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なんでこんな所に先生が!?

「母さん、それ本気で言ってるの?」


「もちろんよ。だって、あの子のことが気になるもの。……ねえ、父さん?」


「……ふん。好きにしろ」


 父は興味なさそうに言いながら、再びナイフとフォークを手に取ったが、その手が微かに震えているのを、俺は見逃さなかった。


「というわけで、真一郎。近いうちに佐々木さんを連れて、北海道へ行ってらっしゃいな。もちろん“二人きり”でね」


「えっ……いや、母さんも一緒に行くんじゃ……?」


「そんな野暮な真似しないわよぉ。あなたたち、もう高校生でしょ? 人生経験、大事にして?」


 軽いノリで言う母の言葉に、俺の顔が真っ赤になったのは言うまでもない。


 


 ※


 というわけで、来てしまったわけだ。


 北海道・函館の某老舗旅館。

 親のコネなのか、やたら格式高い部屋に、やたら静かすぎる空間。そして今、布団の上に正座して俺を見つめてくるのは――


「真一郎。……その、ね?」


 浴衣の袖をぎゅっと握って、顔を赤くしながらも真剣に見つめてくる悠里。


「私、ちゃんと覚悟してきたの」


 そう言われて、俺は自分の理性がギリギリのところで正座してるのを感じる。


「……おい、俺の理性。お前、もうちょっと頑張れ」


「ん? 何か言った?」


「い、いやっ、なんでもないです!」


 完全に取り乱している俺を見て、悠里はふふっと笑った。


「……からかってるみたいで、ごめんね。でも……私、本気なんだよ?」


「……っ」


「真一郎のこと、ずっと大事にしたいし。私だけを見てほしい。……欲張りかな?」


「……悠里」


 そう言いながら、悠里は俺のすぐ目の前にすっとにじり寄る。

 目と目が合う。息づかいが聞こえる距離。


「だから、ぎゅーってして? それだけでいいから」


 ――この子は、いつだって、こうなんだ。

 甘えてくるようでいて、ぎりぎりのラインで俺を試してくる。


「……わかった」


 俺は、そっと手を伸ばし、悠里の細い肩を抱きしめた。


 柔らかくて、あたたかくて。心臓の音が、二人分、重なった。


「……ん。やっぱり、真一郎の腕、落ち着く」


「……俺は、逆にドキドキしてるけどな」


 そんな俺の言葉に、悠里はくすくす笑いながら、


「じゃあ、もうちょっとドキドキさせちゃおうかな?」


 ――やめてくれ、理性が本当に正座やめそうだ。


 ※


 ……翌朝。


「おい裕貴ー、無事かー?」


「うおあっ!?」


 携帯の通知で起こされて見てみると――“春樹”からのメッセージが大量に届いていた。


【春樹】

 お前、マジで行ったの?北海道?

 マドンナと二人っきり?

 死ぬなよ?理性で死ぬなよ?

 てか報告は?

 あと俺にも彼女ください。


 ……寝起きから情報量が多すぎる。


「ん……真一郎、おはよ」


 俺の隣で寝ぼけた声がする。

 そう、俺は昨夜――何事も起こらず、きちんと自分の布団で寝たのだった。


(……ああ、理性、ありがとう)


「おはよう、悠里。昨日は……楽しかったな」


「うん。……でも、今日はもっと楽しくなると思うよ?」


「……へ?」


「だって――今日、合流するんでしょ? “あの人”と」


「……あの人?」


 ピンポーン、と鳴るドアベル。


 俺が出ようとすると、すでに浴衣姿で髪をまとめた女性が、ガラリと自分で戸を開けて入ってきた。


「よっ、青春カップル。……朝からラブいねぇ?」


「……さ、沢田先生!? なんでここにいるんですか!?」


「は? そりゃアンタ、偶然旅行に来てたに決まってんじゃん。まさか職員が特別に“補習”に来たなんて言えないし?」


「それ絶対偶然じゃない!!」


 北海道・温泉旅館にて。

 俺たちの“試される旅”は、まだまだ続く。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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