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人間関係の構築の難しさ

「四宮くん……?」


「春樹でいいよ、裕貴」


 目の前の男子――四宮春樹が、軽く微笑みながら手を差し出してきた。


 俺は戸惑いながらも、その手を握る。


 彼の手は温かく、力強かった。


「俺と話すの、初めてだよな?」


「ま、まあ……そうだね」


 ぎこちない会話。微妙な沈黙。


 だが、それを破るように春樹が口を開いた。


「裕貴さ、佐々木さんと仲良いよな?」


「えっ……そ、そうなのかな」


「だって、今日の朝一緒に登校してただろ?」


「あ……」


 なるほど。傍から見れば、そう映るのか。


 だが――


「でも、俺と佐々木さんは……ただの友達だよ」


 そう言うと、春樹は「そっか」と呟き、次の言葉を放つ。


「じゃあ、別に俺が佐々木さんと付き合っても問題ないわけか」


「――!」


 心臓が大きく跳ねた。


 冗談、じゃないよな?


「ど、どういう意味……?」


「え? いや、俺さ、佐々木さんのこと気になってるんだよね」


 春樹の声は飄々としていたが、その目には本気の光が宿っていた。


 ――この人が、佐々木さんと付き合う?


 自然と、心の中に重たい感情が広がる。


 俺なんかより、春樹の方がずっと彼女には相応しい……そんな考えが頭をよぎった。


 納得するべきなのに、何故か悔しくてたまらない。


「まあ、このことは誰にも言うなよ? 俺とお前だけの秘密な」


 春樹はそう言って、軽く拳を突き出してきた。


 だが――


「……」


 俺は何も言えず、ただ黙り込むことしかできなかった。


 その時。


「――何してるの?」


 凍りつくような鋭い声が響いた。


 振り向くと、そこには不機嫌そうな顔をした佐々木悠里が立っていた。


「おう、佐々木さんじゃん」


 春樹が気さくに話しかける。


 だが、悠里の目は鋭く、冷たかった。


「貴方も、もしかして裕貴くんをいじめてる人?」


「は?」


 一瞬、春樹の顔が驚きに歪む。


「いじめる? 俺が? いやいや、俺は裕貴と仲良くなりたかっただけだって」


「裕貴くん、それ本当?」


「う、うん。別に悪いことをされたわけじゃないし、普通に良い人だよ」


 それを聞いた悠里は、しばらく春樹を見つめていたが、やがて少しだけ険を解いた。


「……ならいいけど」


「ま、佐々木さんの気分を害したなら、俺はここで引かせてもらうよ」


 春樹は軽く手を挙げ、友人たちの方へと去っていった。


 去り際、俺に向けて小さく笑う。


 (――覚えとけよ、この勝負)


 そんな意味を含んだ、静かな笑みだった。



  午前中の授業が終わり、購買へ向かった俺は、売店のパンや食べ物を眺める。


 だが――どれもカロリーが高く、脂質の多いものばかり。


 俺は静かにため息をついた。


「今日は昼飯抜きでいいか……」


 そう思い、購買を出ようとした時だった。


「――ようやく見つけた!」


 慌てたような声が聞こえる。


 振り向くと、そこには少し息を切らした佐々木悠里がいた。


「佐々木さ――」


「もう、悠里でいいよ」


 彼女は不機嫌そうに言いながら、俺の胸に何かを押し当てる。


 ――弁当だった。


「これ……?」


「私が作ってきたやつ。ダイエット中でしょ? だから、カロリーとか脂質とか考えて作ったんだよ」


「え……」


 思わず言葉を失う。


「じゃ、私はもう食べちゃったから先に行くね!」


 そう言って、悠里は走り去っていった。


 だが――


 その後ろ姿は、どこか照れているようだった。



  弁当を食べる場所を探していると、突然、背後から声がかかった。


「お! 裕貴じゃないか!」


 ――沢田先生だった。


 俺のクラスの担任であり、どこか姉御肌な雰囲気を持つ女性教師。


「せ、先生?」


「昼飯はまだか? お! 弁当か。どうだ、暇な先生と一緒に食べないか?」


「せ、先生と!?」


「そんな驚くなよ。ほら、いい場所があるからついてこい」


 そうして俺は、先生と一緒に昼食を取ることになった。



「ここはいいぞ。海も見えて、ゆっくりと飯が食える」


 屋上に出ると、そこには心地よい潮風が吹き抜けていた。


「ほら、座れ」


 先生はベンチに腰掛け、俺も隣に座る。


「学校は楽しいか?」


 弁当を開けながら、先生は気さくに聞いてきた。


「まあ……そこそこですかね」


「そうか。でもな、私は知ってるぞ」


 先生の目が、真剣になる。


「お前が一年の時、ほとんど学校に来てなかったことを」


 ――あの記憶が蘇る。


 俺を嘲笑う声、蹴られる感触、誰も助けてくれなかった日々。


「やっぱり、ダメですよね……学校を休むなんて」


「……いや、違う」


 先生はしばらく俺を見つめた後、静かに言った。


「学校は、ただの学び舎だ。それ以上でも、それ以下でもない」


「……?」


「大事なのは、そこにいる人間関係だ。お前がどう生きるかは、お前次第だよ」


「……」


「でも、最近は佐々木と仲良くしてるみたいだな」


 俺は弁当に視線を落とす。


「……はい」


「社会に出ても出なくても、人間関係は避けては通れない。今のうちに、信頼できる仲間を作っておけ」


 先生の言葉が、心に響く。


 俺は、ゆっくりと弁当を口に運んだ。


 ――優しい味がした。



ここまで読んでくださりありがとうございます!

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