の声。




「今から来い」




有無を言わせないその声に、私はなぜか逆らえなかった。




別に、殴られたって構わない。


そんな投げやりな気持ちだった。



あの頃の私は、自分に無頓着で、どこか他人事のように考えていた。






指定された場所に、一人で向かった。



そこに立っていたのは、噂のあの男と、もう一人、見慣れない男だった。

隣に立つ男も、全身から荒々しいオーラが滲み出ていた。


普段から、私にくだらないちょっかいをかけてきたような、影の薄い先輩たちの姿はどこにもない。






連れて行かれたのは、古びたアパートの一室だった。



じめっとした空気と、生活感のない殺風景な部屋。


私は、入口近くの床に直接座り込んだ。


煙草の煙が鼻をつく中で、私たちは、ぎこちない言葉を交わし始めた。



最初は互いに警戒していたけれど、時間が経ち、缶ビールが空になっていくにつれて、張り詰めていた空気は段々と緩んでいった。



気がつけば、私たちは三人で、くだらないことで笑い合っていた。



信じられないような、出会いだった。








その日のうちに、私たちは連絡先を交換した。


若さゆえの衝動だったのか、あるいは、何か惹かれ合うものがあったのか。


私たちはすぐに付き合い始めた。







私の日常は、それまでとは全く違うものになった。


毎日、彼の家に足繁く通い、朝から晩まで一緒に過ごした。


自分の家に帰るのは、着替えを取りに行く時くらい。



両親が離婚してから、母とはろくに口も聞いていなかった。



彼の運転するバイクの後ろに跨る時、

セダンの助手席に座る時、

話の流れで彼の名前を出す時、


私は、今まで感じたことのない優越感に浸っていた。




権力を持った男が私のもの。




それが、当時の私にとっての、歪んだ幸福感だったのかもしれない。




15歳。




本物の愛を知らなかった私は、ただ、目の前の刺激的な毎日に流されていた。



両親の絶えない喧嘩、離婚、幼い頃からスナックのママをしていた母とキャクとの歪んだ関係ばかり見てきた。


そんな家庭環境が、私の愛に対する価値観も、きっとねじ曲げたんだと思う。











私たちは、毎日三人で過ごした。


私と、彼と、彼の親友。


朝も昼も夜も、いつも一緒だった。



あの頃の私にとって、その狭い世界が、全てだった。












三ヶ月が過ぎた頃、私の携帯電話が、けたたましい音を立てて鳴った。


見慣れない番号。


出てみると、それは彼の元カノからの電話だった。




「てめぇ、ちょっと、つらかせよ」




電話口の声は、氷のように冷たく、明らかに怒りを孕んでいた。



その女も、地元でちょっと名の知れた存在。確か、彼より年上だったと思う。


詳しいことは、もう記憶の彼方だ。


呼び出された場所は、寂れた公園の裏だった。


夕暮れ時のオレンジ色の光が、地面に長く影を落としている。



そこに立っていた彼女は、噂通りの迫力で、私を睨みつけてきた。



どうやら彼女は、彼とまだ完全に別れていなかったらしく、私のことを邪魔者だと認識していたようだ。



正直、当時の私には、彼女の怒りの矛先がよく理解できなかった。


彼は私には「もう終わった」と言っていたから。




私も強気だった。


何も言わず、彼女の目を離さず見ていた。



そんな私にイラついたのか、彼女が腕を振りかざした瞬間、私の頬に、強烈な痛みが走った。


容赦のない平手打ちだった。



その時、彼はすぐ後ろにいたのに、私を庇うことはなかった。


どころか、私には一瞥もくれずに、「やめろ」と低い声で言いながら、その元カノの腕を取り、連れて帰って行った。






私は、一人、その場に立ち尽くしていた。


頬の痛みよりも、彼の態度が、私の心を深く抉った。


何が起こったのか、理解が追いつかなかった。


ただ、私の世界は、また一つ、音を立てて崩れていくような気がした。







普段からよくしてくれる先輩が、駆けつけて、何も言わずに家まで送ってくれた。


部屋に入った私は、どさっと座り込み、一点をみつめていた。


心の中には、「終わった」という、諦念にも似た感情が、静かに広がっていた。












数日後、私の携帯電話が鳴った。



画面に表示されたのは、彼の名前だった。


ためらいながら電話に出ると、彼の低い声が、耳に飛び込んできた。



「あの時は、ごめん…でも、お前じゃなきゃ、ダメなんだ」



短い言葉だったけれど、彼の声には、切実な響きがあった。


理屈では許せないはずなのに、彼のその一言で、私の心は揺らいでしまった。


バカみたいだって、自分でも思う。 


結局、私たちはまた、以前のように毎日一緒にいるようになった。


3人で過ごす、あの歪んだ楽園のような日々。


でも、あの時の棘は、私の心の奥底で、じわじわと疼き始めていた。











ある日、いつものように彼の家に行くと、部屋にはすでに見慣れない男がいた。



床にうずくまっている男の顔は腫れ上がり、鼻からは血が流れ出ている。


異様な光景に、私は息を呑んだ。




「何があったの?」




私がそう問いかけると、彼は私を一瞥し、低い声で吐き捨てた。




「ただけじめつけてるだけだ。お前は何も聞かなくて良い。」




床に倒れ込んだ男は



「痛い!」

「ごめんなさい!」

「やめてください!」



と必死に叫んでいる。





狭い部屋に、その痛々しい声が響き渡る。



私は、目の前で繰り広げられる一方的な暴行に、ただただ茫然と立ち尽くすことしかできなかった。



何が起こっているのか、理解ができなかった。



ただ、恐怖と混乱が、私の心をぐちゃぐちゃにかき混ぜていた。


暴力的な光景が、私の心臓を締め付ける。


こんなの、ただの弱い者いじめじゃないか・・・!!!


耐えきれなくなった私は、殴られている男の体を覆いかぶさるように抱きしめた。




「もうやめて!!!」




私の声は、悲鳴のように震えていた。



私がそう言えば、彼はきっと止まってくれる。

そう信じたかった。





「わかった。もうしねーよ。」




彼の低い声が、私の耳元で聞こえた。


その言葉を信じて、私はうずくまってる男に、


「水、飲もう」と声をかけた。



彼を座らせ、台所へ水を汲みに行った。



ほんの数秒、目を離しただけだった。



部屋に戻ると、そこに座らせていた男が、鼻から血を流して倒れていた。



私がいない間に、男の顔に、躊躇なく蹴りを入れたらしい。



しばらくして、誰かが迎えに来て、鼻血を流す男は、ぐったりとした様子で帰っていった。


後日、彼の鼻は折れていたと聞いた。






私は、彼に詰め寄った。



「どうして、あんなことするの? 私がやめてって言ったのに!」



私の声は震え、目からは涙が溢れていた。


彼は、ただ黙って、携帯をいじっているだけだった。




「もう二度と、私の前では、あんなことしないで」




何度も何度も、懇願するように言った。



それでも、私はまた、毎日彼のそばにいたんだ。




あの時の私は、何も考えていなかった。

何も考えようともしなかった。


暴力の匂いが染み付いた部屋で、私は何も見ようともせず、現実から逃げていたんだ。




そして、また、三人での、変わらない日々が過ぎていった。



心の奥底に積もっていく、言いようのない不安を抱えながら。

  














そんな、ある朝のことだった。



まだ空が薄暗い午前五時半頃、ドアが激しくノックされた。



けたたましい音に、心臓が跳ね上がった。



隣で寝ていた彼も、飛び起きて、顔面蒼白になっている。



外では、何人もの男たちが彼達の名前を何度も叫んでいる。




「おい、いるんだろ?!開けろ!!!」




恐怖で全身が粟立った。



「出てこないなら、窓ガラス、割るぞ!!!」



外の男たちの声は、荒々しさを増していく。


私は、震える手で、彼の服を強く握りしめた。




何分かして観念したように、彼が重い腰を上げた。


ゆっくりとドアに向かい、鍵を開ける。



ドアが開いた瞬間、目に飛び込んできたのは、5〜6人の私服警官の姿だった。



彼らは、有無を言わせぬ表情で部屋に踏み込んできた。





「なんでかわかるよね?今から一緒に来てもらうから。」





優しそうな顔で放つ冷たい声が、私たちに向けられた。


わけもわからぬまま、私は警察官に囲まれ、彼らとパトカーに乗せられた。



その時、隣に座った彼の小さな声が、私の耳に届いた。




「何も言うなよ。」





それが、最後に聞いた彼の言葉だった。








私たちは三人、別々の部屋に連行され、それぞれ事情聴取を受けた。


でも、私には、警察が何を話しているのか、さっぱりわからなかった。


聞かれること全てが、まるで遠い世界の出来事のように感じられた。


「何も言うなよ」と言われたけれど、そもそも、私には何も話せることはなかった。


本当に、何も知らなかったのだから。






数時間が経ち、ようやく解放された私は、そのまま学校まで送ってもらった。


何食わぬ顔で教室に入り、授業を受けたけれど、頭の中は真っ白だった。




2人は、そのまま少年院へ送られたと聞いた。




その時、私の心に湧き上がったのは、複雑な感情だった。


恐怖、安堵、そして、ほんの少しの寂しさ。


これで、やっと、あの異常な日々が終わるんだ。



そう思った。



先輩が、私の顔をじっと見て、言った。





「なぁ、お前、生理きてんのか?」





全く気にもしていなかった私は、その言葉にドキッとして、慌てて薬局に駆け込んだ。


検査薬を握りしめながら近くのカラオケ店で検査薬を試した。


結果を見た瞬間、私の頭は、真っ白になった。 





陽性——・・・





まさか、こんなことになるなんて。




「まじか――。」




頭の中で、乾いた笑いが響いた。


でも、驚くほど冷静な自分がいた。


堕ろすなんて選択肢は、最初から私の頭にはなかった。


それに、心のどこかで、まだ期待していたのかもしれない。


この小さな命が、彼を変えてくれるかもしれない、と。







あと一ヶ月もしないうちに、名簿の肩書きは「二年生」に変わるはずだった。


担任の優しい声が、休学という選択肢を提示してくれた。




「落ち着いて、子供を産んで、また戻ってくればいい」




その言葉は、私にとって最後の灯火のように、心に残った。


けれど、私はその光をそっと消すように、退学する事を選んだ。










高校を辞めてからは、親戚の家に身を寄せ、昼夜、いくつものアルバイトを掛け持ちした。


何度も少年院に面会に行った。


お腹の子の父親になる自覚を持ってほしかった。


臨月に入ると、私は彼の実家に引っ越した。


少しでも、生まれてくる子供を、彼の家族に受け入れてもらいたかったから。


出産する時も、生まれた後も、彼はいなかったけど、彼の家族とはそれなりにうまくやっていたと思う。




子供が六ヶ月を迎える頃、ようやく彼は少年院から戻ってきた。


すぐに婚姻届をだし、私たちの生活が、再び始まった。



彼の顔は、以前よりも幾分か穏やかになっていた。

言葉遣いも荒々しくなくなり、落ち着いた様子だった。


育児にも積極的に関わってくれるようになり、毎日、真面目に仕事にも通っていた。


週末には、色々な場所に連れて行ってくれた。


まるで、あの荒れた日々が嘘だったかのように。


私は、彼が変わってくれたんだと、心の底から信じようとしていた。







彼の家で住み始めて、子供を可愛がってくれるのは嬉しかったけれど、元々、人とうまく関われないわたしは彼と相談して、なけなしのお金を持ち、家を出ることを決めた。




小さな古い借家だったけれど、私たちだけの空間は、私にとって何よりも大切なものだった。



最初は、本当に楽しかった。


三人で手をつないで近所の公園に行ったり、彼の友達が遊びに来て、賑やかな時間を過ごしたり。


喧嘩もしたけれど、それ以上に、たくさんの笑顔があった。






私は、やっと普通の幸せを手に入れたんだと、心から思った。










彼の仕事は、出張も多かった。


仕事がら出張があっても、特に不安を感じることはなかった。


土日しか帰ってこなくなっても


「仕事が忙しいんだな、有難い事だ」


と、そう思っていた。


出張先には、社長や先輩もいると聞いていたから、夜はみんなで飲みに行ったりするんだろうな、と、一週間分の着替えも、きちんと用意して送り出した。



でも、ある時、本当に些細なことがきっかけで、彼の行動に疑問を持つようになった。


何だったか、もうはっきりとは思い出せない。


ただ、胸の奥に、小さな引っかかりのようなものを感じ始めたんだ。




そんなある夜、彼がお風呂に入っている時、私は、衝動的に彼の携帯電話を手に取った。


メールの履歴、電話の記録、写真フォルダ、友達とのやり取り。


でも、案の定、何も怪しいものは見つからなかった。


それでも、心のモヤモヤは消えずに、気づかれないように何度か見る事が増えた。




ある時、彼の携帯で調べ物をしていると、変換履歴の中に、見慣れない名前があった。



「みか」



その名前の前にも後にも続く変換は、何も表示されていなかった。


ただ、「みか」という二文字だけが、そこに、不自然に残っていた。


小さな疑問の種が、私の心に植え付けられた瞬間だった。



モヤモヤとした気持ちを抱えながら、また月曜日がやってきた。


いつものように、お弁当とおにぎりを持たせて、笑顔で彼を見送った。


「いってらっしゃいのキス」もいつものように交わした。


彼は笑顔で出かけて行った。




「みか」




その二文字が、私の頭の中で何度も反芻した。




夜、彼の親友に電話をした。



彼の親友は、彼よりも四ヶ月ほど早く少年院を出てきて、彼が出てくるまでの間、何度か連絡を取り合っていた。


彼が出てきた時、私は連絡を取り合っていることを伝えた。



彼は懐かしがって連絡を取りたがった。



当人同士は関わってはいけないことになっていたのだけれど



「もう、充分反省したんでしょ?自分たちの意思が固かったら、関わってても問題ないんじゃない?」



私は悩む彼にそう言うと、彼は少し迷った後、以前のように親友と頻繁に連絡を取り合うようになった。


私も彼の親友と何かあるたびに連絡を取り合っていたから、彼が出張でいなかった間も、電話で話したりしていた。




冗談半分で、「最近、旦那が怪しいんだよね」なんて言ったこともあった。


でも、彼の親友は「しらねぇよ。」と繰り返すだけだった。



いつものように、他愛もない話をしているうちに、私は思い切って聞いてみた。




「ねぇ、みかって誰?」




電話の向こうで、一瞬、沈黙が流れたような気がした。


その、ほんのわずかな沈黙が、私の胸騒ぎを、確信へと変えていった。




「は?なんで?」




彼の声は、少しだけ動揺しているように聞こえた。


私は、彼に、携帯の予測変換で見つけた「みか」という名前のことを話した。


でも、彼は何も教えてくれなかった。


ただ、「知らない」と繰り返すだけだった。





モヤモヤを抱えたまま、過ごしていたら金曜日の夜、彼の親友から、電話がかかってきた。


いつものように、軽い調子で世間話が始まったけれど、私はすぐに、彼が何か言いたげなのを察した。


「あの…」彼は、少し躊躇うように言葉を選び始めた。


「『みか』って子…」


私の心臓が、ドクンと跳ねた。





「もし、本当に確かめたいなら、あいつが帰ってきたら、車のダッシュボードの中を見てみろよ。」





ダッシュボードの中に、もう一台、携帯電話が入っていることは知っていた。


彼はそれを「会社用の携帯だから、絶対に触るな」と言っていた。


私は、特に疑うこともなく、その言葉を信じていた。




土曜日の夜、彼はいつもより遅く帰ってきた。


疲れている様子で、シャワーを浴びてすぐに寝室へ向かった。




子供が寝静まった後、私は、心臓がドキドキするのを抑えながら、そっとリビングを出て、駐車場へ向かった。


車のドアを開け、言われた通り、ダッシュボードを開けてみた。


そこには、黒いシンプルな携帯電話が、確かにあった。



電源を入れると、ロックはかかっていなかった。






携帯を見ていくと見たくなかった「みか」という名前と、親密そうなメッセージのやり取りが、ずらりと表示された。




心臓が早くなって、体が熱くなってきているのに、ガタガタと震えていた。



メッセージの内容は、甘い言葉や、二人だけの秘密の約束で溢れていた。


写真フォルダを開くと、笑顔で寄り添う彼と見知らぬ女の姿が、何十枚も保存されていた。






嘘だ。







信じたくなかった。


目の前の現実は、あまりにも残酷だった。


涙が勝手に溢れてきて、体の震えが止まらなかった。


私は、一つ一つ、証拠となるメッセージや写真を、自分の携帯電話で撮影していった。





日曜日は、何事もなかったかのように過ごした。


朝食を作り、子供と遊び、買い物へ行き、彼の好きなテレビ番組を一緒に見た。


彼は、いつもと変わらない様子で、穏やかに笑っていた。


まるで、昨夜の出来事が、夢だったかのように。




月曜日の朝が来た。


いつものように、お弁当とおにぎりを持たせて、玄関で見送った。




「行ってらっしゃいのキス」も、いつも通りにした。


彼の唇に触れた瞬間、こみ上げてくる怒りと悲しみを、必死で押し殺した。




そういえば最近、彼は疲れていると言って、ハグまでしかしてくれなかったなぁ。


仕事で疲れているんだろうと、彼の気持ちを汲んでいたのに。


毎日、会社の同僚と遅くまで一緒にいるから、疲れるのは当然だと思っていたのに。


少年院から帰ってきてからも、ずっと彼のことを支えてきた。


彼がいない間に、一人で子供を産み、彼の家族にも気を遣い、良い嫁を演じてきた。


家事もしっかりして、家計簿をつけ、考えながら生活し、子供の世話も全て一人でこなしてきた。








それなのに、、、








彼は、私のことを裏切った。








玄関のドアが閉まる音を聞き届けた後、私は、堰を切ったように泣き崩れた。


怒り、悲しみ、絶望。


様々な感情が、私の心の中で渦巻いていた。





すぐに、彼の親友に電話をした。


涙が止まらなかった。


胸が張り裂けそうで、言葉にならない叫び声が漏れた。


辛かった。苦しかった。


もう、どうしたらいいかわからなかった。





彼の親友は、私の話を聞いて、すぐに彼に電話をしたらしい。


その日のうちに、彼は仕事に行かず帰ってきた。


今となっては、本当に仕事だったのかどうかさえ、わからないけれど。




帰ってくるなり、私の顔を見て、彼は床に額を擦り付けた。


何度も何度も「ごめん、悪かった」と弁解している彼の姿が、ぼやけて見えた。


私の目は、もう何も映さない、死んだ魚のようだった。





その日から、私は、彼とまともに会話をすることができなくなった。


彼の顔を見るのも嫌だったし、子供に触れられることさえ気持ち悪かった。


泣きたいわけじゃないのに、些細なことで、すぐに涙が溢れてきて、食事も喉を通らなかった。


私の心は、完全に壊れてしまっていた。





彼の親友は、毎日のように連絡をくれて、私たちの仲を取り持とうとしてくれたけれど、私の中の彼に対する愛情は、もう完全に消え失せていた。


残っていたのは、裏切られたという深い憎しみと、これからどう生きていけばいいのかという、大きな不安だけだった。




私自身、父親がいないのに、この子にも自分と同じ気持ちを味合わせてしまうのか。


子供から父親を奪ってしまわなければいけないのか。


しかし、私たちを裏切ってよその女を抱いたその手で我が子に触れられる事が許せない。




当時、私はまだ運転免許を持っていなかった。


貯金もなかった。


頼れる人もいなかった。



そんな私にとって、唯一、連絡を取り合っていた彼の親友が、心の支えになっていたのかもしれない。




免許を取るまでは我慢して一緒にいよう。


免許をとったらすぐに離婚しよう。


離婚してからは高校時代にお世話になったバイト先へ頼み込んで働かしてもらおう。


夜の店なら母のツテで何人か女の子を紹介してもらえる。

そこで働かしてもらおう。


私には実家がないから彼に出てってもらおう。






彼の親友に自分の心のうちを、話すうちに今後の計画が自分の中でもなんとなく固まってきた。







離婚。








それは私にとって、地獄からの解放を意味したはずだった。

けれど、元夫は私の生活に影を落とし続けた。




そんな彼への一番の復讐。




それは、彼の親友と一緒になる事だった。






彼の親友も最低な男だと分かっていた。


喧嘩に、合法ドラッグ。


少年院から出てきても彼の親友は辞められないでいた。


止めるように言ってはいたけど、私はその渦中にいるわけではなかったし、笑いながら話していただけだった。


それらが、辞められてないとわかっていても、どうでもよかった。


元夫が全てを失えばいい。


ただ、それだけを考えていた。






情緒不安定だった私も、いつしか一緒に沈んでいった。






子供が保育園に行っている間。


本当に最悪な母親だったと思う。


でも、薬の力は強大で、現実から目を背けさせてくれた。


一日が瞬く間に過ぎ、何もかも忘れられた。







彼の親友との関係は、歪んでいた。


お互いに利用し合っていたのかもしれない。


いなければ困る。


少しでも連絡が途絶えると不安になる。


それは、愛情というより、依存だった。


冷たくて言葉の足りない男だったけれど、時折見せる優しさに、私は縋り付いていた。










ある日、四歳になったばかりの子供が、彼の携帯を覗き込んでいった。




「りさってだれー?」





無邪気な問いかけに、彼は露骨に焦った。






「おい、字読めんのかよ」





まだ字が読めないと思っていたんだ。





その女の存在が発覚してから、私たちの間には絶え間なく争いが起きた。


夜の仕事で、私もまた、寂しさを紛らわせるようにキャクと連絡を取り合っていた。


嫉妬と疑念が渦巻き、毎日が喧嘩だった。





終わりは突然訪れた。いつものように激しい口論になった。


私も気が強く、決して引かなかった。


彼は私に馬乗りになり、容赦なく拳を振るった。


その瞬間、何かがプツンと音を立てて切れた。







彼と一緒にいなくなって、薬もすぐに止める事ができた。



この生活を抜け出さなきゃ。



常にそう思っていた。




私にはもう、必要なかったのかもしれない。













数ヶ月が過ぎて、相変わらず夜も昼も、忙しなく働いていた。




パートで働いていた先には、歳の近い社員さんたちが何人かいて、私たちはすぐに打ち解け、休日になると、子供も連れてよく一緒に遊びに出かけた。


カラオケに行ったり、少し遠出して美味しいものを食べに行ったり。


他愛ない話で笑い合っている時間は、あの頃の私にとって、数少ない楽しい時間だった。


その中のひとりが、私に特別な感情を抱いていることには、気づいていた。


彼の視線、他の人とは違う、声のトーン。


言葉には出さないけれど、空気感で、なんとなく伝わってくる。


私は、彼の好意に気づかないふりをしながら、その微妙な距離感を、心地よくも感じていた。






恋愛という名の傷跡は深く、私の心にこびり付いて離れなかった。





過去の痛み、裏切り、失望。


それらが幾重にも重なり、私の感情を凍らせていた。







人を好きになるということ。



それは、私にとっては、再び傷つくことと同義だった。




だから、心の奥底で、感情の扉を固く閉ざし、誰にも踏み込ませないように生きていた。







あれは、友達の延長線上にある、曖昧で、でも確かに温かい関係だった。



最初はみんなで、つるんで遊んでたのに、いつの間にか、子供と私の三人で出かけることが増えていった。



遊園地に行ったり、公園でピクニックをしたり、水族館で時間を忘れて魚を眺めたり。




「付き合おう」とかそういう言葉は一切なかった。




でも、週末になると、どちらかの家に泊まるのが当たり前になっていて、私の家族にも自然に溶け込んでいた。




手をつないで歩いたり、カフェで向かい合って話したり、プレゼントを贈り合ったり、周りから見たら、それはきっと、ごく普通の恋愛に見えただろう





けれど、私はまだ心の奥底に鍵をかけていた。






過去の恋愛が残した傷跡が疼き、新しい誰かを好きになることを恐れていたから。




彼の優しさに触れながらも、その温もりに安らぎながらも、彼を本気で好きになれなかった。




安定した生活を私と子供に与えてくれるなら、誰でも良かったのかもしれない。





それから3年ほど続いた。




長く付き合ううちに、情が移っていった。

このまま、この人と一緒にいるんだと思っていた。



でも、元夫の親友との連絡も続いていた。


ドラッグや酒が入るたび私に連絡してきた。






腐れ縁。


彼もまた、私に依存していたのだろう。







今の彼は、私の過去の恋愛について、私が誰と付き合い、どんな別れ方をしたのか、大まかなことは知ってたが、彼は深く掘り下げようとはしなかった。



過去を詮索することで彼自身の心に、小さな棘が残る事を恐れていたんだと思う。






いつものように、私たち三人で家にいた。


テレビでは、他愛のないバラエティ番組が流れていて、子供が無邪気に笑い声をあげていた。





そんな穏やかな時間が、突然、凍りついた。







「元夫、殺人で逮捕」






突然、流れてきたニュース。


聞き覚えのある名前に、わたしの動きが一瞬にして止まった。


まるで、世界から色がなくなり、音だけが耳に突き刺さるような感覚。


リモコンを握りしめたまま、動けずにいた。


画面の中のアナウンサーの声は、遠くで響く雷鳴のように、現実感を失っていた。




あのニュースは、私たちを繋いでいた細い糸を、いとも簡単に断ち切ってしまった。


あの日を境に、私たちは徐々に距離を置き、連絡を取ることも少なくなっていった。




不思議なほど、心は凪いでいた。




悲しみも、寂しさも、後悔も、何も感じなかった。

ただ、静かに、関係が終わっていくのを見送っていた。








「終わりにしよう。」








メール 1通 。



たったそれだけの言葉で、三年という月日は、あまりにもあっけなく幕を閉じた。










私は、再び一人になった。








昼も夜も仕事に明け暮れた。


朝、子供を学校へ送り出すと、そのまま仕事へ向かい、帰宅すると、家事をこなし、子供を寝かしつけた後、夜の仕事へと出かけた。




時間が少しでも空けば、全てを忘れるために酒を飲んだ。




酒が抜けきらない頭で働き、夜の街でキャクたちに愛想を振りまいた。


もちろん、キャクにはたくさん助けてもらった。


プレゼントを貰ったり、食事をご馳走になったり、時には、お金を受け取ることもあった。




心は、乾いた砂漠のように乾ききっていた。

もう二度と、誰かを愛することはないだろう。



恋愛なんて、くだらない。



そう決めつけて、私は孤独という名の殻に閉じこもった。











あのニュースが流れてから十数日後、けたたましい音で電話が鳴り響き、恐る恐る出てみると、それは元夫の母親からだった。


画面に映し出された名前を見た瞬間、全身が総毛立ったのを覚えている。



「刑務所に入る前に、子供に会わせてくれないか」



震える声でそう言われた時、私は何を言われたのか理解するまでに数秒かかった。










ふざけんな!何様のつもりなんだよ!

あんたの息子は、うちの子に何をしてくれた?

養育費だって一度も払ったことがない。

自分の好きな道を選んだのは、あんたの息子だ!

子供の父親を犯罪者にしてしまった私の気持ちを、あんたに理解できるはずがない!

一生罪を償え!!!!








電話を切って、一人でワンワン泣いた。











昼間の仕事と夜の仕事の掛け持ちで、まともに眠る時間もなかった。



疲労は蓄積し、肌は荒れ、気力も体力も限界だった。



私と歳の近い子供がいるにもかかわらず、色恋を理解しないで水商売の女(ワタシ)の言葉を鵜呑みにし、誘ってくるキャクや、彼女や家庭がありながらも一線を超えてこようとしてくるキャクたちに、嫌悪感を抱きながらも、作り笑いを振りまき、お酌をし、会話を合わせる日々。


鏡に映る自分の顔は、日に日に生気を失い、まるで能面のように感情が抜け落ちていくようだった。








「一生、この生活なのだろうか?」








泣きたいわけじゃない。


喉の奥が締め付けられるように熱くなり、じわりと滲む涙が、まるで心のダムが決壊するかのように溢れ出す。

私は必死で感情を押し殺す。



まるで、感情というものが存在しないかのように、心を無にするのだ。


それは、涙を堪えるというよりも、私という存在そのものを、かろうじて保つための行為だった









水商売を辞めたい。

この生活を抜け出したい。


 








その思いは、日増しに強くなっていった。


けれど、辞めた後の生活を考えると、不安で押しつぶされそうになる。




貯金なんてほとんどない。


中卒の私に、他に何ができる?


一体、どうやって子供を育てていけばいい?





途方に暮れ、絶望の淵に立たされているような気分だった。



















よく家にたむろってた後輩が、友達を連れて飲みにきた。




その後輩が連れてきたのは、いかにも年下、という感じの、可愛らしい男の子だった。


屈託のない笑顔、笑うとなくなる目、仕草の一つ一つが子犬みたいで、可愛らしい生き物みたいだった。


初めて彼を見た時、私の心に湧き上がったのは、恋愛感情というよりも、もっと根源的なもの、深い愛情、母性に近いものだった。




その後輩の友達、彼は20歳という若さでありながら、フリーランスとして自分の力で生計を立てていた。


最初はいかにも年下な感じで、可愛らしい印象しかなかったけれど、一緒に過ごすうちに、彼の細やかな気配り、仕事に対する真摯な情熱に、私は強く惹かれていった。




昼も夜も辞めたいと嘆いていた私に、彼は


「うちの仕事を手伝ってみない?」


と手を差し伸べてくれた。







あの時、彼が私を新しい世界へ導いてくれたのだ。




最初は、わからないことばかりで戸惑ったけれど、彼に教えてもらいながら、彼の仕事の雑用から経理、スケジュールの管理まで、少しずつできることを増やしていった。


仕事は決して楽ではなかったけれど、彼と一緒にいる時間が、何故かとても幸せだった。


彼といると、いつも自然と笑顔になれた。



彼は、私の子供のことをいつも一番に気遣ってくれた。


子供が体調を崩した時は「今日は休んで」と、仕事を休ませてくれた。





彼には、どんなことでも話せるようになった。


彼は私の話に耳を傾け、時には真剣に、時には冗談を交えながら、自分のことも話してくれた。



最初の印象とは違い、いつしか私は、彼自身の人間性に深く惹かれていた。



仕事のパートナーとして出会った私たちは、いつしか人生のパートナーとなり、互いにとってかけがえのない存在になっていた。



私たちは、一度も激しい喧嘩をしたことがなかった。

意見がぶつかることもあったけれど、感情的になる私を、彼はいつも穏やかに諭してくれた。





「あなたは歳下だし、私には子供もいる。

あなたがこれから先、もし、他の人がいいとなった時には潔く身を引こうと思っている」



と伝えたことがあった。





彼は少し悲しそうな顔をして、




「そういうことを言わないで。悲しくなるから。

そんなことは考えたことはないよ」





と言ってくれた。


その言葉をきいて、その姿を見て、私は彼を信じて、この先ずっとついて行こうと心に決めた。



「この幸せを手放したくない」



あんなにも依存していたお酒も、すんなりと辞めることができた。





仕事は順調に潤い、やがて私たちは会社を設立し、小さな会社だけど、従業員も増えていった。




一つの収入源に頼るのではなく、将来を見据えて、新しい事業にも積極的に挑戦した。





私が彼と人生のパートナーとして歩み始めた時、子供はすでに小学五年生になっていた。




色々なことを理解し始める年齢で、最初は、私たち二人の新しい関係に戸惑っているようだった。





けれど、彼の誠実で優しい人柄に触れるうちに、次第に心を開き、すぐに打ち解けていった。



月日は流れ、子供は中学三年生になった。



こんなにも子供の人生を振り回した親に育てられたにもかかわらず、子供は自分の考えをしっかりと持ち、悩みがあれば、ためらうことなく私に打ち明けてくれた。


私が同じ年頃だった頃とは、まるで違う。



私は、周りの大人、全てが敵のように思え、誰にも心を許すことができなかった。



自分の殻に閉じこもり、孤独と反抗の中で生きていた。


それに比べて、この子はなんと素直で、心が穏やかなのだろう。


子供の成長した姿を見ていると、時折、自分が母親になったということを忘れそうになる。


まるで、親友と話しているような、不思議な感覚に包まれるのだ。







ある時、子供がふと、元夫が逮捕されたこと、そしてその理由を尋ねてきた。







「あの人って、何したの?捕まってるって聞いたけど」






いつかは話さなければならないと思っていた。


けれど、目の前にいる、まだ無垢で、健気な子供の人生を、この話が変えてしまうかもしれないという恐れが、私の言葉を喉に詰まらせた。


意を決して、私は子供の目をまっすぐ見つめ、言葉を選びながら話した。


 



「いつかは言わなきゃいけないって思ってた。隠してたわけじゃないから。よくきいてね。

何をしたのか、詳しいことはママもわからないけど、確かに捕まってるのは事実なの。

あの頃の私は、今のあなたとは違って、すごく幼かった。

あなたの父親を犯罪者にしてしまって、本当に申し訳ないと思ってる。

でも、父親であることは変わらないし、ママや彼のことを気にしないで、あなたが会いたいと思うなら、会ってもいい。

これは、あなたの人生だから」




子供は、私の言葉を静かに受け止めていた。




「別になんとも思わないよ。

そんなに会ったこともないし、父親だなんて、思ったことない。

会いたいとも思わない」



予想もしなかったほど大人びた口調で言った。




その言葉をきいて、私は続けた。 




「わかった。今はそう思っていても、あなたの人生だから、あなたが会いたいって思ったりしても責めたりしないから、その時は言ってね。

でも、この先、信頼できる友達や恋人ができたとしても、父親が小さい時からいなかったって言ってね。相手がそれを聞いたことによって、あなたとの関係が壊れることもあるから」




「わかった」とだけ答えた子供の言葉は、もしかしたら、心の奥底では深く傷ついていたのかもしれない。



けれど、それを微塵も感じさせない、強い意志と優しさに、私はただただ感謝するしかなかった。

  





子供は、私とは違い、将来なりたいものが明確にあり、迷いなくその道を進んでいた。



高校は、友達と離れてしまうけれど、自分の夢を叶えるために、少し遠い専門学校を選んだ。


学費は決して安くはなかったけれど、あの頃の私とは違い、今の私には、頑張れば何とかできる金額だった。



学校生活はとても充実していたようで、すぐに友達も恋人もでき、専門分野の勉強にも夢中になり、部活やアルバイトにも精一杯励み、毎日忙しそうにしていた。


けれど、その表情はいつも輝いていた。


私が送ることができなかった、きらめくような青春の日々を、子供は精一杯謳歌していた。





そして今、子供は希望の大学に進学し、さらなる目標に向かって勉学に励んでいる。








風の噂で、いつのまにか連絡の途絶えてた、元夫の親友が薬のやりすぎで自殺したと聞いた。


あのまま、あいつらと関わっていたら、こんな幸せな未来はなかっただろう。


そう思うと、あの時、私に出会ってくれた今の彼に、心から感謝している。 



人生って、本当に何が起こるかわからない。


 

どん底を見た私にも、こんな温かい幸せが訪れるなんて。


今の幸せがあるのは、あの荒れた時代があったからこそ。


あの時、本当に多くの人に出会った。


優しく支えてくれた人もいれば、深く傷つけた人もいた。


人生の厳しさや、人の心の複雑さを知った。


多様な考え方に触れたからこそ、自分自身の価値観を深く見つめ直すことができたし、何が大切なのかを学んだ。


辛かった過去があったからこそ、最愛の子供にも出会えた。


もし、あのまま何も変わらずに生きていたら、今の子供の笑顔を見ることはなかっただろう。



壊れそうだった自分を知っているからこそ、同じように苦しんでいる人に優しくできる。


手を差し伸べることができる。





そして、今の彼のおかげで、私は人として大きく成長できた。


過去の出会いも、経験も、苦しみも、喜びも、すべてが今の幸せに繋がるかけがえのない経験だったのだと思える。


彼と出会わなければ、私はまだ過去の影に囚われたままだったかもしれない。













この物語は、私の人生の断片から生まれた物語です。


ここに描かれているのは、決して特別な誰かの物語ではなく、もしかしたら、あなたの隣にいる誰かの物語かもしれません。


過去の傷や、拭いきれない後悔。人生には、どうしようもないことがたくさんあります。


それでも、私たちは生きていかなければなりません。


この物語が、読者の皆様にとって、少しでも生きるヒントや、心の支えになることができれば、作者として、これほど嬉しいことはありません。


最後に、この長い物語を最後まで読んでくださった、かけがえのないあなたに、心からの感謝を。

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