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クラスのマドンナに看病してもらう件

「謝らないと」


 俺はベッドの上で頭を抱えながら決意し、彼女が向かったであろう方向へと走り出した。


 長い廊下を抜け、階段を降りる。

 屋敷の奥へと進んだ先に――そこは静かなベランダだった。


 夜の空には大きな満月が浮かび、庭の緑を淡く照らしている。

 その景色の中で、佐々木さんはひとり、月を見上げていた。


 月光に照らされる彼女の横顔は儚く、どこか寂しげにも見える。

 その美しいシルエットに、俺は言葉を失った。


「――ッ、お坊ちゃん……」


 俺の気配に気づき、彼女は少し驚いたように振り向いた。

 だが、その目はどこか動揺を隠しきれていない。


 俺は息を整え、深く頭を下げた。


「さ、さっきはすみませんでした! 事故とはいえ、佐々木さんを押し倒してしまって――!」


 自分の言葉を口にして、改めて恥ずかしさが込み上げてくる。

 しかし、佐々木さんはそんな俺を見て、ふっと微笑んだ。


「私は全然気にしてませんよ、大丈夫です。むしろ、私のほうこそすみませんでした。お坊ちゃんに対して、あんな態度をとってしまって」


 その言葉に、俺は思わず顔を上げた。


「佐々木さん……」


 彼女の柔らかな笑顔に、俺の心はふっと軽くなる。


 そんな俺を見つめながら、佐々木さんはぽつりと呟いた。


「私、楽しいんです。この仕事が」


 夜風が彼女の長い髪をそっと揺らす。


「周りの人たちも良い人ばかりで、それに――」


「それに?」


「友達の裕貴くんのお世話をすることが、すごく楽しいんです」


 俺をからかうように、小さく微笑む佐々木さん。

 だが、その目は嘘をついていなかった。


「そ、そうなんだ……」


「うん。前にも言ったけど、私の両親ってすごく厳しくて、ずっと息苦しかったんです。でもね、この屋敷で働いてると、不思議と自由を感じるんですよ」


 彼女は少し寂しそうに笑い、夜空を見上げた。


「だから、今がすごく楽しい」


 その笑顔は、月明かりよりも眩しかった。



  「お坊ちゃん、朝ですよ~」


 ふんわりとした優しい声が、耳元で囁かれる。


「……ん?」


 ぼんやりとした意識の中で、俺は寝ぼけたまま目を開けた。


 視界に飛び込んできたのは、佐々木さんの顔。


「――ッ!!?」


 俺は思わず飛び起きた。


「さ、佐々木さん!? あ、あの、それはやめてください! 心臓に悪いです!」


「でも、こうした方がお坊ちゃん、すぐに起きるので!」


 彼女は俺をからかうように笑う。


「そ、そうだけど……!」


「はい、どうぞ。今日洗濯しておいた制服です」


 彼女は優雅に俺の制服を手渡してくる。


「あ、ありがとう。朝食を食べたら着替えるよ」


「朝食はもうすぐ出来ますので、先にお着替えをしたらどうでしょう?」


「わ、分かった」


 俺がそう言った瞬間――


「では、失礼しますね」


 彼女が俺の制服を手に持ったまま、俺のパジャマのボタンを外そうとする。


「――えっ!? ちょ、ちょっと!? さ、佐々木さん!!」


 俺は慌てて身体を引く。


「おばあちゃんから、こうした方が良いと教わったので」


 あのメイド長、孫になんて教育してるんだ!?


「い、いや! 着替えくらい自分でできるから! だから佐々木さんは、自分の学校の準備を――!」


「……お坊ちゃんがそう言うのなら、わ、分かりました」


 彼女は少し頬を赤らめながら、そっと手を引いた。


 お互いに気まずく、沈黙が流れる。


「……では、失礼しました」


 彼女はそそくさと部屋を出ていった。


 俺はというと――


 布団の上で、心臓の鼓動を必死に落ち着かせようとしていた。



 次の日。


「あぁ、完全に風邪引いたな……」


 俺はマスクをつけ、体温計を見つめる。


 表示された数字は38.5℃。


「最悪だ……」


 そんな俺の部屋に、そっとノックの音が響く。


「失礼します。お坊ちゃん、体調はいかがですか?」


 ドアの向こうから現れたのは、心配そうな顔をした佐々木さんだった。


「あ、う、うん……まぁ、大丈夫なほうかな」


 俺はガラガラ声で答える。


 だが――


「一応、私の方でも計りますね」


 彼女はそう言うと、俺のベッドに腰掛け、ふわりと顔を近づける。


「えっ!? ちょ、ちょっと!?」


 次の瞬間――


 彼女の額と、俺の額が触れ合った。


「――!!?」


「動かないでください」


 彼女は真剣な表情で俺を見つめる。


「こっちの測り方の方が正確だと、おばあちゃんに教えてもらったので」


 またメイド長かぁぁぁぁぁ!!!


 俺の思考は崩壊寸前だった。


 額同士が触れ合っているせいで、佐々木さんの柔らかい肌の温もりが伝わってくる。

 彼女の呼吸が、俺の肌にかかる。


 心臓が、爆発しそうだ。


「……ちょっと熱いですね」


「そ、そりゃそうです! 俺、風邪引いてるんだから!!」


「ふふっ、確かに」


 彼女は微笑みながら、そっと距離を取った。


「すぐにおかゆを作ってきますね。あと、氷枕も」


「あ、ありがとう……」


 そう言って、彼女は静かに部屋を出ていった。


 俺は天井を見つめながら、大きくため息をつく。


 ……これ、俺の心臓のほうがヤバい気がする


 そんなことを思いながら、俺は再び布団に潜り込んだ。

ここまで読んでくださりありがとうございます!


面白い!と思ってくださった方はブクマ、☆、評価の方をよろしくお願いします!


しばらくの間、毎日投稿しますのでよろしくお願いします!

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