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クラスのマドンナが朝食を用意してくれた件

 佐々木悠里に手を引かれ、俺たちはゲームセンターに到着した。


 中は賑やかで、色とりどりのネオンが光り、電子音と歓声が入り混じっている。


 ――懐かしいな。


 小さい頃、父と母に連れられてよく来ていた気がする。

 しかし、その思い出は遠い過去のものだった。


「ねぇ、裕貴くん! これ見て! この猫のぬいぐるみ、めちゃくちゃ可愛くない?」


 悠里は目を輝かせながら、クレーンゲームの中にある白い猫のぬいぐるみを指さした。


「やるのか?」


「うん! 見ててよ、私のゲームテクニック!」


 彼女が楽しそうに笑うので、俺はいつもの癖で財布を取り出し、コインを入れようとした。


「裕貴くん。私がやるんだから、お金は私が出すよ」


 彼女はそう言って、俺の手をそっと押し戻した。


 ……これまでの俺だったら、何も考えずに出していたかもしれない。


 でも、今は違う。


「よし……狙うのはこの白猫だね!」


 悠里は慎重にレバーを操作し、クレーンを動かした。


 結果――惨敗。


「うぅ……全然取れない……」


 彼女は肩を落としながら、俺の方を見上げる。


「裕貴くん、私もうお金ないよぉ」


 その顔は、まるで子供みたいだった。


 なんだか可愛いな……と思いつつ、俺は財布から500円玉を取り出した。


「じゃあ、俺がやってみるよ」


 コインを入れ、クレーンを慎重に操作する。


 すると――


「……取れた」


 一発。


 一発で白猫のぬいぐるみが落ちてきた。


「す、すごい! 裕貴くん、めちゃくちゃ上手いじゃん!」


「そんなことないよ。昔、よくやってたからね」


 俺はぬいぐるみを拾い上げ、彼女に差し出した。


「はい、これ」


「え!? いやいや、貰えないよ! それは裕貴くんのものでしょ!」


「じゃあ、もう一個取れたらあげるよ。あと5回残ってるし」


 次に狙うのは黒猫のぬいぐるみ。


 慎重に操作し――


 二回目でゲット。


「すごっ!?」


 悠里が目を丸くして俺を見つめる。


「これでお互い1つずつ。これなら違和感ないでしょ?」


「そ、そうだけど……。本当にいいの?」


「うん、大丈夫。だって、友達だし」


 俺がそう言うと、彼女は驚いた顔をした後、何かを悟ったように頷いた。


「そうだね!」



 それから俺たちは、ゲームセンターを回り、色んな店を見て回った。


 そして気がつけば、外はオレンジ色に染まっていた。


 今までの俺は、一人でショッピングモールに来ても何もすることがなく、すぐに帰っていた。


 けれど、佐々木さんといると、時間が経つのがあっという間に感じる。


「楽しかったね、裕貴くん!」


「うん、楽しかった……。それで、見つかりました? 自分に合いそうな趣味とか」


 俺がそう聞くと、悠里は「うーん」と考え込んだ後、ニコッと笑った。


「正直、見つかってないけど……でも、裕貴くんといるのが楽しかった!」


 その日の彼女の笑顔は、俺の脳裏に焼き付くほどに眩しかった。



「お坊ちゃん、朝ですよ〜」


 優しく甘い声が耳元で響く。


 ――え?


 俺は飛び起き、寝ぼけた視界をこすりながら、声の方を見る。


 そこには――メイド服を着た佐々木悠里がいた。


「さ、佐々木さん!?」


 俺は思わず叫ぶ。


 悠里はロングスカートの裾をつまみ、優雅に一礼した。


「朝食をご用意しましたので、ご案内に参りました」


 ……夢じゃないよな?


 俺はまだ混乱しつつ、彼女の微笑みを眺める。



 食卓には、これまでの俺の食生活とはまるで違う、栄養バランスの取れた朝食が並んでいた。


 野菜が多めで、余計な脂質や糖分は極力控えられている。


 完全に「ダイエットメニュー」だ。


「……これ、本当に俺の朝ご飯?」


「うん! お坊ちゃんの健康を考えて作ったの!」


 悠里は得意げに胸を張る。


 こうして俺は、今までとは違う朝食を食べ、新たな一歩を踏み出した。



「せっかくだから、一緒に学校行かない?」


 靴を履いていると、後ろから悠里の声がした。


 振り向くと、制服姿の彼女が微笑んでいる。


「え、一緒に?」


「そんなに驚く? だって、私たち同じ学校で、友達じゃん!」


 ……たしかにそうだけど。


 結局、俺は悠里と一緒に登校することになった。



 校門をくぐると、周囲の視線が一気に俺たちに集まる。


「ねぇ、あれ見て! 佐々木さんが地味な男子と一緒に登校してる!」


「うわ、ほんとだ……どういう関係?」


「なんか、佐々木さん可哀想……」


 周囲の視線が痛い。


 冷たい噂話が、容赦なく耳に届く。


 俺は俯きそうになったが――


「気にしないでいいよ」


 悠里が、そっと俺の腕を掴んで微笑んだ。


「私がついてるから」



 教室の前で、悠里の友達が彼女を呼んだ。


「ごめんね、裕貴くん! 私、ちょっと友達と話してくるね!」


「う、うん」


 そうして彼女は友達の元へ行き、俺は一人で教室の扉を開ける。


 中に入ると、クラスメイトたちはそれぞれ友達と楽しそうに話している。


 ……俺はどうすればいいんだろう。


 席に座り、授業の準備をしようとした時――


「おはよう、裕貴真一郎くんで合ってるかな?」


 俺に声をかけてきたのは、俺とは真反対の雰囲気を持つ、爽やかな男子だった。


 短く整えられた髪、端正な顔立ち、そして堂々とした態度。


 彼は俺に手を差し出し、爽やかに笑う。


「俺は四宮春樹しのみや はるき。よろしくな」


 ――この日、俺の人生にまた一つ、新たな出会いが生まれた。




ここまで読んでくださりありがとうございます!

面白い!と思ってくださった方はブクマ、☆、評価の方をよろしくお願いします!

しばらくの間、毎日投稿しますのでよろしくお願いします!

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